「……ひとまずここで休憩するか」
暗闇の中を歩き続けた末にロックが辿り着いた所は、D−5の西端にそびえるホテルであった。
そのホテルは森林と市街地とのちょうど境の位置にあり、規模は地上五階建てと小振りのものである。
ホテルを見上げながらロックは小さくため息を吐く。
殺し合いが始まって既に小一時間。この子供を拾ってから今まで誰とも遭遇していない。
本当に殺し合いが行われているのかと思う程、周囲は静寂に包まれていた。
銃声の一つ、叫び声の一つも聞こえない。
「ドッキリ……だったらいいのになあ」
思わず零れた言葉にロックは苦笑してしまう。
今の状況がドッキリなど有り得ない。
突如として森林から湧き上がった巨大な炎。
森林だった空間が一瞬にして飲み込まれ、黒こげと化したその瞬間。
その火力たるや消防隊員だって裸足で逃げ出す程のものだった。
どんな兵器を使えばあれほどの炎を巻き起こせるのか見てみたい程だ。
ロックは実際に目の当たりにした。
見てしまったからこそ、この状況が虚構だと現実から目をそむけることなど出来ない。
「どうすりゃいいんだか、全く……」
首元に意識を集中させれば、そこには金属の冷たい感触。
これが爆発すれば、自分の命などあっさり吹き飛ぶ。
他者に命を握られている、しかもその命を握っている者はあの悪趣味そうな老人だ。
そう考えると、思わず身震いがする。
退屈だからとか適当な理由で、起爆装置を起動させられれば、それで終わり。
たったそれだけでこの人生は終わってしまう。
ふざけるな、と思う。
俺がお前らに何をした、と自然と憤りが込み上げる。
「……ちくしょう、何でこんな事になっちまったんだよ……」
愚痴を吐きながらホテルの入り口へと近付いていくロック。
センサーが来訪者の存在を感知し、ガラスの扉を横へスライドさせる。
その、瞬間だった。
ガキン、という金属と金属の磨れ合う不快な音がロックの耳に飛び込んできたのは。
「うわ!?」
しかも、その音は周囲の空気を震撼させる程に巨大なものだった。
耳をつんざくその大きすぎる金属音に、ロックは驚愕し尻もちをついてしまう。
その間にも金属音は断続的になり続け、その度に空気を揺らす。
様々な銃撃戦に巻き込まれてきたロックではあるが、こんな音は聞いた事がない。
撃ち出された銃弾が鉄板を叩く、そんな音よりも遥かに大きく暴力的なものだ。
「な、何が起きて……」
座り込んだ状態でホテルのロビーに視線を這わせるロック。
音の発生源は直ぐに分かった。分かったが、それを現実として受け止めることは出来ない。
その光景があまりに現実離れしたものだったからだ。
ガラリと開けたロビーのその中央に二人の人間がいた。
片や銀色の髪に漆黒の刀を装備した男。
身体は明るい青色のロングコートに身を包んでいる。
片やピンク色の髪に日本刀を装備した女。
身体は茶色の女物スーツに身を包んでいる。
音の発生源はそこだった。
互いが刀を振るい、互いの刀が激突すると同時に金属音がかき鳴らされる。
ガキガキガキと、振るわれてはぶつかり合う刀と刀が騒音を巻き起こし、空気を震わせる。
荒事には馴れているもののただの一般人でしかないロックには、その剣戟を知覚することはできない。
彼女等が音の発生源だということも、煌めく光の筋と、時折鍔迫り合いで静止する二人の状態から推測をしたに過ぎない。
二人が振るう刀どころか、その姿でさえも知覚の外にいくことがある。
まるで現実とは思えない光景であった。
「くそ、化け物しかいないのかここには!」
気付けば身体が動いていた。
ついさっき入ってきたばかりの入り口兼出口へと、ロックは身体を向ける。
相棒の二丁拳銃ならまだしも、自分なんかがこんな所にいたら何個命があっても足りやしない。
だから、逃げる。全力で、脇目も振らず、一瞬の迷いもなく。
幸い出口までは一歩と離れちゃいない。
幾らなんでも逃げ切れるだろう……そう考え、ロックは自動ドアへと向き直った。
その直後、ロックは気付かされる。
その考えが余りに甘かったという事に。
「え……?」
逃亡の為に後ろへと振り返ったロックは、予想外の光景を見る事となった。
人が、立っていた。
自動ドアとロックとの間の数メートルと無い隙間に、何時の間にか人が滑り込んでいたのだ。
それは青色のコートに身を包んだ銀髪の男で、ロックにも見覚えのある男だった。
え、と知らぬ内に口が動いていた。
驚愕に、身体が、表情が、思考が、全てが停止する。
「やめろおっ!!」
呆然と動きを止めたロックの後方から、焦燥に満ちた女性の叫び声が聞こえる。
おそらくはこの男と戦闘していた女性のものだろう。
だがしかし、本物の殺人鬼を前に静止の呼び掛けなど何ら意味を持たない。
男は無表情に立ち尽くしたまま、左手に握る日本刀へと右手を伸ばす。
それはゆったりとした動作でありながら、全く無駄がなく迅速なものであった。
男の右手が刀の柄を握る。
「―――死ね」
そして、ロックの視界が漆黒に染まった。
◇
シグナムがその剣士と遭遇したのは殺し合いが開始して直ぐの事だった。
気付けば立っていたホテルのロビー。
余りに唐突な事態に、混乱しつつも現状の把握に努めようとしていた矢先であった。
デイバックの中身を広げ、バトルロワイアルの参加者と支給品とを確認し終えたシグナムの前に、男は現れた。
ホテルの入り口から、殺し合いの最中だという事を感じさせないくらい堂々と。
侵入者の登場に、シグナムは支給品の一つであった刀剣を握って対応した。
そして一瞬後に、その対応が間違いではなかったと気付かされる。
男が無言で襲い掛かってきたのだ。
此方を騙くらかそうという意志すらもない。
闘争を求める獣のように、男は自らの手中にあった刀を抜いて、有無を言わさずに襲撃してきた。
反応できたのは、やはりシグナムも歴戦の剣士だったからか。
男の一撃を刀で防ぎ、そこからは命を賭けた殺し合いだった。
会話は挟む暇もない。
少なくともシグナムにその余裕はなかった。
ただ単純に、男が強かったからだ。
その刀から繰り広げられる攻撃は熾烈の一言で、シグナムは何とか対応するのが限度であった。
口を開く余裕もなく、全力を出して何とか凌げる程度。
相棒のデバイスがあれば話も違ったのだろうが、単純な戦闘技術だけでは圧倒的に負けていた。
シグナムからすれば勝算のない消耗戦。
敗北も時間の問題だったその時に―――タイミング悪くロックが現れたのだ。
眼前の敵に意識を集中させていたシグナムは気付けなかったが、襲撃者はその存在に気付いた。
だから、まずは。
手っ取り早く排除できそうな者を、殺害しようと思った。
防戦一方のシグナムを後目に、逃げ出そうと立ったロックの背後へと回り込む。
そこでシグナムもロックの存在に気付いたが、時既に遅し。
精々声を張り上げるのが限度であった。
「―――死ね」
そして、襲撃者の刀が振るわれた。
その一撃は無慈悲にもロックの身体を真っ二つにする―――、
「ヌァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
―――事はなかった。
彼の右肩辺りから膨張した黒色のマントが、襲撃者の剣撃を正面から受け止めたからだ。
その防御は、完全に予想の外。
思わず目を見開く襲撃者。
襲撃者の動きが、止まる。
「ハアアアアアアアアアアッ!!」
そこに強襲するは烈火の騎士。
ロックを飛び越えるように跳躍し、落下の勢いと自身の全体重を上乗せした縦一閃を襲撃者にお見舞いする。
「チィッ!」
守護する為に振るわれた一撃に、襲撃者は間一髪のところで反応せしめる。
漆黒の日本刀を横に掲げて、烈火の騎士の渾身を正面から受け止める。
ベコリと、襲撃者を支える床が限界を迎えて凹む。
だが、襲撃者の両腕は揺らがない。
様々な要素が重なり合った全力全開を、事も無げに防ぎきったのだ。
「ヌオオオオオオオオオオオオオオ!!」
だがしかし、次いでの追撃には反応しきれなかった。
ロックを包むように展開されていたマント。
その中から、まるでロケットの如く勢いで、子どもが一人突っ込んできたのだ。
強いていうなら、それは頭突きという攻撃方法。
ただそれを頭突きというには余りにダイナミックすぎた。
本当に頭から一直線に。
どれほどの勢いで地面を蹴ったのか、身体を宙に浮かせて。
事態を理解できていないながらも、子ども―――ガッシュ・ベルは攻撃を行っていた。
誰も死なせやしない、その理念に則ってガッシュは行動をしたのだ。
その一撃は、防御を捨てての、ただひたすらに攻めだけを考えた攻撃であった。
「グッ……!?」
だからこそ、その防御を捨てた特攻だったからこそ、襲撃者も反応しきれなかったのかもしれない。
子どもの脳天が襲撃者の鳩尾に突き刺さり、大きく吹き飛ばす。
それこそ後方にあったドアを突き破って、襲撃者を外へと吹き飛ばす程に。
襲撃者を吹き飛ばした子どもはスタンと床に降り立ち、ロックを庇うように両手を広げ、立ち塞がる。
その傍らでシグナムが動く。
手中の刀を大上段に構えて、意識を集中させる。
体内に満ち満ちる魔力を操作する為、全神経を己の内側へと集中させる。
「―――陣風!」
吹き荒れるは、斬撃。
魔力を斬撃へと変換し、刀を媒体として飛来させる魔法。
シグナムが有する数少ない遠距離用の魔法術であった。
デバイスによるブーストもなく、純粋にシグナムの力のみを使用して発動したそれは、威力としては其処まで高くない。
だが、人一人を刻み尽くすには充分。
飛ぶ斬撃がうねりを上げて、外界に吹き飛ばされた襲撃者へと急迫する。
一拍の間をおいて爆発音が響き渡り、暴風が吹き荒れる。
砂埃がシグナムの、そして襲撃者の視界を覆った。
同時にシグナムは子どもを担ぎ上げ、ロックを引っ張り上げて、走り出す。
「む、何をするのだ! あやつはまだ倒れてなどおらんぞ!」
「だから逃げるんだ。あいつは、今の私には手が余る。まともに戦っても勝ち目は薄い」
「しかし!」
「私が敗れて死ぬだけなら、まだ問題はない。だが、お前やこの男を巻き込む訳にはいかないだろう」
シグナムが選択した一手は逃亡。
先の陣風も、別段敵を倒す為に放った訳ではない。
逃げる為に、目くらましの為に、放ったに過ぎない。
十数分程の短い時間であったが、襲撃者と剣を合わせたシグナムには分かる。
襲撃者は未だ全力を出していない。
自分を相手にする際も、殆ど手抜きの状態で戦っていたに過ぎない。
それでも自分は敗北していた。
あれ以上戦闘を続けていれば、そう遠くない未来に奴の刀で切り裂かれていた筈だ。
少なくとも今の状態では勝てない。
最低でも相棒のデバイスが手元になければ、勝算は無きに等しいだろう。
「あ、あんた……出口を知ってるのか? 闇雲に逃げても下手したら袋小路に追い込まれるぞ!」
ようやく我に帰ったのか、ロックが口を開く。
だが、ロックの言葉にシグナムは肯定も否定もしない。
ただ無言で疾走し続けるのみ。
そうこうしている内に一行はロビーから裏手裏手へと潜り込んでいく。
おそらくスタッフしか使用しないであろう廊下を、シグナムは迷う事なく進んでいく。
その表情にも迷いはない。
そんなシグナムの表情に、裏口の場所を知っているのかと安心するロックであったが、それはどうも違うらしい。
直ぐ先にて廊下の突き当たりが見える。
そこは、ロックの言った通りの袋小路であった。
おいおい、とロックの表情が歪む。
今のところ追跡者の姿は見えないが、それでも安心はできない。
あれだけのスピードで行動する化け物だ、気が付けば目と鼻の先にいた何て事も充分に有り得た。
これからどうする気なのか、とロックはシグナムを見詰める。
不思議な事に、シグナムの表情には一片の怯みもない。
突き当たりにて三人は立ち止まる。
ロックから手を離し、ガッシュを床へと降ろすシグナム。
すると、シグナムは無言で刀を鞘から抜き放った。
「出口は分からないが……分からないなら、作るだけだ」
そして、一閃。
気合いと共に振り抜かれた刀が壁を切り裂いた。
白色の壁へと垂直に一本の線が描かれ、そこにシグナムの回し蹴りがめり込む。
ガラガラと音を立て、鉄筋コンクリートが哀れにも崩壊。
大人でも充分に通過できるだけの風穴が、行き止まりだった空間に形成されていた。
「おおお、スゴいのだ!」
眼前で行われた行為に呆然と口を開くロックであったが、残る二人はそれがさも当然のような雰囲気。
常識という言葉は何処にいったのだと、引きつった笑みを浮かべるロックであった。
「どうした、早くしないとまた捕まるぞ!」
茫然自失のロックを引っ張ってシグナムは再びの逃走を開始する。
状況に全く付いていけない一般人を連れて、三人は暗闇の森林へと消えていった。
【一日目/深夜/D-5・森林】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]疲労(中)
[装備]時雨@ONE PIECE
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考]
1:殺し合いを止める。
2:ガッシュ達を連れて蒼コートの剣士から逃亡する
3:レヴァンティンを見つけ、蒼コートの剣士を倒す
4:仲間と合流したい
[備考]
※原作終了後から参戦しています
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!!】
[状態]身体の各所に火傷(小)
[装備]ガッシュのマント@金色のガッシュ!!
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2、ガッシュの魔本@金色のガッシュ!!
[思考]
0:殺し合いを止めつつ、清麿達と合流
1:蒼コートの剣士から逃げる。
2:逃げ切れたら自己紹介をする。友達になるのだ!
3:エースが何処にいったか聞く
4:何故ゼオンが此処に……?
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]健康、混乱
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
0:普通の人間はいないのかよ、ここには!
1:殺し合いには乗らない。襲われたら取り敢えず逃げる
2:蒼コートの剣士から逃亡する
3:ガッシュを何処かで休ませる
4:レヴィを出来るだけ早く探す
5:火炎放射(?)持ちの人間と蒼コートの剣士を警戒
[備考]
※D-5の森林の一部が焼失しました
◇
「……逃がしたか」
そして、無人となったホテル。
ロビーの中央にて襲撃者たる蒼色の剣士は、一人呟きを零す。
その言葉や表情に悔しさは含まれていない。
剣士は軽く身体を動かしながら、外へと出る。
「……やはり何時も通りの力は出せないか」
剣士が制限の存在に気付いたのは、シグナムとの戦闘の最中であった。
それから剣士は、この場で出せる自分の実力を知る為に剣を振るった。
出来るだけ戦闘を長引かせ、一挙動一挙動を慎重に確認しながら戦闘を行った。
その結果として今回の戦闘では誰も殺害できずに逃亡されたが、そこに悔恨などない。
収穫は充分過ぎる程にあったからだ。
「力を……」
剣士は掌を握り締め、天を見上げる。
脳裏に浮かぶは、この殺し合いに呼ばれる前に行われていた出来事。
実の弟との三度に渡る死闘。
そして、敗北。
自分は魔界に墜ちた筈だった。
魔界にて自分の目指す力を手に入れる筈だった。
「更なる力を……!」
そんな矢先に連れて来られた殺し合い。
望むところだと、剣士は思う。
自分に力を齎すというのならば、どんな状況であろうと構わない。
力が、手に入るのならば。
このような首輪で御されていようと、構わない。
剣士は一人歩き出す。
ただひたすらに力を渇望するその名はバージル。
最強の悪魔が子孫にて、その猛々しい心を受け継いだ戦士。
力を求める半魔半人の剣士が、殺し合いの地を、進む。
【一日目/深夜/D-5・ホテル前】
【バージル@Devil May Cry】
[状態]疲労(小)
[装備]秋水@ONE PIECE
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考]
1:力を手に入れる
2:閻魔刀、ベオウルフがあれば入手したい
3:ダンテと出会ったら戦う
[備考]
※Devil May Cry3終了後から参戦しています
※制限の存在に気付きました
最終更新:2011年09月21日 23:46