ヒカリノソトヘ


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 夜の市街地を歩く、妖艶な雰囲気を纏った美女。
 彼女は足を動かしながら、無言で思考を続けていた。
 数分前に目の前で行われた惨劇ともいえる出来事。
 首にはあの男を殺害した爆弾と同種の物が括り付けられている。
 それだけを見ればまるで愛犬につけるものと同じ。まるで奴隷や飼犬になったかのような気分であった。
 女の口が自嘲気味に弧を描く。

 だが、それもほんの一瞬。

 すぐさま女は思考を冷静なものへと切り替え、現状を打開する方法を考える。
 首輪を解除し、この会場から脱出し、仲間全員が無事な状態で再び旅を続けられる夢のような打開策を―――女は必死に考える。
 数秒、数十秒と時間が経過していく。
 しかし、時間をいくら消費しようと、その夢のような打開策は毛先ほども思い浮かばない。
 当たり前だ、と彼女の内に宿るリアリストな人格が呆れたように語っている。
 スタートラインからして最早手遅れなのだ。首輪により命が握られ、謎の場に閉じ込められ、ワープや光の輪による拘束など不可思議な能力も使用可能な相手。
 打開を果たすには全てが遅すぎる。チェスで言えば、開始時点でもうキングが完全に包囲されている状況だ。

(でも、みんなを死なせる訳には……)

 実を言えば、女自身は自分の命はどうでも良いとさえ感じていた。
 自分が死ぬことで仲間が助かるのなら、喜んでその命を差し出すだろう。
 それ程までに彼女は仲間のことを大切に思っている。
 絶望の未来しか見えない人生に、死を選択した自分を満身創痍の身で救ってくれた男。
 自分を救出する為に、政府の玄関と呼ばれる島にさえ攻め込んできた仲間達。
 生きていること自体が罪と云われた自分に、初めて『居場所』を与えてくれた彼等。
 ―――死なせたくなかった。
 彼等を死なせる事だけは許せない。どんな手を用いようと彼等だけは生還させたかった―――それだけが彼女の願いであった。
 だが、肥大していく願望とは裏腹に、良案は思いつかない。
 その兆しすら訪れることはない。

「脱出は出来ない……なら……」

 ならば……と彼女の中で脱出を目指す以外の代案が浮かび上がってくる。
 それは冷酷で、残酷で、彼女の仲間達なら決して許す筈のない選択。
 そして、仲間達の中でも一際大きな闇を持つ彼女しか選択する事ができない選択肢であった。
 加えてこの選択肢を選んだところでそれは時間稼ぎにしかならないだろうし、結局、脱出への道が開けなければ殆ど無意味となる行動だ。
 だがそれでも、今この時点で仲間のために彼女が成せることは、これだけ。
 女は眉間に皺をよせ、その選択に対する逡巡を見せる。
 普段なら浮かべることのないその苦痛に満ちた表情が、彼女の迷いの巨大さを表していた。

 時間だけが刻々と過ぎていく。
 苦悩の末に彼女が選び取った選択肢は―――





■ □ ■ □





 それから数分後、女はある人物と遭遇していた。
 その人物は女の眼前に立ち、歪な笑顔を浮かべる。その笑みは、闇を生き延びてきたた女をして畏怖を植えつける程のもの。
 女は頬に冷や汗を一筋流しながら、最大限の警戒と共にその男と相対する。

「綺麗な満月だと思わないか、人間よ」
「……確かに……こんな殺し合いが行われていなければ最高の夜ね」

 自身の心拍音が異常なほどに大きくなっている事に女は気付く。
 男の危険度を長年の経験から理解しつつ、女は何時でも戦闘に移れるよう身構えた。

「良い瞳だ……その警戒の早さも、立ち居振る舞いの隙の少なさも充分に及第点へと届いている。……存分に楽しめそうだ」

 言葉を言い終えると同時に、ズドンという重音が鳴り響く。
 男を支えていた地面がまるでガラスのように罅割れ、その身体が宙に浮く。
 そして横に育っていた樹木を足場にして急加速。
 一足飛びに女との距離を詰め、上方から押し潰すように女の脳天目掛け、その拳を振り下ろした。
 その人間離れした速度と動きに驚愕を覚えながらも、女はその場から飛び退り、直撃を防ぐ。
 女の代役として拳を受けた地面が、その衝撃に耐え切れず砕け、陥没した。

(なんて力……!)

 陥没した地面に足を取られながらも、女はさらに後方へと跳ねる。
 拳を地面に突き刺したまま動かない男から間合いを取った。

「いい反応だ、ヒューマン。そうでなくてはつまらない、そうでなくては楽しめない」

 この男はやはり異常だ、と女は悟る。
 だが、それと同時に倒せない程の相手でも無いとも悟る。
 地面を割った剛力は確かに脅威的なものだが、彼女の知る世界にはこれ位の離れ技を行える者は山のように存在する。
 彼女の仲間達だってそうだ。十数メートルの巨躯を誇る海王類を素手で仕留めるだけの力を持った人外が少なくとも三人はいる。
 戦えない相手ではない……そう彼女は判断した。

「さぁ立ち向かえ、死にたくなければ、生き抜きたければ本気で抵抗しろ!」 

 敵が再び疾走を始める。数秒とせずに距離が埋まり、男の姿が視界一面を覆い尽くした。
 だが、女は決して慌てる事はない。波一つ立たない心境のまま、冷静に自身の能力を発動させる。

「十六輪咲き(ディエイシセイスフルール)・ホールド」

 言葉と共に男の右肩、右腕、腰部から生える何本もの腕。
 それら計十六に及ぶ腕が、獲物を貫かんと引き絞られていた男の右腕に殺到し、その動きを封じ込める。
 その信じ難い光景に男は思わず驚愕を見せ、拳は打ち放たれる寸前で拘束されてしまった。
 男は自身の身体から生えた腕を面白そうに眺め、笑みを浮かべる。
 にぃ、と擬音が聞こえそうなほどに持ち上げられた口端から、鮫の如く尖がらがった犬歯が見えた。

「六輪咲き(セイスフルール)―――」

 その薄気味悪い笑みに肌を粟立てつつ、女は再び能力を発動させる。
 腕の拘束はそのままに右肩へ二本、左肩へ二本、背中へ二本、腕を生やす。
 そして、左右後ろから男の顔面を掴み、

「―――クラッチ!」

 メキベキゴキゴキベキ

 ―――グルリと捻り回した。
 男の顔が曲がってはいけない方向に回転し、その顔を支える頚骨が音を経ててへし折れる。
 必殺を確信した女は能力を解除。身体中から生えていた十数本の腕が消失し、男の身体が支えを失ったかのように崩れ落ちる。
 その顔だけがブラブラと、水中を漂う海月のように頼りなく揺れていた。
 その男の様子を見て、女はこの異常人物から勝利できたことを実感。思わず安堵の息をこぼす。

「ごめんなさいね……みんなを生かす為に他の人には死んでもらうしかないの。
参加者が減れば、彼等が他者と出会う可能性は低くなる。そうすれば相対的に彼等が死ぬ可能性は、ほんの僅かだけど低くなる。
そうすれば脱出への道を切り開く為の猶予が、ほんの僅かだけど延びる。……その『ほんの僅か』の為に、あなたたちには死んでもらうわ。
身勝手な判断だけど、全員が生きて帰るにはその『ほんの僅か』にも縋りたいの……ごめんなさい」

 物言わぬに死体に対して、女は懺悔の言葉を漏らしていく。
 この行動が何ら意味をなさない事を、この行動が罪悪感に揺れる自分への言い訳である事を、この弁明が自己満足にしかならない事を女は理解している。
 だが、言葉を止める事は出来なかった。
 この判断に未だ迷いを覚えている自分へ踏ん切りを示す為にも、言葉を吐くことを止められなかった。
 生存の為にと、夢の為にと、数ヶ月前の自分なら易々と殺戮者への道を選択できたであろう。
 だが、自分は仲間達と出会って『光』の存在を知ってしまった。
 仲間と過ごす時間の楽しさを知ってしまった。
 その記憶が躊躇いを生み出す。再び暗闇の世界へと舞い戻る事に大きな抵抗感を訴え続ける。

 でも、それでも―――仲間を救う為には修羅とならざるを得ないのだ。

 この『ゲーム』はそう簡単に生存していられるほど容易な物ではない。
 知力の限りを尽くして戦いに挑む者もいるだろう。策略の限りを尽くして戦いに挑む者もいるだろう。
 生き延びる為にと卑劣な手段を取る者もいるだろう。口八丁で油断させ騙まし討ちを行う者もいるだろう。
 彼等のような善人なら、この場で出会った人間を守る為に自らを省みず行動し、結果として死亡していまうという事も充分に有り得るだろう。 
 正面からのぶつかり合いなら容易に敗北する事はない彼等であっても、死亡する要因は山のように有るのだ。
 だから、自分が汚れ役となる。
 汚れ役となり、彼等が生存する確率をほんの僅かでも底上げする。
 そして参加者の抹殺と並行して、脱出の方法と首輪の解除法を探していけば良い。
 いや、彼等全員を生存させる為にも必ず見付けなくてはならない。

 不自然な方向に頭を垂れる死体を物悲しい瞳で一瞥し、女は後方に広がる森林へと足を踏み入れる。
 最後まで気付かず……死んでいる筈の男の顔に張り付いた笑顔に最後まで気付かず、女―――ニコ・ロビンはその場を後にした。




【一日目/深夜/A-2・森林】
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]健康、迷い
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
1:仲間以外の参加者の抹殺。また会場からの脱出法、首輪の解除法も考える





■ □ ■ □




「フッハハ……ハハハハハハハハハハハッハハハハハハハ!!!」

 そしてロビンが姿を消してから数分の時間が経過した森林。
 首を折られた男性の死体しかない筈のそこに、唐突に笑い声が響いた。
 何処にも人の姿は感じられない。ただ男の死体と木々が立ち並ぶだけの場……笑い声をあげられるような存在はない筈。
 だというのに、その楽しげな笑い声は確かに鳴り響いている。おさまるどころか徐々に音量を上げながら笑い声は響き続ける。
 他者が居れば恐怖を覚えるであろう、ホラーじみた現象……その謎の答えは単純明快なものであった。

「素晴らしい! 素晴らしいぞ、ヒューマン!! 謎の能力を使うとはいえ、人間の身でありながらこの私を一度殺すとは!! この化け物の命を一つ削るとは!!
素晴らしい! 賞賛に価するぞ、ヒューマンよ!!」

 男は生きていたのだ。
 首の骨を完全にへし折られながらも、男は死に到達せず、生きていたのだ。
 まるでそれが当然だと言わんばかりに、ぶらぶらと頼りなげに頭部を揺らしながら、男が立ち上がる。
 そして両手で顔面を持ち、グルリと女にされたのと反対側の方向へと、自ら顔を回す。
 ベキベキゴキ、と首から不気味な音が漏れるも、男は何ら気にした様子を見せず、歩き始める。

「手を抜いていたとはいえ我が攻撃を無力化し、躊躇いを見せる事なく首をへし折った……アンデルセンには遠く及ばずとも中々の逸材だ」

 何故、常人なら致死に到る傷を受けていながらも立っていられるのか。
 この光景を見た誰もが抱くであろう疑問……その答えもまた単純明快なもの。
 男は人間ではないのだ。不死の化け物として俗世に語り継がれる吸血鬼―――それが男の正体であった。
 男は吸血鬼であるが故、不死の化け物であるが故、不死となる道を選んでしまった脆弱な人間であったが故、死を望む。
 人間との闘争の末の、死を望む。
 だから、彼は今歓喜している。
 自分を殺す可能性を有した人間の存在き歓喜を覚えている。
 加えてこの環境……首輪が原因か、それとも会場そのものが原因か、どういう原理か分からないが彼は自身の能力が著しく制御されている事に気付いていた。
 制限……つまりはただの人間でも装備によってはこの不死王を殺害できる可能性が在るということ。
 歓喜を覚えずにはいられない。この場には自分に死を与える存在が山のようにあるのだ。

 ―――最高だ、これこそ待ち望んでいた闘争。
 ―――生き延びたくば抗え。
 ―――狗となるな。どんな醜い勝利でも構わない。
 ―――地べたを這いずりまわり、最後まで抗い続け、この不死王の心臓に杭を付き立ててみせよ。

 吸血鬼は歩き続ける。
 次なる獲物を、自分に死を齎してくれる人間を求め、吸血鬼は夜の森林を歩き続ける―――


【一日目/深夜/A-2・森林】
【アーカード@ヘルシング】
[状態]頚椎骨折(治癒中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
1:闘争を楽しむ。
2:ロビンに期待
[備考]
※制限の存在に気が付きました

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