新世界の神と神に立ち向かう者達

「で、ですぺらあどおおおおおおおおおおおお!」

その少年は全力全開で夜中の市街地を駆け抜けていた。
どうにも時代ズレした和服にこれといった特徴もない平凡な脇役顔。
特徴を無理やり挙げるとするならば、その顔に掛かった眼鏡が僅かに印象的というくらいか。
そんな地味を極めたかのような少年……名は志村新八という。

「何あれ! 何あれ! 何あれぇぇええええ!! ホンット勘弁して下さいぃいいいいいいいい!!!」

黒色に塗りつぶされた夜天には幾数もの星々が散らばっている。
また淡い金色色の満月も浮かんでおり、深夜とは思えない程に周囲は明るかった。
その事が幸いしてか新八は蹴躓く事もなく疾走を続ける事が出来ている。
後方に迫る脅威からの逃走を―――続けられていた。

「これはなかなか……良い逃げ足を持っているじゃないか」

新八の後ろには一人の異形が歩を進めていた。
新八の全力疾走を嘲け笑うかのようにゆったりと悠然とした動作で、異形が歩いている。
そう、異形だ。新八を追跡するそれは将に異形と言うより他がなかった。
漆黒に包まれた体躯に、要所要所に付けられた金と銀の装飾品。
両肩と右膝には童話に出て来るような鬼を模した装飾が一つずつ。それらもまた輝かしい金色である。
その左腕には数十cmにも渡る銀色の鉤爪が二本。人体など易々と貫くであろう巨大な凶器が左腕に在住していた。
そして、これら異形の中でも更に異質な部位が二箇所ある。
それは顔面部と胸部。
顔面部は狼のような、少なくとも人間のものとは掛け離れた外見。
そして胸部には人間の頭部が上半分……まるで胴体の中に空洞があり、そこから覗き見ているかのように置かれてあった。

「だが、君みたいな者に付き合っている程、私も暇じゃあないんだ」

異形の口から人語が漏れた。
その言葉と共に右肩と左肩に備わった鬼の面が発光し、次の瞬間、火の玉の如く燃え盛った砲弾が発射される。
とはいえ、新八もただの一般人と言うわけではない。幼少期から剣術を学び、鍛錬を続けてきた侍だ。
加えてここ最近はある男との出会いにより様々なドタバタ劇にも巻き込まれ、そしてその中で幾つかの死線を潜り抜けてきている。
それら経験が反射的に身体を動かしていた。
迫る砲弾に対し、新八は思い切り地面を蹴る。その急激な動作により彼は砲弾の直撃を回避した。
砲弾が炸裂した場所は彼の十数メートル先の地面であった。

「うわぁっ!」

だがしかし、直撃でなくとも砲弾の威力は凄まじいものであった。
膨れ上がる灼熱の熱風に煽られ、新八の身体がなすすべもなく宙へ浮く。
そして数瞬の時間を挟んだ後に、地面へと叩き付けられた。

(な、何で僕は……こんな目にあって……)

背部から突き抜けた衝撃に視界がぼやける。
新八にとっては何もかもが分からない事だらけであった。
目を覚ませば、理解不能なスプラッタショーが眼前で行われ。
この謎の土地に着いたかと思えば、到底人間とは思えない姿の化け物に襲われる。
完全に彼の思考能力を越えていた。
全てが意味不明で、現実とは思えない出来事の数々。
様々な事件や珍騒動を経験してきた新八であったが、まだ事態を呑み込むには至れなかった。
そして、事態を呑み込めぬまま彼は生と死の瀬戸際に立たされていた。
無慈悲に、不条理に、ただ現実は新八を追い詰める。

「さて、これで一人目」

そうして、必殺の鉤爪が新八の首筋をなぞるように振るわれた。

「はぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

だがしかし、斬撃は彼の首を切り落とすには至らず、
咆哮と共に横合いから吹き抜けた青色の流星が、異形の立ち位置を僅かばかりにズラしていた。
その僅かなズレが新八の命を救った。
鉤爪は薄皮を裂くに終わり、若い侍は九死に一生を得た。

「た、助かっ……き、君は……?」

異形を退かせ、新八を死から救った者は、少女と呼ぶに充分な若い女性であった。
少女は異形の脇腹に拳をめり込ませた体勢で、焦燥感に顔を歪ませる。
少女が打ち放った拳は渾身のもの。
充分すぎる程の助走と、完璧な体重移動。
加えて少女の得物に似たローラーブレードのような支給品を活用しての、超加速を注ぎ込んでの一撃。
彼女は、異形を戦闘不能に追い込む気概で拳を振るったのだ。
だがしかし、異形は僅かな後退を見せただけで、呻き声の一つも上げようとしない。
姿勢を崩す事も出来やしない。
ただ拳を通して、異形の異常な強さを感じ取った。
数ヶ月に渡る地獄のような訓練と、潜り抜けてきた沢山の経験が、彼女に伝えていた。
勝ち目はない、と。
正面からの戦闘では万に一つも勝てはしない、と。

「早く……逃げて!」

だが、彼女は引かない。
本能が告げる警告を抑え込み、傍らで腰を抜かす少年へと声を飛ばす。
同時に少女は、息も止まらぬ連撃を叩き込む。
左、右、左、右、そしてトドメの左ミドル。
少女の全力を込めた五連撃は、異形に更なる後退をさせた。
異形はさも面白いものを見るように、手を出さず沈黙のまま少女へと視線を向けていた。
その様子に、ダメージは見られない。

「―――早く!」

少女は異形と向き合い、新八へと背中を向けたままに、叫んだ。
その叫びを受け、新八は弾かれたように駆け出す。
せわしなく手足を動かして不格好に立ち上がり、不格好に闇夜の森林へと走り出した。

「その細身からは考えられない剛力にスピード……仮面ライダーやアンデッドには届かないが、素晴らしいものだ。実に、興味深い」

逃げ出す新八には一瞥すら送らず、異形は殴打された脇腹を撫でながら少女を見つめていた。
表情は未だ変わらないが、その口調から異形が笑っている事が判別できる。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「悪人に、人を殺そうとする化け物に、名乗る必要はない!」

少女は、構えを取る。
憧れの人に少しでも近付きたくて、誰かを守れるように少しでも強くなりたくて、鍛え続けた格闘術(マーシャル・アーツ)。
相棒であるデバイスは、今現在少女の元には無い。
代わりとして脚部を覆うは、とある砂の惑星にて戦闘狂の剣士が使用していたローラーブレード。
相棒がいない不利は彼女自身が最も感じている。
だが、引けない。
人々を救う為に、少女は立ち向かう。
若きストライカー、スバル・ナカジマは信念を胸に構えを取る。

「そうか、では覚えておきなさい。私の名は天王路博史……新世界の神となる男、そして君を殺す者だ」

異形は構えすら取らずに、悠然と少女を見る。
圧倒的な余裕が、その振る舞いから見て取れた。

「君の力の源も知っておきたいんだ。少しは保ってくれると、此方も助かるね」

返答は、無い。
変わらぬ構えで、異形を見据えるスバル・ナカジマ。
変わらぬ姿勢で、少女を見つめる天王路博史。

「―――行っくぞぉぉぉおおおおおおおおお!」

戦闘が、始まった。



【一日目/深夜/F-6・森林】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]健康
[装備]雲泥のローラーブレード@トライガン・マキシマム
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考]
0:殺し合いを止める。皆を救う
1:眼前の異形(ケルベロスⅡ)を倒す
2:仲間と合流したい
3:眼鏡の少年(新八)が心配

【天王路博史@仮面ライダー剣】
[状態]健康、ケルベロスⅡ、スバルへの興味
[装備]ラウズカード(ケルベロス)
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考]
0:新世界の神となる。その為にも早々に殺し合いを終わらせ、元の世界へ戻る。参加者、主催者ともに皆殺し
1:眼前の少女(スバル)を殺す。
2:スバルの力の源に興味。できればその原理を知りたい



◇ ◆ ◇ ◆



「そ、そこの人! 刀を……い、いや何でもいい! 何か武器になるような物を持っていませんか!?」

そして、ストライカーとアンデッドが戦闘を開始したその時、逃亡した新八にも新たな出会いがあった。
挨拶も、自己紹介も、遭遇した人物への警戒すら忘れて、一つの質問を飛ばす。
刀を、武器を求めるその言葉。
新八と相対した人物は、唐突な質問に呆れたような視線を送り、溜め息を吐く。
青年は、新八の知るダメ侍と似たような天パを揺らし、だがダメ侍とは似ても似つかない凛々しい顔を向けた。
その瞳には、自信という名の光が満ち満ちていた。

「おばあちゃんが言っていた。男はクールであるべき。沸騰したお湯は、蒸発するだけだ。少し冷静になれ」
「む、無駄な話をしている時間はないんです! 早くしなくちゃ、彼女が……彼女が!」

新八は逃げ出した訳ではなかった。
戦う為の力を求めたのだ。
幼少時から剣術を学んでいた彼であったが、素手で戦う術は知らない。戦えたとしても素手では素人に毛が生えたようなもの。
あの異形を相手取るには物足りないどころか、少女の足手まといにすらなってしまう。
そう考えたから、新八は逃げた。
刀を、武器を、せめて少女の足を引っ張らない程度の力を新八は求めた。
デイバックの中身は既に確認したが、武器になりそうな物は一つも無かった。
絶望し、ならばせめて素手で立ち向かおうかと思考したところで、新八はその青年と出逢った。
星光があるとはいえ、暗闇の中を灯り一つ点けずに走り抜けてきた青年を、呼び止めた。

「……ただの腑抜けでは無いみたいだな」

青年は独りで納得したような言葉を吐くと、新八の質問に答える事もなく、走り出す。
その対応に慌てるのは新八だ。
是が非でも武器を譲ってもらい、自分を救ってくれた少女を助けなくてはいけないのだ。
一分一秒すら、今は惜しい。

「お、おい、あんた! ぶ、武器を……」
「最初の叫びはお前のものだな。あの恥もへったくれもない、情けない叫び声が俺を呼び寄せたんだ。お前は運が良い、結果としてお前は『彼女』とやらを救ったんだからな」
「いや、話聞けよ、お前えええええええ!! 会話はキャッチボールだよね!? 何でスルー? 何で投げ返すどころかキャッチすらしてくれないの!?」

この極限状態でさえツッコミが出てしまうのは彼の日常的ポジション故か。
だが、走り続ける青年はそのツッコミすら無視して、懐から掌より少しばかり大きな、玩具のような物体を取り出す。
新八は、青年の取り出した物体がカブト虫のような造形をしている事に気が付く。

「変身!」
『HENSIN』

青年がその物体を腰へと当てた瞬間、その事象は発生した。
青年の腰に巻き付けられたベルトを起点として光が発生し、光が上下に分かれてその全身を覆い隠していく。
闇夜を切り裂く発光。
光が晴れると同時に、青年の後を追い掛けるように走っていた新八の表情が、驚愕に染まる。
青年の姿が、変わっていた。
全身を覆う銀色に、要所要所を染める赤色。
天パに包まれていた筈の頭頂部も銀色に覆い隠され、銀色の間から、赤色の角が一本天へと聳えていた。
顔面部を覆うは青色。
その唐突な変化は、まさに変身というに相応しく、新八は更なる異形の光臨に目を見開いていた。

「お前は後からゆっくりと着いてこい、俺が総てを終わらせておいてやる」

ダン、と後方の新八にすら足音が聞こえる程の強さで、銀色の異形は地面を踏み抜いた。
それと同時に急激な加速を見せる、銀色の異形。
必死に脚を動かす新八であったが、異形との距離は瞬く間に離れていく。
遂には異形は闇の中へ消えてしまい、目視すら出来なくなる。
それでも新八からすればこのタイミングで運良く出会えた参加者だ。
スバルの力になる為にも、武器の一つは譲り受けなくては話にならない。
疾走の連続に悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、銀色の異形が消えていった方角へと走る。
疲労と焦燥に支配されている新八は気付いていないが、異形が走り去ったその道は遂数分前に彼が走破した道と全く同様であった。
つまり銀色の異形は、彼が逃げ出した方角へと走っているのだ。
そんな事も露知らず、新八は走る。
侍の魂を不器用に燃やして、新八は走り続ける。

(なんなんだアイツは、結局こっちの発言全部無視しやがったああああああ! てか、なんだよ、さっきの!? 化け物しかいないのか、ここには!!)

心の中で終ぞや憤りを爆発させながら、それでも彼は走り続けていた。


【一日目/深夜/F-7・森林】
【志村新八@銀魂】
[状態]身体中に擦り傷、疲労(中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3(武器になりそうな物は無い)
[思考]
0:訳が分からない……
1:銀色の鎧(カブト)を追って武器を譲ってもらう
2:武器を手に入れたら、青髪の少女(スバル)を助けにいく。武器が手に入らなそうだったら、素手でも助けに入る



◇ ◆ ◇ ◆



森林の奥から響く戦闘音を頼りに、銀色の異形は疾走していた。
その速度は既に人類の限界を遥かに超越している。
まるで烈風のような速度で、異形は目的地を目指す。

(兵藤とか言ったな。お前は一つ、余りに大き過ぎるミスを犯した)

心中で呟かれるは、この殺し合いの主催者である兵藤へ向けられた、同情の色すら見える呟き。
それは強がりでも何でもなく、彼の本心から生まれたものであった。

(この俺を殺し合いに参加させてしまった事、これはどんなミスより大きい。何故なら俺は―――)

彼は信じて疑わない。
自分ならば何でも出来ると。
自分ならば総てを、それこそアメンボから人間まで世界中にある総ての命を救済できると。
自らの力を信じて疑わない。
男の名は天道総司。
またの名を仮面ライダーカブト。
世界を救うと大言を吐き、その大言通りに世界を救った男が、殺し合いの会場を駆け抜ける。
自らの使命通りに総てを司る為に、仮面ライダーが、走る。

(―――天の道を往き総てを司る男だからな)

ただ、彼は知らない。
行く先に待ち受ける敵の実力を、この殺し合いに参加させられた人外共の強大な力を。
確かに天道は、仮面ライダーカブトは、強い。
ランダムに支給される筈の三つのアイテムが内二つもが、仮面ライダーへの変身に必要な物であった事は、彼の生まれもっての強運を意味しているのだろう。
強く、知識もあり、運も良い。
成る程、天の道を往き総てを司る男というのも納得だ。
だが、そんな彼とはいえ決して無敵ではなく、ましてや全知全能の神ではない。
天道総司は他人より強く、知識があり、運が良い……だが言ってしまえば、ただそれだけの人間だ。
自分より実力のある敵と戦闘すれば、敗北する事だってある。
彼の知識の至らない事柄だって、山のように存在する。
そして、彼が行く先にいる異形は、十中八九彼より強い。
人の手により創られし、最強のアンデッド。
天道の世界とはまた別の世界にて、四人の仮面ライダーを同時に相手取り、互角以上に渡り合った究極のアンデッド。
そのような化け物を相手にして、天道総司は果たして総てを護りきれるのか。
それはまだ、誰にも分からない。



【一日目/深夜/F-7・森林】
【天道総司@仮面ライダーカブト】
[状態]健康、仮面ライダーカブト(C.Off)
[装備]カブトゼクター@仮面ライダーカブト、ライダーベルト(カブト)@仮面ライダーカブト
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考]
0:天の道を往き総てを司る者として、全てを救う
1:戦闘音のする方へ向かい、眼鏡(新八)の言っていた『彼女』とやらを救う
2:加賀見と合流する


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最終更新:2010年07月29日 18:59
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