心の奥までは偽れない


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28話:心の奥までは偽れない


森の方から、銃声が響いてくる。誰かが戦っているのだろうか。
しかし、赤髪の女剣士――朱雀麗雅にとってはどうでも良い事であった。

「……」

麗雅の心は早くも揺らぎ始めていた。
殺し合いに呼ばれた幼馴染と近所の知り合いの少女のために、
この殺し合いに乗ると、迷わないと決めたはずだった。
だが、しばらく他の参加者とも、二人とも遭遇せず、一人でいる時間が多くなると、
自分の行動方針を改めて考えずにはいられなかった。

(私は……どうすれば良いのだろう)

一度殺し合いに乗ると決め、麗雅は先刻、バニーガール姿の見知らぬ女性を襲った。
結局手傷を負わせただけでその女性を殺す事は出来なかったが、
自分が殺し合いに乗っていると、女性は間違い無く認識しただろう。
例え今更殺し合いをやめたとしてもその女性から自分の特徴、殺し合いに乗っていると言う事を、
他の参加者――最悪、幼馴染、四宮勝憲と知り合いの少女、葛葉美琴――が
伝わり、広まっているかもしれない。
この殺し合いと言う状況下、そんな事態に陥って自分は信用されるはずも無い。

(…くそっ…自分の撒いた種とは言え……)

自分の行いを悔いながら、いつしか麗雅はすぐ隣に鬱蒼とした森が広がる道路に出ていた。

「! いつの間に…」

反対側は住宅街が広がっていると言うのに、もう反対側は未開の土地のような深い森。

「…思えば私はずっと同じような場所をうろついているだけだな…。
こんな事で他の連中が見付かるはずも無い……」

それとも、無意識の内に最初いた場所から動かず、他の参加者と遭遇するのを避けているのかと、
心の中で麗雅は付け加える。
やはり自分は――――。

ガサッ!

森の方向の、背の高い茂みから物音が聞こえた。
この時麗雅は考え事に夢中になる余り、警戒を怠っていた。
いつもの彼女なら防げたはずである。

ザシュッ!

「……ぐ、あ……」

左腕を切り落としたその斬撃を。
ボトッと生々しい音を立てて麗雅の左肘から先がアスファルトの上に落ち、
切断面から真っ赤な液体が壊れた蛇口のようにビチャビチャと流れる。
激痛と急速に血液が身体から失われていく感覚を耐えながら麗雅は襲撃者と距離を取った。

「う…ぐ…」
「惜しかったですね…左腕だけでしたか。ですがすぐ、命も頂きますよ」

刀を携えたセーラー服姿の、美しい金髪を持った半狐獣人の少女――志水セナは、
やや疲労の色が強い表情を浮かべながらも、余裕と言った様子で言い放つ。

「…フフ、私も、落ちたものだ…不意討ち、如き、防げただろう、に…」

麗雅は自嘲気味に笑った。
そして、残った右手で持った刀の切っ先を、霞む視界の先の少女に向ける。
少女は自分を殺す気でいる。恐らく手当てをする暇など与えてはくれない。
片手剣でも少女を戦闘不能にするのは可能だが、
その後で手当てを試みても手遅れだろう。
要するに、自分はここで死ぬ。少女に負けようと勝とうと。
それが自分の人生の結末。

「ふぅ…四宮さんを追っていたら見失ってがっかりしてたけど…」
「…何?」

セナが口にした苗字に、麗雅は反応する。

「…おい、お前、勝憲を知っているのか」
「え? 知り合いですか? …さっきまで追い掛けてたんですよ。森の中で」
「……そう、か」

どうやら捜し人の内、一人はまだ無事らしい。先程の森の方から聞こえた銃声はそれだろうか。
少女の口ぶりだともしかしたら近くにいるのかもしれない。
麗雅は安堵した。切断された左腕の痛みも、血が失われていく感覚も次第に麻痺していく。
もう自分は長く無い、その前にやらなければならない事があった。

「ちょっとお喋りが過ぎましたね。さっさと」
「全くだ」

セナは自分の言葉が言い終わらない内に胸部に違和感を覚えた。
喋ろうとしたが口が上手く動かない。それどころか身体が上手く動かない。
手足から力が抜け、持っていた刀を道路の上に落とした。
目の前の、赤髪の女性が突き出した右手の先が自分の胸元に伸びている事を確認すると、
セナの脳裏に、自分の背中から血に濡れた刃が生えている光景が浮かび上がった。

「…一応、私も、ある剣術道場の師範をしていてね……刀の扱いには長けているつもりだ。
少なくとも君よりは、な」

麗雅がセナの胸――心臓を貫いていた刀を引き抜くと、
糸の切れた操り人形のようにセナはアスファルトの上に崩れ落ちた。
意識が遠退く最中、なぜかセナの脳裏にはこの殺し合いにも呼ばれている、
行き付けの食堂のオヤジの顔が浮かんだ。
なぜ、親でも友人でも無く、あのオヤジの顔が浮かぶのか。
自分でも訳が分からず、乾いた笑いを浮かべながら、セナは逝った。

「……勝憲……取り敢えず、これで、大丈夫、か……?」

力の無い掠れた声で麗雅が言う。
大切な幼馴染を追っていた少女――なぜ名前を知っていたのかは分からないが――は、
ここで始末した。これで幼馴染の安全は、多少は確保されるだろう。

「……」

アスファルトの上に麗雅は両膝を突いた。
もはや、立っている事もままならない。身体中の感覚が消えていく。
切断された左腕の痛みもほとんど消えていた。
それに、寒気がする。眠気も感じる。
ふと切断面を見ると流れ出る血の量が少なくなってきていた。
これは治癒しているのでは無い、身体の血液がもう無くなっているのだろう。
間も無く、自分は死ぬ。麗雅はそう確信した。

「……ふふっ……罰、か…これは……私への」

一時は幼馴染と知り合いの少女のためとは言え殺し合いに乗り、見知らぬ女性を傷付けた。
だが、結局迷い、やはり殺し合いはやめようと思っていた時に、この様。
このような中途半端な覚悟で、改心しようなど、虫の良過ぎる話だ。
だから――罰が下った。麗雅はそう思った。

「…あ、あ……馬鹿だな…私は……こんな、事なら……最初から……素直に、
二人を…探せば良かった…んだ……馬鹿だ…大馬鹿、だ……私………は」

麗雅の目から、頬を伝い涙が流れた。
死への恐怖では無い、自分の愚かさへの悔恨の涙。
そして、もう二人に会えない事への悲しみの涙。

「……勝憲……美琴………出来、るなら…もう……一度………お前達に…あ……い…………」

会いたいと切に願った。
それが彼女の最期の願いだった。
そしてその願いは、彼女が生きている時に叶う事は無かった。


「何とか市街地には出れたな…しかし、銃弾もう3発しか残ってねぇぞ…。
あのセナって奴は振り切れたけど…どうすっかなこれから」

森を抜けた四宮勝憲は、そのまますぐ傍にあった道路を北上していた。
彼の右手には追跡者との命がけの鬼ごっこの際に酷使したコルトM1917リボルバー。
シリンダー弾倉内に残っている三発の.45ACP弾が、最後の弾であった。
何とか追跡者である志水セナと名乗った半狐獣人の少女を振り切る事には成功したが、
すっかり弾が少なくなってしまったのは痛い。

「全くよぉ…どこかに銃器店とか無いのか…………え?」

勝憲の足が止まった。
前方数十メートル先に血溜まりの中に倒れる二人の女性がいた。
遠目からでもはっきりと分かる、炎のように赤い髪。
幼い頃から見慣れた、赤の色。

「……!」

勝憲は居ても立ってもいられず駆け寄った。

「……お、おい……嘘、だろ……」

そして勝憲は確認する。倒れて物言わぬ屍となっている赤髪の女性が、
紛れも無く自分の幼馴染と同一人物であると。
良くみればもう一方の死体はついさっきまで自分を追っていた少女のようだったが、
今の彼にはそんな事どうでも良かった。

「れ……麗雅。お前…何、死んでんだよ」

震えた手で、麗雅の頬を触る。
まだ温もりがあった。ついさっきまで生きていた事を示していた。
死に顔はまるで眠っているようだったが、頬には涙を流した跡がある。
そして、左腕が、切断されていた。
断面から大量に出血したようだった。

「……麗雅……嘘だろ、こんな、こんなのってアリかよォ!! 折角、折角見付けたのに、
……馬鹿野郎…馬鹿野郎……ぐ……うう…………」

アスファルトに突っ伏して、勝憲は慟哭する。
正直、喧嘩している時の方が多かった。色々小言を言われ鬱陶しくも思ったりした。
それでも、大切な友人であり幼馴染だった。
散々森の中を逃げ回った末に彼を待ち受けていた現実は、余りにも非情だった。


【志水セナ    死亡】
【朱雀麗雅    死亡】
[残り33人]


【一日目/朝方/D-6住宅街東部】

【四宮勝憲】
[状態]肉体疲労(大)、深い悲しみ
[装備]コルトM1917(3/6)
[持物]基本支給品一式、
[思考・行動]
 基本:殺し合う気は無いが襲い掛かる者には容赦しない。美琴の捜索。
 1:麗雅……。
 2:手を洗いたい。
[備考]
 ※特に無し。


※朱雀麗雅、志水セナの死体の周囲に二人の所持品も放置されています。


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