男は愛する人のために、女は己のために

40話 男は愛する人のために、女は己のために


己の手で、己の同僚であり仲間を手に掛けたダークエルフの男は、
首輪探知機機能を無理矢理付けられたニンテンドーDSを片手に、
閑散とした市街地の通りを歩いていた。
そして、DSが首輪の反応を探知する。
上画面に表示された首輪の位置は自分の前方300メートル先。
下画面に表示された首輪の所有者の名前は。

「エロリア……」

ダーエロも多少は知っている名前である。
勇者勢、自分達魔王勢と敵対関係にあるアンデッドナイ軍に在籍する、
この殺し合いにも呼ばれている勇者勢の一人、リリアの偽物。
しかし本家よりも妖艶かつ巨乳で、女性としての魅力はエロリアの方が上である。

「あら、あなたは確か、魔王軍四天王の……」
「ああ。ダーエロだ。お前は確かアンデッドナイ軍の、エロリア、だったな」
「知っていてくれたのね」

路上で対面し、多少言葉を交わす二人。

「……エロリア、お前はこの殺し合いに乗っているのか?」

ダーエロがエロリアに尋ねる。

「ええ。そう言う貴方は?」
「……」

ダーエロはしばらく間を置いてから、答えた。

「……乗っている。もう、三人殺した」
「へぇ……私は四人よ」
「そうか……」

どちらも、片や(一方的に)愛している人のため、片や自分の享楽のためとは言え、
この殺し合いに乗り、既に数人の参加者をその手に掛けていた。
その事を双方が確認すると、そのまま互いに沈黙する。

「……」
「……」

互いに互いの目を見据えたまま、動かない。
聞こえるのは自分の呼吸と心臓、それに風の音のみ。

「……!」

先に動いたのはエロリアであった。
手にした突撃銃大宇K2の銃口をダーエロに向け、引き金を引く。
五発の5.56㎜NATO弾がダーエロに襲い掛かった。
それを上手く回避し、続いてダーエロが自動拳銃ベレッタM92FSの銃口をエロリアに向け、
発砲した。

ダァン! ダァン! ダァン!

「おっと!」

大宇K2のマガジンを交換しながら、ダーエロの放つ銃弾の弾道を見切り、
紙一重で避けるエロリア。
そして再び大宇K2を掃射する。

「ちぃっ……! やべぇ……っ!」

ダーエロは自分に向けて放たれる銃弾の雨を走ってかわしながら、
心の中でかなり焦っていた。
自分が持っているのは単発の自動拳銃、相手が持っているのは、
連射可能な小銃。明らかに正面から戦うには分が悪い。
このままでは押し負ける。そうなれば、自分は殺される。

(ここで、死ぬ訳には……!)

ダーエロは、一か八か、北方向の林へ伸びる細い道へ逃げ込んだ。
自分の記憶が正しければ、この先には湖があるはず。
ここは、一度退却し、体勢を立て直すべきだとダーエロは判断した。

「逃がすか!」

ダダダダダダダダダッ!!

逃げるダーエロの背に向け、大宇K2を掃射するエロリア。
しかし、交換したマガジンが空になるまで撃ち続けたが、その弾丸が
ダーエロに当たる事は無かった。

「逃がしたか……まあいいか。無理に追う事も無いでしょ……」

エロリアはダーエロを追撃はせず、捨て置く事にした。
空になったマガジンを交換し、ふぅ、と一息付く。

「そう言えば……もうすぐ放送ね……一旦どこかで休んだ方が良いかしら」

デイパックから懐中時計を取り出し、エロリアは時刻を確認する。
現在の時刻は午前10時20分。まだ放送時刻まで1時間40分程あるが、
他参加者と戦闘となったり、追撃されたりされる可能性を考えると、
余裕を持って放送を待った方が良いだろう。
幸い周囲には身を潜められそうな建物が沢山ある。

「ディオナの奴、まだ生きてるのかしら……まあ、死んでいたとしても、
どうでも良いっちゃどうでも良いけど」

既に凄惨な末路を遂げている事など知る由も無い同僚の事を考えながら、
エロリアは適当な民家の門をくぐった。



美しく、澄んだ水を湛えた湖の畔に、息を切らせたダークエルフの男がやって来た。
肩で息をし、呼吸を整えた後、振り向き追跡者がいない事を確認する。
ほっと安堵すると、その場に座り込んだ。

「アサルトライフルを支給されてたなんてな……あいつと今度やり合う時は、
正面からは避けるべきだな」

あの掃射の雨から、無傷で逃れられたのは殆ど奇跡に近い。
エロリアに限らずこの殺し合いには連射に優れる機関銃系の武器を
支給された参加者も多数いる事だろう。
自分が持っている銃は二丁とも単発――そういった者と相対する時は、
不意を突くなどして正面からの戦いは避けるべきだ。

「もう、この殺し合いが始まって結構経つな……。
今何人生き残っているんだ……ヘレンたんはまだ大丈夫か……?」

既に高く昇った太陽を見上げながら、ダーエロが言う。
あと二時間もしない内に、第一回目の定時放送が始まる。
その放送では死亡した参加者の名前も発表されるらしい。
自分が最初に殺した狐獣人の少女、伊賀榛名。
そして先刻手に掛けた自分と同じ魔王軍四天王の一人、ムシャと、
ムシャに同行していた新藤真紀という緑髪の女性の名前も呼ばれるだろう。

その死者の中に、ヘレンの名前が無い事を、ダーエロは切に願った。





【一日目/昼/A-5市街地南部】
【エロリア@VIPRPG】
[状態]健康
[装備]大宇K2(30/30)
[所持品]基本支給品一式、大宇K2予備マガジン(30×3)、青竜刀、
 デ○ルド、M24型柄付手榴弾(2)、拳銃型催涙スプレー(容量満タン)、
 水と食糧(2人分)
[思考・行動]
 基本:殺し合いを楽しむ。知り合いや同僚(ディオナ)と遭遇しても容赦しない。
 1:放送を待つため、しばらく民家に身を潜める。
[備考]
 ※特に無し。

【一日目/昼/B-5中央部湖の畔】
【ダーエロ@VIPRPG】
[状態]肉体的疲労(中)、精神不安定(軽度)
[装備]ベレッタM92FS(6/15)
[所持品]基本支給品一式、ベレッタM92FS予備マガジン(15×2)、Cz75(15/15)、
 Cz75予備マガジン(15×3)、千鳥、改造ニンテンドーDS、特殊警棒、ハンティングナイフ、
 水と食糧(1人分)
[思考・行動]
 基本:ヘレンたんを優勝させる(自分は自害する)。
 1:放送も近い。少し休むか……。
[備考]
 ※魔法が一切使えなくなっています。



※A-5一帯に銃声が響きました。



勇気を出せばきっと何かが変わる 時系列順 自重しない狼君
勇気を出せばきっと何かが変わる 投下順 自重しない狼君

過ちを過ちにしたくないのが僕らだろう ダーエロ 狂わば死鐘
清く正しく残酷に エロリア 人は何故……。

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最終更新:2010年08月15日 12:23
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