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「トイレの石田さん」(2011/09/21 (水) 23:46:10) の最新版変更点
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「くっだらねえ」
学園都市が誇るレベル5が一人、麦野沈利。
一個軍隊を易々と相手取ることができる程の力を持つ超能力者は、隻眼で窓から外を見つめていた。
彼女が現在いる所は病院であった。
白を基調として造られた廊下に、麦野は立ち尽くしていた。
隻眼隻腕の身体の上には、白色を基調としたワンピースと厚手の防寒着。
彼女が寸前までいた氷点下の世界と比べ、病院の内部は随分と過ごしやすい気温であった。
麦野は防寒着を脱ぎ捨て、普段から愛用しているワンピースを表に出す。
「レベル5を連れてきて殺し合えってかあ? はっ、殺し合いにすらなんねえよ。人選間違えてんじゃねーの、もうろく爺が」
そう言いながら麦野は右腕で苛立たしげに髪を掻き上げる。
本来左手があるべき所には、今は何も存在しない。
麦野の様子に恐怖や畏怖といった感情は一切なく、ただ苛立ちだけがあった。
「それにしても……第一位様に第三位、それに加えて『AIMストーカー』と『能力を吐き出すだけの塊』になった第二位ってか。こんだけのメンバーを揃えるとはねえ」
麦野の苛立ちの原因はその右手に握られた一枚の紙にあった。
殺し合いの参加者が記載されている一枚の紙。
そこに記されているメンバーは、麦野が知っている者だけでも相当なもの。
学園都市の根幹にまで関わる重要な人物が、その紙には記されていた。
学園都市が誇る最強の超能力者『一方通行』に第三位の『超電磁砲』。
殆ど死んでいるも同然の糞ったれの状態の第二位『未元物質』
それに加えて将来的にレベル5と成り得る『AIMストーカー』。
その誰もが学園都市の表から裏にまで轟く存在だ。
そんな人物達を一挙に拉致せしめた兵藤和尊という男。
兵藤とはあの学園都市すら出し抜く人脈と技術力、そして戦力を有しているという事なのか。
いや、それとも学園都市自体がこの殺し合いに関わっているのか。
「……くっだらねえ」
再度の言葉を吐き捨て、麦野は窓を見る。
首元には冷たい鉄の感触。空にはまん丸のお月様が光っている。
凄惨な殺し合いにはそぐわぬ何とも綺麗な景色だ。
ふと麦野の脳裏に浮かぶある男の姿。
ヘタレで、お調子者で、頭も悪く、顔もいけてなく、おまけにレベル0の無能力者。
良い所など皆無に等しく悪い点ばかりが真っ先にあがる―――だが、麦野の心を知らぬ内に占めていた、そんな男。
男の名は浜面仕上。
この殺し合いにも参加させられているらしい男だ。
(あんだけ息まいといて、なに簡単に捕まっちゃってるんだか。
しかも滝壺ごととはねえー。……こりゃお仕置き確定だね、はーまづらあ)
再会の時を想像して、麦野はSっ気たっぷりの笑みを浮かべる。
再会したら罰の意味も込めて、『原子崩し』をとりあえず二・三発撃ちこんでやるかと考えながら、麦野は一歩踏み出す。
この殺し合いを開催した者がどれだけの力を有しているのかなど、関係ない。
兵藤のあの憎たらしい顔面に、『原子崩し』で風穴を空ける。
それが『アイテム』のリーダーである麦野沈利の役目だと、彼女自身は考える。
「さぁて、これからどうするかにゃーん」
歩きながら麦野は思考する。
首輪にて命が握られている現状。まずは、この首輪をどうにかしないといけない。
あとは浜面と滝壺との合流も急ぎたい。浜面が死ぬとは思えないが、滝壺は別だ。
凶悪な能力と引き換えに、戦闘力は殆ど無いに等しい。
できるだけ早く合流はしておきたい。
(……とりあえずは情報収集か)
やるべき事は決定した。ならば後は、行動するだけだ。
隻腕隻眼の少女が、暗闇の病院を歩いていく。
(ここも軽く探索しとくか。そうそう都合よく滝壺達がいるとは思えないけどねえ)
歪んだ妄執は既にその胸中に存在せず、仲間を想って動くリーダーの姿がそこにはあった。
そして、彼女が行動を始めて数分程の時間が経過したその時だった。
そのすすり泣くような声を聞いたのは。
◇
「どうなってるアルか、これは……」
戦闘種族『夜兎』の生き残りである神楽は、眼前で繰り広げられた惨劇に茫然としていた。
殺された男が何か悪い事をしたようには思えない。ただ、気まぐれで殺された。
あの兵藤という男の気まぐれで、人が一人死んだ。殺害されたのだ。
「……胸糞悪いネ」
ギリ、と歯がなる。
神楽は内に沸き立つ感情を隠そうとはしなかった。
兵藤に抱いた感情をそのまま言葉と表情と態度に出していた。
眉間に皺を寄せ、不快感に顔を歪ませる。
手は強く握り締められ、爪が掌に食い込む。
それでも今の感情を表現するには足りていない。
兵藤のあの忌々しげな笑みが眼前に現れたら、神楽は躊躇いなくその拳を振り抜いていた事であろう。
夜兎の膂力をそのままに行使し、その顔面をグチャグチャに潰していただろう。
「ふん、この神楽様をこんなチンケな首輪で何とかしようとするのが間違いアル。
私を思いのままにしたければケンタッキーの皮でも持ってくる事ネ」
ボケに対するツッコミもないままに、神楽は近くにあった長椅子へと腰を下ろす。
彼女がいる場所は暗闇に包まれた病院の入り口。丁度ロビーの部分であった。
ひとまずデイバックの中身でも確認してみようかと、神楽は適当にバックへと手を突っ込む。
最初に出てきたのは黒色の傘であった。
「ん? 何ネ、この傘は。私のとは違うみたいだけど」
傘を手に握り、ブンブンと適当に振り回す。
通常の傘と比較すれば相当に重い傘であったが、神楽にとっては全く苦にならない。
その傘を気に入ったのか、何回か振り回した後に神楽は傘を長椅子へと立てかける。
どうやら愛用の傘が見つかるまでは、持ち歩くつもりのようだ。
再度、デイバックに手を突っ込む神楽。
次に出てきたのは、ランタンやら地図やら参加者名簿やら基本支給品の数々であった。
「新八と銀ちゃんも呼ばれてるみたいネ。まあ、探してやるアル。二人とも私がいなくちゃ、てんでダメ男なんだから」
お前にだけは言われたくねーよ!といったツッコミが聞こえそうな言葉を吐いて、神楽は更にデイバックを漁る。
次に出てきたのは白色の箱であった。
どうやらこれが最後の支給品のようだった。
後は振っても逆さにしても何も出て来ない。
「!? こ、これは……!」
箱を開けるとそこには茶色の布のような物が数枚。
よくよく見るとそれは神楽の大好物の一つであった。
神楽は戦慄を覚える。
兵藤はコチラの思考を読む術でも持っているのか?
バカな、そんな事など有り得ない。
この私の崇高かつ高次元な思考を読み取るなど、あってはならない。
―――神楽は、おそるおそるその物体を摘み上げる。
感触はまさに彼女の良く知るソレと同様のものであった。
鼻腔をくすぐる芳醇な香り。食欲を沸き立たせる圧倒的な香り。
この香りを前に理性を保つ事などできやしない。
知らぬ間に唾液は口から溢れ出し、胃袋はソレを求めて暴れ出す。
食べろ、食べろ、食べろ!
人間の根本を支配する何かが、騒ぎ立てる。
ソレを求めて、騒ぎ立てる。
抗えない。
そう神楽は感じながら、右手に摘まんだソレを口へと運ぶ。
もはや視線はソレに固定されている。
徐々に、徐々に、ソレが口へと近付いてくる。
至福の瞬間が、近付いている。
ドクンと、鼓動が鳴る。
ゴクリと、喉が鳴る。
もはや身体は神楽の意思から離れていた。
今この瞬間に於いて、神楽の身体はソレを食べる為だけにあった。
そして、その瞬間が、訪れる。
口に、ソレを、含んだ。
神楽は天を見上げた。
「ア……アア……」
歓喜に沸く身体。
神楽の口から言葉にならない声が溢れた。
(これは間違いないアル……)
爆発する感情に、神楽は言葉を発する事ができなかった。
ただ、想う。
想う事しかできなかった。
(……ケンタッキーの……皮……)
神楽は涙を流しながら、咀嚼した―――。
◇
などと下らない事で時間を潰した数分後、神楽は夜の病院を歩いていた。
高揚する心と、火照る身体をもって進んでいく。
右手には黒色の傘が握られている。
今なら何でもできる気がした。
カマン、殺人鬼。カマン、弱き民よ。
我が名は神楽。
全てを救う者なり。
と、変わらず下らない事を考えながら、神楽は歩を進める。
そんな彼女が、その声に気が付いたのはほんの少し後のことだった。
「ううっ……グスっ……ううーー……グスっ……あぁあ」
それは誰かがすすり泣く音であった。
グスグスと込み上げる嗚咽の音と、ズビズビと鼻の啜る音。
嗚咽の間に何かを呟くと、また大きく鼻を啜る。
「ふっ、下々の貧民が助けを求めてるアルよ。ここはこの神楽様が救済してやるネ」
神楽は意気揚々と泣き声の聞こえる方へと足を向ける。
彼女の心はケンタッキーの皮を食した事で完全に舞い上がっていた。
最高潮のテンションを維持したまま、軽やかな足取りで進んでいく。
そして辿り着いたのは、廊下の端に備えられていた男性用のトイレであった。
神楽は躊躇うことなく男子トイレへと入室する。
そこには、神楽も良く知る人種がいた。
「ひっ……ひぃぃい~~~~~~~~~……!!」
マダオ。
まるで、だめな、おっさんの略称。
一目でその称号を関するに相応しいと判断できる男が、そこにはいた。
そのどうにも冴えない顔は、神楽の良く知るメガネ少年と似ていた。
いや、あのメガネ少年よりも地味に、そして情けなく見える。
加えて神楽に気付いた時の反応。
『夜兎』の血を引き、常人離れした身体能力を持つ神楽ではあるが、パッと見は普通の少女と同様である。
そんな神楽を見てマダオは、恐怖百パーセントの表情で後ずさる。
もう一度言う。
飽くまで神楽の見た目は普通の少女と同様である。
その神楽を見て、全力でビビりだしたのだ。
心が有頂天状態にあった神楽も、これには思わず言葉を失う。
絵に描いたようなマダオっぷり。
あのニートグラサンも、あの天パ侍も、眼前の男には敵わない気がする。
それほどのマダオオーラであった。
「……何だこりゃあ……」
男子トイレのど真ん中で縮こまっているマダオ。
そんなマダオを見て言葉を失う神楽。
奇妙な沈黙が包む男子トイレに、更にもう一人入室する者がいた。
隻眼隻腕の超能力者・麦野沈利。
傍若無人、残虐非道とさえ評される麦野をして口を閉じさせるマダオっぷり。
恐怖に命乞いし、泣き叫ぶ人々は何十人と見てきた。
この殺し合いの場に於いて、そのような反応は当然といえば当然だろう。
だが、何なのだろう。
眼前の男が醸し出す、脱力感満載の空気は。
「うああ……グスっ……ううううっ……」
女達を前にしてマダオはただ涙を流すばかりであった。
何とも微妙な空気が場を占領する。
そんな空気を振り払おうと行動を始めたのは、神楽であった。
デイバックに手を突っ込み、白色の箱を取り出す。
それは伝説の食材が納められた箱である。
「ケンタッキーの皮……食べるアル?」
勿論、マダオが泣きやむ事などないし、場の空気が変わる事もなかった。
【一日目/深夜/E-2・病院男子トイレ】
【神楽@銀魂】
[状態]健康、高揚感
[装備]ロベルタの傘@BLACK LAGOON
[道具]基本支給品一式、ケンタッキーの皮@現実(残り一枚)
[思考]
0:殺し合いには乗らない。
1:マダオアル…
2:銀ちゃんと新八と合流する
【石田光司@賭博黙示録カイジ】
[状態]健康、恐怖
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:怖い
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、隻眼隻腕
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:兵藤をブチ殺す。殺し合いに乗るつもりはないが、襲撃者には容赦しない
1:何だ、このオヤジ…
2: 浜面、滝壺との合流。
3:『一方通行』、『未元物質』、『超電磁砲』については様子見
[備考]
原作22巻終了後から参加しています
|Back:[[とある不良の反逆物語(カウンターストーリー)]]|時系列順で読む|Next:[[When They Cry]]|
|Back:[[とある不良の反逆物語(カウンターストーリー)]]|投下順で読む|Next:[[When They Cry]]|
|&color(cyan){GAME START}|麦野沈利|Next:|
|&color(cyan){GAME START}|神楽|Next:|
|&color(cyan){GAME START}|石田光司|Next:|
「くっだらねえ」
学園都市が誇るレベル5が一人、麦野沈利。
一個軍隊を易々と相手取ることができる程の力を持つ超能力者は、隻眼で窓から外を見つめていた。
彼女が現在いる所は病院であった。
白を基調として造られた廊下に、麦野は立ち尽くしていた。
隻眼隻腕の身体の上には、白色を基調としたワンピースと厚手の防寒着。
彼女が寸前までいた氷点下の世界と比べ、病院の内部は随分と過ごしやすい気温であった。
麦野は防寒着を脱ぎ捨て、普段から愛用しているワンピースを表に出す。
「レベル5を連れてきて殺し合えってかあ? はっ、殺し合いにすらなんねえよ。人選間違えてんじゃねーの、もうろく爺が」
そう言いながら麦野は右腕で苛立たしげに髪を掻き上げる。
本来左手があるべき所には、今は何も存在しない。
麦野の様子に恐怖や畏怖といった感情は一切なく、ただ苛立ちだけがあった。
「それにしても……第一位様に第三位、それに加えて『AIMストーカー』と『能力を吐き出すだけの塊』になった第二位ってか。こんだけのメンバーを揃えるとはねえ」
麦野の苛立ちの原因はその右手に握られた一枚の紙にあった。
殺し合いの参加者が記載されている一枚の紙。
そこに記されているメンバーは、麦野が知っている者だけでも相当なもの。
学園都市の根幹にまで関わる重要な人物が、その紙には記されていた。
学園都市が誇る最強の超能力者『一方通行』に第三位の『超電磁砲』。
殆ど死んでいるも同然の糞ったれの状態の第二位『未元物質』
それに加えて将来的にレベル5と成り得る『AIMストーカー』。
その誰もが学園都市の表から裏にまで轟く存在だ。
そんな人物達を一挙に拉致せしめた兵藤和尊という男。
兵藤とはあの学園都市すら出し抜く人脈と技術力、そして戦力を有しているという事なのか。
いや、それとも学園都市自体がこの殺し合いに関わっているのか。
「……くっだらねえ」
再度の言葉を吐き捨て、麦野は窓を見る。
首元には冷たい鉄の感触。空にはまん丸のお月様が光っている。
凄惨な殺し合いにはそぐわぬ何とも綺麗な景色だ。
ふと麦野の脳裏に浮かぶある男の姿。
ヘタレで、お調子者で、頭も悪く、顔もいけてなく、おまけにレベル0の無能力者。
良い所など皆無に等しく悪い点ばかりが真っ先にあがる―――だが、麦野の心を知らぬ内に占めていた、そんな男。
男の名は浜面仕上。
この殺し合いにも参加させられているらしい男だ。
(あんだけ息まいといて、なに簡単に捕まっちゃってるんだか。
しかも滝壺ごととはねえー。……こりゃお仕置き確定だね、はーまづらあ)
再会の時を想像して、麦野はSっ気たっぷりの笑みを浮かべる。
再会したら罰の意味も込めて、『原子崩し』をとりあえず二・三発撃ちこんでやるかと考えながら、麦野は一歩踏み出す。
この殺し合いを開催した者がどれだけの力を有しているのかなど、関係ない。
兵藤のあの憎たらしい顔面に、『原子崩し』で風穴を空ける。
それが『アイテム』のリーダーである麦野沈利の役目だと、彼女自身は考える。
「さぁて、これからどうするかにゃーん」
歩きながら麦野は思考する。
首輪にて命が握られている現状。まずは、この首輪をどうにかしないといけない。
あとは浜面と滝壺との合流も急ぎたい。浜面が死ぬとは思えないが、滝壺は別だ。
凶悪な能力と引き換えに、戦闘力は殆ど無いに等しい。
できるだけ早く合流はしておきたい。
(……とりあえずは情報収集か)
やるべき事は決定した。ならば後は、行動するだけだ。
隻腕隻眼の少女が、暗闇の病院を歩いていく。
(ここも軽く探索しとくか。そうそう都合よく滝壺達がいるとは思えないけどねえ)
歪んだ妄執は既にその胸中に存在せず、仲間を想って動くリーダーの姿がそこにはあった。
そして、彼女が行動を始めて数分程の時間が経過したその時だった。
そのすすり泣くような声を聞いたのは。
◇
「どうなってるアルか、これは……」
戦闘種族『夜兎』の生き残りである神楽は、眼前で繰り広げられた惨劇に茫然としていた。
殺された男が何か悪い事をしたようには思えない。ただ、気まぐれで殺された。
あの兵藤という男の気まぐれで、人が一人死んだ。殺害されたのだ。
「……胸糞悪いネ」
ギリ、と歯がなる。
神楽は内に沸き立つ感情を隠そうとはしなかった。
兵藤に抱いた感情をそのまま言葉と表情と態度に出していた。
眉間に皺を寄せ、不快感に顔を歪ませる。
手は強く握り締められ、爪が掌に食い込む。
それでも今の感情を表現するには足りていない。
兵藤のあの忌々しげな笑みが眼前に現れたら、神楽は躊躇いなくその拳を振り抜いていた事であろう。
夜兎の膂力をそのままに行使し、その顔面をグチャグチャに潰していただろう。
「ふん、この神楽様をこんなチンケな首輪で何とかしようとするのが間違いアル。
私を思いのままにしたければケンタッキーの皮でも持ってくる事ネ」
ボケに対するツッコミもないままに、神楽は近くにあった長椅子へと腰を下ろす。
彼女がいる場所は暗闇に包まれた病院の入り口。丁度ロビーの部分であった。
ひとまずデイバックの中身でも確認してみようかと、神楽は適当にバックへと手を突っ込む。
最初に出てきたのは黒色の傘であった。
「ん? 何ネ、この傘は。私のとは違うみたいだけど」
傘を手に握り、ブンブンと適当に振り回す。
通常の傘と比較すれば相当に重い傘であったが、神楽にとっては全く苦にならない。
その傘を気に入ったのか、何回か振り回した後に神楽は傘を長椅子へと立てかける。
どうやら愛用の傘が見つかるまでは、持ち歩くつもりのようだ。
再度、デイバックに手を突っ込む神楽。
次に出てきたのは、ランタンやら地図やら参加者名簿やら基本支給品の数々であった。
「新八と銀ちゃんも呼ばれてるみたいネ。まあ、探してやるアル。二人とも私がいなくちゃ、てんでダメ男なんだから」
お前にだけは言われたくねーよ!といったツッコミが聞こえそうな言葉を吐いて、神楽は更にデイバックを漁る。
次に出てきたのは白色の箱であった。
どうやらこれが最後の支給品のようだった。
後は振っても逆さにしても何も出て来ない。
「!? こ、これは……!」
箱を開けるとそこには茶色の布のような物が数枚。
よくよく見るとそれは神楽の大好物の一つであった。
神楽は戦慄を覚える。
兵藤はコチラの思考を読む術でも持っているのか?
バカな、そんな事など有り得ない。
この私の崇高かつ高次元な思考を読み取るなど、あってはならない。
―――神楽は、おそるおそるその物体を摘み上げる。
感触はまさに彼女の良く知るソレと同様のものであった。
鼻腔をくすぐる芳醇な香り。食欲を沸き立たせる圧倒的な香り。
この香りを前に理性を保つ事などできやしない。
知らぬ間に唾液は口から溢れ出し、胃袋はソレを求めて暴れ出す。
食べろ、食べろ、食べろ!
人間の根本を支配する何かが、騒ぎ立てる。
ソレを求めて、騒ぎ立てる。
抗えない。
そう神楽は感じながら、右手に摘まんだソレを口へと運ぶ。
もはや視線はソレに固定されている。
徐々に、徐々に、ソレが口へと近付いてくる。
至福の瞬間が、近付いている。
ドクンと、鼓動が鳴る。
ゴクリと、喉が鳴る。
もはや身体は神楽の意思から離れていた。
今この瞬間に於いて、神楽の身体はソレを食べる為だけにあった。
そして、その瞬間が、訪れる。
口に、ソレを、含んだ。
神楽は天を見上げた。
「ア……アア……」
歓喜に沸く身体。
神楽の口から言葉にならない声が溢れた。
(これは間違いないアル……)
爆発する感情に、神楽は言葉を発する事ができなかった。
ただ、想う。
想う事しかできなかった。
(……ケンタッキーの……皮……)
神楽は涙を流しながら、咀嚼した―――。
◇
などと下らない事で時間を潰した数分後、神楽は夜の病院を歩いていた。
高揚する心と、火照る身体をもって進んでいく。
右手には黒色の傘が握られている。
今なら何でもできる気がした。
カマン、殺人鬼。カマン、弱き民よ。
我が名は神楽。
全てを救う者なり。
と、変わらず下らない事を考えながら、神楽は歩を進める。
そんな彼女が、その声に気が付いたのはほんの少し後のことだった。
「ううっ……グスっ……ううーー……グスっ……あぁあ」
それは誰かがすすり泣く音であった。
グスグスと込み上げる嗚咽の音と、ズビズビと鼻の啜る音。
嗚咽の間に何かを呟くと、また大きく鼻を啜る。
「ふっ、下々の貧民が助けを求めてるアルよ。ここはこの神楽様が救済してやるネ」
神楽は意気揚々と泣き声の聞こえる方へと足を向ける。
彼女の心はケンタッキーの皮を食した事で完全に舞い上がっていた。
最高潮のテンションを維持したまま、軽やかな足取りで進んでいく。
そして辿り着いたのは、廊下の端に備えられていた男性用のトイレであった。
神楽は躊躇うことなく男子トイレへと入室する。
そこには、神楽も良く知る人種がいた。
「ひっ……ひぃぃい~~~~~~~~~……!!」
マダオ。
まるで、だめな、おっさんの略称。
一目でその称号を関するに相応しいと判断できる男が、そこにはいた。
そのどうにも冴えない顔は、神楽の良く知るメガネ少年と似ていた。
いや、あのメガネ少年よりも地味に、そして情けなく見える。
加えて神楽に気付いた時の反応。
『夜兎』の血を引き、常人離れした身体能力を持つ神楽ではあるが、パッと見は普通の少女と同様である。
そんな神楽を見てマダオは、恐怖百パーセントの表情で後ずさる。
もう一度言う。
飽くまで神楽の見た目は普通の少女と同様である。
その神楽を見て、全力でビビりだしたのだ。
心が有頂天状態にあった神楽も、これには思わず言葉を失う。
絵に描いたようなマダオっぷり。
あのニートグラサンも、あの天パ侍も、眼前の男には敵わない気がする。
それほどのマダオオーラであった。
「……何だこりゃあ……」
男子トイレのど真ん中で縮こまっているマダオ。
そんなマダオを見て言葉を失う神楽。
奇妙な沈黙が包む男子トイレに、更にもう一人入室する者がいた。
隻眼隻腕の超能力者・麦野沈利。
傍若無人、残虐非道とさえ評される麦野をして口を閉じさせるマダオっぷり。
恐怖に命乞いし、泣き叫ぶ人々は何十人と見てきた。
この殺し合いの場に於いて、そのような反応は当然といえば当然だろう。
だが、何なのだろう。
眼前の男が醸し出す、脱力感満載の空気は。
「うああ……グスっ……ううううっ……」
女達を前にしてマダオはただ涙を流すばかりであった。
何とも微妙な空気が場を占領する。
そんな空気を振り払おうと行動を始めたのは、神楽であった。
デイバックに手を突っ込み、白色の箱を取り出す。
それは伝説の食材が納められた箱である。
「ケンタッキーの皮……食べるアル?」
勿論、マダオが泣きやむ事などないし、場の空気が変わる事もなかった。
【一日目/深夜/E-2・病院男子トイレ】
【神楽@銀魂】
[状態]健康、高揚感
[装備]ロベルタの傘@BLACK LAGOON
[道具]基本支給品一式、ケンタッキーの皮@現実(残り一枚)
[思考]
0:殺し合いには乗らない。
1:マダオアル…
2:銀ちゃんと新八と合流する
【石田光司@賭博黙示録カイジ】
[状態]健康、恐怖
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:怖い
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、隻眼隻腕
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:兵藤をブチ殺す。殺し合いに乗るつもりはないが、襲撃者には容赦しない
1:何だ、このオヤジ…
2: 浜面、滝壺との合流。
3:『一方通行』、『未元物質』、『超電磁砲』については様子見
[備考]
原作22巻終了後から参加しています
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