飛べない鳥達のレクイエムがまた

34話 飛べない鳥達のレクイエムがまた


「エリアE-5って…この辺じゃないか!」

放送を聞いた妖狼上杉憲顕と、人狐の女性井岡永遠は、
一時間後に自分達のいるこの廃校のあるエリアが禁止エリアになる事を知る。
午前9時までにこのエリアから出無ければ首輪が作動する。
一時間は長いようで短い。早々に行動は起こした方が良い。

「荷物を纏めろ永遠。まずこのエリアから出るぞ」
「う、うん」

憲顕と永遠は安全区域への移動のため荷物を纏め始めた。

そして教室から出て廊下を進み、下に下りる階段を下りる。
ここまでは特に何も無く順調だった。
だが――下の階、一階に下り、先に廊下に出た永遠を待ち受けていたものは、

ダァン!!

「……え?」

突然の銃声、そして腹部に感じた衝撃、熱、激痛。喉の奥から込み上げる熱い液体。
腹を触った左手にはべったりと赤い液体が付着し、自分が重傷を負った事を知らせる。
永遠はその場に崩れ落ちた。

「永遠!?」

驚いた憲顕がすぐさま永遠に駆け寄ろうとしたが、

ダァン!!

「!!」

再び放たれた銃弾がそれを阻んだ。
当たりはしなかったものの反射的に憲顕は身を翻し階段入口付近の陰に隠れる。
その際一瞬だけだが襲撃者の事を見た。
茶色と白の毛皮を持った雄の人狼。ライフル――自動小銃だろうか――を持っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、ああああ、あー」

涎を垂らしながら人狼――山崎孝一は自動小銃Gew41マウザー社試作型を携え、
床に倒れ血溜まりを作り虫の息になっている人狐の娘にふらふらと近付く。

「げほっ……や、やめて……」

ドクドクと血が溢れ白い毛皮に覆われた腹が真っ赤に染まった永遠は、
吐血しながらも自分に近付いて来る人狼の青年に懇願する。
だが、山崎孝一は全く聞く耳を持たない。いや、持つ事が出来なくなっていた。
両目は血走り、瞳孔が開き、涎を絶え間なく垂らし続けている孝一は明らかに正気を失っている。

「み、みんな殺してやる、クク、アハハハハ」

そして孝一はGew41の銃口を床に倒れる永遠に向けた。

「あぁ――!!」

永遠は死を覚悟した。

ダァン!

そして銃声が響く。だがそれは孝一の持つGew41の物では無い、軽めの音。
陰から身を乗り出した憲顕が持っていた自動拳銃シグザウアーSP2340の引き金を引いたのだ。
銃口から放たれた.40S&W弾は孝一の顎から脳天を突き抜け、その命をあっさり奪う。
断末魔を上げる間も無く茶色と白の人狼の青年はその場に倒れ、物言わぬ屍となった。

「と、永遠!」

危険が無くなり憲顕は永遠の元に駆け寄った。
だが、もう手遅れなのは火を見るより明らかである。

「……さ、寒い……寒いよ……上杉さん………私、死ぬの……?」
「……ッ」

そんな事無い、と気休めを言えるような状況では無かった。

「…死にたくない…死にたくないなぁ……でももう無理なんだよね………。
……もっと、生きたかったなぁ…………」

どんどん声が小さくなっていく。目の前で命が失われて行くのを、
憲顕は黙って見ている事しか出来ない。自分の無力さを痛感していた。

「上杉さ、ん……」
「な、何だ、何が言いたい?」

最期の力を振り絞り、永遠は憲顕に告げた。
それは本当に、口に耳を近づけなければ聞こえないぐらいの小さなか細い声だったが、
しっかりと憲顕に伝わり、彼を大いに驚かせる。

「……! お前……」
「……お願い……します………」

そして、ゆっくりと目を閉じた永遠は、脱力し、二度と目を覚ます事は無かった。

「……」

元を辿れば見ず知らずの赤の他人だが、
この殺し合いにおいて始めて出会い、しばらく行動を共にした。
全く悲しまない訳では無い。憲顕は目を瞑り肩を落とした。
そして、何かを決めたように顔を上げる。
一時間後にこの学校のあるエリアは禁止エリアになる。余りモタつく訳にはいかない。
その前に、永遠の最期の願いを実行しなければならない。

「永遠、お前の死を無駄にはしない…」

憲顕は、冷たくなった永遠の首に、自分の鋭い牙を掛けた――。

数十分後。

口元を血塗れにした憲顕が昇降口から廃校校庭へ出る。
デイパックの中には永遠と襲撃者の武装、及び、二人の首輪が入っている。

「早く安全な地域に出ないと……」

憲顕は学校のあるエリアから出るため走り出した。


【山崎孝一@オリキャラ・男  死亡】
【井岡永遠@オリキャラ・女  死亡】
【残り21人】


【一日目/午前/E-5廃小中学校校庭】
【上杉憲顕@オリキャラ・男】
[状態]口元が血塗れ
[装備]シグザウアーSP2340(11/12)
[道具]基本支給品一式、シグザウアーSP2340のマガジン(3)、
ウィンチェスターM1897(5/5)、12ゲージショットシェル(15)、
Gew41マウザー社試作型(8/10) 、Gew41マウザー社試作型のマガジン(5)、
井岡永遠の首輪、山崎孝一の首輪、ノートパソコン(バッテリー残り98%)
[思考]
1:殺し合いはしたくない。首輪を解析したい。
2:学校のあるエリアから出る。その後は……。
[備考]
※特に無し。



解らない訊きたくないまだ真実は 時系列順 分子記号片割れのよう
解らない訊きたくないまだ真実は 投下順 分子記号片割れのよう
狐と狼のシンキングタイム 上杉憲顕 分子記号片割れのよう
狐と狼のシンキングタイム 井岡永遠 死亡
狂わば死鐘、狂わば笑え 山崎孝一 死亡

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最終更新:2011年01月22日 21:31
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