男は邁進する――欲望のために

第四話≪男は邁進する――欲望のために≫

F-3市街地の路上を走る二人の人影。
一人は灰色のブレザーを着た桃色のロングヘアーの少女。
もう一人は眼鏡をかけた強烈な不細工の男。
少女――篠崎廉(しのざき・れん)はゲーム開始直後から、
情欲に塗れた瞳をぎらぎらと光らせる
不細工男――富山醇一(とみやま・じゅんいち)に追われていた。

「待ってよぉ~。逃げる事無いだろぉ~」
「嫌!! 来ないで!! あっち行ってぇ!!」

醇一が廉を追う理由はただ一つである。

(どうせ死ぬんだ! だったらこの機会に童貞卒業してやるぜ~)

ある意味本能にとても忠実とも言える考えを起こした醇一は、
ゲーム開始後すぐに女性参加者を探し始め、
そしてそんな醇一に運悪く発見・捕捉されてしまったのが、
両目に涙を浮かべながら必死に逃げている廉だった。

「うひひひひひひひひ。逃がさないよぉ~」

醇一はその小太りの体型からは想像も付かないような速度で
廉を猛追していた。
普段はその外見通り鈍い彼だが、
自分の大好物――綺麗な女性や幼女を目にすると、
脳のリミッターが解除される、とでも言えばいいのだろうか、
一流のスポーツマンも驚くほどの俊敏さを発揮するようになるのだ。
それが事実だと証明するかのように、
醇一と廉の距離は見る見る内に縮まっていく。
そして、遂に醇一の右手が廉の艶やかな後髪を捕まえた。

「きゃあっ!!」
「つっかまえた~」

醇一は廉の後髪を引っ張りながら、もう片方の手で廉の胸を強引にまさぐる。
廉の視界に、欲望の光をギラギラと湛えた瞳と、
涎を垂らし舌舐めずりをする不細工な男の顔が映り込んだ。
その余りに醜悪な光景に、廉は生まれて初めて本能的な嫌悪感を覚えた。

「お兄さんと気持ちいい事しようねえ~」
「い、嫌あああああ!! 誰か!! 誰か助けてえええええ!!
誰かああああ!!」

これから自分の身に降り掛かろうとしている惨劇を予測した廉は、
脇目も振らず大声で助けを呼ぶ。
だが、必死で叫ぶ廉の視界に、鋭い刃を持ったナイフが映り込む。

「うるさいなあ。そんな大声出しちゃ駄目だよ。
今僕達は殺し合いのゲームの最中なんだよ?
やる気になってる人に見つかっちゃったら大変じゃあないかぁ。
それに、助けを呼んだって、他の人を殺さなきゃいけない状況なのに、
わざわざそれを助ける人がいると思う?」
「……!!」

醇一の言葉に、廉は残っていた希望を重い鈍器で
粉々に打ち砕かれたかのような気分になった。
そうだ、自分は今殺し合いの場にいるのだ。
この不細工男の言葉通り、他の参加者を殺さなくては
生き残れない状況なのに、
それをわざわざ助けるような者など、まずいないだろう。

「うん、そう言う事だから、そこのお家に入って、いっぱいしちゃおうね~」

そう言って醇一はすぐ近くにある民家の中に廉を連れ込もうとする。

「ひっ、い、嫌あ! 嫌だあああ!! 助けてっ! 誰か……」

廉は涙目になりながら必死に抵抗するが、いかんせん醇一の力は強く、
とても廉の腕力ではどうしようも出来なかった。

「大丈夫だって~。痛いのはきっと最初だけだか」

何故か醇一の言葉は途中で途切れた。
その直後、醇一は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

「え? え?」

突然の事態に廉は混乱した。

「こっちよ!」

自分より年上と思われる女性の声が聞こえたかと思うと、
右手を強く引かれた。
それに導かれるままに、廉は走り出した。
自分の手を引いていたのは、紺色のスーツを着た、
長身の豹獣人の女性だった。


「大丈夫? 落ち着いた?」
「はい……もう、大丈夫、です。本当に、ありがとうございました」

エリアG-3の島役場の応接間。
廉と豹獣人の女性――立沢義(たちざわ・よし)は、
醇一が気絶している場所から遠く離れたこの場所で休息を取っていた。
あの時、醇一が廉を民家に連れ込もうとしていたまさにその時、
背後に駐車してあったワゴン車の陰に隠れて様子を窺っていた義が
醇一に背後から近付き、
自分の支給武器である拳銃のグリップで醇一の後頭部を思い切り殴打し、
気絶させたのだ。
しかも義はたまたまそこを通り掛かったので、
廉に取ってはまさに幸運だった。

「酷い男ね……でも、なるべく早く、忘れた方がいいわ。
今すぐには無理かもしれないけど……ね?」

義は今も尚震えている廉の背中に手を置き、
顔を覗き込んで優しい口調で言った。
廉が受けた精神的外傷は浅からぬ物と判断したためだ。

「はい……」

廉は震えながらも、しっかりと返事をした。

「一人じゃ危険だから……私と一緒にいましょう。
えーと、でも、もし貴方が嫌ならそれでもいいんだけど……」

義は廉に同行を提案してきた。
邪な男に襲われ、精神的ショックも大きいこの少女を、
一人にしておくのは危険だった。
何より、着ているブレザーからして、
彼女は自分の勤める高校とは別の高校に通っている女子高生だろう。
自分の教え子とほぼ同年の彼女を、見捨てる気にはなれなかったのだ。
しかし、彼女が同行を許諾すると決まった訳では無いので、
あえて選択肢を与えた。

「い、一緒に、いて下さい」

廉は、弱々しいながらも、はっきりと同行を求める意思表示をした。
義は笑みを浮かべながら、こくりと頷いた。

「ここなら多分しばらくは安全だから、もう少し休みましょう」
「はい……」

二人はこの応接室でもうしばらく休息する事にした。


【一日目/明朝/G-3島役場応接室】

【篠崎廉】
[状態]:精神的ショック(大)
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(本人未確認、1~2個)
[思考・行動]
基本:怖い。死にたくない。帰りたい。
1:立沢さんと一緒にいる。
[備考]
※デイパックの中身を確認していません。

【立沢義】
[状態]:健康
[装備]:コルトM1911(7/7)
[所持品]:基本支給品一式、コルトM1911の予備マガジン(7×10)
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。
1:篠崎さんを守る。
2:仲間になってくれそうな人を探す。
3:襲われたら正当防衛ならばやむを得ない。




一方その頃、欲望の権化的存在、富山醇一は目を覚ましていた。

「いってぇ……誰だ畜生! 俺の邪魔しやがって!!」

せっかくの童貞脱却のチャンスを何者かに邪魔された事で、
彼の機嫌はすこぶる悪かった。

「まあいいや、名簿見たら、女は全部で25人もいるらしいからなぁ。
これから別の女を探せばいいか、焦る事は無ぇ。うひひひひひひ」

独特の気色悪い笑い声を上げながら、醇一は次の獲物を探し始めた……。


【一日目/明朝/F-3市街地路上】

【富山醇一】
[状態]:後頭部に軽いタンコブ
[装備]:ハンティングナイフ
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(本人確認済)
[思考・行動]
基本:童貞を脱却し、死ぬまで女を犯しまくる!
1:次の女を探す。
2:邪魔する奴は男だったらぶっ殺す。女だったら……うひひひひひ。
[備考]
※立沢義の姿は認知していません。




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GAME START 篠崎廉 Next:魔手接近
GAME START 富山醇一 Next:028欲望に忠実になってた結果がこれだよ!
GAME START 立沢義 Next:魔手接近

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最終更新:2009年09月22日 14:21
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