21話:「友」
道無き道、と言うよりただの森を、コンパスを頼りに狐の青年、
高原正封は突き進む。
「…迷ったんじゃないだろうな…」
しかし目印も何も無いこの緑深い森の中、コンパスを使っているとは言え、
本当に自分が前進しているのかどうかも怪しい。
最悪、ただ同じ所をぐるぐると回っている恐れさえある。
何としても森を抜けたいと思う正封。
「……!」
その時、前方数十メートル先、木々の間に何かが見えた。人影だ。
息を殺し、気付かれないように人影に近付く。
右手のリボルバー拳銃、スタームルガーGP100のグリップを握る力が強まった。
(あれは…)
人影――他参加者は二人おり、どちらも正封に背を向け、気付いている様子は無い。
また、正封はその内の一人を知っていた。
(……会っちまったか。だけど、もう後には引き返せない……)
正封は自分に背を向けて森を進む二人にゆっくりと近付き始めた。
それは、自分の迷いを断ち切るためでもあった。
◆
灰色と白の毛皮を持ち、青いベストにスカートを着た狼獣人の少女、
藤堂リフィア(とうどう-)と、白いジャケットにジーンズ姿の青年、久保遼平(くぼ・りょうへい)は、
薄暗い森の中を市街地方面へ出るため歩いていた。
「…それにしても、良かったよ。最初に遭遇したのが、リフィアちゃんみたいな子で」
「そうですか?」
「殺し合いに乗ってる殺人鬼だったら俺どうしようかと思ってたし……」
二人はこの殺し合いが始まって程無く森の中で出会い、
互いに殺し合う気が無い事を確認し、脱出手段を探すために共に行動する事となった。
だがその前に森からの脱出が急務であった。
「それ、凄いね、直刀だっけ?」
「はい…使いこなせるかどうか分かりませんけど。久保さんも、
中々良い武器を支給されて良かったじゃないですか」
「いやぁ…俺も、銃なんて使った事無いしな……」
リフィアは直刀、遼平はクリップ装弾式の自動拳銃、ロス・ステアーM1907を装備している。
「使いたくないなぁ」
「そうですね…私も、出来ればこれで人を斬るなんてしたくないですけど…」
「……」
しばらくの会話の後、二人は沈黙した。
「……?」
その時だった。リフィアが背後から妙な音がするのを聞いた。
嫌な予感がし、リフィアは後ろを振り向いた。
ダァン!
「がぁ…!」
直後、銃声が響き、リフィアの心臓を弾丸が貫通した。
銃創から鮮血が噴き出し、激しく吐血しながら、リフィアはうつ伏せに倒れた。
「……え?」
突然の銃声、そして突然倒れた同行者、そして――自分に銃を向ける友人の狐獣人の姿。
「た、高原…?」
「久保…」
「…な、何、してんだよお前…何で銃なんて向けんだ? 何で、何で――リフィアちゃんを、殺した!?」
信じられない状況に狼狽しながらも遼平は正封に問い質す。
正封は至って冷静な口調でその問いに答えた。
「リフィア…その女の子の事か…何でって……決まってるだろ。優勝するためだよ」
「お、お前…! こんなふざけた殺し合いに乗るってのかよ!? 俺や、戸高、冬月も殺すのかよ!?」
「……ああ。殺すさ。殺してやるよ! 全員!」
「――!!」
ダァン! ダァン!
二発の銃弾が遼平の胸元を撃ち抜き、血が噴き出し緑の草を赤く染めた。
遼平はその場にガクリと膝を突き、ゴホッ、と口から赤い液体を溢れさせた。
「…高原…何、でだよ…」
薄れ行く意識の中、遼平は、殺し合いに乗るはずが無いと思っていた、
自分と同行者を撃った友人に、問い掛けた。
「俺は……お前の、事…友達だ、と…思っ、て……」
「……」
「……ほ、本当の…お前、は……そ、そんな…奴じゃ……ない…だ、ろ……?」
ダァン!
更に一発の銃弾が、遼平の命の火をかき消した。
「……」
正封はGP100の空薬莢を排出し、予備の弾を込めると、遼平の持っていた拳銃と、
デイパックの中からクリップにまとめられた予備弾を回収し、
狼の少女の持っていた刀には目もくれず、逃げるようにその場を立ち去った。
これでもう本当に引き返せない所に来てしまったと正封は嫌でも自覚する。
――俺は……お前の、事…友達だ、と…思っ、て……。
――……ほ、本当の…お前、は……そ、そんな…奴じゃ……ない…だ、ろ……?
「……くそっ」
今わの際の友人の言葉が、正封の頭の中で反響していた。
◆
森の中に二人の死体が横たわっていた。
いや、正確には一人であった。
と言うのも、もう一人は完全には死んでいない。仮死状態、とも言うべき状態なのだが、
意識はしっかりあった。
(…心臓、やられちゃった……しばらく動けないなぁ……)
僅かに空が見える、生い茂る葉を見上げながら、
意識だけははっきりとした、それ以外は死体と化している狼少女、リフィアは思った。
彼女は「不死身」であった。
心臓を刺されようが、喉を掻き斬られようが、車に撥ねられようが、
頭部が切り落とされるか身体を焼かれたりしない限り絶対に死ぬ事は無い。
どんなに悪くても仮死状態にしかならない、一億人に一人の特異体質である。
(……久保さん……折角仲間になれたのに……)
傍で本当に死んでいるであろう、同行者の青年を悼むリフィア。
(あの高原って人…久保さん、良い友達だって、話してたのに、
どうして……どういう気持ちか何て分からないけど……間違ってるよ……)
先程自分を撃ち――恐らく自分は死んだと思っているだろう――そして遼平を撃った、
狐獣人の青年の事は、遼平本人から他の二人の事と共に、リフィアは話を聞かされていた。
話の内容からは、遼平と高原は仲の良い友人だと窺えた。
なのになぜ――それ程自分だけが生きて帰りたいのだろうか。
この殺し合いに呼ばれている自分のクラスメイトであり友人の皐月眞矢も、
もしかしたら高原と同じ事になっているかもしれない。
(…皐月さん…殺し合いに乗ってたらどうしよう……ああその前に、
早く動けるようにならないかな……)
様々な不安を抱えながら、リフィアは身体の自由が利くようになるのを待つしか無かった。
【久保遼平 死亡】
[残り39人]
【一日目/早朝/F-6森】
【高原正封】
[状態]良好、西へ移動中
[装備]スタームルガーGP100(6/6)
[持物]基本支給品一式、.357マグナム弾(9)、ロス・ステアーM1907(10/10)、
ロス・ステアーM1907装弾クリップ(弾薬10発入り×3)
[思考・行動]
0:殺し合いに乗る。優勝を目指す。もう迷わない。
1:誰であろうと殺す。
[備考]
※藤堂リフィアを死んだと思っています。
【藤堂リフィア】
[状態]銃撃による心臓損傷及び一時停止(治癒中)、仮死状態(意識はある)
[装備]直刀
[持物]基本支給品一式
[思考・行動]
0:殺し合いには乗らない。脱出手段を探す。
1:動けるようになるのを待つ。
[備考]
※仮死状態のためしばらく動けません。意識はありますが喋れません。
※高原正封、戸高綾瀬、冬月蒼羅の情報を得ました。
※F-6一帯に銃声が響きました。
≪支給品紹介≫
【直刀】
藤堂リフィアに支給。
鍔の無い、真っ直ぐな刀身を持った刀。
【ロス・ステアーM1907】
久保遼平に装弾クリップ3個とセットで支給。
1907年にオーストリア軍に制式採用された自動拳銃。
ボルト式の動作機構やクリップを使用して装弾する方式など典型的な黎明期の自動拳銃である。
外見は不格好だが優れた拳銃。
≪キャラ紹介≫
【名前】藤堂リフィア(とうどう・りふぃあ)
【性別】女
【年齢】18
【職業】高校生
【身体的特徴】銀色と白の狼獣人。巨乳。
【性格】温厚、若干天然。だが芯は強い
【趣味】小説執筆
【特技】動体視力が高い
【経歴】外国人の母を持つ。
【好きなもの・こと】ハンバーグ
【苦手なもの・こと】長時間の運動
【特殊技能の有無】生命力が尋常では無い。首を切り落とされるか脳を破壊されるか
焼き殺されるかでもしない限り死ぬ事は無い。但し一定以上のダメージを受けると意識を保ったまま
仮死状態になる。また痛みに対して類まれな耐性を持っている
【備考】通称「リフィー」。皐月眞矢はクラスメイトで友人。
【名前】久保遼平(くぼ・りょうへい)
【性別】男
【年齢】20
【職業】大学生
【身体的特徴】黒髪、中肉中背。白いジャケットにジーンズを着ている。
【性格】人当たりは良いが怠惰な面がある
【趣味】ゲーセン通い
【特技】これと言って無し
【経歴】高校時代にバスケ部に所属していた
【好きなもの・こと】ドライブゲーム
【苦手なもの・こと】朝
【特殊技能の有無】一般人
【備考】高原正封、戸高綾瀬、冬月蒼羅は大学の友人
最終更新:2010年12月25日 09:36