それは強烈な出会いなの?

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E-5に位置するコテージ、その中に置かれた椅子の一つに高町なのはは腰を下ろしていた。 襲撃を警戒してか明かりは点けず、睨み付けるような視線で暗闇を見る。 その表情は険しく、普段部下に見せる優しげな微笑みはすっかり成りを潜めていた。 暗闇の渦中にて、高町なのは思考する。 ―――つい先程、眼前で行われた虐殺劇。 様々な人物が集められていた部屋に、兵藤と名乗った老人、その口から語られたバトルロワイアルと呼称された『ゲーム』、そして殺害された富竹と呼ばれていた男性。 様々な事象や人物の姿が、なのはの脳裏に浮かんでは消える。 心中を占める感情は後悔。 あの時、富竹という男が殺害されたあの時、自分はただ眺めている事しか出来なかった。 胴体に巻き付けられたバインドに拘束され、自分は立ち上がる事すら出来なかった。 眼前で無力な一般人を死なせたという事実が、高町なのはに大きな無力感を植え付ける。 自分一人があの場で動いても、事態が好転する事はなかっただろう。 おそらく自分も首輪を爆発させられ、何も出来ずに死亡していた筈だ。 分かっている。 分かってはいるものの―――感情は納得しない。 指をくわえて見ていただけの自分を許そうとはせず、執拗に責め立てる。 あの場には自分の親友や部下の姿もあった。 自分同様に首輪を装着され、バインドにより身体を拘束されていた仲間達。 もしかしたら彼女等も失ってしまうのではないか? 兵藤に殺害された男の様に、この殺し合いで誰かに殺害されるのではないか? そんな最悪な未来が頭に張り付き、離れない。 身体が震える。 直ぐ身近に迫った自身への『死』にではなく、仲間達の危機に高町なのはは恐怖を覚えていた。 共に様々な事件を解決してきた親友達と、自分が鍛え抜いた部下達の実力は知っている。 閃光の如く戦場を駆け抜け、単騎で戦況を覆す魔導師……それが彼女達だ。 自分のように装備が没収されているとしても、一般人に殺害される事は先ず考えられない。 だが、それでも、心を乱す不安は消失しない。不安が心の中で暴れ回る。 気付けばなのはは、押し迫る感情に従うように立ち上がっていた。 何とか脱出の方法を考えなくては、何とか首輪を解除せねば―――結果として仲間達は死ぬ。 いや、仲間達だけでない。 この殺し合いに参加させられている何十にも及ぶ人々も、死ぬ。 その事態だけは絶対に阻止しなくてはいけない。 時空管理局の一員として、これ以上誰も死者は出す訳にはいかない。 自分の持てる力や知識、全てを活用して、参加者全員を救出するのだ。 ―――無言の決意と共にコテージの出入り口へと近付いていく高町なのは。 扉が開くと同時に、肌寒い空気が僅かな隙間から差し込み、なのはの身体を舐め回し、部屋の中へと抜けていく。 まるで拒絶の意志を示すかのように動く空気に、身体がブルリと震えた。 一瞬、なのはは身動きを止め、そして扉を完全に押し開ける。 蝶番の軋みにより発生した不気味な音と共に、視界が無明の森林により埋め尽くされる。 広がる景色を前に、なのはは深く息を吸い身体に活力を送り込む。 この先に待ち受ける戦いは生半可なものではないだろう。 だが、この殺し合いは絶対に阻止せねばならない……そう、絶対にだ。 どのような地獄が待ち受けていようと絶対に―――この殺し合いを止めてみせる。 歩き始めたなのはの瞳に、迷いの色は微塵も存在しない。 強靭な意志が爛々と光り輝き、ただ先を見据えている。 決して諦めない。 どんな状況であろうと諦めずに努力をすれば、必ず道は開ける。 どんな状況であろうと仲間と協力し支え合えば、必ず道は開ける。 その事を彼女は知っているからこそ、なのははこの異常事態にも決して光を失わない。 自身の信念に従い、ひたすらに前へと進む。 心の中で恐怖を交錯させながら、それでもエース・オブ・エースと唄われる少女は前へ前へと進むのだ。 こうして『エース・オブ・エース』高町なのはは殺し合いの場へと足を踏み入れた。 ―――さて唐突だが、彼女はあと数分後、ある少年と遭遇する事になる。 その出会い方は決して良好なものではなく、寧ろ言ってしまえば最悪。 だが、その少年は後々のバトルロワイアルに、様々な参加者に、そして高町なのは自身にも、大きな影響を齎す事となる。 良い意味でも、悪い意味でも、少年は様々な人間に影響を与えていく。 その単純が故の奔放さをこの殺し合いの中でも、人々へと見せ付けていく。 少年の名はモンキー・D・ルフィ。 未来の海賊王を目指して果て無き冒険を繰り広げる少年。 ルフィとなのはが遭遇するまであと数分。 高町なのはの現状は既に記させてもらった。 では、モンキー・D・ルフィは現在何をしているのか? 次の章ではそんな彼の現状を記させてもらおう。 □ ■ □ ■ ルフィは全力で走っていた。 後ろを見ず、横を見ず、ただ前だけを見てひたすらに真っ直ぐ。 いや、もしかしたら前すら見ていないのかもしれない。 まるで前に進まないと死にます、と宣告されたかのように、ひたすらに前へと足を動かしていた。 「ちくしょおぉぉおお~~~~~~!!!!」 彼の心は自らへの不甲斐なさに燃えていた。 先のなのは同様、眼前で人を死なせてしまった事に―――ではなく、彼が兵藤に拉致される寸前に行われた出来事に。 彼は今までの人生で感じた事がない程の不甲斐なさを感じていた。 ―――『ゾロが消えた……!!! てめえゾロに何しやがったァ!!! 今……たった今目の前にいたのに!!』 最初に消されたのは、まだ海を出たばかりの自分が初めて出会った『仲間』だった。 突然現れた熊のような男に抵抗する暇もなく消された剣士。 自分は声を挙げる事すら叶わなかった。 ―――『お守りします! 命にかえても!! あ、私もう死ん―――』 次に消されたのは陽気な音楽家。 仲間を逃がす為に、勝てないと分かっている相手に立ち向かい、消された。 やはり自分は驚く事しかできなかった。 ―――『うわァ~~!! こっち来た助けて~~~~~!!』 次に消されたのは愉快な狙撃手。 最後まで叫ばれていた助けを求める声に、自分は何もできなかった。 ―――『畜生!!』 次に消されたのは凄腕のコック。 側にいた仲間を守り切れなかった自分へ憤慨し、突撃し、消された。 四人の仲間が消された事に、自分はようやく我を取り戻し、そしてキレた。 様々な旅の末に会得した『仲間を守りきる為の力』を発動した。 だが、男は自分を嘲笑うかのように瞬間移動をし、次なる獲物へと向かっていった。 ―――『ストロング右(ライト)!!! ―――!! ―――』 次に消されたのはサイボーグの身体を持った船大工。 抵抗に放った右拳は敵を怯ませる事すら叶わず、消されてしまった。 自分が打ち込んだ一撃も易々と弾かれていて、自分は無様に瓦礫の山に吹き飛ばされていた。 ―――『ルフィ、助け―――』 次に消されたのは二番目の仲間。 航海士は恐怖に顔を染め、助けを求めるように自分へと手を伸ばし―――消された。 自分はその手に触れる事すらできなかった。 ―――『ブォオォオオオォオオオォ!!!』 次に消されたのは心優しい船医。 仲間を逃がす為に自ら暴走状態へとなった船医は、仲間を助けようと最後まで暴れ続け、そして消された。 自分はまたもや男に攻撃を避わされ、無様に瓦礫の山へと突っ込んでいた。 ―――『ルフィ――』 次に消されたのは考古学者。 やっとの思いで世界政府から取り戻した仲間は呆気なく、消された。 ……自分は……無力感に……不甲斐なさに……動く事もできなくなった。 そして最後に―――自分も消された。 ―――そして、消されたと同時にルフィはこのバトルロワイアルへと連れて来られていた。 勿論、自分への不甲斐なさや仲間を消した敵達への怒りに燃える彼が、兵藤の説明や富竹の死に気付く訳がなく――――彼は自身がバトルロワイアルに参加している事にさえ、気付いていなかった。 ただ感情の赴くままに叫び、走り、突き進む。 身体中に在った傷や疲労が消失している事にすら気付かず、突き進む。 そんな彼に接近している者がいる事にすら気付かず―――突き進む。 「うぉぉおおおお~~~~~~~!!!」 その野獣の如く咆哮は木々を震撼させ、森林の奥深くにまで浸透していく。 誰が何処で命を狙っているか分からないこの殺し合いの場で、自身の居場所を知らしめるようなルフィの行動は愚の骨頂。 自殺行為といっても過言ではない行いだ。 だが、現状のルフィがその愚かさに気付ける訳がない。 ……いや、何時ものルフィでも気付かないかもしれないが。 兎に角ルフィは雄叫びを挙げながら前へと進む。 当てもなく、走り続ける。 ―――そんな彼を遠くの森林から発見した者が一人、いた。 その人物とは前述した少女・高町なのは。 コテージから出たなのはは数分の徒歩の後に、ルフィの存在に気付いた。 遠方から轟く獣の如き絶叫。 近付けば、地面を踏み抜くその巨大な足音すらも聞こえてくる。 これで気付くなと云う方が土台無理のある話だ。 結果、なのはは警戒半分興味半分で声の発生源へと歩いていき、そして疾走するルフィの姿を発見した。 なのはは考える。 殺し合いという現状に対してパニックに陥っているのか、少年は完全に周りが見えていない。 その余りに目立ち過ぎる振る舞いは、今の自分の様に、他の参加者を必ず引き付ける事となる。 呼び寄せられた人間が善人ならば、別段問題はない。 だが、もし殺し合いに乗ってしまった参加者を呼び寄せてしまったら―――、 もし殺人に対し何ら罪悪感を抱かない悪人を呼び寄せてしまったら―――、 そうすれば、少年にとって致命的な事態に進展する可能性さえ、出て来る。 そんな事を許す訳にはいかない。 何とかして少年の行為を止めなければいけない。 とはいえ、単純に声を掛けたところで、今のあの少年が止まってくれるとは思えない。 現状を見る限り、前方に立ち塞がったとしても気付くかどうか。 下手すれば激突する可能性すら有り得る。 少年の走行速度は人間離れしたもの。 あの速度で激突したとすれば……自分も少年も無傷という訳にはいかないだろう。 「……なら、ちょっと乱暴な手段になっちゃうけど……」 結局、なのはは強行手段に打って出る事にした。 多少無理やり感はあるものの現状では一番安全であろう策。 なのはも、その策を行う為に疾走を始める。 少年の速度に負けじと、魔法さえ行使し全力で駆け始める。 相棒のデバイスが無いとはいえ、多少の肉体強化と飛行魔法は使用可能。 きちんとしたルートを通過すれば、あの速度であっても先回りする事はできる筈だ。 先回さえできれば、後は少年が来るのをゆっくりと待ち構えて『策』を行使するだけ。 おそらく『策』自体が破られる事はない筈……ならば一番の問題はあの少年の行く先に回り込めるかどうか。 それが唯一の問題であった。 だからこそ、その問題を解消する為に、少年の身を危険から守る為に、なのはは全力全開で脚を動かすのだ。 (間に合って……!) 暗闇の森林が線となり、なのはの視界を流れていく。 肉体強化と飛行魔法との組み合わせによりもたらされたスピードは、これまた人外の域。 獣の如く敏捷性で森林を走破していき―――そして、遂に目的の地点へと到達する。 地なりのような足音は―――まだ森林の彼方に在る。 間に合った。 肉体と魔力を限界まで活用した事が幸いしたのか、なのははルフィの先へと回り込む事に成功したのだ。 「よし、後は……」 乱れる呼吸を整えながらなのはは木陰へと身を隠す。 樹木によたれ掛かりながら大きく深呼吸。 魔力と意識を集中させながら、ルフィの到達を待ち構える。 足音と叫び声は徐々に近付いてきており、あと数分もすれば、ルフィがなのはの前へとその姿を見せるだろう。 「来た……!」 ―――数分後、魔導師の見立て通りに、少年は現れた。 とてつもないスピードでコチラへと迫ってくる少年。 なのはは、少年の様子を観察しながら更に意識を集中させていく。 チャンスは一度。少年が自分の眼前を通り過ぎるその瞬間。 徐々に迫ってくる好機を逃さぬよう、なのははジッと少年を見詰め、そして――― (今ッ!!) ―――集中させた魔力を術へと変換し、発動する。 同時にルフィの身体へと巻き付く、拘束魔法と類される光の縄。 バインドが、疾走するルフィを雁字搦めに絡めとり、その動きを止める。 「え?」 ―――が、その勢いを殺しきる事は出来なかった。 高速で進んでいたものに急激なブレーキを掛ければどうなるかは、皆さんご存知の筈だ。 唐突な急減速に重心の位置がブレ、体勢が崩れ、当然転ぶ。 俗に云う慣性の法則。 それは勿論、化け物並の身体能力を持つルフィであっても例外でなく―――少年は哀れにも地面と熱烈なキスをかます事となった。 「うぉわわわわわわわわわわうべ!!」 素っ頓狂な声と共に、盛大な土煙を上げながらずっ転ぶルフィ。 その勢いが影響してか、地面に当たったところでルフィの身体が止まる事はない。 身体をバインドに拘束されたままゴロゴロと転がって、ルフィは真っ暗な森林の中へと姿を消す。 「そ、そんな……!?」 眼前で起こった一連の流れに驚愕するのは、なのはも同様であった。 慣性の法則という極常識的な事象に、なのはの考えが至らなかった訳ではない。 なのはが発現した拘束魔法―――レストリクトリックは、敵を拘束しその場に固定する効果を持っている。 倒壊する巨大な石像すら拘束しうるその力があれば、ルフィの動きもその勢いも束縛できると考えていたのだが……なのはの予想は虚しくも裏切られた。 レストリクトリックの拘束力すらも超越する程に、ルフィの突撃力は凄まじいものだったのだ。 「だ、大丈夫ですか!?」 青ざめた顔でなのはが、土煙を掻き分け惨劇の場へと踏み込む。 無惨にもへし折れた木々と異常なまでに削れた地面に、思わず言葉を失うなのは。 あれだけの勢いで倒れ込んだのだ、あの少年が無傷で済むとは思えない。 下手をすれば命にさえ関わっているかもしれない―――なのはの表情から見る見る内に血の気が引いていった。 「そ、そんな……わ、私……」 なのはの喉から絶望に震えた声が漏れる。 段々に晴れていく土煙。 脳裏をよぎる最悪の光景。 破壊し尽くされたそこに倒れる、ボロボロとなった傷だらけの少年。 手足は曲がってはいけない方向に捻じくれ、呼吸をしている様子はない。 ―――そんな光景が脳裏をよぎり、なのはの肌が粟立つ。 まさか、という罪悪感が胸の奥からせり上がっていく。 だが、以外にも――― 「あー、ビックリした。何が起きたんだ……って、うわ!? 何だこの変な縄!? うお、千切れねーし!! すげー何だこれすげー!!」 ―――少年はピンピンしていた。 それはもう、さっきまで心配していたなのはが拍子抜けするぐらいにピンピンした姿で、少年は一人盛り上がっていた。 初めて見る光の縄を見て、子供のように瞳を煌めかせ少年が叫ぶ。 「って今はそれどころじゃねえ!! あの熊みてぇな男をぶっ飛ばさなくちゃいけねーんだ!! こんな訳分かんねー不思議縄ぶち切ってやる!!」 加えて力だけで無理矢理にバインドを破ろうとする始末。 数秒まで殺人を犯してしまったとさえ考えていたなのはは、その光景に茫然とするばかり。 「うおおおおおおお!! 何だこりゃ、千切れないぞ!?」 茫然自失のなのはの眼前にて、少年は純粋に力だけでバインドを打ち破ろうと試みる。 もう、何が何だか分からない……それが現在のなのはの心境であった。 「あ、あの……」 「ちきしょう何だこれ? 全然ほどけねえ…………ん? 誰だ、お前?」 混乱の真っ只中であったが、なのはは何とか少年へと語り掛ける事ができた。 少年も騒がしく暴れ回っていたものの、その言葉に反応してくれる。 「わ、私は高町なのは。よろしくね」 「おう! おれはルフィ! よろしくな!」 「そう、ルフィ君って言うんだ……じゃなくて! あの……その……凄い勢いで転んでたけど、大丈夫なの?」 「全然大丈夫だぞ。おれ、ゴムだし」 「そ、そうなんだ、ゴムかあ…………ゴム?」 「それよりもよお、この変な縄解くの手伝ってくれねえか? やんなきゃいけねぇ事があるんだよ」 「え? あ、うん……」 ところどころに疑惑の色わ感じつつも、なのはは取り敢えずバインドを解除する事にした。 軽く指先を振るうだけで、ルフィを拘束していた戒めは消失する。 「おぉ! 不思議縄が消えた! 凄ぇな、お前!」 どうやらルフィは、なのは自身が術を発生させた本人だという事に気付いていないようであった。 自分が渾身を込めても破れなかった縄を容易く消した事に、純粋な驚きを見せ関心している。 「ありがとな! じゃ、おれ行くから!」 「ちょ、ちょっと待って! あんまり騒ぐと危ない人まで呼び寄せちゃうよ!」 忙しなく動き続けるルフィを何とか呼び止め、なのはは漸く本分を伝達できた。 しかしながら、対するルフィからは大した反応も見られない。 ニシシと笑顔を浮かべ、その場で小走りをしながらなのはへと顔を向ける。 「大丈夫だ! おれは強えーから!!」 「いや、そうじゃなくて……」 どうにも話が通じない。 何処か抜けているというか、余りに猪突猛進というか、兎に角話が通じない。 なのはの口から盛大な溜め息が零れる。 「……その、ルフィ君、此処が何処だか分かってる?」 「へ? あの熊みたいな男に吹っ飛ばされたんだから……シャボンディ諸島じゃないのか? ……あれ? そういやシャボン玉がねえな。何かいつの間にか夜になってるし」 「やっぱり……殺し合いに連れて来られたこと自体に気付いてないみたいだね……」 ―――それからなのはは、先の教室で行われた一部始終と現在の状況について、たっぷりと時間を掛けてルフィへ説明した。 その全てを理解した訳ではないだろうが、一応ルフィは把握の意を示す。 なのはは思わず安堵の息を吐いていた。 「それで……ルフィ君の仲間は……?」 質問の前になのはは一枚の紙をルフィへと手渡していた。 それは全参加者の名前が記載された紙。 ルフィは無言でその紙へと目を通していく。 先程までの多感な表情と打って変わり、その表情は無表情なものだった。 「ああ、みんな呼ばれてるみてえだ」 そして一言。 それだけ言葉を返し、なのはへと参加者名簿を渡した。 数分前とは余りに対称的なその様子に、なのはは心配を覚えてしまう。 「よし! じゃあ取り敢えず飯を探しにいこう!!」 「そうだね、まずはルフィ君の仲間を探していこうか……って、飯!?」 ―――だが、次の瞬間にはその心配が杞憂であったと理解する。 陽気な笑顔を浮かべながら、両手を天へと突き上げるルフィ。 その顔には心配の『し』の字もない。 「そうだよ、取り敢えず腹一杯にしねぇと」 「で、でも仲間の皆の事は? というか食糧ならデイバックの中に……」 「ああ、あれならもう食い終わったぞ」 「い、いつの間に……」 「それに、皆なら大丈夫だよ。みんな強えーし、今までだって色んな冒険をしてきたんだ。 こんな殺し合いなんかで死ぬ訳ねえ」 そう言うルフィの瞳には欠片の不安も覗いてはいない。 一片の疑いも持たずに仲間の事を信頼している……そんな瞳。 その瞳を見詰めるだけで、ルフィと仲間達との間に在る信頼関係の厚さが読み取れる。 思わず、なのはは反論の言葉を飲み込んでしまった。 「よし、じゃあ飯屋に行くぞ!」 陽気な雄叫びと共にルフィが夜の森林へと歩き出していく。 その危機感の欠如したルフィの行動に、なのはは注意を促すよりも前に苦笑を浮かべてしまった。 こんな殺し合いの中だというのに、まるで子供のような動向。 見ているだけで無意識の内に頬が緩む……そんな不思議な雰囲気を纏った人間。 今まで出会ったどんな人とも違ったタイプの人間であった。 一笑と共になのはもルフィの後を追って歩き始める。 こうして魔導師と海賊は出会い、殺し合いの渦中へと足を踏み入れた。 彼等はまだ知らない。 これから先にどれだけの苦難が待ち受けるかを、二人は知らない。 知らないが故に、二人は今笑っていられる。 現実の冷徹さに、バトルロワイアルの中に隠された狂気に、彼等が気付くのはまた別の話。 「そういえばゴムってどういう事なの?」 「ゴム?」 「ほら、さっき『おれ、ゴムだから』みたいな事言ってたでしょ」 「あぁ、子供の頃に悪魔の実食っちまったんだよ、ほら」 「え……顔が……ええええええええええええええ!!?」 ―――そして、夜の森林に高町なのはの絶叫が響き渡った事も、また別の話。 【一日目/深夜/E-5・森林】 【高町なのは@リリカルなのはStrikerS】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:か……顔が伸びたー!? 1:殺し合いを止める 2:ルフィと行動しながらルフィの仲間達や他の参加者達を探す 3:皆なら大丈夫だと思うけど…… 【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 1:なのはと一緒に食糧を探しにいく 2:仲間とも合流したい |Back:[[ヒカリノソトヘ]]|時系列順で読む|Next:[[野良犬の牙はいまだ抜けず]]| |Back:[[ヒカリノソトヘ]]|投下順で読む|Next:[[野良犬の牙はいまだ抜けず]]| |&color(cyan){GAME START}|高町なのは|Next:| |&color(cyan){GAME START}|モンキー・D・ルフィ|Next:|
E-5に位置するコテージ、その中に置かれた椅子の一つに高町なのはは腰を下ろしていた。 襲撃を警戒してか明かりは点けず、睨み付けるような視線で暗闇を見る。 その表情は険しく、普段部下に見せる優しげな微笑みはすっかり成りを潜めていた。 暗闇の渦中にて、高町なのは思考する。 ―――つい先程、眼前で行われた虐殺劇。 様々な人物が集められていた部屋に、兵藤と名乗った老人、その口から語られたバトルロワイアルと呼称された『ゲーム』、そして殺害された富竹と呼ばれていた男性。 様々な事象や人物の姿が、なのはの脳裏に浮かんでは消える。 心中を占める感情は後悔。 あの時、富竹という男が殺害されたあの時、自分はただ眺めている事しか出来なかった。 胴体に巻き付けられたバインドに拘束され、自分は立ち上がる事すら出来なかった。 眼前で無力な一般人を死なせたという事実が、高町なのはに大きな無力感を植え付ける。 自分一人があの場で動いても、事態が好転する事はなかっただろう。 おそらく自分も首輪を爆発させられ、何も出来ずに死亡していた筈だ。 分かっている。 分かってはいるものの―――感情は納得しない。 指をくわえて見ていただけの自分を許そうとはせず、執拗に責め立てる。 あの場には自分の親友や部下の姿もあった。 自分同様に首輪を装着され、バインドにより身体を拘束されていた仲間達。 もしかしたら彼女等も失ってしまうのではないか? 兵藤に殺害された男の様に、この殺し合いで誰かに殺害されるのではないか? そんな最悪な未来が頭に張り付き、離れない。 身体が震える。 直ぐ身近に迫った自身への『死』にではなく、仲間達の危機に高町なのはは恐怖を覚えていた。 共に様々な事件を解決してきた親友達と、自分が鍛え抜いた部下達の実力は知っている。 閃光の如く戦場を駆け抜け、単騎で戦況を覆す魔導師……それが彼女達だ。 自分のように装備が没収されているとしても、一般人に殺害される事は先ず考えられない。 だが、それでも、心を乱す不安は消失しない。不安が心の中で暴れ回る。 気付けばなのはは、押し迫る感情に従うように立ち上がっていた。 何とか脱出の方法を考えなくては、何とか首輪を解除せねば―――結果として仲間達は死ぬ。 いや、仲間達だけでない。 この殺し合いに参加させられている何十にも及ぶ人々も、死ぬ。 その事態だけは絶対に阻止しなくてはいけない。 時空管理局の一員として、これ以上誰も死者は出す訳にはいかない。 自分の持てる力や知識、全てを活用して、参加者全員を救出するのだ。 ―――無言の決意と共にコテージの出入り口へと近付いていく高町なのは。 扉が開くと同時に、肌寒い空気が僅かな隙間から差し込み、なのはの身体を舐め回し、部屋の中へと抜けていく。 まるで拒絶の意志を示すかのように動く空気に、身体がブルリと震えた。 一瞬、なのはは身動きを止め、そして扉を完全に押し開ける。 蝶番の軋みにより発生した不気味な音と共に、視界が無明の森林により埋め尽くされる。 広がる景色を前に、なのはは深く息を吸い身体に活力を送り込む。 この先に待ち受ける戦いは生半可なものではないだろう。 だが、この殺し合いは絶対に阻止せねばならない……そう、絶対にだ。 どのような地獄が待ち受けていようと絶対に―――この殺し合いを止めてみせる。 歩き始めたなのはの瞳に、迷いの色は微塵も存在しない。 強靭な意志が爛々と光り輝き、ただ先を見据えている。 決して諦めない。 どんな状況であろうと諦めずに努力をすれば、必ず道は開ける。 どんな状況であろうと仲間と協力し支え合えば、必ず道は開ける。 その事を彼女は知っているからこそ、なのははこの異常事態にも決して光を失わない。 自身の信念に従い、ひたすらに前へと進む。 心の中で恐怖を交錯させながら、それでもエース・オブ・エースと唄われる少女は前へ前へと進むのだ。 こうして『エース・オブ・エース』高町なのはは殺し合いの場へと足を踏み入れた。 ―――さて唐突だが、彼女はあと数分後、ある少年と遭遇する事になる。 その出会い方は決して良好なものではなく、寧ろ言ってしまえば最悪。 だが、その少年は後々のバトルロワイアルに、様々な参加者に、そして高町なのは自身にも、大きな影響を齎す事となる。 良い意味でも、悪い意味でも、少年は様々な人間に影響を与えていく。 その単純が故の奔放さをこの殺し合いの中でも、人々へと見せ付けていく。 少年の名はモンキー・D・ルフィ。 未来の海賊王を目指して果て無き冒険を繰り広げる少年。 ルフィとなのはが遭遇するまであと数分。 高町なのはの現状は既に記させてもらった。 では、モンキー・D・ルフィは現在何をしているのか? 次の章ではそんな彼の現状を記させてもらおう。 □ ■ □ ■ ルフィは全力で走っていた。 後ろを見ず、横を見ず、ただ前だけを見てひたすらに真っ直ぐ。 いや、もしかしたら前すら見ていないのかもしれない。 まるで前に進まないと死にます、と宣告されたかのように、ひたすらに前へと足を動かしていた。 「ちくしょおぉぉおお~~~~~~!!!!」 彼の心は自らへの不甲斐なさに燃えていた。 先のなのは同様、眼前で人を死なせてしまった事に―――ではなく、彼が兵藤に拉致される寸前に行われた出来事に。 彼は今までの人生で感じた事がない程の不甲斐なさを感じていた。 ―――『ゾロが消えた……!!! てめえゾロに何しやがったァ!!! 今……たった今目の前にいたのに!!』 最初に消されたのは、まだ海を出たばかりの自分が初めて出会った『仲間』だった。 突然現れた熊のような男に抵抗する暇もなく消された剣士。 自分は声を挙げる事すら叶わなかった。 ―――『お守りします! 命にかえても!! あ、私もう死ん―――』 次に消されたのは陽気な音楽家。 仲間を逃がす為に、勝てないと分かっている相手に立ち向かい、消された。 やはり自分は驚く事しかできなかった。 ―――『うわァ~~!! こっち来た助けて~~~~~!!』 次に消されたのは愉快な狙撃手。 最後まで叫ばれていた助けを求める声に、自分は何もできなかった。 ―――『畜生!!』 次に消されたのは凄腕のコック。 側にいた仲間を守り切れなかった自分へ憤慨し、突撃し、消された。 四人の仲間が消された事に、自分はようやく我を取り戻し、そしてキレた。 様々な旅の末に会得した『仲間を守りきる為の力』を発動した。 だが、男は自分を嘲笑うかのように瞬間移動をし、次なる獲物へと向かっていった。 ―――『ストロング右(ライト)!!! ―――!! ―――』 次に消されたのはサイボーグの身体を持った船大工。 抵抗に放った右拳は敵を怯ませる事すら叶わず、消されてしまった。 自分が打ち込んだ一撃も易々と弾かれていて、自分は無様に瓦礫の山に吹き飛ばされていた。 ―――『ルフィ、助け―――』 次に消されたのは二番目の仲間。 航海士は恐怖に顔を染め、助けを求めるように自分へと手を伸ばし―――消された。 自分はその手に触れる事すらできなかった。 ―――『ブォオォオオオォオオオォ!!!』 次に消されたのは心優しい船医。 仲間を逃がす為に自ら暴走状態へとなった船医は、仲間を助けようと最後まで暴れ続け、そして消された。 自分はまたもや男に攻撃を避わされ、無様に瓦礫の山へと突っ込んでいた。 ―――『ルフィ――』 次に消されたのは考古学者。 やっとの思いで世界政府から取り戻した仲間は呆気なく、消された。 ……自分は……無力感に……不甲斐なさに……動く事もできなくなった。 そして最後に―――自分も消された。 ―――そして、消されたと同時にルフィはこのバトルロワイアルへと連れて来られていた。 勿論、自分への不甲斐なさや仲間を消した敵達への怒りに燃える彼が、兵藤の説明や富竹の死に気付く訳がなく――――彼は自身がバトルロワイアルに参加している事にさえ、気付いていなかった。 ただ感情の赴くままに叫び、走り、突き進む。 身体中に在った傷や疲労が消失している事にすら気付かず、突き進む。 そんな彼に接近している者がいる事にすら気付かず―――突き進む。 「うぉぉおおおお~~~~~~~!!!」 その野獣の如く咆哮は木々を震撼させ、森林の奥深くにまで浸透していく。 誰が何処で命を狙っているか分からないこの殺し合いの場で、自身の居場所を知らしめるようなルフィの行動は愚の骨頂。 自殺行為といっても過言ではない行いだ。 だが、現状のルフィがその愚かさに気付ける訳がない。 ……いや、何時ものルフィでも気付かないかもしれないが。 兎に角ルフィは雄叫びを挙げながら前へと進む。 当てもなく、走り続ける。 ―――そんな彼を遠くの森林から発見した者が一人、いた。 その人物とは前述した少女・高町なのは。 コテージから出たなのはは数分の徒歩の後に、ルフィの存在に気付いた。 遠方から轟く獣の如き絶叫。 近付けば、地面を踏み抜くその巨大な足音すらも聞こえてくる。 これで気付くなと云う方が土台無理のある話だ。 結果、なのはは警戒半分興味半分で声の発生源へと歩いていき、そして疾走するルフィの姿を発見した。 なのはは考える。 殺し合いという現状に対してパニックに陥っているのか、少年は完全に周りが見えていない。 その余りに目立ち過ぎる振る舞いは、今の自分の様に、他の参加者を必ず引き付ける事となる。 呼び寄せられた人間が善人ならば、別段問題はない。 だが、もし殺し合いに乗ってしまった参加者を呼び寄せてしまったら―――、 もし殺人に対し何ら罪悪感を抱かない悪人を呼び寄せてしまったら―――、 そうすれば、少年にとって致命的な事態に進展する可能性さえ、出て来る。 そんな事を許す訳にはいかない。 何とかして少年の行為を止めなければいけない。 とはいえ、単純に声を掛けたところで、今のあの少年が止まってくれるとは思えない。 現状を見る限り、前方に立ち塞がったとしても気付くかどうか。 下手すれば激突する可能性すら有り得る。 少年の走行速度は人間離れしたもの。 あの速度で激突したとすれば……自分も少年も無傷という訳にはいかないだろう。 「……なら、ちょっと乱暴な手段になっちゃうけど……」 結局、なのはは強行手段に打って出る事にした。 多少無理やり感はあるものの現状では一番安全であろう策。 なのはも、その策を行う為に疾走を始める。 少年の速度に負けじと、魔法さえ行使し全力で駆け始める。 相棒のデバイスが無いとはいえ、多少の肉体強化と飛行魔法は使用可能。 きちんとしたルートを通過すれば、あの速度であっても先回りする事はできる筈だ。 先回さえできれば、後は少年が来るのをゆっくりと待ち構えて『策』を行使するだけ。 おそらく『策』自体が破られる事はない筈……ならば一番の問題はあの少年の行く先に回り込めるかどうか。 それが唯一の問題であった。 だからこそ、その問題を解消する為に、少年の身を危険から守る為に、なのはは全力全開で脚を動かすのだ。 (間に合って……!) 暗闇の森林が線となり、なのはの視界を流れていく。 肉体強化と飛行魔法との組み合わせによりもたらされたスピードは、これまた人外の域。 獣の如く敏捷性で森林を走破していき―――そして、遂に目的の地点へと到達する。 地なりのような足音は―――まだ森林の彼方に在る。 間に合った。 肉体と魔力を限界まで活用した事が幸いしたのか、なのははルフィの先へと回り込む事に成功したのだ。 「よし、後は……」 乱れる呼吸を整えながらなのはは木陰へと身を隠す。 樹木によたれ掛かりながら大きく深呼吸。 魔力と意識を集中させながら、ルフィの到達を待ち構える。 足音と叫び声は徐々に近付いてきており、あと数分もすれば、ルフィがなのはの前へとその姿を見せるだろう。 「来た……!」 ―――数分後、魔導師の見立て通りに、少年は現れた。 とてつもないスピードでコチラへと迫ってくる少年。 なのはは、少年の様子を観察しながら更に意識を集中させていく。 チャンスは一度。少年が自分の眼前を通り過ぎるその瞬間。 徐々に迫ってくる好機を逃さぬよう、なのははジッと少年を見詰め、そして――― (今ッ!!) ―――集中させた魔力を術へと変換し、発動する。 同時にルフィの身体へと巻き付く、拘束魔法と類される光の縄。 バインドが、疾走するルフィを雁字搦めに絡めとり、その動きを止める。 「え?」 ―――が、その勢いを殺しきる事は出来なかった。 高速で進んでいたものに急激なブレーキを掛ければどうなるかは、皆さんご存知の筈だ。 唐突な急減速に重心の位置がブレ、体勢が崩れ、当然転ぶ。 俗に云う慣性の法則。 それは勿論、化け物並の身体能力を持つルフィであっても例外でなく―――少年は哀れにも地面と熱烈なキスをかます事となった。 「うぉわわわわわわわわわわうべ!!」 素っ頓狂な声と共に、盛大な土煙を上げながらずっ転ぶルフィ。 その勢いが影響してか、地面に当たったところでルフィの身体が止まる事はない。 身体をバインドに拘束されたままゴロゴロと転がって、ルフィは真っ暗な森林の中へと姿を消す。 「そ、そんな……!?」 眼前で起こった一連の流れに驚愕するのは、なのはも同様であった。 慣性の法則という極常識的な事象に、なのはの考えが至らなかった訳ではない。 なのはが発現した拘束魔法―――レストリクトリックは、敵を拘束しその場に固定する効果を持っている。 倒壊する巨大な石像すら拘束しうるその力があれば、ルフィの動きもその勢いも束縛できると考えていたのだが……なのはの予想は虚しくも裏切られた。 レストリクトリックの拘束力すらも超越する程に、ルフィの突撃力は凄まじいものだったのだ。 「だ、大丈夫ですか!?」 青ざめた顔でなのはが、土煙を掻き分け惨劇の場へと踏み込む。 無惨にもへし折れた木々と異常なまでに削れた地面に、思わず言葉を失うなのは。 あれだけの勢いで倒れ込んだのだ、あの少年が無傷で済むとは思えない。 下手をすれば命にさえ関わっているかもしれない―――なのはの表情から見る見る内に血の気が引いていった。 「そ、そんな……わ、私……」 なのはの喉から絶望に震えた声が漏れる。 段々に晴れていく土煙。 脳裏をよぎる最悪の光景。 破壊し尽くされたそこに倒れる、ボロボロとなった傷だらけの少年。 手足は曲がってはいけない方向に捻じくれ、呼吸をしている様子はない。 ―――そんな光景が脳裏をよぎり、なのはの肌が粟立つ。 まさか、という罪悪感が胸の奥からせり上がっていく。 だが、以外にも――― 「あー、ビックリした。何が起きたんだ……って、うわ!? 何だこの変な縄!? うお、千切れねーし!! すげー何だこれすげー!!」 ―――少年はピンピンしていた。 それはもう、さっきまで心配していたなのはが拍子抜けするぐらいにピンピンした姿で、少年は一人盛り上がっていた。 初めて見る光の縄を見て、子供のように瞳を煌めかせ少年が叫ぶ。 「って今はそれどころじゃねえ!! あの熊みてぇな男をぶっ飛ばさなくちゃいけねーんだ!! こんな訳分かんねー不思議縄ぶち切ってやる!!」 加えて力だけで無理矢理にバインドを破ろうとする始末。 数秒まで殺人を犯してしまったとさえ考えていたなのはは、その光景に茫然とするばかり。 「うおおおおおおお!! 何だこりゃ、千切れないぞ!?」 茫然自失のなのはの眼前にて、少年は純粋に力だけでバインドを打ち破ろうと試みる。 もう、何が何だか分からない……それが現在のなのはの心境であった。 「あ、あの……」 「ちきしょう何だこれ? 全然ほどけねえ…………ん? 誰だ、お前?」 混乱の真っ只中であったが、なのはは何とか少年へと語り掛ける事ができた。 少年も騒がしく暴れ回っていたものの、その言葉に反応してくれる。 「わ、私は高町なのは。よろしくね」 「おう! おれはルフィ! よろしくな!」 「そう、ルフィ君って言うんだ……じゃなくて! あの……その……凄い勢いで転んでたけど、大丈夫なの?」 「全然大丈夫だぞ。おれ、ゴムだし」 「そ、そうなんだ、ゴムかあ…………ゴム?」 「それよりもよお、この変な縄解くの手伝ってくれねえか? やんなきゃいけねぇ事があるんだよ」 「え? あ、うん……」 ところどころに疑惑の色わ感じつつも、なのはは取り敢えずバインドを解除する事にした。 軽く指先を振るうだけで、ルフィを拘束していた戒めは消失する。 「おぉ! 不思議縄が消えた! 凄ぇな、お前!」 どうやらルフィは、なのは自身が術を発生させた本人だという事に気付いていないようであった。 自分が渾身を込めても破れなかった縄を容易く消した事に、純粋な驚きを見せ関心している。 「ありがとな! じゃ、おれ行くから!」 「ちょ、ちょっと待って! あんまり騒ぐと危ない人まで呼び寄せちゃうよ!」 忙しなく動き続けるルフィを何とか呼び止め、なのはは漸く本分を伝達できた。 しかしながら、対するルフィからは大した反応も見られない。 ニシシと笑顔を浮かべ、その場で小走りをしながらなのはへと顔を向ける。 「大丈夫だ! おれは強えーから!!」 「いや、そうじゃなくて……」 どうにも話が通じない。 何処か抜けているというか、余りに猪突猛進というか、兎に角話が通じない。 なのはの口から盛大な溜め息が零れる。 「……その、ルフィ君、此処が何処だか分かってる?」 「へ? あの熊みたいな男に吹っ飛ばされたんだから……シャボンディ諸島じゃないのか? ……あれ? そういやシャボン玉がねえな。何かいつの間にか夜になってるし」 「やっぱり……殺し合いに連れて来られたこと自体に気付いてないみたいだね……」 ―――それからなのはは、先の教室で行われた一部始終と現在の状況について、たっぷりと時間を掛けてルフィへ説明した。 その全てを理解した訳ではないだろうが、一応ルフィは把握の意を示す。 なのはは思わず安堵の息を吐いていた。 「それで……ルフィ君の仲間は……?」 質問の前になのはは一枚の紙をルフィへと手渡していた。 それは全参加者の名前が記載された紙。 ルフィは無言でその紙へと目を通していく。 先程までの多感な表情と打って変わり、その表情は無表情なものだった。 「ああ、みんな呼ばれてるみてえだ」 そして一言。 それだけ言葉を返し、なのはへと参加者名簿を渡した。 数分前とは余りに対称的なその様子に、なのはは心配を覚えてしまう。 「よし! じゃあ取り敢えず飯を探しにいこう!!」 「そうだね、まずはルフィ君の仲間を探していこうか……って、飯!?」 ―――だが、次の瞬間にはその心配が杞憂であったと理解する。 陽気な笑顔を浮かべながら、両手を天へと突き上げるルフィ。 その顔には心配の『し』の字もない。 「そうだよ、取り敢えず腹一杯にしねぇと」 「で、でも仲間の皆の事は? というか食糧ならデイバックの中に……」 「ああ、あれならもう食い終わったぞ」 「い、いつの間に……」 「それに、皆なら大丈夫だよ。みんな強えーし、今までだって色んな冒険をしてきたんだ。 こんな殺し合いなんかで死ぬ訳ねえ」 そう言うルフィの瞳には欠片の不安も覗いてはいない。 一片の疑いも持たずに仲間の事を信頼している……そんな瞳。 その瞳を見詰めるだけで、ルフィと仲間達との間に在る信頼関係の厚さが読み取れる。 思わず、なのはは反論の言葉を飲み込んでしまった。 「よし、じゃあ飯屋に行くぞ!」 陽気な雄叫びと共にルフィが夜の森林へと歩き出していく。 その危機感の欠如したルフィの行動に、なのはは注意を促すよりも前に苦笑を浮かべてしまった。 こんな殺し合いの中だというのに、まるで子供のような動向。 見ているだけで無意識の内に頬が緩む……そんな不思議な雰囲気を纏った人間。 今まで出会ったどんな人とも違ったタイプの人間であった。 一笑と共になのはもルフィの後を追って歩き始める。 こうして魔導師と海賊は出会い、殺し合いの渦中へと足を踏み入れた。 彼等はまだ知らない。 これから先にどれだけの苦難が待ち受けるかを、二人は知らない。 知らないが故に、二人は今笑っていられる。 現実の冷徹さに、バトルロワイアルの中に隠された狂気に、彼等が気付くのはまた別の話。 「そういえばゴムってどういう事なの?」 「ゴム?」 「ほら、さっき『おれ、ゴムだから』みたいな事言ってたでしょ」 「あぁ、子供の頃に悪魔の実食っちまったんだよ、ほら」 「え……顔が……ええええええええええええええ!!?」 ―――そして、夜の森林に高町なのはの絶叫が響き渡った事も、また別の話。 【一日目/深夜/E-5・森林】 【高町なのは@リリカルなのはStrikerS】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 0:か……顔が伸びたー!? 1:殺し合いを止める 2:ルフィと行動しながらルフィの仲間達や他の参加者達を探す 3:皆なら大丈夫だと思うけど…… 【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 1:なのはと一緒に食糧を探しにいく 2:仲間とも合流したい |Back:[[ヒカリノソトヘ]]|時系列順で読む|Next:[[野良犬の牙はいまだ抜けず]]| |Back:[[ヒカリノソトヘ]]|投下順で読む|Next:[[野良犬の牙はいまだ抜けず]]| |&color(cyan){GAME START}|高町なのは|Next:[[マーメイド・ダンス]]| |&color(cyan){GAME START}|モンキー・D・ルフィ|Next:[[マーメイド・ダンス]]|

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