03 狩人


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 最初の1人目は外した。
 自分のすぐ脇に銃弾が放たれたことに気がついた小太りの男は、慌てて走り出し陰に隠れ、そのまま何処かへ逃げたようであった。
 2人目は、まず脚に当たった。
 そいつは何が起こったのか、どこから撃たれたのかも分からぬまま、二発目を背中に受けて動かなくなった。
 そして3人目は、こちらを見返して、何かを囁いた。
 何を囁いたのか、彼には聞こえなかったが、そのときすぐに引き金を引くことが出来なかったのが彼の良心なのかどうか。
 それが分かることは誰にもないだろう。


 飯塚巌は農業で生計を立てていた。
 生まれてから今に至るまで、ずっと山間の村で生活をしている。
 見合い結婚で二男一女に恵まれ、長男は家を継ぎ、次男は都市部へ出て公務員になった。娘は近所の別の農家に嫁いだが、産後の肥立ちが悪く出産して間もなく死んだ。
 長男の嫁が生んだ孫は一男一女で、孫娘には僅かに早世した三女の面影があると感じたが、成長すると似ても似つかなくなった。
 やはり筋の悪い嫁に似て、かわいげがない。
 かわいげがない、とそう評するが、とはいえイワオが子や孫を可愛がったことがあるかというと、それは難しいところだ。
 本人としては、それなりに愛情を持って接していたつもりだし、出来る限り手も掛けていたと思う。
 それが傍目に見てどうであったかは、イワオには分からぬ事である。
 イワオは決して饒舌ではない。また、愛想の良い方でもない。
 共に暮らしていても、ああ、とか、うん、とか、そういう言葉以外を聞くのは稀である。
 ただ毎日寡黙にに畑を耕し、糧を得る。そうやって、ずっと生きてきた。
 禁猟日が過ぎれば、猟銃を持って山に入り、猪を仕留める。
 趣味らしい趣味と言えば、それだけだ。
 その銃で、彼は人を殺した。

 病院からの連絡を受けたのはまだ午前の内だった。
 ぎゃあぎゃあと喚き散らす嫁に、子細を確認するのに手間取ったが、それでも自体を把握した後はすぐさま軽トラックでかけつけた。
 チューブで機械に繋がれたままの姿を見て、嫁の泣き声と嗚咽を背後に、医者の言う「まだ絶対安静です」という言葉の意味を、頭の中でなんとか組み立てた。
 筋の悪い嫁である。
 その嫁に似て、筋の悪い孫娘である。
 事情説明をしている警察や、耳に聞こえる様々な情報から分かったのは、孫娘が連んでいたたちの悪い連中に、暴行されたらしいという事だ。
 麓の街に住む、たちの悪い連中。
 主犯格は町会議員のドラ息子で、まだ高校生だが、その筋では有名な札付きらしい。
 その町会議員自体、そもそも田舎ヤクザに毛が生えたような男だ。
 警察にあれこれと工作をして、主犯であるはずのドラ息子の友人数人が、ちょっと悪ふざけをしすぎただけの事故として処理された。
 イワオが彼らのたまり場へ乗り込み、猟銃で3人を殺し5人に重傷を負わせたのは、検査により孫娘の脳に障害が残り、一生まともに話すことも歩くことも出来ないだろうと告げられた日だった。
 そのまま警察に出頭し、法の裁きを受ける ――― はずだった。


 イワオは位置を移動しつつ、その倒れたままの死体の周囲を観察する。
 あの少女は、イワオの方を、見た。
 それは位置を視認していたのか、あるいはただ勘が働いたのかは、定かではない。
 少し谷間になったその小径を、月明かりで良く見渡せるが、と同時にこちら側は陰になっている茂みの中を選び、イワオは何者かが来るのを待ちかまえていた。
 そこに丁度、立て続けに3人の人間が走ってきたのだ。
 1人目は、小走りに逃げるように。
 2人目は、よたよたと慌てふためき。
 そして3人目が、あの、ふわふわとしたドレスを来た少女であった。
 あの少女は、こちらを見返してすぐに、横の茂みへと入っていった。
 あの男達の跡を付けていたのか、同行者だったのか、追いかけていたのか。
 分からぬがしかし、少女がその後逃げたとは、まだ言い切れなかった。
 最初の男、は、既に居ないと見て良いだろう。
 自分自身撃たれ、その後また二発も銃声がした場所に、再び戻ってくることはなかろう。

 イワオのバッグに入っていた狩猟用プリチャージ式空気銃は、空気銃の中ではかなりの命中精度がある。
 ましてもともと狩猟を趣味としていた彼にとって、誂えたように使い勝手の良い武器であった。
 しかし、月明かりしか光源の無いこの深夜には、それでも2発を当てたこと自体、奇跡的でもある。
 実際に撃ってみたところ、一般的な狩猟用空気銃をさらに改造し、殺傷能力が高めてあるようだった。
 しかし、音が大きく、容易に居場所が露呈する。
 ゆっくりと、足音をさせぬよう、イワオは位置を移動していた。
 音を聞きつけて誰かが来るかもしれぬ。少女が隠れているかもしれぬ。隠れて、機をうかがっているやもしれぬ。
 慎重に、油断せずに居場所を変える。
 少女 ――― まるで天使のように愛らしい、白と桃色のドレスを着た少女 ――― だからといって、油断はすまいと考えている。
 此処にいるのは全て殺人者だと、その言を彼は信じている。
 老人であっても、自分のように激情に駆られ人を3人も殺める。
 子どもと思っていても、集団で1人の娘を襲い、危うく死に至らしめるほどに暴力を振るう。
 見た目で、判断は出来ない。

 慎重に、ゆっくりと茂みを移動する。
 しかし同時に、小径の中程に倒れている中年男からも、注意を逸らさない。
 ポイントとやらを得るためには、彼の者の腕輪を操作して、こちらにポイントを移動させねばならない。
 だから、少女がそれを狙っていれば、いずれ死体に近寄らねばならない。
 自分自身もまた、そうして死体からポイントを奪わねばならない。
 だから、イワオはひたすら待つ。
 空気銃を構え、辺りの気配に注意を払い、ただひたすらに待つ。
 何か、この状況に変化を与える、切欠となる何かを。

 彼は、自分が死ぬのならばそれはそれでも構わぬと思っていた。
 もとより、許せぬ仇であるとはいえ、人を3人も殺めたのだ。死んで当然だと思う。
 だが、残された家族のことだけは、心残りである。
 未だ病院のベッドで機械に繋がれた孫娘の事も、気がかりである。
 どうやったものか、自分をこんなところにまで誘い出し、さらに人を殺させようと銃まで与える。
 あまりに異常な、狂気に満ちた行いだ。
 だがしかし、イワオはそれに乗った。
 そんな事をしでかせる輩の、その組織力や権力に、賭けた。
 田舎ヤクザに毛の生えた、町会議員の裏工作などとは、桁の違う政治的な力。それがここで働いていると、イワオは感じた。
 或いはもしかしたら、死ぬ前に大金を残せるかも知れないという可能性に、賭けた。
 だからイワオは信じる。
 この島に今居る者達は皆、自分と同じく、死して当然の殺人者なのだ、と。
 何より、彼はこの島で既に、死体を観てしまった。
 この小径へと来る前に立ち寄った、一軒の民家。そこに倒れていた死体は、まだ体温もあり真新しく、今し方何者かに殺されたばかりだとすぐに分かった。
 ポイントが残っていたので、それを自分の腕輪に移した。武器も貰った。
 そして何よりはっきり分かったのは、この島には殺人者が居る。その事だ。
 いや―――。
 イワオは言い直す。
 この島には、殺人者しか居ない。
 そう信じる事に、決めたのだ。



【参加者資料】 

飯塚厳 (イイヅカ・イワオ)
男・68歳・農家
罪:猟銃による複数人の殺人
備考:改造狩猟用プリチャージ式空気銃、コンバットナイフ
ポイント:200


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