「…………あー、こりゃ夢だ夢。なんか無駄にリアルだけど完ッ全に夢だ。いやー凄いなこりゃ、首輪の感触とかリアル過ぎて泣きたくなってくるわ。
イマジネーションって言うの? やっぱ俺って感受性が豊かなんだろうな~。本当…………夢ですよねぇええええええ!!!」
叫んでいた。
無人の市街地にて、気持ち悪いくらい汗を全身から垂らしながら、坂田銀時は叫んでいた。
四方八方には無言で聳えるビルディング。
漆黒の空には大きな満月と星が点々と輝いている。
この場で殺し合いが行われてる事を覗けば、ロマンチックとも受け取れなくもない光景が広がっていた。
勿論、そんな景色が現在の銀時に映る訳がないが……。
「よーし目を覚ませ俺。こんなつまらない夢を見ていても何にもならないぞ俺。
さあ1、2、3……ほ~ら目を開ければそこには何時ものボロ屋敷がある筈―――ない、か……」
という銀時の願いは当然叶う訳もなく、その眼前には無機質な街が広がっているだけ。
盛大な溜め息がその口から漏れた。
「…………はぁ……殺し合い、ねぇ……」
何時も通りの騒々しい一日を終わらせ、ようやく眠りにつき、そして目を覚ましたかと思えば真っ暗な謎の部屋。
キモいジジィが何かを勝手に喋りだし、パーフェクト脇役顔の男が首を吹っ飛ばされて殺害された。
え? なにドッキリ? としか思えない非現実的な光景の連続。
出来れば夢だと思いたがったが……どうにもそれは無理らしい。
銀時は気だるげに肩を落としながら、ビルの一つへ入っていく。
外部から見られないよう受付の影に姿を隠して、何時の間にか肩に掛けられていたデイバックを漁る。
「なんで俺なんか参加させるかねえ……ヅラとか真撰組とかもっと血気盛んな奴等を呼んだ方が盛り上がるだろうがよお。
……ねぇ聞いてますか、兵藤さんー! 俺の代わりに他の奴等連れて来ません? ホント俺より盛り上がりますからー!!」
木霊する自分の声に包まれながら、返答を待つも当然ながらそれは無し。
再び溜め息を吐き、銀時は愚痴を続ける。
ぼやきながらも、デイバックを漁る手は減速の様子を欠片も見せてはいない。
「全く趣味が悪いったらありゃしねぇ。殺し合いなんか見て何が楽しいんだか、普通はトラウマもんだっつーの。……と、運が良い、こりゃ刀だな。
後は……サイコロ? こんなんでどーしろって言うんだよ、マジで。サイコロ投げて人殺せってか。やれるもんならやってみろ…………いや、神楽の奴なら普通にやりそうだな……」
ブツブツを呟きながらサイコロをデイバックへ、日本刀を腰へと差す銀時。
彼の右手が最後に探り当てた物は一枚の紙であった。
「なんだコリャ? 何か書いてあるぞ」
先程見つけたランプを点灯させ、目を細めながら銀時はその紙に視線を這わせていった。
視線が動いていくにつれ、銀時の表情が徐々に険しく変化していく。
死んだ魚のように無気力だった瞳が見開かれ、僅かな光が差し込む。
そして、書き記された内容全てに目を通し終えると同時に、銀時は紙を握り潰し、立ち上がった。
その口から排出される三度目の溜め息。
瞳は気だるげな物へと戻っていた。
「なーんで新八と神楽までお呼ばれしてるんだか……」
だが、その瞳には先程まで存在しなかった光が宿っていた。
それは、燦々と輝く星群にも劣らない真っ直ぐな光。
仲間の窮地を知り、ダメ人間の瞳はサムライのそれへと移り変わる。
そんな光を宿しながら、銀時はつい数分前に潜った扉を抜け、市街地へと舞い戻る。
「全く面倒くさえなぁ、おい。新八探して神楽探して首輪なんとかしてと……はあ、誰かドラ○もん呼んできてー、銀さんもう頭痛くなってきたよ~」
独り言を続けるサムライを見守るは、数多もの星々。
夜の市街地を歩く銀時は気付かない。
ビル街に潜む一人の少女の存在に、彼の数メートル後ろにてビルの影に隠れる少女の存在に―――銀時は気付かない。
少女の尾行が上手いのか、ただ単に銀時が鈍いだけなのか……それは分からないが、とにかく坂田銀時は少女の存在に気付けなかった。
「見ぃつけた」
……ただ幸運だったのは少女が奇襲という最良の手段を選択しなかったこと。
『殺し』を遊戯の一つと位置付ける少女にとって、不意打ちで早々に終わらせるのは勿体無く、また退屈なもの。
だからこそ、少女は遊ぶ為の下準備に勤しむ。
ゲームが開始してから直ぐに中身を確認したデイバックから、一つの支給品を取り出し、両手で握り締める。
その支給品を一言で表すなら十字架。
聖職者が持ち歩くとしても少し大き過ぎる、だが礼拝堂に飾るには余りに小さ過ぎる、中途半端な大きさの十字架。
自身の腕程の大きさを誇る十字架を握り、少女はビルの影から踏み出した。
「ねぇ、そこのお兄さん」
前方を歩くサムライへ声を掛けながら、少女は腕の中の十字架を上下に振るう。
たったそれだけの動作で十字架は姿を変え、上半分を前方に、下半分を後方に突き出す形で展開した。
展開された十字架の先端に覗くほの暗い穴……先程までは隠れていたその穴が、真っ直ぐにサムライへと向けられる。
「……誰だお前?」
振り返るサムライの顔に浮かぶは困惑。
唐突に現れた少女と、少女から放たれる不穏な空気に、サムライは嫌な予感を覚える。
あの騒がしい日常の中で幾度となく嗅いできたトラブルの臭い。
その臭いが眼前の少女からプンプンと発せられていた。
「お兄さん、とても面白い格好しているわ」
「……いや、お前の方が面白い格好だと思うぞ。特にその機関銃とか、その機関銃とか、その機関銃とか、他にもその機関銃とか」
「ふふっ、確かにそうかもね。……ねぇお兄さん、私と遊びましょう」
「悪りーけど、俺はロリコンの趣味はないんでね。そういう誘いは新八辺りにしてやってくれや。じゃ、俺は忙しいんでこれで」
ここは関わらない方が勝ちだろうと判断した銀時は、会話を打ち切り、少女に背を向ける。
そして一秒でも早く、このヤバい雰囲気の少女と別れる為、早歩きで歩き始めた。
残された少女は、どんどんと遠ざかっていくサムライの後ろ姿を見て、頬を膨らませる。
「つれないのね……で、も」
同時に掲げられる十字架。
銀時の背中と十字架の矛先とが一直線上に並ぶ。
「―――逃がさないわ」
―――そして次の瞬間、パン、と渇いた炸裂音が夜の市街地に響き渡った。
■ □ ■ □
「な、何すんだ、ボケエエエエエエ!! こ、こ、こ、殺す気かてめぇはああああああああああ!!」
が、結果として銃弾が銀時に命中する事はなかった。
引き金が絞られる寸前、サムライとしての勘が銀時の身体を動かしていた。
コンクリートの地面に刻まれた銃痕と、銃弾を放った少女とを交互に見比べながら銀時が叫ぶ。
「当たり前じゃない。この世には殺すか殺されるかしかないのよ?」
「何この子、やべーんですけど!! 誰か救急車ぁぁぁああああああ!!」
慌てふためいた様子で声を張り上げる銀時を見て、少女はふふっと微笑んだ。
勿論、その銃口は真っ直ぐに銀時へと向けられたまま。
その微笑みに銀時は顔を引き吊らせる。
躊躇いもなく引き金を引き、この状況を楽しんでいるかのように笑顔を浮かべる少女……正直に言えば、銀時はドン引きであった。
引き吊った笑みのまま、一歩二歩と後ろに下がる銀時。
相変わらずこちらに向けられている銃口を見詰め、どう逃亡するかを必死に考える。
とっちめるというのも手だが、子供を相手に大人気ないし、何より相手は銃持ち。
下手に動けば速攻で銃殺されてあの世逝きだ。
当然だが、それだけは絶対に嫌だった。
「さぁ遊びましょうよ、お兄さん」
再び、反射的に身体が動く。
連続して排出される弾丸を、横方向に何度も何度も飛び跳ねる事で回避。
だが、幾ら大きく動けど、その銃口はピッタリと銀時から離れない。
着弾箇所も徐々に銀時へと接近している。
「あはははは! やるぅ!」
「ちょ、洒落にならん! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!!」
笑う少女に焦る男。
戦況の有利不利は誰の目にも明らか。
何時もならギャグで済まされる事象もこの場では命に関わる。
ギャグ漫画の住人だからこそ分かるヤバすぎる現状に、銀時は必死で身体を動かし続ける。
全力で地面を蹴り抜き、大きく後退。
そして遂に腰に刺さる刀を―――抜刀する。
「あら、やっと遊んでくれるのかしら?」
「あ~んま甘やかしてっとロクな大人になんねーからな。ちょいとお仕置きの時間とさせてもらうぜ」
闇の世界を生きてきたその経験が、サムライが纏う空気の変化を敏感に読み取る。
変わらぬ微笑みの裏に凄惨な感情を混ぜながら、十字架型機関銃を握る少女。
躊躇いは欠片もなく、引き金が引き絞られる。
放たれる弾丸に対し、銀時が選んだ行動は今までと正反対のもの。
逃亡や回避の為の後退ではなく、闘争の為の前進。
常人離れした高速の踏み込みと共に、擦れ違い様の袈裟斬りを少女へと打ち込む。
「……へぇ」
その一閃を身を屈める事で楽々と回避しながら、少女は感嘆を呟く。
眼前の男が見せた別の一面。
今までのふざけた雰囲気から打って変わった一撃に少女は小さな驚きを見せていた。
「やるわね、お兄さん。なかなか楽しめそ……あら?」
振り返りながら呟かれた喜々の言葉が、当惑に変化する。
擦れ違い様に自分の後方へ回り込んだ筈の男が、忽然と消えていた。
少女は周囲へと注意深く目を飛ばす。
男の姿は直ぐに発見できた。
「ふははは! 誰がお前みたいなガキに本気になるかっつーの! 遊びたきゃ他の奴当たれ、ばーか!!」
十数メートル程先の道路……そこを男は全力で駆けていた。
戦闘の意志を見せたのも、少女へと斬り掛かったのも全てフェイク。
ただ単純に逃亡を果たす為だけの演技。
少し本気を出したかのように見せ掛け、確実に回避できるように手加減した、それでいて不振がられないような絶妙な速度の攻撃を行い、流れるように逃亡する。
追い追われの状況になれば逃げ切れる自信はあったし、この市街地という場なら隠れる場所など何処にでもある。
イッツ・ア・パーフェクト。
まさに完璧な計画だ……と銀時は自画自賛していた。
確かに急場で考えた計画としてはそれなりのもの。
騒々しい日常で鍛えられた彼の逃げ足を考慮するなら、逃亡できる可能性は相当に高いだろう。
「あら、凄い逃げ足……」
だが、折角見つけた獲物を易々と逃がすほど少女も甘くはない。
そして何より、少女は銀時に対して大きな興味を抱いていた。
やけにテンションが高く情けない言動、それでいて銃撃をしっかりと避ける反射神経と身体力、そして秘めたる実力を持ちながら最終的に逃亡を選択したその心……少女が今までに出会った事の無いタイプの人間であった。
だからこそ、興味の度合いも大きくなる。
だからこそ、もっと言葉を交えたくなる。
だからこそ、もっと遊びたくなる。
だからこそ―――殺してみたくなる。
少女は微笑み、もう小さくなってしまった男の背中を目指して走り出す。
殺して、殺され、また殺す―――そんな世界しか知らない少女が、殺しを求めて走り出す。
■ □ ■ □
「はぁー、はぁー……撒いたか? それにしてもおっそろしいガキもいたもんだぜ。躊躇いなくマシンガンぶっ放すなんてよお、お前はターミネーターかっつーの」
逃亡開始から十数分後、銀時は海岸線沿いのビルの中で一息ついていた。
顔中から滴る汗を着物の袖で拭いながら、支給されたペッボトルを開封し、水を貪る。
「こんなんだから昨今の子供は凶暴化してるだの何だのメディアに取り上げられるんだよ。ちゃんと親が責任もって育てなくちゃダメだって」
自分の家にも日常的にマシンガンをぶっ放す少女が居る事を棚に上げ、ひたすらに愚痴を続ける銀時。
その後ろに更なる不運が歩み寄っているのだが、哀れな事に彼は全く気付かない。
腕を組み、くどくどと愚痴と説教を繰り返す。
「つーか何であのガキはあんな銃の扱いに小慣れてるんだよ。おかしいだろ、一応法治国家じゃん。江戸っつたって日本じゃん、法治国家じゃん。ちゃんと取り締まれって、マジで」
脳裏に江戸で働くチンピラ警察集団を思い描きながら、銀時の愚痴は尚も続く。
そして、更に愚痴を続けようと銀時が口を開いたその時、ジャリ、という足音が響いた。
その音を聞き、ようやく銀時も他者の存在を察知。
後方に振り返りながら刀を抜き、臨戦体勢を整えた―――
『無駄ァ!』
「ぐおッ!?」
―――と、同時に強烈な衝撃が銀時を襲う。
その衝撃を受け、足掻く事すら出来ずに宙を舞う銀時の身体。
一直線に吹き飛ぶその身体は、ビルの一面に備わった窓ガラスを易々と突き破り、数回のバウンドの後、向かいのビルに激突した事でようやく止まる。
銀時が起き上がる気配は―――ない。
「ふふ、これでもかなり手加減したつもりだったのだがな。やはり人間相手にザ・ワールドを使うのは少し大人気なかったか」
数瞬前まで銀時がいた空間に身を置きながら、謎の襲撃者が言葉を零す。
男の名はDIO。
人間を超越した存在であり、最強のスタンドをしたがえるスタンド使い。
DIOがこのビルに潜伏を始めたのはゲーム開始と同時の事。
ビルの中に隠れ、情報の整理や事態の把握に時間を裂いていたのだが……そこに銀髪のサムライ・坂田銀時が現れた。
彼の方針は参加者の全滅と、自分をこんな低俗な遊戯に参加させた兵藤和尊の抹殺。
DIOはその方針に従い、銀時を殺害すべく後方から接近し、そしてザ・ワールドの一撃を打ち込んだのだ。
「さて戦いの前の腹ごしらえとするか」
右手を掲げパキパキと指を鳴らしながら、舌なめずりと共に銀時へと近付いていくDIO。
彼の食料は人間の血液。美味そうには見えないが、腹が減っては戦は出来ぬという方言もある。
自身の食欲に従い、DIOは仰向けに倒れる銀時の側に立つ。
「私の栄養分となれる事を誇りに思うが良い、人間―――ッ!?」
そして、膝を付き右手を振り上げたところで―――自身の側方へ身体を隠すようにザ・ワールドを展開した。
展開と同時に、ザ・ワールドが前方の空間へと拳を走らせる。
その拳に弾き飛ばされるは、音速に迫る速度でDIOへと飛来する弾丸。
DIOは不快げに鼻を鳴らし、弾丸が放たれた方向へと顔を向ける。
そこには黒色のゴスロリ風なワンピースを着た少女が十字架を掲げ、立っていた。
「……不意打ちとはなかなか面白い真似をしてくれるじゃないか」
「その人は私と遊ぶ約束をしたの。それを横取りするなんてダメよ」
弾丸を防いだザ・ワールドを前にしても、少女の笑顔は相変わらずのもの。
天使の如く微笑みと美声で吸血鬼へと語り掛ける。
「……でもさっきので死ななくて良かったわ。お兄さんと遊ぶのも凄く面白そうだもの」
「ふん、まぁ良い」
対する吸血鬼も小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、少女の方へと身体を向け直す。
最強のスタンドもその後方にて重なるように立つ。
二人の狂人が相対する。
「ふふ、あなたは私と同じ臭いがするわ。血と硝煙、どぶと路地の腐敗した臭い……あなたは私と同じよ」
「このDIOが貴様如きと同じだと? ハッ、路端の糞にも劣るつまらんジョークだ」
互いに皮肉を交わし、そして二人は殆ど同時に動き出した。
少女は引き金に掛かった指へ力を込め、DIOはザ・ワールドを稼働させ拳を振るう。
始動は同時―――だが根本的なスピードに天と地ほどの差が存在する。
少女がトリガーを引き抜くよりも早く、命中するザ・ワールドの右拳。
その一撃は少女の肋骨とそれに守られた内臓とに甚大なダメージを与え、少女を地に叩き伏せる。
少女の口から鮮血が漏れた。
「見た目の割りには、なかなかな使い手だったようだが……所詮はこの程度。
スタンドすら使えない人間がこのDIOを倒そうというのが、そもそもの勘違いなのだ」
血反吐を吐き、痛みにうずくまる少女を見下ろし、DIOが語る。
その顔に宿るは変わらぬ確信の―――自身の勝利を信じきった―――表情。
少女が落とした機関銃をデイバックへと放り込むと、DIOは少女の襟首を掴み上げ、苦痛に染まったその表情を観察する。
少女の表情を見つめ、DIOの口端を持ち上がる。
「だが、子供の身で私に挑んだその勇気は認めてやろう……最後に何か言いたい事はあるか?」
圧倒的な余裕から生まれたその言葉を聞き、少女もDIO同様に口の端を持ち上げた。
今までのような天使の微笑みに幾分かの苦痛の色を滲ませ、吸血鬼を見詰める。
「何を……ゲホっ、ゴホっ……勘違い、してるの……? ふふっ……ゴホっ……私は、死なないの、よ……たくさん、人を殺してきたの……
私は……それ、だけ生きることが……でき、るの……」
そう言う少女の瞳に宿る狂気に、さしもの吸血鬼も一瞬だけではあるが閉口してしまう。
そして、小さく溜め息をつくと、右手を振りかざす。
「それが貴様の思想か。くだらん、反吐がでる程にくだらん思想だ……」
不老不死である吸血鬼は心底から呆れた様子で少女を見詰める。
この期に及んで絵空事を信じ込み、頼どころとする精神……人間を超越したDIOには理解する事ができない。
人間を超越したDIOからすれば、その思想は人間ならではの弱小さを露呈したように感じるだろう。
DIOは眼前の少女に些かの失望を覚えつつ、右手を開き手刀の型へと変化させる。
「死んで目を覚ませ、狂った少女よ」
冷徹に、冷酷に、言い放ちDIOは手刀を走らせる。
ダメージにより身動きの取れない少女にとっては不可避の一撃。
だが、その一撃を前にしても少女の顔には微塵の恐怖も浮かばない。
ただ笑顔のまま迫る手刀を見詰め、そして―――その表情が驚愕に移り変わった。
笑顔が消え、目が見開かれる。
余りに唐突な表情の変化……その変化にDIOも気付きはするが、些末な事だと流してしまう。
死の間際にてようやく、信じ込んでいた思想の愚かさを理解したのだろう……その程度の事だとDIOは決め付けてしまう。
彼が、自身の決め付けこそが誤りだったと知らされるのは数瞬後の事。
「目ぇ覚ますのはお前だよ、このロリコン野郎」
―――その言葉が鼓膜を叩いたその時、DIOは少女の表情が意味する真意を読み取る事ができた。
しかし、時既に遅し。
後方から振り抜かれた刀により、少女を貫く筈だった彼の右腕はスッパリと斬り飛ばされた。
予期せぬ一撃に少女を掴む左手の力が緩む。
その決定的な隙を見逃さず、後方から躍り出た人影が少女を奪い取った。
そして奪い取った勢いそのままに、少女を脇に担いだまま人影が走り出す。
「貴様……いつの間に目を覚ましてッ!!」
地面へと墜落した右腕に目もくれず、DIOは憤怒の表情で走り去る人影へと言葉をぶつけた。
勿論、人影が律儀に返答をしてくれる訳がない。
天然パーマの銀髪を上下に揺らし、右に刀を左に少女を持ちながら人影―――坂田銀時は全力で走り続けた。
「チッ、逃げ足の早い奴だ。追い付く事も可能だが……此処は腕の回復に努めた方が得策か」
見る見る小さくなる銀時の背中を見詰め、DIOが一人呟く。
斬り離された自身の右腕を事も無げに拾い上げると、傷口に接触させた。
ジョナサンの身体を乗っ取った事により治癒力は大きく減衰しているが、この程度の傷ならば問題ない。
このまま長時間接触させておけば、その内に全快している事だろう。
「とはいえ我が右腕を斬り落とした罪は大きいぞ、銀髪の男よ」
表向きは冷静を装っている彼であったが、心の内では銀時に対する灼熱の怒りが渦巻いていた。
ザ・ワールドの一撃を喰らっておきながら、ゴキブリ並の生命力でいち早く戦闘の場に復帰した男。
帝王たる自分の右腕を斬り落とした男。
許せない、許す訳にはいかない男だ。
「殺す……貴様はこのDIOが必ず殺してやるぞ……!」
憤怒の吸血鬼が歩き出す。
その右手から血液をこぼしながら、怒りに身を任せながら……吸血鬼が殺し合いの場へと踏み出した。
【一日目/深夜/H-6・市街地】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]右腕切断(治癒中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3、ダブルファング×1@トライガン・マキシマム
[思考]
1:参加者と主催者を殺害
2:怪我を治す為に血が欲しい
3:銀髪の剣士(坂田銀時)は自分の手で必ず殺す
■ □ ■ □
そしてそれから更に数分が経過した市街地、銀時は路地裏に座り込み乱れる息を必死に整えていた。
体力にはそれなりの自信がある銀時であったが、大した間を置かずの連続疾走は流石に応えたらしい。
無言で深呼吸に努め酸素を肺へと送り込んでいた。
「何、で……?」
そんな銀時の横には一人の少女。
少女は痛みに顔を歪めながら、銀時へと疑問を投げ掛ける。
一度自分に殺され掛けた男が何故助けてくれたのか……純粋な疑問から少女は問うていた。
「おー痛て、あのカマ野郎思いっ切り殴りやがって」
銀時はその問いを無視し、少女の横へ並ぶように腰を下ろした。
ポリポリと頭を掻きながら、上手そうに水を煽り、大きく溜め息を吐く。
「……どんな危ないガキだろうとガキはガキ。こんな訳の分からねー殺し合いで死ぬ必要はない……俺の信念に従っただけだ」
相変わらずの無気力な瞳で銀時が答える。
「俺もお前みてーな危険なガキと一緒にいたかねーよ。ただこのまま死なれても寝覚めが悪ーしな、取り敢えずその傷を治療するまでは一緒に行動してやるよ。
……あとお願いだから暴れないでね、ホント頼むから」
その返答に対して、少女は呆けたような瞳を一瞬浮かべ、そして微笑んだ。
今まで変わらぬその微笑み、だがその裏に殺意という感情は無い。
「ふふっ……お兄さんって……ホントに変な人ね」
「いや、お前程じゃないから。ホントマジで」
「……ゲホっ……ねぇっ……私の、デイバックから……水筒を取ってくれないかしら?」
「水筒? ……お、これの事か?」
「それを、飲んで……みて……」
「? これを? 俺が?」
「良い……から……」
少女の言葉に首を傾げながらも、銀時は水筒の中身をキャップへと移し、一口飲み干す。
その途端に変化は訪れた。
腹部から発せられていた鈍痛が弱まり、身体中の疲労が和らぐ。
「……何だこりゃ?」
謎の事象に驚きを見せつつ、銀時はこの魔法の液体をくれた張本人へと視線をやる。
「私の……支給品なの……あの紙に書いてあった事は……やっぱり、嘘じゃ……なかったみたい……」
言い切ると同時に、少女は力尽きるように意識を失う。
一瞬死んでしまったのかと慌てる銀時であったが、胸部が上下してる事に気付き安堵の息をこぼした。
「……こんな便利な物があんなら、まずは自分で飲めっつーの。てめーの方がよっぽど重症だろうが、全くよお」
銀時は、気絶する少女へその顔色が良くなるまで液体を与え、自身もまた液体を少しだけ飲む。
完全に消えた疲労に、具合を確かめるように肩や腰を伸ばした。
そして、大きく今日何度目かの溜め息。
気絶する少女の横で足を伸ばしながら、真っ暗な天を見上げた。
【一日目/深夜/H-7・市街地路地裏】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]健康、気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ダブルファング×1
[思考]
0:気絶中
1:バトルロワイアルを楽しむ
【坂田銀時@銀魂】
[状態]健康
[装備]銀次の日本刀@BLACK LAGOON
[道具]基本支給品一式、ファウードの回復液(700ml/1000ml)@金色のガッシュ!!、四五六サイコロ@賭博破戒録カイジ
[思考]
1:グレーテルを守る。また新八と神楽を探す
2:カマ野郎(DIO)を警戒。
3:首輪も解除したい
最終更新:2009年08月24日 13:14