バベルの階段をあがれ

「かったるい」

黄金の月が煌めく夜の空。
木が多数そびえ立つ林で金髪の青年――手塚義光は本当にくだらなそうに呟いた。
いきなりの殺し合い。最後に残るのは一人だけ。
いわゆるバトル・ロワイアルというもの。
義光はこれに対しての最初の感情は“おもしろそう”だった。

(別に殺し合いに乗んのはいいんだけどよぉ、人殺すのにも抵抗ないしな)

義光は最初はこのゲームに乗るつもりだったのだ。
人を殺して、良さそうな女がいたら犯す。要は気の赴くままに行動する。
それが義光の行動原理だった。

「そのつもりだったんだがこれはねえだろ……」

手にあるのは人形。それも開会式の場で主催者を名乗った郷田麻弓のだ。
義光は郷田のようなおばさんは好みの範囲外、むしろ嫌いである。

「このスイッチにしてもよぉ」

義光は人形の後ろにあるスイッチをポチっと押す。

『郷田真弓、十七歳です♪』

ポチっ。

『きゃるーん、怖いわぁ』

ポチポチっ。

『お酒持ってこーい!』
「……うぜえ」

義光はそう言って手に持っている人形を空高く投げた。
これはいらない。見てるだけで吐き気がする。

「おいおい殺し合いさせる気ねえだろが、これは。
 こんな年増のおばさんの人形なんざいらねえわ!」

そして義光は他に何かないかデイバッグを漁る。
次に手に引き当てたのは。

「……あのババアマジで殺してやる」

義光の手に握られているのは一枚の写真。
しかし、ただの写真であったならここまで憤怒の念を表さなかった。

「誰があんなババアのスクール水着のプロマイドなんざ見るんだよ……」

写真に写っているのは郷田真弓の水着姿。しかもスクール水着だ。
義光は先程の人形と同じように写真をクシャクシャにして思い切り空へ放り投げた。

「くそっ!俺をこけにしやがって……むかつくぜ。
乗ろうと思ってたけど、こんな手持ちじゃゲームに乗ることなんざ出来るかよ」

とてもじゃないが、ほぼ素手でゲームに乗るなど無謀もいいところだ。
せめてナイフなどの刃物が欲しい、と義光は思った。

「ったくよぉ…ふざ「ふいーやっと出られたぜ!シャバの空気はうめえなあ!」……な?」

デイバッグの中から出てきたのは白くて細長い生き物――オコジョだ。
それだけでは義光は驚かなかった。
だが、問題はオコジョが人の言葉を喋ることである。

(現実的にありえねえだろうが!喋る動物なんざこの世の中にいるわけ……
 まあ、この殺し合いに巻き込まれた時点でんなこといってるばあいじゃねえよな)

とりあえず頭の中にあった常識を破棄して今目の前にあるありのままの現実を受け入れる。
それが一番だ、と。

「おい、お前」
「ん?なんだアンタ?」
「手塚義光――ただの会社員だよ」



◆ ◆ ◆



「なるほどねえ、殺し合いか。俺っちとしてはなかなか信用できねえが。
 まあ、今の現状を見るとそれもうなずけるもんだぜ」
「信じるのも信じねえのもカモ、てめえの自由だ」
「いやいや、信じさせてもらいますぜ手塚の旦那。嘘を言ってるようには見えねえですしねえ」

義光とオコジョ――アルベール・カモミールは軽い情報交換をしていた。
二人?の頭の回転が速いことからスムーズに進行している。

「で?手塚の旦那はこのゲームにはどのようなスタンスなんすか」
「俺か?もちろんこんなゲームには断固反対だね。人を殺すなんてとてもじゃないができねえ」

無論、義光のこの言葉は大嘘だ。
今だって別に乗ってもいいんじゃね的な思考を持ち、人を殺すことにも抵抗は皆無である。

(ククッ、当然嘘だけどな、カモ。でもしょうがねえよなあ、騙される方が悪いんだからよぉ!!)

顔では微笑み心で嘲う。嘘を付くことなど何の躊躇もない。

「旦那ぁ、」
「なんだよカモ。おかしいことでも言ったか?」
「そいつは“嘘”だ」

空気が凍り、沈黙が場を支配する。

「おいおい、どうしたよカモ。それじゃあ俺が嘘を言ってることになるじゃないか」
「ああそうだぜ、手塚の旦那。あんた、乗るつもりだろ」
「何を根拠にそう思うんだ教えてくれよ」
「匂いさ。俺っちカタギじゃねえんで。だからそういう同じ気質の奴は感覚でわかるんだ」
「ははっ、そいつが本当だとしたらどうすんだ?殺すのよくない!とか説教するのか、おい」

もしそんなことで言い出したらくびり殺してやるがよ、と心の中で考えながら問う。

「いいや、別にいいんじゃないっスか」

だから平然と人を殺すことを肯定したカモに義光は驚いた。

「おいおい、いいのかよカモ」
「第一俺っちもそんな褒められた生き方してないんで。だから否定する気もねえッス。
 “必要”なら殺るべきですぜ」

できればそんなことしたくないんスけどねー、とカモは呟きながら義光の肩に乗る。

「この状況からして絶対に殺しちゃ駄目だとか言ってられねえっすよ。
 もし殺し合いに乗ってる野郎がいたら?撃退しただけじゃ駄目だ。
 ここは島っすよ?いくら撃退したところで逃げ場なんてない」
「だろうな。じゃあ何だ?殺し合いに乗って優勝でも目指すか?」

軽い口調で義光は喋る。この質問にカモがどう返答してくるか。
単純に気になってしまったのだ。

「そいつはいただけねえ。駄目だぜ、全然駄目だ、旦那ぁ」
「ほう……」

殺しを許容しておいて優勝を否定する。
面白い。義光はそう感じた。

「そもそも主催の野郎が本当のことを言ってるかどうか怪しいもんだぜ。
 ちゃんと元の生活に帰してくれるのか?願い事?はん、どう考えても騙しだろ」
「まあ、な。安易に信じられるもんじゃねえ」
「そういうことっすよ。それならギリギリのラインで粘ってた方がいい。つまるところ反主催ってことだ」
「……一理あるか、オーケー。カモ、てめえの案に乗ってやろうじゃねえか」

そう言って義光はニヤリと笑う。自分みたいなアウトローがゲームに乗らないで反逆するというのだ。
おかしくて笑いが出る。

「さてと、それじゃあまずは」
「ああ。とりあえず、」



「「そこに隠れてる奴出てこいよ」」



この呼びかけを受け、数瞬おいて。そびえ立つ木から一人の少女が降りてきた。

「あはは、バレてましたか」
「俺っちの鼻は誤魔化せないぜぃ?何となく視線を感じたしな」
「俺はただの勘みたいなもんだがな。まあ今回はたまたま当たったってことだ」

樹から降りてきた少女の名は藤堂晴香。
義光の動向を伺うために晴香はずっと木の上にいたのだ。

「それでよ、てめえはこのゲームに乗ってます~って野郎か?」
「別に……乗るつもりはないですよ。強いて言うならば私は元の日常に帰りたいだけです。
 というか私が乗ってたら貴方はもう死んでます。危機感が足りませんよ?」
「そうなったら俺のツキが最悪だったってことさ。ただそれだけだ」

義光は踵を返して歩き出す。晴香も同様に義光と反対の方向へ向けて歩き出した。

「まあお互い死なないように努力しようぜ」
「ええ、可能な限り。そこの喋るオコジョさんも。ネギ君と会えるといいわね」
「ありがとよ嬢ちゃん。死ぬなよ」

この二人が生きて再開する時は果たして来るのか。
答えが出るのはまだ先のこと。
二人の参加者の行く末は――

【B-3/一日目・深夜】

【手塚義光@キラークイーン】
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】支給品一式、アルベール・カモミール@魔法先生ネギま!
【思考】
1.今は乗らない。ただし殺しに躊躇はない
2.何か武器が欲しい
3.そう言えば何か聞こえたような……
※近くに郷田人形と郷田プロマイドが落ちています

【藤堂晴香@寄生ジョーカー】
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
1.ゲームには乗らない。脱出狙い


【郷田人形】
郷田真弓のデフォルト人形。後ろのスイッチを入れると郷田真弓のいろいろな声が出るよ!

【郷田プロマイド】
郷田真弓のプロマイド。ちなみにスクール水着着用。歳考えろ。

【アルベール・カモミール@魔法先生ネギま!】
オコジョ妖精カモ君!ネギの使い魔みたいなものでもある。



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最終更新:2010年06月30日 18:27
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