容易く消し去れない恋

9話:容易く消し去れない恋


目が覚めると、岸沼良樹は海の音が聞こえる、背の高い雑草に囲まれた
古びた幹線道路の上に横たわっていた。
身体を起こし、制服に付いた砂を払い、周囲の様子を見渡す。

「何なんだここ…海が、見えるな……遠くに街みてぇのもあるし」

少なくとも今までいた天神小学校では無い事は確かだった。

「殺し合いだって……くそっ、どうなってんだ一体」

幽霊によってクラスメイトを目の前で殺された後、同行していた篠崎あゆみがパニックを起こし、
どこかへ立ち去ってしまった事までは覚えているが、その後、どうなったのだろうか。

「…思い出せないな…いや、それより」

良樹は傍に置いてあった黒いデイパックを手に取り中身を漁る。
参加者名簿を開き書かれている名前を見ると、知っている名前が三つ。

「中嶋…篠原…篠崎もいるのか……」

共に天神小に飛ばされた中嶋直美、篠原世以子、同行していたあゆみの名前を見付け、
良樹は名簿を閉じてしまい込んだ。
ルール冊子を開くと、この殺し合いの詳細なルールが記載されていた。
最後の死者が出てから12時間新しく死者が出無くなっても、首にはめられた首輪は
爆発すると書かれている。

(そんなにおっかない物なのかよ…この首輪、何とかなんねぇか…)

首輪に触れながらそう思う良樹。
ルール冊子をしまい、ランダム支給品を確認する。
すると、出てきた物は鞘に収められた日本刀と、工事用のヘルメットだった。
良樹が日本刀を鞘から抜くと、本物の刃が付いた刀身がぎらりと光った。

(本物の刀か…うわ……)

初めて手にする実物の刀にごくりと唾を飲む良樹。
試しに近くの草を薙いでみると、綺麗に斬る事が出来た。
少し重いが、使いこなせない程では無い。

「…これからどうするか…まず、篠崎達を」
「なぁ、ちょっと良いか?」
「あ…誰だ?」

突然青年の声が聞こえ、良樹はその方向に身体を向けた。

「……?」

そこには灰色と白の毛皮の狼がいた。
否――狼をそのまま二足歩行にしたような人間とも獣とも付かない存在が立っていた。

「……う、うあああっ!? お、狼男!? 何だ! え!?」
「お、落ち着いてくれ、俺は何も危害を加えるつもりは無い」
「……」

狼の口から人間の言葉が非常に流暢に出てくる事が非常に違和感があった。

「…俺は大神勇吾って言うんだ、こう見えても元は人間、なんだけどな…」
「…お、俺は岸沼良樹……」
「そうか……岸沼、お前は殺し合いに乗っているのか?」
「…乗っていない。この殺し合いには俺の大事なクラスメイトも呼ばれてるんだ。乗れるか」
「そうか、俺もだ…と言っても知り合いはいないが…」

◆◆◆

大神勇吾は殺し合いが始まった当初から困っている事があった。
一つ、狼に獣化したまま人間に戻れなくなっている事。二つ、なぜか全裸だと言う事。
首には首輪まではめられ、正に本物の獣のような格好になってしまっている。
当然、下半身にぶら下がる物は露出したまま。
しかし人間時とは違い毛皮に覆われており、また狼の本能も若干出て来ているので、
それ程恥ずかしいとは思わなかった。
そして今、勇吾はたまたま見掛けた高校生ぐらいと思しき少年、岸沼良樹と会話していた。
最初は驚かれたが、その後は特に問題は起きていない。

「大神さんは何が支給されたんだ?」
「俺は…」

勇吾は自分のデイパックを開け、ランダム支給品を取り出した。

「アイスピックに、濃厚塩水入り大型水鉄砲だ」
「……」
「……お前の日本刀が羨ましいよ」
「ま、まあ、塩水入り水鉄砲は目潰しに使えるんじゃね?」
「いや、一応、素手でも戦える事は戦えるんだけど、な」

貧弱な支給品だった勇吾を気遣う優しい良樹。

「ところで、岸沼。お前、クラスメイトがいるって言っていたが……」
「ん、ああ…篠崎あゆみ、中嶋直美、篠原世以子の三人だ」
「三人もいるのか…心配だろ」
「ああ…」

三人共、良樹は心配だったが、特に篠崎あゆみの事が気になった。
普段怪談ばかり話す割には怖がりでしかもパニックや過呼吸を起こし易い難儀な体質。
それはあの天神小に居た時でも問題だった。
現在置かれている状況は殺し合いで、天神小とはまた別だが、
いつ命の危機に晒されるか分からないと言う点では変わりは無い。

(篠崎、無事だと良いんだけどよ……まさか、もう殺されたり…いや、よせ…悪い方に考えるな俺)

「…大神さん、俺、中嶋や篠崎、篠原を捜したいんだ、そしてこの殺し合いから脱出する。
頼む。協力してくれ!」
「…良いぜ。宜しくな、岸沼」
「…! ありがとう、こちらこそ、大神さん」

少年と人狼の姿をした青年は手を取り合った。

だが良樹は知らない。もう、彼が密かに心に想い続けていた人物はこの世にいない事を。
その真実に、遅かれ早かれ、彼は気付く時が来るだろう。
その時彼は――――。



【一日目/早朝/C-1平野部幹線道路跡】
【岸沼良樹@コープスパーティーBCRF】
[状態]良好
[装備]長船備前兼光、工事用ヘルメット
[道具]基本支給品一式
[思考]
1:篠崎、中嶋、篠原を捜し出す。この殺し合いから脱出する。
2:大神さんと行動。
[備考]
※本編Cp2で鉄槌の男に殴られ気絶させられた直後からの参戦です。

【大神勇吾@ブラッディロアシリーズ】
[状態]良好、獣化形態(固定)、全裸
[装備]大型水鉄砲(濃厚塩水入り、残り容量2リットル)
[道具]基本支給品一式、アイスピック
[思考]
1:この殺し合いから脱出する手段を探す。
2:岸沼と行動。
[備考]
※獣化形態のまま固定され人間に戻れなくなっています。また、服は没収されたようです。
※中嶋直美、篠原世以子、篠崎あゆみの情報を得ました。


≪支給品紹介≫
【長船備前兼光】 支給者:岸沼良樹
日本刀。名刀の一つ。切れ味は鋭い。

【工事用ヘルメット】 支給者:岸沼良樹
工事現場で使われる頑丈なヘルメット。色は黄色。

【アイスピック】 支給者:大神勇吾
氷を割るための調理器具。先端が尖った太い針のような形状で、刺突に使う事も出来る。

【大型水鉄砲】 支給者:大神勇吾
市販されている大型の水鉄砲に濃度の高い塩水を入れたもの。



OVERCOMING IROHA 時系列順 吉凶どちらに転ぶかはまさに神のみぞ知る
OVERCOMING IROHA 投下順 吉凶どちらに転ぶかはまさに神のみぞ知る
ゲーム開始 岸沼良樹 頭が四つもあれば発想も……。
ゲーム開始 大神勇吾 頭が四つもあれば発想も……。

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最終更新:2011年01月15日 23:04
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