勇者と女子高生の遭遇

3話 勇者と女子高生の遭遇


エリアE-6の公民館。
非常灯が灯る廊下を、頭に白い鉢巻を巻いた青年、アレックスが歩く。

「暗いなぁ……べ、別に怖い訳じゃないけど」

デイパックの中に入っていた懐中電灯を使いたい所ではあるが、
下手に明かりを灯せば窓から見付かるかもしれない。

「殺し合いか…」

首にはめられた首輪に触れるアレックス。
この首輪によりアンデッドナイ軍のヘレンの偽物、ディオナが惨殺された。
傍にいた同じアンデッドナイ軍の自分の偽物、クレアスとリリアの偽物、エロリアは、
一体何を思ったのだろう。その心境は推し量れない。

アレックスは殺し合いに乗る気は無い。
仮にも勇者である自分が自分の命のために他人を殺して回るなどあってはならない事だ。
仲間を集め、この殺し合いを潰す。アレックスはそう決めていた。
しかし、不安な事も多い。この殺し合いに呼ばれている自分の友人、知り合いの事。
全員、このような馬鹿げたゲームに乗るはずは無い、と信じたいが、
例えば魔王軍四天王の一人ダーエロ。ストーカー相手であるヘレンのために、
殺し合いに乗る可能性もある。
ヘレンもまた然り。最近の彼女は、自分にも原因はあるのだが、どんどん性格的に黒くなりつつある。
アンデッドナイ軍の二人は最も警戒するべきであろう。
仲間を目の前で殺された時も、大して悲しんでいる様子は無かった。

本当は全員信じたいが、それは甘過ぎるだろう。

「はぁ…」

思わずアレックスが溜息をつく。

「支給品、思いっ切り外れだったしなぁ」

アレックスのデイパックの中には、基本支給品の他、硬式野球ボールが3個入っていた。
この野球ボール3個が彼のランダム支給品である。
野球でもしろと言うのか。いやそれ以前に相手もグローブもバットも無いので、
投擲以外には使えない。これなら木の棒でも振り回していた方がマシである。

「まず武器が欲しい所だな……」

魔法も、もしもの力も使えない今、頼りに出来るのは自分の腕のみ。
襲われた時のためにも武器の確保は必須だった。

そしてアレックスは適当な部屋の扉のノブに手を掛けた。


伊東結は、公民館内の会議室で目を覚ました。
一瞬、さっきまでの出来事が夢のように感じられたが、首にはめられた首輪を確認し、
あれは夢では無かった事を知る。

「マジ有り得ないって…何よ殺し合いって。ふざけてるってもんじゃないよコレ。
一応ウチの国って法治国家でしょ? こんなの許される訳無いよ。
ああ、夢であってくれたら良いのに…………」

しかし、現実。残念ながら現実。頬を抓れば当然痛い。

「私、ただの女子高生なのに…何か悪い事したっけ……ああ、
もしかして万引きしたから? それともアイスの当たりクジ偽装して駄菓子屋のおばあちゃん、
何度も騙したから? それとも…って、心当たりが有り過ぎて困る」

ぶつぶつと今まで犯してきた覚えている限りの罪を言う結。
何か喋っていないと気がおかしくなりそうだった。

「…あ、デイパック」

傍らに置かれていたデイパックに気付き、手に取って中身を調べる。
名簿が出てきたので開いて見るが知らない名前ばかりだ。

「私、独りぼっちなんだ……」

殺し合いという状況下で誰も頼れる存在がいないという事実に結は孤独感に襲われる。
それを無理矢理振り払い、次に地図を開く。
地図には街と、少しの森が描かれていた。ホテルや警察署、健康センターなど主要な施設が載っている。
また、マス目でエリア分けされており、これは恐らく主催者の香取が言っていた「禁止エリア」と関係があるのだろう。
今自分がいるのはエリアE-6にある公民館だろうか。
地図をテーブルの上に置き、更にデイパックを漁る。
すると、鞘に収められた鋼鉄製の長剣と、小型のリボルバー拳銃と予備弾薬十数発が出て来た。
剣も拳銃も本物。人を殺傷出来る武器である。

「これで殺し合いを……どうしよう、知り合いもいないし……乗っちゃう?
いや……無理無理無理。殺し合いなんてやっぱり出来ないよ……」

知り合いがいないので殺し合いに乗る、と言える程割り切れはしない。
そう簡単に人としての一線は超えられない。

「マジどうしよ……………………」

結の言葉が止まる。
さっきまでいなかったはずの青年と目が合ったから。

「どの辺りから?」
「私、独りぼっちなんだ、の辺りから」
「そうか」

公民館の中に少女の悲鳴が響いた。


「ごめん、悲鳴上げちゃって」
「いや、良いさ…俺も驚かせてすまなかった」

数分後、どうにか少女を落ち着かせ、アレックスは少し疲れた様子で話し始める。

「それで……結、さっきの君の独り言から察するに、
君は殺し合いには乗っていないと見て良いか?」
「え? あ、うん……そうだね、殺し合いはする気無いよ」
「そうか……」
「アレックス、だったっけ? あんたは……」
「乗ってない。何とかして、この殺し合いを潰そうと思ってるんだ。
結、君も協力してくれないか」
「…………良いよ。一人で寂しかったし」

結はアレックスの申し出を受け入れた。
アレックスの意志に共感した、と言うよりも、独りでいるのが嫌だったから、
単独より二人の方が生存率は上がると踏んだためであるが。

「なぁ、結、何か…武器になりそうな物持ってないか?
俺、支給品がこれだけなんだ…」

そう言いながら自分のデイパックから野球ボールを3個取り出すアレックス。

「私は、この二つ……」

結も自分の支給品である鋼鉄製の長剣ロングソードと、
小型リボルバー拳銃コルト ディテクティヴスペシャルをアレックスに見せる。

「剣と銃か…結、ロングソード俺にくれないか?」
「良いよ…じゃあ、私は銃ね」

結はロングソードをアレックスに手渡し自身はディテクティヴスペシャルを装備した。
生まれて初めて持つ実銃の感触にごくりと生唾を飲み込む。
この引き金を引けば弾丸が発射される。その先に人がいればいとも容易く殺傷する事が出来る。
そう思うと怖い、という言葉だけでは説明出来ない感情が湧いてくる。

一方のアレックスは、当座の武器を確保出来た事に少し安心していた。

「それで、これからどうするのアレックス」
「そうだな。この殺し合い、俺の仲間や知り合いが大勢呼ばれてるんだ。
そいつらを捜しながら、この首にはめられた首輪を外せそうな奴も捜そう。
まず何よりもこの首輪を何とかしないと、脱出なんて無理だろうからな」
「アレックスの知り合いって…?」
「ああ。教えとくよ」

アレックスは名簿を取り出し、この殺し合いに呼ばれている自分の仲間、知人について、
結に一人ずつ簡単に説明した。

「成程ね…分かった」
「まあ、ちょっとクセのある奴が多いけど、会ったら宜しく」
「オーケー」


【一日目/深夜/E-6公民館会議室】
【アレックス@VIPRPGシリーズ】
[状態]健康
[装備]ロングソード
[所持品]基本支給品一式、硬式野球ボール(3)
[思考・行動]
 基本:殺し合いを潰す。仲間や魔王軍の連中を捜す。首輪を解除する方法を探す。
 1:結と行動。
 2:エロリア、クレアスは警戒。
 3:やむを得ない場合は戦闘も辞さない。
[備考]
 ※魔法は一切使えなくなっています。

【伊東結@オリキャラ】
[状態]健康
[装備]コルト ディテクティヴスペシャル(6/6)
[所持品]基本支給品一式、.38SP弾(18)
[思考・行動]
 基本:生き残る事優先。死にたくない。
 1:アレックスに守って貰う。
[備考]
 ※アレックスの仲間、知人の情報を得ました。


≪支給品紹介≫
【硬式野球ボール】
硬式野球で使う、何の変哲も無い普通の野球ボール。

【ロングソード】
鋼鉄製の量産型の長剣。

【コルト ディテクティヴスペシャル】
1927年に発売されたコルト社製の小型リボルバー拳銃。
「ディテクティヴ」とは「探偵、刑事」を意味し、私服の警官や探偵の護身用として設計された。


≪オリキャラ紹介≫
【名前】伊東結(いとう・ゆい)
【年齢】17
【性別】女
【職業】高校生、CD屋でバイト
【性格】勝気だが、根は怖がりだったりする
【身体的特徴】茶髪のポニーテール、赤い瞳
【服装】高校制服(赤い縁取りがされた黒いブレザーに、チェック柄のミニスカート)
【趣味】携帯いじり、買物、友達と遊ぶ事
【特技】足が早い
【経歴】小学校二年の時に父親が蒸発し、以来母子家庭で育つ
【備考】不良ぶっているが、緊急時には怖がりな部分を露呈する。
 万引きなど軽犯罪行為も行っているが今のところバレたり補導されたりはしていない。
 身体を売るような真似はしないと決めている。



Gold&Silver 時系列順 時と場合によっては誤解されるのは致命的
Gold&Silver 投下順 時と場合によっては誤解されるのは致命的

ゲーム開始 アレックス もしもアレックスとムシャの共同戦線+α
ゲーム開始 伊東結 もしもアレックスとムシャの共同戦線+α

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年09月25日 19:06
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。