「4Fの怪」


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♪♪「4Fの怪」♪♪




ポケットのなかには
ビスケットがひとつ
ポケットをたたくと
ビスケットはふたつ

もひとつたたくと
ビスケットはみっつ
たたいてみるたび
ビスケットはふえる

そんなふしぎな
ポケットがほしい
そんなふしぎな
ポケットがほしい

だってあたしのふしぎなポケットは
ほんのすこししかふやせないもの

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 ゲーム開始から、30分と少し過ぎた頃。
 あたしが床に敷かれたタイルの上に、白いイヤリングを見付けた時だった。

 突然花火のような破裂音が、どこかからビルの中に轟いたのだ。
 この世界の中央、センタービルなんて名前がついたビルの窓ガラスが微かに振動する。
 こんな状況じゃなきゃ少し驚くだけで笑い飛ばせたのだろうけど、
 一体どこで見つけたのだろうか、それはどう聞いても銃声だった。


「……物騒、物騒だわ」

 眉を潜めながらあたしは、小さく言葉を繰り返す。
 この変な話し癖は、未だに治すことが出来ない。
 どうしても、最初に言おうとした単語で言葉を詰まらせてしまうのだ。
 私のふしぎなポケットでは物も満足に増やせないのに、こんな所が増えても嬉しくない。
 もしさいごのうたとやらに辿り着けたら、あたしはこの口調を治すことを願うだろう。

 そんなifは、存在しないけど。
 ――このゲームのルールからして、誰かを蹴落として進まないと先には進めない。
 でも、でも。私は、そんなことしたくない。
 他人を犠牲にして得る物なんかに、どれだけ価値があるというのだろう?

「それより、それより……これは誰のかしら?」

 だから今私にできるのは、床に敷かれたタイルの上に落ちている白いイヤリングを拾うことくらいだ。
 言い忘れていたけど、ここはセンタービルの4階。
 18ある階層に1つずつ店舗が入っていて、4階はスポーツ用品店である。
 私が目指すのはとりあえず、屋上。
 見た感じ一番高いビルであるセンタービルの屋上に行けば、この世界の全貌が分かるかもという期待があるからだ。

 しかし、こんな高いビルなのにエレベーターの1つもないとは、どういうことなんだろう。
 しかも階段も、いちいち2F毎に途切れている。
 だから、2F毎にわざわざフロアを横切らなきゃいけないのだ。
 お陰で私の足には、疲労ばかりが溜っていく。

「べ……別に、別にそのことは関係ないんだけど」

 よく見てみると、拾った白いイヤリングは貝殻で作られていた。
 綺麗だ。そして、丁寧な作りをしている。
 重さを感じさせないよう加工されているのに、素材が良いのか貝殻は硬度を保っていて。
 月の光に照らされて青く輝く姿は、加工されているのに凄く自然で神秘的だった。

 きっとこれを付けていた人は、かなりのお金持ちなんだろうな。
 と一通り感想を述べてから。

「問題は、問題は……これがどうしてここに落ちているか、ってことよ」

 私は現実的な言葉を、ぽそりと何もない床に発した。
 イヤリングをよく見てみると、貝殻の大きさに比べて、明らかにチェーン部分が短い。
 何かの拍子に切れたのだと分かる。
 恐らくこの重さを感じさせない加工のために、当人も落としたことに気付かなかったのだろう。
 切れたチェーンの先、イヤリングを落としたまま、イヤリングの主はどこかへ去っていったということか。
 このビルの中か、あるいは外に。

「いいえ、いいえ、あまりにも出来すぎよ」

 まだ始まってから30分そこらしか経っていないのに、
 誰かが落としたイヤリングを私が拾うなんてシチュエーションが、果たして起こるものだろうか。

 いや、起こらないだろう。
 そんな偶然を信じるくらいなら、他の可能性を考えたほうがいい。

「他に、他にここにイヤリングが落ちていなきゃいけない訳は――」

 例えば、わざとイヤリングを落として拾わせるのが狙い、とか。
 もっと言うならば、私の目を、注意を引くのが目的だとか……

「ま、まさか?」

 思い付いた1つの可能性。
 それにぞくりとした不安を感じ、慌てて私は後ろを振り向いた。

「……!!」

 私は見る。
 そこにあったもの。
 左手に野球道具店。グローブ、硬球、ヘルメット、バット、スパイク。
 右手にテニス用品店。ラケット、ボール、空気入れ、グリップ。

 そして私の目の前2メートル、音もなく口を開きこちらに飛びかかっている、一匹の獣。

「――罠、罠だったのね!!」

 ヒョウタンみたいな黄色い頭と針金みたいな手足をした怪物が居た。
 恍惚の笑みを浮かべながら口からよだれを垂らし――私の体目がけて、尋常じゃないスピードで迫ってくる。

 心なしかその目は、使命感に燃えているようにも見え。
 心なしか、なぜか私のおしりを見ているような気がした。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

――以下、公式サイトに書いてある設定を元にしています――

 古代アッシリア。現代ではイラクにあたるその場所で、おしりかじり虫18世の一族は産まれた。

 先祖代々おしりをかじるのを仕事としていて、
 「ご先祖様はクレオパトラのおしりをかじったことがある」というのが種族の伝説なんだそうだ。

 そんなおしりかじり虫と日本との接点は、大航海時代。
 コロンブスに東の果てにある黄金の国「ジパング」の存在を聞いた彼等おしりかじり虫の一族は、
 世代をかけて「黄金のおしり」を求めジパングを目指した。

 幾世紀もの時をかけ、体長もとい身長25センチのおしりかじり虫達は大陸を渡る。
 100年が経った。500年が経った。それでも彼等は諦めなかった。
 そうしておしりかじり虫17世、つまり18世の母と父はついに、日本に到着。
 生まれたおしりかじり虫18世は、都会のおしりの苦さにもめげず、
 人々を明るくするためにおしりをかじりつづけたのだった……

――ここまでガチで公式設定――

 そんなおしりかじり虫の初撃は、失敗に終わった。
 あと少し、という所でターゲットの巻き毛の少女におしりかじり虫の存在がばれ、
 “床に落ちたなにか”を拾うために突き出されていた美味しそうなおしりは、おしりかじり虫の飛翔の軌道上からずらされてしまった。

「あ、危なかった……危なかったわ……!」

 巻き毛の少女は少し顔を赤らめ、おしりかじり虫から距離を取る。
 おしりかじり虫の狙いは、どうやら露見してしまったようだ。
 巻き毛の少女はスカートが風でめくれるのを抑えるようにして、自らのおしりに手を当てている。

 だが、それがなんだと言うのだろう? おしりかじり虫はおしりをかじってナンボなのだ。
 名乗り口上も戦闘開始の合図もいらない。ただおしりかじり虫は、自らの欲望のままに次の行動に入った。
 針金にしか見えない足を曲げ、クラウチングスタートの体勢を取る。
 短距離走のゴールは、ターゲットのおしり。

「ほなそのおしり、かじらせてもらいまっせぇ~~!!」

 言い終わる前に、弾かれた弓矢の如く疾走を開始。
 飛翔には及ばないが、人間の全力にも劣らないスピードを出せるおしりかじり虫の得意分野だった。
 これならば、先のように軌道をずらされたが故の失敗はありえない。
 ずらす暇を相手に与えない程に近付けばいいのだ。
 一見アホ面を晒しているようにしか見えないおしりかじり虫は、しかし頭の中で幾通りものパターンを試行していた。




「いや、嫌よ! けだもの!」

 そんなことはつゆ知らず、巻き毛の少女は焦りの表情を浮かべながら、おしりかじり虫に背を向けて走りだす。
 ――計算通りやで。それを見たおしりかじり虫は心の中で、小さく邪悪に笑った。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 巻き毛の少女――便宜上、ビスケットガールと呼ぼう――は、丁度近くにあったテニスラケットを1つポケットの中に突っ込むと、全速力で足を動かした。

「何なのよ、何なのよ何なのよ何なのよぉ! 何で、何で私のおしりを狙ってくるの!?」

 突然すぎる開戦にしてはなかなか頑張ったと言うべきか、イヤリングは彼女のポケットの中に入っている。
 今や、これが偶然落ちていたのか罠だったのかを考える暇は無くなっていた。
 とにかく背後に迫る不思議な変態生物が怖かった。

(一応、一応言っとくけど変態するんじゃないわ! 変態、変態なのよ!)

 人並みの常識を持ち合わせているビスケットガールには、
 おしりを狙う獣だか虫だかよく分からない怪物なんてキチガイにしか思えなかい。
 逃げるのは当然の選択だった。むしろ喜んで噛まれにいく人種がいたら、きっとそれもまたキチガイなのだ。

「おしり! おしりぃ! おしりぃいいいいぃいいい!!」

 聞いて下さいあの叫び声を。あれがキチガイの声じゃなければ、なんだというんだ。

「とりあえず、とりあえず5Fに……」

 せわしなく足を前に進めながら、ビスケットガールは当面の目的地に上の階を選択する。
 足音を立てないほど軽いボディを持つ敵の速度は、それだけを見ればチーターと見間違うくらいに速い。

 体格差による歩幅の違いからなんとか自らと同レベルの速度になってはいるが、ジリ貧だ。
 こちらには足の疲れ、体力の消耗がある。
 だが敵のヘラヘラと笑う姿からは、そんな気配は微塵も感じられない。

「……き、きゃっ!」

 ぶつかる直前まで迫っていた格闘技専門店のサンドバックから、慌ててサイドステップで逃れる。
 ビスケットガールにとって、“追われている”という状況が、何よりも枷となっていた。
 敵の所在を知るために、ビスケットガールは時折後ろを向いて、背後を確認しなければならない。
 だから、今のように前に障害となるショーケースやら棚やらがあっても、前を向いていたら気付かない。
 ――階段なら、追ってくる敵をより楽に目視できる。
 敵は小さい。跳躍したところで、階段を上るスピードなら負けないだろう。
 こちらが上に立つことで反撃のチャンスも生まれる。


 ポケットに入っているラケットで、思い切り叩いてやれば――


(見えた、見えた! 階段、階段だわ!)

 額に汗を浮かべたビスケットガールの顔が、僅かながら口角をつりあげた。
 右手にはバスケ用品店、左手には陸上競技専門店、
 眼前には、5Fへの階段が確かに存在している!

「……ほら、ほら、鬼さんこちら、手の鳴る方へ来なさい!」

 ポンと、1回。
 大きなポケットに収まったテニスラケットを叩くと、ビスケットガールはおしりかじり虫を挑発した。

 彼女の服に付いた少しだけふしぎなポケットは、叩いた物を“ほんの少ししか”増やさない。
 その間、たった10秒。
 しかも1度増やしたものは、もう2度と増やせない。

(でも、でも今なら、3秒あれば十分だわ!)

 そう、それだけの時間が稼げれば十分すぎた。
 ポケットからラケットを取りだし、おしりかじり虫に向かって投擲。
 そうして敵に隙が生まれると同時に、階段を駆け上がる。その3秒が稼げれば、後はどうにでもなるはずだった。

「O・S・I・R・Iィイイイイイイイイイイイイ」

 ビスケットガールはラケットを肩上に構え、おしりかじり虫は挑発を受けて叫ぶ。

 どちらももはや、思考の片隅にも置いていなかった。
 床のタイルの上に置かれていた物のことを。
 白い貝殻で出来たイヤリングを、誰がそこに置いたのかを。

 それが、誰の物なのかを。

【月のワルツ世界/センタービル4F 深夜】

【ビスケットガール@ふしぎなポケット】
【時間】-2時間

【おしりかじり虫18世@おしりかじり虫】
【時間】-2時間


 話は戻り、白い貝殻のイヤリングを片耳に付けたお嬢様がいるビル前の道。
 そこでは銃声が響くとほぼ同時に、1つの命が失われていた。





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