「ワカラナイ」

2話 「ワカラナイ」


少女、卜部悠は憤っていた。
何故、殺し合いを行っている側だった筈の自分が殺し合いをしなければならないのか。
ある事を確認すべく殺し合いの舞台になっている島に上陸し、
自分の探し人と間違えて遭遇したクラスメイトに撃たれた辺りで記憶が飛んでいる。
しかしそんな事は今の悠にとってどうでも良い事だった。

「冗談じゃ無いわよ、何で私が殺し合いなんかしなきゃいけないの……。
クラスメイトが何人かいるし、おまけに、一緒に主催やってた永遠とテトもいるし」

名簿には、クラスメイト数人の名前が記載されていた。
ノーチラス、エルフィ、北沢樹里、サーシャ、シルヴィア、テト、二階堂永遠、フラウ。
二階堂永遠とテト以外は、皆死んだ筈だった。自分と永遠、テトによる殺し合いで。
だが名簿に名前が記載され、おまけにあの開催式の場で、ちらっとではあるが、
悠は何人かのクラスメイトの姿を確認した。

「生き返らせたとでも言うの? 何なのよあのブライアンって奴は……。
まあいいわ。殺し合い、やってやろうじゃないの」

自分の支給品である大型リボルバー拳銃コルト アナコンダを握り締め、
悠は林の中を歩いて行く。

そしてしばらく歩くと小さな社のある開けた場所を発見した。どうやら神社のようだ。
地図のE-2エリアに「菅原神社」とあったが恐らくここがそうなのだろう。

「!!」

賽銭箱の前にある小さな階段に、青い帽子と服を着た眼鏡を掛けた女性が座っていた。

(あいつは確か、開催式の時の……)

悠はその女性の事を覚えていた。開催式の時に首輪を爆破されて死んだ
キャロルという女の知り合い――確か、デイジーだっただろうか。

(こっちには気付いてないみたい……よぉし……)

笑みを浮かべながら、悠はアナコンダのグリップを握り締めた。



殺し合いが始まってからと言うもの、デイジーはスタート地点の近くにあった、
古びた神社の小さな階段に座り込み、震えていた。

「キャロルさん……」

開催式の時に首輪を爆破されて殺された友人の名を呟く。
蘇生魔法で生き返らせようとしたが、出来なかった。
主催者のブライアン曰く、強力過ぎる魔法や特殊能力は使えなくしたらしい。
デイジーも確認してみた所、ほとんどの魔法が使えない事が分かった。
ちょっとした傷を治す程度の弱い回復魔法ぐらいしか使えない。
魔法が使えなくなった自分はただのひ弱な女性に過ぎないのだ。

「どうしてこんな……ブライアンさん……」

名簿に書かれている勇者のアレックスや、自分達の仲間である筈の戦士ブライアン。
一体なぜこんな狂っているとしか言いようの無いゲームを強制するのか。
いくら考えても分からなかった。

分かっているのはキャロルの命を奪った首輪が自分の首にもはめられているという事。
自分のデイパックの中に入っていたネイルハンマー、これを使って殺し合いをしなければ、
自分もキャロルのように死んで行く、という事だった。

「い、嫌……そんなの、出来ないよ……」

だが、そう簡単に人殺しという人間にとって最大の禁忌を破る事は出来ない。
ましてや自分は僧侶、聖職者なのだ。

「アレックスさん、リリアさん、みんな……」

この殺し合いに呼ばれている自分の仲間の名前を呟くデイジー。
会いたかった。一人では恐怖と不安で押し潰されそうになるから。


不意に、何かが破裂するような音が響き、デイジーの座る階段下の石畳が抉れた。

「!?」

一瞬、何が起きたのかデイジーは分からなかったが、
再び破裂音が響き、デイジーのもたれていた賽銭箱に大きな穴が空いたのを見て、
ようやく自分が銃で狙撃されている事に気付いた。
見れば、自分に銃らしき物を向けている学生服姿の少女がいた。
少女――卜部悠は思い通りに弾丸が当たらない事に苛立つ。

「くそぉ!!」

再び引き金を引くが、大きく銃口が跳ね上がり悠の身体のバランスも一定しない。
強力な.44マグナム弾の威力は小柄な悠の身体では制御は難しかった。

「何で当たらないのよ!」

文句を言いながら、再び銃口をデイジーに向けようとした時だった。

「ぎゃっ!!」

何か重い物が悠の額に当たり、衝撃で悠は仰け反り思わずアナコンダを手放してしまった。
激痛に頭を押さえる悠。手を離して見てみれば血が付いていた。
あのデイジーのせいに違いない。殺し合いをさせる側からする側へ転落した不満も相まって、
悠の怒りは頂点に達した。

だが――次の瞬間、聞き慣れた銃声と共に腹部に衝撃、そして、
焼けるような痛みが悠を襲う。

「がはっ……!? な、何」

状況を把握しようとしたが二発目の弾丸が悠の胸元を貫きそれは阻害される。
喉の奥から鉄の味がする液体が溢れ、身体中の力が抜けていく。

(そ、そんな、嘘、私、死ぬの? 嫌、嫌よ、こんな所で死にたくない)

いくら意識を保とうとしても無駄だった。悠の意識は急速に闇に呑まれていく。

(嫌よ、こんなの、嫌あああああ…………!)

絶望と生への渇望の中、卜部悠は二度目となる死を迎えた。



自分を襲った少女――卜部悠の死体を見下ろしながら、
彼女が持っていたリボルバー、コルト アナコンダを持ったデイジーは息を乱していた。
心臓の鼓動が異常に早いのが分かった。

「こ……殺した……私……人を……知らない女の子を……」

命の危機を感じたデイジーは、咄嗟にネイルハンマーを少女に向かって投げた。
ネイルハンマーは少女の頭部に命中し、大きくよろけた少女は持っていた拳銃を離し、
頭を押さえて悶絶した。

後は身体が勝手に動いていた。地面に落ちたリボルバーに向かってデイジーは走り、
それを拾い、少女に向けて引き金を引いた。
二発の弾丸を胴体に食らった少女は大量に血を吐き、地面に倒れ、死んだ。
少女は間違い無く自分を殺そうとしていたのだから恐らく正当防衛に当たるだろう。
だが、それでも「人を殺した」という現実は優しい性格の彼女にとって、
余りにも重く、辛過ぎた。

「……私は、どうすれば、いいの……うっ……あ……ああああ……っ」

最早自分がどうしていいのか分からない。
デイジーはその場に膝を付き、持っていたアナコンダを落とし、
両手で顔を覆い泣き始めた。



【卜部悠@自作キャラでバトルロワイアル  死亡】
【残り59人】



【一日目/朝方/E-2菅原神社境内】
【デイジー@VIPRPG】
[状態]精神的疲労(大)、深い悲しみ、絶望、嗚咽
[装備]コルト アナコンダ(1/6)
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]
 基本:もうどうしていいのか分からない。
[備考]
 ※魔法に制限が掛かっている事を知りました。


※E-2一帯にに銃声が響きました。
※菅原神社境内のどこかにネイルハンマーが落ちています。



≪支給品紹介≫
【ネイルハンマー】
柄の先に鉄製の槌のついた、木材に釘などを打ちつける用途の道具。

【コルト アナコンダ】
1990年に発表されたコルト社初の.44マグナムリボルバー拳銃。
外観は同社の有名なリボルバー、パイソンに似ているが内部機構が見直され、
パイソンよりも生産コストが低く強度も高い。




銀色の侍と灰色の人狼 時系列順 黒き獣達
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ゲーム開始 卜部悠 死亡
ゲーム開始 デイジー [[]]

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最終更新:2010年06月21日 00:57
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