第三者の介入

34話:第三者の介入


ドゴォン!

銃声と共に100円ショップの陳列棚が弾け、商品だった物の破片が周囲に飛び散る。

「ちぃっ!」

100円ショップ内の柱の陰に隠れる狼獣人の女戦士、エイミス・フロリッヒャーは
苦い表情を浮かべながら舌打ちする。
散弾銃を持った、二足歩行の銀色の雄狐に襲撃され危機的状況に陥っていた。
銃に疎い彼女でも散弾銃の殺傷力については知っている。
複数個の細かい散弾を撃ち出し、距離が近ければ近い程威力が増す。
近距離で食らえばほぼ間違い無く命は無いだろう。

「逃げたって無駄だよ…」

レミントンM870マリーナ・マグナムに12ゲージショットシェルを込めながら、
銀狐・稲苗代儀重は呟く。

「悪いけど…俺も死にたくは無いからね…死んで貰うよ」

静かな声でそう言う儀重。銃など初めて使うと言うのに、自分でも気持ち悪い程冷静だった。

「くそっ…これ、まずいかな…」

エイミスが持っている武器はスローイングナイフ、いわゆる投げナイフ5本のみ。
他に武器になりそうな物は無いかとショッピングセンター内を探索したが、
武器屋や銃器店はもぬけの空になっており、他の店にも武器になりそうな物は見付からなかった。
投げナイフには自信はあるが陰から身を乗り出せば撃たれると言う状況で、
正確に相手に投げるとなると話は違ってくる。
改めて今自分の置かれている状況が非常にまずいと、エイミスは自覚する。
しかし思わぬ助けが入った。

ダダダダダダダダダダッ!!

「…あ…がはっ…ぁあ……!?」

機関銃のような射撃音が響き、儀重は身体中が無数の灼熱に貫かれるのを感じた。
激痛に耐えながら後ろを振り向くと、黒っぽい長物の銃を持った、
灰色のブレザー姿の少年が立っていた。
少年の目は血走っており、正気には見えなかった。

(いつの間に後ろに…くそっ……油断、した……)

「あぁぁぁあああぁああーー!!」

ダダダダダダダダダダッ!!

少年――平崎吉治が叫びながら手にした突撃銃、AR-15を銀狐に向け再び乱射した。
血塗れの銀狐は持っていた銀色の散弾銃を床の上に落とし、崩れ落ちた。

「ふぅ…ふっ、ふへへ…やったぞ…二人目だ……二人目殺した…!」

狂った笑いを浮かべる吉治。
そのままゆっくりと、銀狐の持っていた散弾銃を拾おうと死体に近付く。

「ねぇ」
「…え?」

ふと、女性の声が響く。女性の声のした方向に吉治が顔を向ける。
荒れた100円ショップ内の柱の陰から、茶色と白の毛皮を持った、
灰色のローブに軽装鎧という姿の狼獣人の女性が出て来るのが見えた。
その手には小さなナイフらしき物が握られていた。
突然まともに声を掛けられたため、吉治は銃を撃つのを忘れていた。

ヒュッ、ドス。

「……っ!?」

風を切る音、そして鈍い音が吉治の耳に届く。
喉元が異常な程熱くなり、ひゅー、ひゅーという音が聞こえた。
まともに息が出来ない。視界の下から真っ赤な液体が噴き出すのが見えた。
喉元に手を当てると何かが刺さっているのが分かったが、抜こうとする前に、
身体中の力が抜け、意識が遠退くのを感じた。

「……ッ、ごぼ、ぉ、ゴホッ……!!」

(あ…息が、出来、ねぇ…鉄錆の味が…口一杯に…!
し、死ぬのかよ、俺……!? え…死ぬ? 誰が……? 嘘、だろ…!?)

暗くなっていく視界、異常な程の寒気、無くなっていく感覚。
全ての状況が吉治に己の死を認めさせようとしていた。

(嫌だ………死にたく、ねぇ……石川、香瀧、立沢先生………)

最後に彼の脳裏に浮かんだのは、仲の良い友人達と、信頼出来る数学教諭の顔だった。

少年が完全に動かなくなったのを確認すると、エイミスはふぅ、と安心したように溜息を吐く。
他に侵入者の影は見当たらない。取り敢えず命の危機は去ったようだ。
灰色ブレザーの少年の死体を足で転がし喉に刺さったスローイングナイフを抜き取る。
抜き取った傷口から再び血液が溢れ出した。
血に濡れた刀身を少年のブレザーの端で拭き取る。
そして、突撃銃コルトAR-15を拾い上げ、観察し始めた。

(銃なんて余り使った事無いけど…正直投げナイフだけじゃ不安だし…貰っていこう)

エイミスはAR-15を装備し、少年のデイパックから予備のマガジン、
自動拳銃トカレフTT-33とその予備マガジンを入手した。

(余り持って行っても仕方無いか…さっきの銃声でまた誰か来るかもしれないし…。
確か向こうに非常口があったわね。さっさと逃げよ……)

銀狐が持っていた、先程まで自分を苦しめていた銀色の散弾銃は敢えて構わず、
エイミスは東方向の非常口へと向かった。





「…北に向かっていたつもりなのにどこでどう道を間違ったのか、
私はショッピングセンターに来ていました。おかしいよね地図もコンパスもあるのに。
第三者の意図を感じる。まあメタ発言は置いといて…」




「銃声が聞こえた、けど……」

ショッピングモール正面入口で青色の雌獣竜リュードは耳を澄ます。
先程まで初っポングモールの奥から銃声が響いていたが、今は何も聞こえなくなった。
交戦していた者の誰かが死亡したのだろうか。

「…放送も近いし……妹も、心配だけど……どこかで一度、休もうか……」

外から見た限りではショッピングセンターはかなりの広さを持っているように見えた。
中に戦う気がある参加者が残っていたとしても気を付ければ簡単には遭遇しないだろう。
リュードはベレッタM92FSを持って警戒しつつ、飲食店やゲームセンターなどを見て回り、
休めそうな場所を探し始めた。

そしてスタッフ用と思われる休憩所を発見した。

「ここなら良いかな…ブラインドも下りてるから外からも見えない、と思うけど」

背後に誰もいない事を確認しリュードは休憩室の扉を閉めた。

「はぁ…」

折畳式のパイプ椅子に座り一息付く。
壁には連絡用のプリントやカレンダー、古い壁時計などがある。
壁時計は午前7時20分を差していた。
この殺し合いが始まって、3時間と20分が経過した事になる。
自分が殺害した白髪頭の女戦士を含めて何人の犠牲者が出ているのだろうか。
放送になれば犠牲者の名前も呼ばれるだろうがその中に大切な妹であるレオーネの名前が
どうか呼ばれ無い事を、リュードは祈っていた。

「レオーネ、もし、あなたに万一の事があったら、私は……」

最愛の妹の無事を祈りながら、青い雌獣竜はしばしの休息を始める。


「う……ぐぅ、げほ! げほぉ…うぐ、ぇ…はぁ、はぁ」

口から大量の血反吐を吐きながら、ガクガクと震える身体を起こす血塗れの銀狐。
身体中に穴が空き、床は正に血の海と形容するのが相応しい状況となっている。
稲苗代儀重は生きていた。辛うじて、ではあったが。

「う…ぐ…痛、ぇ…! 身体が穴だらけだよ…ごほっ、ごほっ…うわ…口の中、
鉄錆の味が……」

まだ霞む視界で周囲を見渡すと、自分が襲っていた狼女戦士の姿はどこにも無い。
代わりに見知らぬ灰色ブレザーの少年の死体が横たわっていた。
いや、知っている。この少年は自分を背後から銃撃した人物だ。

「死んでいる…俺が、気を失っている間に、殺されたのか…?
……ご愁傷様」

皮肉のように言うと、儀重は身体を引き摺り、近くに落ちていた自分の散弾銃を拾い上げる。

「良かった…銃は無事か……だけど、少し、休んだ方が、良いな……ふぅ」

身体中を銃弾で貫かれ満身創痍のまま行動するのは無理がある。
しばらく休み傷が癒えるのを待つ必要があった。
儀重はふらふらと、休めそうな場所を探し始めた。


【平崎吉治    死亡】
[残り27人]


【一日目/朝方/B-3ショッピングセンター二階東】

【エイミス・フロリッヒャー】
[状態]肉体的疲労(中)
[装備]コルトAR-15(0/20)
[持物]基本支給品一式、コルトAR-15マガジン(5)、トカレフTT-33(8/8)、
 トカレフTT-33マガジン(2)、スローイングナイフ(5)
[思考・行動]
 基本:殺し合いには……。
 1:ショッピングモールから離れる。
[備考]
 ※稲苗代儀重(名前は知らない)を死んだと思っています。


【一日目/朝方/B-3ショッピングセンター二階】

【稲苗代儀重】
[状態]全身に銃創(行動に若干の支障あり)、血塗れ
[装備]レミントンM870マリーナ・マグナム(3/4)
[持物]基本支給品一式、12ゲージショットシェル(6)、煙幕手榴弾(3)
[思考・行動]
 基本:殺し合いに乗る。
 1:しばらく休み傷が癒えるのを待つ。
[備考]
 ※エイミス・フロリッヒャー(名前は知らない)の外見を記憶しました。


【一日目/朝方/B-3ショッピングセンター一階南部スタッフ用休憩室】

【リュード】
[状態]良好
[装備]ベレッタM92FS(15/15)
[持物]基本支給品一式、ベレッタM92FSマガジン(3)
[思考・行動]
 基本:妹のレオーネを優勝させるために、殺し合いに乗る。
 1:放送を待つためしばらく休む。
[備考]
 ※稲垣葉月に気付いていません。



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最終更新:2010年12月26日 18:11
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