I don't want to miss a thing

27話 I don't want to miss a thing


遠くから響いた銃声。

言いしれぬ不安、焦燥感、胸騒ぎ。

気付いた時には彼女は走っていた。

髪が振り乱れるのも汗に塗れるのも、息が切れるのも構わず。

ただ、銃声がした方へと走り続けた。

そして、今。

胸騒ぎは、非情な現実へと変貌を遂げる。


「う……そ……」

呆然と、源ちずるは橋の欄干にもたれ、血塗れで動かなくなっている、
見覚えのある少年を見詰める。

「耕、太、君」

掠れた声で名前を呼ぶが、反応は無い。
ただ少年は俯いたまま、一切の動きを見せない。
アスファルトの上には夥しい量の血痕が飛び散っていた。
どう見ても、普通の人間が生存していたれるような失血の量では無い。

「耕太君、耕太君、耕太君」

ふらふらと、ちずるは震えながら耕太の元へと近付く。
そして、血に汚れるのも構わず、傍に跪き、その頬に触った。

冷たかった。

「こう……た………くん」

ちずるの心が、一気に絶望感に支配される。

「う……」

だが、ちずるを覆おうとする悲しみの暗雲に一筋の光が差し込んだ。

「耕太君!!」
「ち……ちずる……さん」

すっかり血の気が失せ、白くなった耕太の顔はちずるの知っているそれでは無かった。

「しっかりして! 耕太君…一体、誰が、誰がこんな……!」
「………銀色」
「え?」
「……銀色の髪を持った………女の子…………」

近くにいなければ到底聞き取れない小さな掠れ切った声で耕太は、
自分に致命傷を負わせた人物の特徴を、ちずるに告げた。

「わ、分かった! 分かったよ耕太君! しっかりして、手当てを……!」
「ちずる、さん」
「……え? 何? 耕太君」

耕太は、朦朧とした意識で、何とかちずるの顔が見える位置まで顔を上げた。
金色の髪に狐の耳が飛び出た、変化が解けた状態のちずる。
その目には涙が溢れ、頬を伝い流れていた。
その頬に、耕太は、既に筋肉が弛緩しまともに動かない腕を必死に持ち上げ、
優しく手を添える。

「な、か、ないで、ください…涙を流す、ちずるさんを見るのは……か、なしい、です、から」
「耕太君……!」

助けたかった、目の前で死に行く大切な少年の命を救いたかった。
だが、妖力も封じられ、治療するための道具も無い今の自分は、
ただの狐耳の女の子でしかない。
それ以前に、もう耕太の身体は手の施しようが無い程傷付いていた。
機関銃か何かでやられたのだろう、小さな穴が、小さな身体に無数に空いていた。
ちずるは無力な自分をひたすらに呪うしか無かった。

「嫌だ、嫌だよ耕太君、お願いだから死なないで…!」
「……すみ、ません……」

何とか気力で持ってきた耕太の身体も、いよいよ静止の時を迎えようとしていた。
死ぬのは怖い、死にたくない、もっと生きたい。
もっと、ちずるさんと過ごしたい――――耕太の願いも空しく。

「ち、ずる、さん……」
「何…?」
「……死なないで、下さい……どうか………いき、て…く……だ―――――」

頬に添えられていた耕太の手が、がくりと落ちた。

「…………え?」

それが意味する事は――――。

「………耕太君? 嘘、嫌、耕太君! 起きてよ、耕太君!
耕太君、こう、た、くん……う、あ、あ」

もう、無理だった。

溢れる激情は、抑えられない。

「うわああああ……!! ああああああああ………!!」

橋の上で、冷たくなった少年の亡骸を抱きかかえながら、
金髪の狐耳の少女は泣いた。

ただ一心不乱に泣き続けた。



【小山田耕太@かのこん  死亡】
【残り42人】



【一日目/黎明/C-6橋】
【源ちずる@かのこん】
[状態]血塗れ、慟哭
[装備]アーミーナイフ
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]
 基本:――――――(何も考えられない)。
[備考]
 ※参戦時期は少なくとも漫画版で小山田耕太と親密になった後です。
 ※妖狐状態で容姿は固定されています。また妖力その他は封じられています。
 ※ギンギライガー(名前は知らない)の容姿を記憶しました。
 ※小山田耕太襲撃犯の特徴(銀色の髪の女の子)を記憶しました。



※C-6橋周辺に源ちずるの泣き声が響いている可能性があります。



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最終更新:2010年09月26日 17:54
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