狂笑

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第五話≪狂笑≫ エリアG-1にある木造校舎の学校。 校庭には雑草が生え、所々窓ガラスが割れ、荒廃の様相を呈していた。 恐らくかなり前に廃校になったのだろう。 校舎二階にある被服室の奥、作業机の陰で、 息を切らしながら悪態を付く筋肉質の獅子獣人の男がいた。 「糞がぁ!! 何で当たらねえんだよ!!」 学校内の被服室で、俺――藤倉直人(ふじくら・なおと)は、 作業机の陰に隠れて自分の支給武器であるリボルバーに弾を装填していた。 何故かって? 決まっているだろ。 たった今、別の参加者と撃ち合いをしてきた所なんだよ! 最初殺し合いって聞いた時、正直言って俺は怖かった。 ボクサーとして、拳でどんな困難でも立ち向かってきたが、 今回ばかりはもう駄目なんじゃないかと思った。 だがしかし、デイパックの中に入っていた大型のリボルバー銃を見た時、 「やれる!」と思ったね。 参加者の中に知り合いはいない、脱出は無理。 なら、優勝を目指そうと決心したんだ。 それで、銃を持ちながら他の参加者を探していたら、 町中で見るからに普通そうな男を見つけたんだ。 見つからないように、背後から銃を構えて、 男の背中に向けて銃撃した――はずだった。 ところが弾は完全に男を逸れて、 男の向こうにあった民家の壁に穴を開けた。しっかり狙ったはずなのに。 それで、男がこっちに気付いた。 悪かったのは、男も銃を持っていた事だった。 そこからは完全に銃撃戦。いつか見た欧米物の警察映画の銃撃戦の音を 生で聞ける事になるとは。 車や建物の陰に隠れながら、男目掛けて何度も発砲した。 しかし、当たらない。どうやっても。 何回やっても、何回やっても、あ~い~つ~にた~ま~が当た~らない~よ~♪ って歌ってる場合じゃねえええよ!! 何やってんだ俺!! それで、とりあえず体勢立て直そうと思って、 このボロ校舎に逃げ込んできたって訳だ。 俺は何とか無傷だが、かなり走ったもんで疲れちまった……。 「どうして当たらねぇんだ……俺の腕が悪いからか」 しかし、一発ぐらいヒットしても良さそうなもんだがなぁ。 カツン……カツン……。 と、その時、廊下の方から足音が聞こえてきた。 反射的に俺は息を潜める。 足音は徐々に近付き……俺がいる被服室内に入ってきた。 俺は必死に息を潜めるが、心臓の心拍数はかなりのスピードで 上がってきている。 作業机の陰からゆっくり顔を出して、足音の主を確認した。 黒髪で長いモミアゲ、白いTシャツ、濃い灰色のズボンの若い人間の男。 (……あいつ!) 間違い無い。さっきまで俺が戦っていた男だ。 ここまで追ってきたのか……しつこい奴だ。まあ、先に仕掛けたのは俺だが。 (チッ……来るなら来いよ。近付いてきた時に、 至近距離からブチ込んでやるぜ) 俺はリボルバーを構えながら、男が近付いてくるの待った。 もう少し近付いてきたら、急に飛び出して銃弾をお見舞いしようと 思っていたんだ。 足音が近付く。一歩、二歩、三歩、四歩……。 不意に足音が止まった。 (? どうしたんだ、早く来いよ) そう思った俺の視界に、何かが飛んできた。 ガラスの瓶に見えたそれは、俺の正面の壁に跳ね返り、 そして俺の足元の床で弾け――。 人間の男――高野雅行(たかの・まさゆき)は、 自分の支給武器である自動拳銃を右手に持ち、他参加者を探していた。 目的はただ一つ、参加者全員の殺害である。 雅行は普段は温厚で真面目で心優しい青年として、 周囲の人から認識されていた。 コンピューター関連の企業に勤め、 仕事態度も上司・同僚・後輩との関係も良好。 更に簡単に説明を受けさえすれば、車の修理、銃器の扱い方、 プログラミングなど、 ありとあらゆる事を難なくこなせる天才肌だった。 決して飾らず、驕らず、謙虚でもあった彼は周囲の人間から とても慕われていた。 だが、彼にはもう一つの顔があった。 雅行は殺人に無上の優越感と快楽を覚える、生粋の快楽殺人者だった。 19歳の頃に初めての殺人を犯してから、25歳になる今日まで、 老若男女問わず、実に30人以上の人命を奪った。 殺し方も様々だった。刺し殺す、絞め殺す、撃ち殺す、殴り殺す、 溺れさせる、失血させる、生きたまま解体する――。 そして殺した後、被害者の死体を見て、悦に浸るのだ。 被害者の死体は誰にも見付からず、気付かれないように綿密に計画を立て 処理する。 彼の友人や知人にも、彼の被害者はいた。 だが、巧妙な証拠隠滅、そして普段の彼の人望の高さから、 彼を犯人と疑う者など誰一人としていなかった。 雅行が証拠隠滅を図るのは決して逮捕されるのが怖かった訳では無い。 捕まってしまえば、人を殺せなくなるから――それが理由だった。 そして、自分が殺人が公然と許される ゲームに参加させられたと分かった時、 彼は声にこそ出さなかったが、狂喜した。 ここなら好きなだけ殺す事が出来る。優勝などどうでもいいが、 参加者がいる限り、自由に殺人が行えるのだ。 そしてゲームが始まり、彼は自動拳銃――グロック19を持ちながら、 他の参加者を探していた。 その時、銃声と共に前方の民家の壁に小さな穴が空いた。 後ろを振り向くと、そこには銃を構えた筋肉質の獅子獣人の男の姿が。 ――見つけた。 雅行は初の獲物を確認し、喜んだ。 そして、何の躊躇も無くグロックを構え、獅子獣人に向け発砲した。 だが、上手く当たらない。思えばいつも自分は至近距離から撃っていた。 遠距離で撃った事などほとんど無かった事を思い出した。 獅子獣人も撃ち返してくるが、向こうも遠距離射撃は不得手なのか、 放たれた弾は全く当たらなかった。 そしてしばらく、激しい銃撃の応酬が繰り広げられた。 お互い何とか無傷のまま、獅子獣人の男は荒廃した木造校舎に侵入した。 雅行も後を追って中へ入る。 校舎の中は埃やカビ、蜘蛛の巣で薄汚れ、何年も使われていない様子だった。 しかし彼にとってはそんな事どうでも良く、獅子獣人の姿を探す。 所々腐り、抜けかかっている床に、僅かに足跡が残っている。 床に埃が積もっているため、足跡が付くようになっていた。 足跡はつい最近――それも今さっき付いた物だ。それは階段を上がり、 二階へと続いていた。 他に足跡は確認出来ない。雅行は足跡を辿り、足跡の主を探した。 そして辿り着いたのが被服室だった。手前の扉は打ち付けられており、 奥の方の扉が開いていた。 足跡もそこに続いている。 被服室に入ると、奥の作業机の所から気配を感じた。 間違い無い、そこにいる。 雅行は、デイパックの中から何やら薬品の瓶を取り出した。 ラベルに書かれている薬品名は――”濃硫酸”。 これは雅行のもう一つの支給品だった。グロック19と濃硫酸の瓶三本が、 彼の支給品だった。 雅行は気配のする作業机に数歩近付き、その気配に向かって、 濃硫酸の瓶を投げた。 放物線を描いた濃硫酸の瓶は、奥の壁に当たり、 そのまま床に落ち――パリンと弾けた。 ジュウウウウウ、と、何かが溶ける音がした。 直後。 「がああああああああ!!」 耳を劈くような男の悲鳴と共に、作業机の陰から足から煙を上げる 獅子獣人の男が飛び出してきた。 「がああああああああ!!」 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 足が、足が焼けるううううう!! 飛んできた瓶が床に落ちて割れて、中身の液体が飛び出て床と俺の左足に かかった。 直後、俺の足が、煙を上げて――溶け出した。 その余りの苦痛に、俺は息を潜めて隠れている事など完全に忘れ、 作業机の陰から飛び出してしまった。 「あっちいい!! あっちいいよおお!! ……あ?」 俺の正面に、銃口をこっちに向けた、さっきの男の姿が。 直後、男の持っている銃が火を噴き、 胴体に焼けた火箸を何本も刺されたかのような激痛が走った。 喉の奥から、熱い、鉄の味がする液体が溢れ出る。 身体中から力が抜け、俺は背後の壁にもたれるようにして 座り込んでしまった。 いや、「座った形に倒れ込んだ」とでも言うべきか。 いつか、試合相手にストレートで一撃KOされた時の感覚に似ていたが、 今回はストレートをかまされた訳では無い。 身体の感覚がほとんど無くなっていたが、胸元や腹から熱い何かが 流れ出ているのは分かった。 視線を下に持っていくと、自分の胴体に数個穴が空き、 そこからどす黒い血液が止め処なく流れ出ている。 ああ、そうか。自分は撃たれたのか。 コツ。 前方から、足音が聞こえた。 コツ。 一歩、一歩、ゆっくりと。 コツ。 近付きいて来て、 コツ……。 俺のすぐ目の前でそれは止まった。 意識も朦朧としていたが、最後の力を振り絞り、顔を上に上げた。 そして、見えたのは、俺の顔面に突き付けられた銃口と――。 笑みを浮かべる、男の顔。 雅行は被服室を後にした。 右手にはグロック19、そして左手には、獅子獣人が持っていた リボルバー拳銃――S&WM29が握られ、 着ている衣服には、微かに赤い斑点模様が見て取れた。 階段を下り、昇降口から校庭に出て、外の空気を吸う。 そして歩き出す。次なる”贄”を探すため。 その瞳に邪悪な光を湛えながら、雅行は学校を後にした。 学校の被服室の中には今は誰もいない。 左足に大火傷を負い、胴体に複数の小さな穴があり、 そして額に一つの穴が空き、後ろの壁を血と脳漿で汚した、 ”誰か”だった”物”はあるけれど。 【一日目/明朝/G-1学校付近】 【高野雅行】 [状態]:健康、愉悦、返り血(少) [装備]:右手=グロック19(5/15)、左手=S&WM29(6/6) [所持品]:基本支給品一式、グロック19の予備マガジン(15×8)、 44マグナム弾(43)、濃硫酸(2)、藤倉直人の水と食糧 [思考・行動] 基本:殺し合いを楽しむ。 1:他参加者を見つけ次第、殺す。 [備考] ※特に優勝を目指す訳では無く、純粋に殺しを楽しむのが目的のようです。 &color(red){【藤倉直人  死亡】} &color(red){【残り48人】} ※G-1学校二階の被服室に藤倉直人の死体と藤倉直人のデイパック (水と食糧抜きの基本支給品一式入り)が放置されています。 ※G-1学校内に昇降口から二階被服室まで続く藤倉直人と高野雅行の 二人分の足跡が残っています。 ※屋内で発砲したため、G-1学校周辺に銃声は余り漏れなかったようです。 ※G-1学校周辺で銃撃戦があったため、エリアG-1周辺で銃声が響きました。 |Back:004[[男は邁進する――欲望のために]]|時系列順で読む|Next:006[[廻れ、廻れ]]| |Back:004[[男は邁進する――欲望のために]]|投下順で読む|Next:006[[廻れ、廻れ]]| |&color(cyan){GAME START}|藤倉直人|&color(red){死亡}| |&color(cyan){GAME START}|高野雅行|Next:[[]]|
第五話≪狂笑≫ エリアG-1にある木造校舎の学校。 校庭には雑草が生え、所々窓ガラスが割れ、荒廃の様相を呈していた。 恐らくかなり前に廃校になったのだろう。 校舎二階にある被服室の奥、作業机の陰で、 息を切らしながら悪態を付く筋肉質の獅子獣人の男がいた。 「糞がぁ!! 何で当たらねえんだよ!!」 学校内の被服室で、俺――藤倉直人(ふじくら・なおと)は、 作業机の陰に隠れて自分の支給武器であるリボルバーに弾を装填していた。 何故かって? 決まっているだろ。 たった今、別の参加者と撃ち合いをしてきた所なんだよ! 最初殺し合いって聞いた時、正直言って俺は怖かった。 ボクサーとして、拳でどんな困難でも立ち向かってきたが、 今回ばかりはもう駄目なんじゃないかと思った。 だがしかし、デイパックの中に入っていた大型のリボルバー銃を見た時、 「やれる!」と思ったね。 参加者の中に知り合いはいない、脱出は無理。 なら、優勝を目指そうと決心したんだ。 それで、銃を持ちながら他の参加者を探していたら、 町中で見るからに普通そうな男を見つけたんだ。 見つからないように、背後から銃を構えて、 男の背中に向けて銃撃した――はずだった。 ところが弾は完全に男を逸れて、 男の向こうにあった民家の壁に穴を開けた。しっかり狙ったはずなのに。 それで、男がこっちに気付いた。 悪かったのは、男も銃を持っていた事だった。 そこからは完全に銃撃戦。いつか見た欧米物の警察映画の銃撃戦の音を 生で聞ける事になるとは。 車や建物の陰に隠れながら、男目掛けて何度も発砲した。 しかし、当たらない。どうやっても。 何回やっても、何回やっても、あ~い~つ~にた~ま~が当た~らない~よ~♪ って歌ってる場合じゃねえええよ!! 何やってんだ俺!! それで、とりあえず体勢立て直そうと思って、 このボロ校舎に逃げ込んできたって訳だ。 俺は何とか無傷だが、かなり走ったもんで疲れちまった……。 「どうして当たらねぇんだ……俺の腕が悪いからか」 しかし、一発ぐらいヒットしても良さそうなもんだがなぁ。 カツン……カツン……。 と、その時、廊下の方から足音が聞こえてきた。 反射的に俺は息を潜める。 足音は徐々に近付き……俺がいる被服室内に入ってきた。 俺は必死に息を潜めるが、心臓の心拍数はかなりのスピードで 上がってきている。 作業机の陰からゆっくり顔を出して、足音の主を確認した。 黒髪で長いモミアゲ、白いTシャツ、濃い灰色のズボンの若い人間の男。 (……あいつ!) 間違い無い。さっきまで俺が戦っていた男だ。 ここまで追ってきたのか……しつこい奴だ。まあ、先に仕掛けたのは俺だが。 (チッ……来るなら来いよ。近付いてきた時に、 至近距離からブチ込んでやるぜ) 俺はリボルバーを構えながら、男が近付いてくるの待った。 もう少し近付いてきたら、急に飛び出して銃弾をお見舞いしようと 思っていたんだ。 足音が近付く。一歩、二歩、三歩、四歩……。 不意に足音が止まった。 (? どうしたんだ、早く来いよ) そう思った俺の視界に、何かが飛んできた。 ガラスの瓶に見えたそれは、俺の正面の壁に跳ね返り、 そして俺の足元の床で弾け――。 人間の男――高野雅行(たかの・まさゆき)は、 自分の支給武器である自動拳銃を右手に持ち、他参加者を探していた。 目的はただ一つ、参加者全員の殺害である。 雅行は普段は温厚で真面目で心優しい青年として、 周囲の人から認識されていた。 コンピューター関連の企業に勤め、 仕事態度も上司・同僚・後輩との関係も良好。 更に簡単に説明を受けさえすれば、車の修理、銃器の扱い方、 プログラミングなど、 ありとあらゆる事を難なくこなせる天才肌だった。 決して飾らず、驕らず、謙虚でもあった彼は周囲の人間から とても慕われていた。 だが、彼にはもう一つの顔があった。 雅行は殺人に無上の優越感と快楽を覚える、生粋の快楽殺人者だった。 19歳の頃に初めての殺人を犯してから、25歳になる今日まで、 老若男女問わず、実に30人以上の人命を奪った。 殺し方も様々だった。刺し殺す、絞め殺す、撃ち殺す、殴り殺す、 溺れさせる、失血させる、生きたまま解体する――。 そして殺した後、被害者の死体を見て、悦に浸るのだ。 被害者の死体は誰にも見付からず、気付かれないように綿密に計画を立て 処理する。 彼の友人や知人にも、彼の被害者はいた。 だが、巧妙な証拠隠滅、そして普段の彼の人望の高さから、 彼を犯人と疑う者など誰一人としていなかった。 雅行が証拠隠滅を図るのは決して逮捕されるのが怖かった訳では無い。 捕まってしまえば、人を殺せなくなるから――それが理由だった。 そして、自分が殺人が公然と許される ゲームに参加させられたと分かった時、 彼は声にこそ出さなかったが、狂喜した。 ここなら好きなだけ殺す事が出来る。優勝などどうでもいいが、 参加者がいる限り、自由に殺人が行えるのだ。 そしてゲームが始まり、彼は自動拳銃――グロック19を持ちながら、 他の参加者を探していた。 その時、銃声と共に前方の民家の壁に小さな穴が空いた。 後ろを振り向くと、そこには銃を構えた筋肉質の獅子獣人の男の姿が。 ――見つけた。 雅行は初の獲物を確認し、喜んだ。 そして、何の躊躇も無くグロックを構え、獅子獣人に向け発砲した。 だが、上手く当たらない。思えばいつも自分は至近距離から撃っていた。 遠距離で撃った事などほとんど無かった事を思い出した。 獅子獣人も撃ち返してくるが、向こうも遠距離射撃は不得手なのか、 放たれた弾は全く当たらなかった。 そしてしばらく、激しい銃撃の応酬が繰り広げられた。 お互い何とか無傷のまま、獅子獣人の男は荒廃した木造校舎に侵入した。 雅行も後を追って中へ入る。 校舎の中は埃やカビ、蜘蛛の巣で薄汚れ、何年も使われていない様子だった。 しかし彼にとってはそんな事どうでも良く、獅子獣人の姿を探す。 所々腐り、抜けかかっている床に、僅かに足跡が残っている。 床に埃が積もっているため、足跡が付くようになっていた。 足跡はつい最近――それも今さっき付いた物だ。それは階段を上がり、 二階へと続いていた。 他に足跡は確認出来ない。雅行は足跡を辿り、足跡の主を探した。 そして辿り着いたのが被服室だった。手前の扉は打ち付けられており、 奥の方の扉が開いていた。 足跡もそこに続いている。 被服室に入ると、奥の作業机の所から気配を感じた。 間違い無い、そこにいる。 雅行は、デイパックの中から何やら薬品の瓶を取り出した。 ラベルに書かれている薬品名は――”濃硫酸”。 これは雅行のもう一つの支給品だった。グロック19と濃硫酸の瓶三本が、 彼の支給品だった。 雅行は気配のする作業机に数歩近付き、その気配に向かって、 濃硫酸の瓶を投げた。 放物線を描いた濃硫酸の瓶は、奥の壁に当たり、 そのまま床に落ち――パリンと弾けた。 ジュウウウウウ、と、何かが溶ける音がした。 直後。 「がああああああああ!!」 耳を劈くような男の悲鳴と共に、作業机の陰から足から煙を上げる 獅子獣人の男が飛び出してきた。 「がああああああああ!!」 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 足が、足が焼けるううううう!! 飛んできた瓶が床に落ちて割れて、中身の液体が飛び出て床と俺の左足に かかった。 直後、俺の足が、煙を上げて――溶け出した。 その余りの苦痛に、俺は息を潜めて隠れている事など完全に忘れ、 作業机の陰から飛び出してしまった。 「あっちいい!! あっちいいよおお!! ……あ?」 俺の正面に、銃口をこっちに向けた、さっきの男の姿が。 直後、男の持っている銃が火を噴き、 胴体に焼けた火箸を何本も刺されたかのような激痛が走った。 喉の奥から、熱い、鉄の味がする液体が溢れ出る。 身体中から力が抜け、俺は背後の壁にもたれるようにして 座り込んでしまった。 いや、「座った形に倒れ込んだ」とでも言うべきか。 いつか、試合相手にストレートで一撃KOされた時の感覚に似ていたが、 今回はストレートをかまされた訳では無い。 身体の感覚がほとんど無くなっていたが、胸元や腹から熱い何かが 流れ出ているのは分かった。 視線を下に持っていくと、自分の胴体に数個穴が空き、 そこからどす黒い血液が止め処なく流れ出ている。 ああ、そうか。自分は撃たれたのか。 コツ。 前方から、足音が聞こえた。 コツ。 一歩、一歩、ゆっくりと。 コツ。 近付きいて来て、 コツ……。 俺のすぐ目の前でそれは止まった。 意識も朦朧としていたが、最後の力を振り絞り、顔を上に上げた。 そして、見えたのは、俺の顔面に突き付けられた銃口と――。 笑みを浮かべる、男の顔。 雅行は被服室を後にした。 右手にはグロック19、そして左手には、獅子獣人が持っていた リボルバー拳銃――S&WM29が握られ、 着ている衣服には、微かに赤い斑点模様が見て取れた。 階段を下り、昇降口から校庭に出て、外の空気を吸う。 そして歩き出す。次なる”贄”を探すため。 その瞳に邪悪な光を湛えながら、雅行は学校を後にした。 学校の被服室の中には今は誰もいない。 左足に大火傷を負い、胴体に複数の小さな穴があり、 そして額に一つの穴が空き、後ろの壁を血と脳漿で汚した、 ”誰か”だった”物”はあるけれど。 【一日目/明朝/G-1学校付近】 【高野雅行】 [状態]:健康、愉悦、返り血(少) [装備]:右手=グロック19(5/15)、左手=S&WM29(6/6) [所持品]:基本支給品一式、グロック19の予備マガジン(15×8)、 44マグナム弾(43)、濃硫酸(2)、藤倉直人の水と食糧 [思考・行動] 基本:殺し合いを楽しむ。 1:他参加者を見つけ次第、殺す。 [備考] ※特に優勝を目指す訳では無く、純粋に殺しを楽しむのが目的のようです。 &color(red){【藤倉直人  死亡】} &color(red){【残り48人】} ※G-1学校二階の被服室に藤倉直人の死体と藤倉直人のデイパック (水と食糧抜きの基本支給品一式入り)が放置されています。 ※G-1学校内に昇降口から二階被服室まで続く藤倉直人と高野雅行の 二人分の足跡が残っています。 ※屋内で発砲したため、G-1学校周辺に銃声は余り漏れなかったようです。 ※G-1学校周辺で銃撃戦があったため、エリアG-1周辺で銃声が響きました。 |Back:004[[男は邁進する――欲望のために]]|時系列順で読む|Next:006[[廻れ、廻れ]]| |Back:004[[男は邁進する――欲望のために]]|投下順で読む|Next:006[[廻れ、廻れ]]| |&color(cyan){GAME START}|藤倉直人|&color(red){死亡}| |&color(cyan){GAME START}|高野雅行|Next:[[悪魔の判決]]|

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