ロリコン?いいえ、神父です

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ロリコン?いいえ、神父です」(2011/04/04 (月) 19:20:56) の最新版変更点

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 アンデルセンは憤怒を身に滾らせながら殺し合いの会場を闊歩していた。  不甲斐ない、とアンデルセンは現状に置ける自分を断定する。  気付かぬ内に拉致されていた事。  無神論者の醜悪な老人に殺し合いを強要された事。  そして何より、人間を止めただの暴風と化して死を迎えた筈の自分が、地獄にも落ちずこのような場所でのうのうと息をしている事。  虚仮にされたようだ、とアンデルセンは感じていた。  万感の覚悟を以て使用した、万感の歓喜を以て使用した『奇蹟の残骸』。  化け物になって行った、化け物との死闘。そして、敗北。  命の残り香が消える瞬間に見た、化け物の、まるで童のような泣き顔。  後悔もなく、懺悔もない。  最期の瞬間に見えたのは、明るい陽光が降り注ぐ庭園で無邪気に遊ぶ子ども達の姿。  その、全てを、虚仮にされた。  どのようなトリックを使用してかは知らないが、受け入れた死を穿り返された。  あの兵藤という男に。  たかがこんな殺し合いの為だけに。  許せる訳がない。許すつもりもない。  アンデルセンは滅殺を誓う。  兵頭の滅殺と、この殺し合いの開催に関わった者の滅殺を、アンデルセンは心に誓う。  前方へと視線を向けるアンデルセン。  その表情たるや肉食獣が害敵を威嚇するソレと同様であった。  気弱な人間ならば顔を見ただけで卒倒してしまいそうな、獰猛な表情でアンデルセンは前を見る。  人の存在を感じ取ったのだ。暗闇に包まれた前方の森林からガサガサと足音を立てて接近してくる参加者の存在を。  小さく両の掌を広げ、瞬後強く強く握りしめる。  アンデルセンは完全な臨戦態勢に入りながら息を潜め、人物に登場を待つ。  徐々に近づいてくる足音は、接近者の焦燥と警戒の至らなさを如実に示していた。  そして、アンデルセンの眼前にその人物は現れる。  アンデルセンの予想通り焦燥に満ちた表情で、全速力の代償か大きく息を切らせて、その女性は現れた。  その女性の姿はまさに―――、 「ヒっ! ってミサカはミサカは物凄い形相でこっちを見ている男の人にビビりまくって早速逃走を始めてみたり!!」  ―――ただの幼女であった。  肩程まで伸びた茶髪に、水色を基調とした花柄のワンピース。  頭頂部辺りから伸び出たアホ毛が何とも特徴的である幼女。  年は小学生の中程あたりであろう。  殺し合いの会場にはそぐわぬ人物の登場に、さしものアンデルセンも動きを止める。  そんなアンデルセンをさて置いて、幼女はアンデルセンの顔を見ると同時に踵を返し、来た時以上の速度で走り去ってしまう。  一人取り残されたアンデルセンはギリと音が鳴る程に、強く強く歯を噛み合わせていた。  これ以上はないだろうと感じていた憤怒が、とてつもない勢いで更なる上昇を始める。  あの男は、あのような幼女にさえも殺し合いを強要するのか。  その光景を見て愉悦を覚えるのか。  成るほど狗畜生にも劣る存在だと、アンデルセンは断じる。    「ク、ハハ、いいぞ兵頭、貴様は万死に値する畜生だ。殺してやろう、我が手で、地獄にすら落ちれなかった背信者の手で、縊り殺しにしてやろう。  ゴミにも至らぬ畜生は背信者如きに殺されるのが相応しい。そうだ、このアレクサンド・アンデルセンが、貴様を殺してやる」  法王庁特務局第13課『特務機関イスカリオテ』。  悪魔、化物、異端、そして異教の殲滅を存在目的とするイスカリオテ。  その機関が誇る最強の剣として君臨していたのが、アレクサンド・アンデルセン神父である。  あらゆる魔術改造が施された肉体はそんじょそこらの化け物を遥かに凌駕する力を持つ。  曰く、聖堂騎士。  曰く、銃剣。  曰く、天使の塵。  イスカリオテが誇る最強の神父にして、最強の人間。  しかも、最強の人間だった男は、今や心臓に打ち込んだ『エレナの聖釘』により人外の化け物と化している。  四肢を吹き飛ばそうと、脳髄を弾き飛ばそうと死ぬことのない、真なる人外。  その身を滅ぼすには心の臓を抉り取るしかない。  全てはある化け物を殺害する為。  命も、死後の安寧すらも捨てて、化け物になってしまったのだ。  それが今のアレクサンド・アンデルセン。  悪魔を、化物を、異端を、異教徒を殺害する為に全てを投げ打った狂信者が、アンデルセンという男であった。  アンデルセンは兵頭の殺害という決意を更に強固なものにする。  だがしかし、アンデルセンは決して殺し合いに乗るつもりはない。  これがもし司教、大司教、総大司教による命ならば、欠片の躊躇いも見せずに全てを惨殺していただろう。  これがもしカトリックの領地を踏みこんでの事態ならば、全てを全て滅ぼしていただろう。  だが、今回は事情が違う。  此度の殺戮は異教徒、もしくは無神論者の畜生によって強制された下らない殺し合い。  この殺し合いの地に異教徒がいたとしても、アンデルセンは戦わない。  畜生に強制された殺し合いなどに乗る必要はない。  たとえ、相手が異教徒だろうと殺してやるつもりはない。  人外魔境の域に足を踏み込んだ化け物や背信者は別だろうが、アンデルセンの方からわざわざ異教徒を殺戮していくつもりはない。  畜生の思うがままになる謂れはない。 「さて、まずは……か弱い子羊の保護から始めますか」  アンデルセンは表情を一変させ温和な笑みを浮かべると、烈風の如く速度で移動を開始する。  瞬く間に走り去って行った幼女を追い越すと、先回りをして幼女を待ち受ける。  これに驚愕したのは幼女の方であった。  少し前に逃亡を果たしたと思っていた男が、今度は満面の笑顔で待ち受けているのだ。  驚くなという方が余りに無理のある話だ。 「ワワワ! 何でさっき別れた筈の人が此処にいるのって、ミサカはミサカは驚くと同時に即時撤退!」  案の定、幼女は再び全力で逃げ出そうと試みる。  背中を向けて走り去ろうとする幼女の肩を掴む人外の神父・アンデルセン。  もはや追い駆けっこに発展する事すらない。  ガチリと掴まれた肩は万力で固定されたかのようにピクリとも動かなかった。  先まで天真爛漫な様子で喚いていた幼女も、これには流石に危機感を積もらせる。  表情から明快な色が消え、不安と焦りの入り混じったものに切り替わる。  ひっ、と息をのむ音がアンデルセンにまで届いた。 「心配する事はありませんよ。私はアレクサンド・アンデルセン、しがない神父です。  このような状況で子どもを一人にして置くことはできません。そう簡単に信用してもらえるとは思えませんが、共に行動してはもらえませんか?」  アンデルセンの言葉に幼女は呆気に取られポカンと口を開く。  さっき会った時は完璧人殺しの顔してなかった? という疑問が透けて見えるような驚きようであった。  アンデルセンには二つの顔がある。  神罰の地上代行者としての顔と、孤児院に勤め子ども達の世話をする聖職者としての顔と。  そのどちらもが彼の本質であり、本来の顔。  だからこそ、アンデルセンの振る舞いは幼女も戸惑う程に落差のあるものとなっていた。 「えっと、良いけど……ってミサカはミサカは恐る恐るアンデルセンの問いに了承してみる」  戸惑いの表情を引き攣らせながらも何とか笑顔へ持っていき、幼女はアンデルセンへ言葉を返す。 「そうですか、ありがとう。では……ああ、そういえば名前を聞いていませんでしたね」 「ミ、ミサカは打ち止めって言うんだよって、ミサカはミサカは出来るだけにこやかに自己紹介をしてみる」 「ふむ、ラストオーダーですか、面白い名前ですね。では、改めてよろしくお願いします、ラストオーダー」  幼女の名前に疑問を覚えながらも、アンデルセンは柔和な笑みで右手を差し出す。  その右手へ幼女もおずおずといった様子で手を伸ばし、握った。  神父はあくまで笑顔で、幼女はかなりビビりながら、二人はようやく自己紹介を終えて相対する。  打ち止めはアンデルセンを観察しながら、思考していた。  眼前の男は信用できるのかとか、さっきの恐ろしい表情は何だったのかとか、様々な疑問が浮かんでは漂う。  だがしかし、それら疑問は徐々に影を潜めて消えていく。  他に重大な問題が存在するからだ。  打ち止めには今現在何よりも気になる事柄がある。  それは、理由不明の症状から打ち止めを助けてくれた少年のこと。  一方通行。  最強の超能力者。  学園都市が第一位の怪物。  一方通行は強大な能力を有し、何時も打ち止めの事を助けてきた。  学園都市でも、ロシアでも、それこそ命懸けで戦い続け、助け続けてきた。  打ち止めは知っている。  一方通行がどれほど打ち止めや妹達の事を大切に思っているか。  それは誰よりも打ち止め自身が感じている事だ。  だからこそ、今は一方通行のことが心配で仕方がない。  彼は打ち止めを救出する為ならば、おそらく何でもする。  それこそ殺し合いに乗り、打ち止め以外の参加者を―――一方通行自身を含んだ全ての参加者の抹殺をも行うだろう。  上条当麻も。  おそらくは、打ち止めの生みの親たる御坂美琴でさえも。  打ち止めを救う為ならばと、彼は殺害しようとするかもしれない。  何時ものように全てを一人で抱え込んで、一人で苦悩して、一人で解決しようとするのだろう。  打ち止めは、そんな結末を拒絶する。  皆が皆、笑顔で帰還し前と同じ生活が送れる、そんなハッピーエンドを打ち止めは望む。  一方通行が苦しむ未来を、他者を蹴落として確立する未来を、打ち止めは望まない。  その為に、打ち止めは思考する。  そして、口を開く。  数瞬前には恐怖の形相で打ち止めを睨み付けてきた男。  今は笑顔で応じているが、完全に信頼できる訳がない。  もしかしたら打ち止めの事を騙しているのかもしれない。  恐怖はあった。  でも、最高なハッピーエンドを目指すには信頼しなければいけない。  頭脳が、力が、仲間が必要なのだ。  ハッピーエンドを目指すには参加者通しが手を取り合い、協力していかなければならない。  その為の第一歩を踏み出さなくては。  恐怖が圧し掛かろうとも、誰もが笑える結末を迎える為に、踏み出さなくては。  強く強く両手を握り締める打ち止め。  守られているだけの存在ではなく、あの人と苦悩を分かち合えるような存在になる。  その決心を、打ち止めは付けた。  全力の勇気を振り絞って、打ち止めはアンデルセンを見上げ、開口する。   「ねぇ、アンデルセン、お願いがあるのってミサカはミサカは勇気を出して打ち明けてみる」 「何でしょう?」 「あの人を、助けてあげて欲しいの」  打ち止めは一息に全てを語った。  自分の為に戦ってくれる少年の事。  自分を救う為に少年が殺し合いに乗ってしまうかもしれない事  少年は絶大な力を持つけど、本質は普通の人と変わらないという事。  他者を思いやる事ができ、いつも強がっているものの本当は傷付き易い人間だという事。  だから、助けて欲しいと、打ち止めは懇願する。  アンデルセンは打ち止めを見下ろし、沈黙をもって打ち止めの拙い話を聞いていた。 「……話は分かりました。そういう事なら助力しましょう」 「ホントにってミサカはミサカは歓喜に手を上げて喜んじゃう!」 「迷える子羊に手を差し伸べるのも、神父の役目なんですよ」  そして、アンデルセンは打ち止めの願いを受け入れる。  信者ではない人間を助けて欲しいという無神論者の願いを、アンデルセンは受け入れた。  アンデルセンの脳裏には孤児院に暮らす子ども達の姿が思い浮かんでいた。  孤児院の子ども達と、感情のままに怯え喜ぶ打ち止めとを、アンデルセンは重ね合わせる。  信者であろうとなかろうと関係ない。  子どもに罪はない。  無神論者や異教であっても子どもの内は罪ではなく、それを正しく導いていくのが神父である。  悪魔や化物は別であるが―――やはりアンデルセンは子どもに甘い人間なのかもしれない。 「ではいきましょう、ラストオーダー」 「うん、ってミサカはミサカは実はあなたも良い人なのかもって思い始めた事を隠して、アンデルセンに付いていく!」  喜ぶ幼女を優しげに見詰めながら、化け物と化した神父が歩く。  幼女を見る神父はまるで父親のように穏やかなものに見えた。 【一日目/深夜/H-1・森林】 【アレクサンド・アンデルセン@ヘルシング】 [状態]健康、 [装備]エレナの聖釘@ヘルシング [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:兵藤を殺害する。 1:殺し合いには乗らないが、襲ってくる者、化け物には容赦しない 2:打ち止めと行動する。一方通行を助ける 3:首輪を解除する [備考] ※死亡後から参戦しています 【打ち止め(ラストオーダー)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:殺し合いには乗らない。ハッピーエンドを目指す 1:アンデルセンと行動し、一方通行と合流する。 2:お姉様、上条当麻とも合流したい [備考] ※22巻終了後から参戦しています ◇  そして、そんな二人を木陰から見つめる者がいた。  男は、タキシードに身を包み、サックスを片手に持ちながら前方を歩くアンデルセン達へと視線を向けていた。 (ヨホホ~~~! これは運が良い!)  男の名はブルック。  とある海賊団の一員であり、悪魔の実の能力者である。  殺し合いに乗らず、仲間と共に帰還する事を目指す参加者の一人であった。 (あの優しそうな人たちなら絶対に殺し合いには乗っていないはず! ルフィさん達を探すのを手伝ってもらいましょう!)  と、心中ではそんなことを言っているが、他者との合流を目指す本当の理由は単純であった。  一人が嫌なのだ。  夜の森林は怖いし、過去を思い出すと一人ではいたくない。  だから、殺し合いの最中だというのに、一緒にいてくれそうな他の参加者を探していた。 (う~ん、早速、しかもあんなにも優しそうな人が発見できるなんて、私嬉しくて涙でちゃいそうです!)  だが、視線の先の神父が持つもう一つの顔を、ブルックは知らない。  化け物を殲滅する首切り神父の顔を、知らない。 (涙流す目ないんですけど~~~! ヨホホ~~~~~!!)  ブルックの姿は、それはもうこれ以上ないだろうという位に不可思議なものであった。  小学校の理科室などによく飾ってある骸骨の人形。まさに、それなのだ。  悪魔の実・『ヨミヨミの実』により、骨だけの状態でありながら生命を得た人間。  それがブルックという男。  そんなブルックを一目見れば、普通の人々ならばこぞってこう言う事であろう。  悪魔が、化け物が現れたと。  さて、神父と幼女の前に顔を出したブルックはどのような未来を迎えるのか。  それはまさに神のみぞ知る事であった―――。 【一日目/深夜/H-1・森林】 【ブルック@ONE PIECE】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:殺し合いには乗らない 1:前方の男と幼女に声を掛ける。 2:仲間を探す |Back:[[ケンカとは先に手を出した方の負けである]]|時系列順で読む|Next:[[]]| |Back:[[ケンカとは先に手を出した方の負けである]]|投下順で読む|Next:[[]]| |&color(cyan){GAME START}|アレクサンド・アンデルセン|Next:| |&color(cyan){GAME START}|打ち止め(ラストオーダー)|Next:| |&color(cyan){GAME START}|ブルック|Next:|
 アンデルセンは憤怒を身に滾らせながら殺し合いの会場を闊歩していた。  不甲斐ない、とアンデルセンは現状に置ける自分を断定する。  気付かぬ内に拉致されていた事。  無神論者の醜悪な老人に殺し合いを強要された事。  そして何より、人間を止めただの暴風と化して死を迎えた筈の自分が、地獄にも落ちずこのような場所でのうのうと息をしている事。  虚仮にされたようだ、とアンデルセンは感じていた。  万感の覚悟を以て使用した、万感の歓喜を以て使用した『奇蹟の残骸』。  化け物になって行った、化け物との死闘。そして、敗北。  命の残り香が消える瞬間に見た、化け物の、まるで童のような泣き顔。  後悔もなく、懺悔もない。  最期の瞬間に見えたのは、明るい陽光が降り注ぐ庭園で無邪気に遊ぶ子ども達の姿。  その、全てを、虚仮にされた。  どのようなトリックを使用してかは知らないが、受け入れた死を穿り返された。  あの兵藤という男に。  たかがこんな殺し合いの為だけに。  許せる訳がない。許すつもりもない。  アンデルセンは滅殺を誓う。  兵頭の滅殺と、この殺し合いの開催に関わった者の滅殺を、アンデルセンは心に誓う。  前方へと視線を向けるアンデルセン。  その表情たるや肉食獣が害敵を威嚇するソレと同様であった。  気弱な人間ならば顔を見ただけで卒倒してしまいそうな、獰猛な表情でアンデルセンは前を見る。  人の存在を感じ取ったのだ。暗闇に包まれた前方の森林からガサガサと足音を立てて接近してくる参加者の存在を。  小さく両の掌を広げ、瞬後強く強く握りしめる。  アンデルセンは完全な臨戦態勢に入りながら息を潜め、人物に登場を待つ。  徐々に近づいてくる足音は、接近者の焦燥と警戒の至らなさを如実に示していた。  そして、アンデルセンの眼前にその人物は現れる。  アンデルセンの予想通り焦燥に満ちた表情で、全速力の代償か大きく息を切らせて、その女性は現れた。  その女性の姿はまさに―――、 「ヒっ! ってミサカはミサカは物凄い形相でこっちを見ている男の人にビビりまくって早速逃走を始めてみたり!!」  ―――ただの幼女であった。  肩程まで伸びた茶髪に、水色を基調とした花柄のワンピース。  頭頂部辺りから伸び出たアホ毛が何とも特徴的である幼女。  年は小学生の中程あたりであろう。  殺し合いの会場にはそぐわぬ人物の登場に、さしものアンデルセンも動きを止める。  そんなアンデルセンをさて置いて、幼女はアンデルセンの顔を見ると同時に踵を返し、来た時以上の速度で走り去ってしまう。  一人取り残されたアンデルセンはギリと音が鳴る程に、強く強く歯を噛み合わせていた。  これ以上はないだろうと感じていた憤怒が、とてつもない勢いで更なる上昇を始める。  あの男は、あのような幼女にさえも殺し合いを強要するのか。  その光景を見て愉悦を覚えるのか。  成るほど狗畜生にも劣る存在だと、アンデルセンは断じる。    「ク、ハハ、いいぞ兵頭、貴様は万死に値する畜生だ。殺してやろう、我が手で、地獄にすら落ちれなかった背信者の手で、縊り殺しにしてやろう。  ゴミにも至らぬ畜生は背信者如きに殺されるのが相応しい。そうだ、このアレクサンド・アンデルセンが、貴様を殺してやる」  法王庁特務局第13課『特務機関イスカリオテ』。  悪魔、化物、異端、そして異教の殲滅を存在目的とするイスカリオテ。  その機関が誇る最強の剣として君臨していたのが、アレクサンド・アンデルセン神父である。  あらゆる魔術改造が施された肉体はそんじょそこらの化け物を遥かに凌駕する力を持つ。  曰く、聖堂騎士。  曰く、銃剣。  曰く、天使の塵。  イスカリオテが誇る最強の神父にして、最強の人間。  しかも、最強の人間だった男は、今や心臓に打ち込んだ『エレナの聖釘』により人外の化け物と化している。  四肢を吹き飛ばそうと、脳髄を弾き飛ばそうと死ぬことのない、真なる人外。  その身を滅ぼすには心の臓を抉り取るしかない。  全てはある化け物を殺害する為。  命も、死後の安寧すらも捨てて、化け物になってしまったのだ。  それが今のアレクサンド・アンデルセン。  悪魔を、化物を、異端を、異教徒を殺害する為に全てを投げ打った狂信者が、アンデルセンという男であった。  アンデルセンは兵頭の殺害という決意を更に強固なものにする。  だがしかし、アンデルセンは決して殺し合いに乗るつもりはない。  これがもし司教、大司教、総大司教による命ならば、欠片の躊躇いも見せずに全てを惨殺していただろう。  これがもしカトリックの領地を踏みこんでの事態ならば、全てを全て滅ぼしていただろう。  だが、今回は事情が違う。  此度の殺戮は異教徒、もしくは無神論者の畜生によって強制された下らない殺し合い。  この殺し合いの地に異教徒がいたとしても、アンデルセンは戦わない。  畜生に強制された殺し合いなどに乗る必要はない。  たとえ、相手が異教徒だろうと殺してやるつもりはない。  人外魔境の域に足を踏み込んだ化け物や背信者は別だろうが、アンデルセンの方からわざわざ異教徒を殺戮していくつもりはない。  畜生の思うがままになる謂れはない。 「さて、まずは……か弱い子羊の保護から始めますか」  アンデルセンは表情を一変させ温和な笑みを浮かべると、烈風の如く速度で移動を開始する。  瞬く間に走り去って行った幼女を追い越すと、先回りをして幼女を待ち受ける。  これに驚愕したのは幼女の方であった。  少し前に逃亡を果たしたと思っていた男が、今度は満面の笑顔で待ち受けているのだ。  驚くなという方が余りに無理のある話だ。 「ワワワ! 何でさっき別れた筈の人が此処にいるのって、ミサカはミサカは驚くと同時に即時撤退!」  案の定、幼女は再び全力で逃げ出そうと試みる。  背中を向けて走り去ろうとする幼女の肩を掴む人外の神父・アンデルセン。  もはや追い駆けっこに発展する事すらない。  ガチリと掴まれた肩は万力で固定されたかのようにピクリとも動かなかった。  先まで天真爛漫な様子で喚いていた幼女も、これには流石に危機感を積もらせる。  表情から明快な色が消え、不安と焦りの入り混じったものに切り替わる。  ひっ、と息をのむ音がアンデルセンにまで届いた。 「心配する事はありませんよ。私はアレクサンド・アンデルセン、しがない神父です。  このような状況で子どもを一人にして置くことはできません。そう簡単に信用してもらえるとは思えませんが、共に行動してはもらえませんか?」  アンデルセンの言葉に幼女は呆気に取られポカンと口を開く。  さっき会った時は完璧人殺しの顔してなかった? という疑問が透けて見えるような驚きようであった。  アンデルセンには二つの顔がある。  神罰の地上代行者としての顔と、孤児院に勤め子ども達の世話をする聖職者としての顔と。  そのどちらもが彼の本質であり、本来の顔。  だからこそ、アンデルセンの振る舞いは幼女も戸惑う程に落差のあるものとなっていた。 「えっと、良いけど……ってミサカはミサカは恐る恐るアンデルセンの問いに了承してみる」  戸惑いの表情を引き攣らせながらも何とか笑顔へ持っていき、幼女はアンデルセンへ言葉を返す。 「そうですか、ありがとう。では……ああ、そういえば名前を聞いていませんでしたね」 「ミ、ミサカは打ち止めって言うんだよって、ミサカはミサカは出来るだけにこやかに自己紹介をしてみる」 「ふむ、ラストオーダーですか、面白い名前ですね。では、改めてよろしくお願いします、ラストオーダー」  幼女の名前に疑問を覚えながらも、アンデルセンは柔和な笑みで右手を差し出す。  その右手へ幼女もおずおずといった様子で手を伸ばし、握った。  神父はあくまで笑顔で、幼女はかなりビビりながら、二人はようやく自己紹介を終えて相対する。  打ち止めはアンデルセンを観察しながら、思考していた。  眼前の男は信用できるのかとか、さっきの恐ろしい表情は何だったのかとか、様々な疑問が浮かんでは漂う。  だがしかし、それら疑問は徐々に影を潜めて消えていく。  他に重大な問題が存在するからだ。  打ち止めには今現在何よりも気になる事柄がある。  それは、理由不明の症状から打ち止めを助けてくれた少年のこと。  一方通行。  最強の超能力者。  学園都市が第一位の怪物。  一方通行は強大な能力を有し、何時も打ち止めの事を助けてきた。  学園都市でも、ロシアでも、それこそ命懸けで戦い続け、助け続けてきた。  打ち止めは知っている。  一方通行がどれほど打ち止めや妹達の事を大切に思っているか。  それは誰よりも打ち止め自身が感じている事だ。  だからこそ、今は一方通行のことが心配で仕方がない。  彼は打ち止めを救出する為ならば、おそらく何でもする。  それこそ殺し合いに乗り、打ち止め以外の参加者を―――一方通行自身を含んだ全ての参加者の抹殺をも行うだろう。  上条当麻も。  おそらくは、打ち止めの生みの親たる御坂美琴でさえも。  打ち止めを救う為ならばと、彼は殺害しようとするかもしれない。  何時ものように全てを一人で抱え込んで、一人で苦悩して、一人で解決しようとするのだろう。  打ち止めは、そんな結末を拒絶する。  皆が皆、笑顔で帰還し前と同じ生活が送れる、そんなハッピーエンドを打ち止めは望む。  一方通行が苦しむ未来を、他者を蹴落として確立する未来を、打ち止めは望まない。  その為に、打ち止めは思考する。  そして、口を開く。  数瞬前には恐怖の形相で打ち止めを睨み付けてきた男。  今は笑顔で応じているが、完全に信頼できる訳がない。  もしかしたら打ち止めの事を騙しているのかもしれない。  恐怖はあった。  でも、最高なハッピーエンドを目指すには信頼しなければいけない。  頭脳が、力が、仲間が必要なのだ。  ハッピーエンドを目指すには参加者通しが手を取り合い、協力していかなければならない。  その為の第一歩を踏み出さなくては。  恐怖が圧し掛かろうとも、誰もが笑える結末を迎える為に、踏み出さなくては。  強く強く両手を握り締める打ち止め。  守られているだけの存在ではなく、あの人と苦悩を分かち合えるような存在になる。  その決心を、打ち止めは付けた。  全力の勇気を振り絞って、打ち止めはアンデルセンを見上げ、開口する。   「ねぇ、アンデルセン、お願いがあるのってミサカはミサカは勇気を出して打ち明けてみる」 「何でしょう?」 「あの人を、助けてあげて欲しいの」  打ち止めは一息に全てを語った。  自分の為に戦ってくれる少年の事。  自分を救う為に少年が殺し合いに乗ってしまうかもしれない事  少年は絶大な力を持つけど、本質は普通の人と変わらないという事。  他者を思いやる事ができ、いつも強がっているものの本当は傷付き易い人間だという事。  だから、助けて欲しいと、打ち止めは懇願する。  アンデルセンは打ち止めを見下ろし、沈黙をもって打ち止めの拙い話を聞いていた。 「……話は分かりました。そういう事なら助力しましょう」 「ホントにってミサカはミサカは歓喜に手を上げて喜んじゃう!」 「迷える子羊に手を差し伸べるのも、神父の役目なんですよ」  そして、アンデルセンは打ち止めの願いを受け入れる。  信者ではない人間を助けて欲しいという無神論者の願いを、アンデルセンは受け入れた。  アンデルセンの脳裏には孤児院に暮らす子ども達の姿が思い浮かんでいた。  孤児院の子ども達と、感情のままに怯え喜ぶ打ち止めとを、アンデルセンは重ね合わせる。  信者であろうとなかろうと関係ない。  子どもに罪はない。  無神論者や異教であっても子どもの内は罪ではなく、それを正しく導いていくのが神父である。  悪魔や化物は別であるが―――やはりアンデルセンは子どもに甘い人間なのかもしれない。 「ではいきましょう、ラストオーダー」 「うん、ってミサカはミサカは実はあなたも良い人なのかもって思い始めた事を隠して、アンデルセンに付いていく!」  喜ぶ幼女を優しげに見詰めながら、化け物と化した神父が歩く。  幼女を見る神父はまるで父親のように穏やかなものに見えた。 【一日目/深夜/H-1・森林】 【アレクサンド・アンデルセン@ヘルシング】 [状態]健康、 [装備]エレナの聖釘@ヘルシング [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:兵藤を殺害する。 1:殺し合いには乗らないが、襲ってくる者、化け物には容赦しない 2:打ち止めと行動する。一方通行を助ける 3:首輪を解除する [備考] ※死亡後から参戦しています 【打ち止め(ラストオーダー)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:殺し合いには乗らない。ハッピーエンドを目指す 1:アンデルセンと行動し、一方通行と合流する。 2:お姉様、上条当麻とも合流したい [備考] ※22巻終了後から参戦しています ◇  そして、そんな二人を木陰から見つめる者がいた。  男は、タキシードに身を包み、サックスを片手に持ちながら前方を歩くアンデルセン達へと視線を向けていた。 (ヨホホ~~~! これは運が良い!)  男の名はブルック。  とある海賊団の一員であり、悪魔の実の能力者である。  殺し合いに乗らず、仲間と共に帰還する事を目指す参加者の一人であった。 (あの優しそうな人たちなら絶対に殺し合いには乗っていないはず! ルフィさん達を探すのを手伝ってもらいましょう!)  と、心中ではそんなことを言っているが、他者との合流を目指す本当の理由は単純であった。  一人が嫌なのだ。  夜の森林は怖いし、過去を思い出すと一人ではいたくない。  だから、殺し合いの最中だというのに、一緒にいてくれそうな他の参加者を探していた。 (う~ん、早速、しかもあんなにも優しそうな人が発見できるなんて、私嬉しくて涙でちゃいそうです!)  だが、視線の先の神父が持つもう一つの顔を、ブルックは知らない。  化け物を殲滅する首切り神父の顔を、知らない。 (涙流す目ないんですけど~~~! ヨホホ~~~~~!!)  ブルックの姿は、それはもうこれ以上ないだろうという位に不可思議なものであった。  小学校の理科室などによく飾ってある骸骨の人形。まさに、それなのだ。  悪魔の実・『ヨミヨミの実』により、骨だけの状態でありながら生命を得た人間。  それがブルックという男。  そんなブルックを一目見れば、普通の人々ならばこぞってこう言う事であろう。  悪魔が、化け物が現れたと。  さて、神父と幼女の前に顔を出したブルックはどのような未来を迎えるのか。  それはまさに神のみぞ知る事であった―――。 【一日目/深夜/H-1・森林】 【ブルック@ONE PIECE】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:殺し合いには乗らない 1:前方の男と幼女に声を掛ける。 2:仲間を探す |Back:[[ケンカとは先に手を出した方の負けである]]|時系列順で読む|Next:[[刃と剣]]| |Back:[[ケンカとは先に手を出した方の負けである]]|投下順で読む|Next:[[刃と剣]]| |&color(cyan){GAME START}|アレクサンド・アンデルセン|Next:| |&color(cyan){GAME START}|打ち止め(ラストオーダー)|Next:| |&color(cyan){GAME START}|ブルック|Next:|

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