人生は舞台、人は皆役者

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真夜中の劇場には、暗闇という重い緞帳が降りていた。 本来なら観客の拍手でわきかえるはずのそこは、今が真夜中であることと、殺し合いの会場に使われていることのふたつの理由から、闇と静寂の支配する空間に変貌している。 暗闇の充満する廊下を、懐中電灯を頼りに探りつつ進み、控え室のドアを開ける。 天井の蛍光灯が無事に点灯し、室内が明るくなったことで、彼はひとごこちをついた。 劇場の奥を探索していたのは、確認したいものがあったからだ。 目的のモノ――控え室の大きな鏡――が、彼すなわち不二周助の姿を映し出す。 (電気がつくってことは建物が生きてるってことだ。なのに、人が生活してる気配がない……変な感じ) 不二が立っていたスタート地点は、ステージの上だった。 ディパックから取り出した懐中電灯が、降りた緞帳や天井の照明器具を照らし出して、そこが地図にある「劇場」だと理解できたのだ。 鏡の前に近づき、青学ジャージの襟もとをめくる。 控室を探していたのは、そこなら『鏡』があるだろうと思ったからだ。 そこで、“魔女の口づけ”とやらを確認しておきたかった。 切手のような大きさの、黒いふちどり。 奇妙な形の刻印。 「……期待はしてなかったけど、やっぱり夢じゃないってことでいいんだよね?」 なー。 小さな鳴き声が返事をした。 その影は鏡台に軽く飛び乗ると、そこに映し出された自分の姿をしげしげと見つめる。 黒くしなやかな毛並み。ぱたりと揺れるしっぽ。 猫だ。 それが、不二の支給品のひとつだった。 首にさげていた説明書によると、「かたまり」という名前らしい。 ディパックに手を入れた瞬間、生き物をつかんだ感触がした時はひやりとしたものだが、猫はべつだん気分を害した様子もなく不二の後をついてくる。 話しかければ返事もする。 たとえ猫でも、当たり前のように行動を共にしてくれることは、何やら頼もしい。 「……なら、これからどうしたらいいのかを考えないといけないね」 なー。 夢でないのなら、事態は深刻かつ厄介かつ危険だ。 魔法やら神様やら途方もないことを色々と言われたけど、一番の問題はそこではない。 問題なのは「生き延びたければ殺し合え」と、とんでもない命令をされたこと。 果たして自分は――不二周助は――生き延びる為に人を殺せるのだろうか。 ……ノーコメント。 その時が来なければ分からない……と答えるしかない。 なにせ、――当たり前のことだが――生まれて十四年、人を殺したことは一度もない。 本気でキレた経験は何回かあったし、そういう相手をボコボコに精神攻撃したことはあったけれど、それは殺意などとぜんぜん別次元の話だ。 もちろん殺人などはしたくないけれど、人並みに死にたくないとは思うし、こっちに殺意がなくても襲われたら戦うことになるかもしれない。 積極的に襲われたらはずみで殺してしまうということもある。 人間、いざという時はどう豹変するか分からないとも言うし。 ……簡単に答えが出せる問題ではないと判断した不二は、別のことを考える。 名簿によれば不二だけでなく、知り合いもここに呼ばれている。 手塚国光。菊丸英二。越前リョーマ。 いずれも、同じ青学テニス部のレギュラーであり、共に全国制覇を成し遂げた仲間である。 彼らも、きっとこの会場のどこかにいるのだろう。 手塚国光。 テニス部の部長であり、一年時からそれとなく意識してきたライバルでもある。全国大会が終わったら決着をつけようと約束もした。 真面目を絵に描いたような部長で、精神力も責任感も強い。テニスの実力だけなら不二も拮抗できる自信はあるが、メンタルなら彼の方がずっと強いだろう。 彼なら、どう間違っても殺人ゲームに参加したりはしないだろう。おそらく部長として、自分たち部員を保護するべく動き回っているはずだ。 ……でも、その外見から出会った人間に年齢を誤認され、ぎくしゃくしてしまっている可能性はある。 というか、初対面でアレを中学生だと分かる参加者がいたらお目にかかりた……いけない、笑っては駄目だ。深刻な状況なのだから。 菊丸英二。 青学テニス部の貴重なダブルス要員であり、不二自身、彼とペアを組んだこともある。 だけでなく、3年6組のクラスメートとして日常を共にする仲でもあった。 手塚ほどの冷静さはないが、それを補ってあまりある明るさと前向きさを持っている。 彼が殺人ゲームに乗っている光景も、ちょっと想像できない。 分身するような素早いステップで、参加者の背後に回り込みブスリとナイフで刺す英二――あり得るとかあり得ないとか以前に、シュールすぎる。 彼だってこんな状況ではきっと落ちついてはいられないだろうが、それでもいきなり殺人に走ったりはしないだろう。 そして、越前リョーマ。 この数カ月で驚くほど成長した、頼もしい後輩。 手塚が見こんだ『青学の柱』であり、不二に火をつけるきっかけの一つをくれた存在でもある。 ついでに、長いことギスギスしていた不二の弟の裕太が、心を開くきっかけを作ってくれたのも彼だ。越前本人は、決して意図しての行動ではなかっただろうが。 その弟の件がきっかけで越前と試合がしたくなり、実際に試合して、互いに一目置くようになった。試合中に発破をかけられたことも何度かある。 そう、生意気かつクールな後輩だが、決して冷徹というわけでない。負けん気も強い。 殺し合え、などと言われても鼻で笑うだろう。 この3人は、殺人ゲームに乗ったりなんかしないだろう。 不二はそう思う。確信できる。 自分のことより、他人の行動の方がすぐ分かるというのもおかしな話だが、理屈抜きでそう感じてしまうのだから仕方ない。 いや、 自分のことだからこそ、分からないのかもしれない。 思い出すのは、遠くて近い過去のこと。 夏の、全国大会での激闘のこと。 準決勝で、四天宝寺学園の白石に追い詰められてしまった時。 このままでは負ける、と思った。けれど、負けてたまるかとも思った。 初めてのことだった。 初めて経験する“悔しい”という感情で――それまでの不二は、他人とズレている自覚があるほどそういった感情には淡泊で――今思い出してもキャラが違うんじゃないかというぐらい必死になっていた。 あの時、言葉が自然と不二の口をついて出た。 考える前に言葉が出た。 ――このチームを全国優勝へ!それが僕の願い!!だから絶対に負けられないんだ!! ……自分のことながら、ずいぶんクサイことを言ったなぁと思う。 でも、思い出せてよかった。 おかげで今、行動方針が決まった。 「……なら、乗るわけにはいかないね」 どうやら不二は、自分の為に戦うよりも、“そっち”の方が大事らしい。 手塚や菊丸や越前が殺し合いに乗らないなら――乗らないと信じている――不二も『乗らない方』に乗ろう。 『他の人もやらないだろうから僕も』とまで思うほど、流されやすい性格ではない。 仲間の為なら死んでもいい、と思うほど、自己犠牲的な性質でもない。 むしろ、人よりずっとマイペースな方だ。 しかし『乗る』『乗らない』の二択なら、「乗らない」と答えよう。 不二は、やっぱり彼らの仲間でいたかったから。 ……あまり口にして言えたことではないけれど。 そうなると、不二のスタンスは『脱出派』になる。 殺し合わずに生き残るには、それしかないのだから。 どうすれば『脱出』できるかも分からないのに『脱出派』に属するというのもおかしな話ではある。 でも、どのみち簡単に答えが出せる問題ではないのだ。 なら、こんな風にスタンスを決めたっていいじゃないかと思う。 「なら、まずは手塚たちと合流しないと」 なー。 鏡台についていた不二の手の甲に、かたまりが前足を乗せた。 ててて、と不二の腕をかけのぼり、右肩にちょこんと乗っかる。 柔らかい毛が、頬に当たった。 「また一緒に来てくれるの?」 なー。 頷いた。 賢い猫だ。 「じゃあ、よろしくお願いするよ」 こうして『青学の天才』、不二周助は歩きだした。 【G-5/劇場控室/一日目深夜】 【不二周助@テニスの王子様】 [状態]健康、青学レギュラージャージ [装備]かたまり@よくわかる現代魔法 [道具]基本支給品一式、不明支給品0~2(確認済み) [思考]基本:殺し合いには乗らない 1、手塚、英二、越前を探す。 ※参戦時期は全国大会終了後です。 【かたまり@よくわかる現代魔法】 姉原邸に住みついている人なつっこい黒猫。魔法コードを感じ取ることができる。 猫の割には高い知性を持ち、原作では人の言葉を理解しているような描写もたびたび見られる。 名前の由来は、毛のかたまりみたいにぐうたらしているから。 ※かたまりが、「現代魔法」以外の世界の魔力にも反応するかは不明です。 |Back:008[[人間失格]]|投下順で読む|Next:010[[さあ皆さんご一緒にあの台詞を]]| |&color(cyan){GAME START}|不二周助|Next:|
真夜中の劇場には、暗闇という重い緞帳が降りていた。 本来なら観客の拍手でわきかえるはずのそこは、今が真夜中であることと、殺し合いの会場に使われていることのふたつの理由から、闇と静寂の支配する空間に変貌している。 暗闇の充満する廊下を、懐中電灯を頼りに探りつつ進み、控え室のドアを開ける。 天井の蛍光灯が無事に点灯し、室内が明るくなったことで、彼はひとごこちをついた。 劇場の奥を探索していたのは、確認したいものがあったからだ。 目的のモノ――控え室の大きな鏡――が、彼すなわち不二周助の姿を映し出す。 (電気がつくってことは建物が生きてるってことだ。なのに、人が生活してる気配がない……変な感じ) 不二が立っていたスタート地点は、ステージの上だった。 ディパックから取り出した懐中電灯が、降りた緞帳や天井の照明器具を照らし出して、そこが地図にある「劇場」だと理解できたのだ。 鏡の前に近づき、青学ジャージの襟もとをめくる。 控室を探していたのは、そこなら『鏡』があるだろうと思ったからだ。 そこで、“魔女の口づけ”とやらを確認しておきたかった。 切手のような大きさの、黒いふちどり。 奇妙な形の刻印。 「……期待はしてなかったけど、やっぱり夢じゃないってことでいいんだよね?」 なー。 小さな鳴き声が返事をした。 その影は鏡台に軽く飛び乗ると、そこに映し出された自分の姿をしげしげと見つめる。 黒くしなやかな毛並み。ぱたりと揺れるしっぽ。 猫だ。 それが、不二の支給品のひとつだった。 首にさげていた説明書によると、「かたまり」という名前らしい。 ディパックに手を入れた瞬間、生き物をつかんだ感触がした時はひやりとしたものだが、猫はべつだん気分を害した様子もなく不二の後をついてくる。 話しかければ返事もする。 たとえ猫でも、当たり前のように行動を共にしてくれることは、何やら頼もしい。 「……なら、これからどうしたらいいのかを考えないといけないね」 なー。 夢でないのなら、事態は深刻かつ厄介かつ危険だ。 魔法やら神様やら途方もないことを色々と言われたけど、一番の問題はそこではない。 問題なのは「生き延びたければ殺し合え」と、とんでもない命令をされたこと。 果たして自分は――不二周助は――生き延びる為に人を殺せるのだろうか。 ……ノーコメント。 その時が来なければ分からない……と答えるしかない。 なにせ、――当たり前のことだが――生まれて十四年、人を殺したことは一度もない。 本気でキレた経験は何回かあったし、そういう相手をボコボコに精神攻撃したことはあったけれど、それは殺意などとぜんぜん別次元の話だ。 もちろん殺人などはしたくないけれど、人並みに死にたくないとは思うし、こっちに殺意がなくても襲われたら戦うことになるかもしれない。 積極的に襲われたらはずみで殺してしまうということもある。 人間、いざという時はどう豹変するか分からないとも言うし。 ……簡単に答えが出せる問題ではないと判断した不二は、別のことを考える。 名簿によれば不二だけでなく、知り合いもここに呼ばれている。 手塚国光。菊丸英二。越前リョーマ。 いずれも、同じ青学テニス部のレギュラーであり、共に全国制覇を成し遂げた仲間である。 彼らも、きっとこの会場のどこかにいるのだろう。 手塚国光。 テニス部の部長であり、一年時からそれとなく意識してきたライバルでもある。全国大会が終わったら決着をつけようと約束もした。 真面目を絵に描いたような部長で、精神力も責任感も強い。テニスの実力だけなら不二も拮抗できる自信はあるが、メンタルなら彼の方がずっと強いだろう。 彼なら、どう間違っても殺人ゲームに参加したりはしないだろう。おそらく部長として、自分たち部員を保護するべく動き回っているはずだ。 ……でも、その外見から出会った人間に年齢を誤認され、ぎくしゃくしてしまっている可能性はある。 というか、初対面でアレを中学生だと分かる参加者がいたらお目にかかりた……いけない、笑っては駄目だ。深刻な状況なのだから。 菊丸英二。 青学テニス部の貴重なダブルス要員であり、不二自身、彼とペアを組んだこともある。 だけでなく、3年6組のクラスメートとして日常を共にする仲でもあった。 手塚ほどの冷静さはないが、それを補ってあまりある明るさと前向きさを持っている。 彼が殺人ゲームに乗っている光景も、ちょっと想像できない。 分身するような素早いステップで、参加者の背後に回り込みブスリとナイフで刺す英二――あり得るとかあり得ないとか以前に、シュールすぎる。 彼だってこんな状況ではきっと落ちついてはいられないだろうが、それでもいきなり殺人に走ったりはしないだろう。 そして、越前リョーマ。 この数カ月で驚くほど成長した、頼もしい後輩。 手塚が見こんだ『青学の柱』であり、不二に火をつけるきっかけの一つをくれた存在でもある。 ついでに、長いことギスギスしていた不二の弟の裕太が、心を開くきっかけを作ってくれたのも彼だ。越前本人は、決して意図しての行動ではなかっただろうが。 その弟の件がきっかけで越前と試合がしたくなり、実際に試合して、互いに一目置くようになった。試合中に発破をかけられたことも何度かある。 そう、生意気かつクールな後輩だが、決して冷徹というわけでない。負けん気も強い。 殺し合え、などと言われても鼻で笑うだろう。 この3人は、殺人ゲームに乗ったりなんかしないだろう。 不二はそう思う。確信できる。 自分のことより、他人の行動の方がすぐ分かるというのもおかしな話だが、理屈抜きでそう感じてしまうのだから仕方ない。 いや、 自分のことだからこそ、分からないのかもしれない。 思い出すのは、遠くて近い過去のこと。 夏の、全国大会での激闘のこと。 準決勝で、四天宝寺学園の白石に追い詰められてしまった時。 このままでは負ける、と思った。けれど、負けてたまるかとも思った。 初めてのことだった。 初めて経験する“悔しい”という感情で――それまでの不二は、他人とズレている自覚があるほどそういった感情には淡泊で――今思い出してもキャラが違うんじゃないかというぐらい必死になっていた。 あの時、言葉が自然と不二の口をついて出た。 考える前に言葉が出た。 ――このチームを全国優勝へ!それが僕の願い!!だから絶対に負けられないんだ!! ……自分のことながら、ずいぶんクサイことを言ったなぁと思う。 でも、思い出せてよかった。 おかげで今、行動方針が決まった。 「……なら、乗るわけにはいかないね」 どうやら不二は、自分の為に戦うよりも、“そっち”の方が大事らしい。 手塚や菊丸や越前が殺し合いに乗らないなら――乗らないと信じている――不二も『乗らない方』に乗ろう。 『他の人もやらないだろうから僕も』とまで思うほど、流されやすい性格ではない。 仲間の為なら死んでもいい、と思うほど、自己犠牲的な性質でもない。 むしろ、人よりずっとマイペースな方だ。 しかし『乗る』『乗らない』の二択なら、「乗らない」と答えよう。 不二は、やっぱり彼らの仲間でいたかったから。 ……あまり口にして言えたことではないけれど。 そうなると、不二のスタンスは『脱出派』になる。 殺し合わずに生き残るには、それしかないのだから。 どうすれば『脱出』できるかも分からないのに『脱出派』に属するというのもおかしな話ではある。 でも、どのみち簡単に答えが出せる問題ではないのだ。 なら、こんな風にスタンスを決めたっていいじゃないかと思う。 「なら、まずは手塚たちと合流しないと」 なー。 鏡台についていた不二の手の甲に、かたまりが前足を乗せた。 ててて、と不二の腕をかけのぼり、右肩にちょこんと乗っかる。 柔らかい毛が、頬に当たった。 「また一緒に来てくれるの?」 なー。 頷いた。 賢い猫だ。 「じゃあ、よろしくお願いするよ」 こうして『青学の天才』、不二周助は歩きだした。 【G-5/劇場控室/一日目深夜】 【不二周助@テニスの王子様】 [状態]健康、青学レギュラージャージ [装備]かたまり@よくわかる現代魔法 [道具]基本支給品一式、不明支給品0~2(確認済み) [思考]基本:殺し合いには乗らない 1、手塚、英二、越前を探す。 ※参戦時期は全国大会終了後です。 【かたまり@よくわかる現代魔法】 姉原邸に住みついている人なつっこい黒猫。魔法コードを感じ取ることができる。 猫の割には高い知性を持ち、原作では人の言葉を理解しているような描写もたびたび見られる。 名前の由来は、毛のかたまりみたいにぐうたらしているから。 ※かたまりが、「現代魔法」以外の世界の魔力にも反応するかは不明です。 |Back:008[[人間失格]]|投下順で読む|Next:010[[さあ皆さんご一緒にあの台詞を]]| |&color(cyan){GAME START}|不二周助|Next:043[[2つのラプソディー ~serendipity~]]|

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