「会【まじんとこたえをだすもののであい】」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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俺―――高嶺清麿が我を取り戻した時にはもう全てが終わっていた。
謎の教室にそこに集まった謎の人々、そして謎の爺さんと謎の拘束具……覚醒と共に繰り広げられた光景に、冷静という言葉が何処かに吹き飛んでしまっていた。
呆然とした状態のまま謎の爺さん・兵藤和尊の話を聞き、呆然とした状態のまま男の首輪が爆発する瞬間を見ていた。
そして気付けば、この閑散とした無人の市街地に立っている。
「夢じゃあ……ないよな」
思わず頬を抓り上げてみたが、残念な事に痛覚はあった。
痛い……つまりは夢ではないという事。
冷や汗が、全身を包む。
「……どうなってやがる……」
魔界の王を決める戦いにも、パートナーとしてだが参加している。
40を越える千年前の魔物の軍勢とも戦ったし、富士山よりも巨大な魔物とだって戦った。
それら、まるで夢のような経験を経て、俺の精神力は相当に鍛えられたと思う。
だが、それでも、今回の事件には言いようのない不気味さを感じた。
首輪型の爆弾により命が握られてる現状、あの兵藤という男の狂気に満ちた雰囲気……今までの戦いとはまた別種の不安感が募る。
「……此処はどこだ……この首輪をどうやって解除する……さっきの人は本当に死んじまったのか……兵藤とかいう爺さんは……どうすれば脱出できる……」
募る不安感と比例するように頭を様々な疑問が支配する。
殺し合いを止めさせるには、そして脱出を果たすには、必要不可欠な疑問の数々。
だが疑問を浮かべどその『答え』は一つたりとも思い描けない。
当たり前だ、余りに情報が足りなすぎる。
いや、現状で有してる情報など皆無といっても良い。
このような状況で脱出への『答え』など出せる訳がなi…………ん?
……『答え』……?
「……そうだ、俺は何をしているんだ……『答えを出す者(アンサートーカー)』の能力を使えば良いじゃないか! そうすればこんな首輪なんて……!」
余程パニックに陥っていたのだろう。自身が持つ能力すら忘れていた。
あらゆる疑問の全てに『答え』を出す事ができる強力な能力――『答えを出す者(アンサートーカー)』。
数ヶ月前はその強大すぎる力が故に、窮地でしか発動しなかった能力であったが、今は違う。
クリアとの戦いに向けた特訓で、何時でも使用できるようになっている。
異常すぎる事態に陥っていたとはいえ、何故この力の存在を忘れていたのか……我ながら呆れてしまう。
「よし……いくぞ」
デュフォーから教導された呼吸法を行使しつつ、意識を研ぎ澄ましていく。
吸って、吐いて
吸って、吐いて
吸って、吐いて
そして……発動。
栓が抜けたかのように思考回路が鮮明になっていく。
―――成功だ。
この不可思議な感覚こそがアンサートーカーへと意識が切り替わった瞬間。
あとは自身へと疑問を問い掛けるだけで良い。
たったそれだけで自ずと『答え』が浮かび上がるのだ。
(まず最初の問いだ……『この首輪はどうやれば解除できる?』)
―――俺が異変に気付いたのは、この問いからたっぷり十秒ほど経過した時だった。
思考の中に漂う疑問。
幾ら待てども『答え』は出て来ない。
疑問だけが宙ぶらりんの状態で浮遊している。
……まさか、なんで、
「……アンサートーカーが封じられてる……」
思考が沸騰しかけた。
アンサートーカー自体は確実に発動している。
なのに『答え』が浮かばない。
首輪に関する事だけではない……会場の脱出に関する事や、兵藤に関する事も『答え』が出ない。
まるでブレーカーが落ちてしまったかのように、それら質問に対してアンサートーカーの力が働かないのだ。
「そんな……アンサートーカーの力に干渉するなんて普通の技術力……いや、魔界の技術を使ったって不可能な筈だ……。それがどうして……!?」
訳が分からなかった。
どんな技術を用いればこんな事が起こせるのか、想像する事すら出来ない。
アンサートーカーの能力も『答え』を教えてはくれない。
「くそっ、どうなってやがる……。全ての能力が使えないのか? それとも首輪や脱出に関する事だけ? 有効範囲を見極めなくては……」
脳内に様々な種類の疑問を並べていく。
この会場は何処にあるのか? ―――回答なし。
この殺し合いには何人の人々が参加させられてるのか? ―――回答あり・八十二人
参加者達の名前は? ―――回答なし
殺し合いに乗った者はいるのか? ―――回答あり・いる
殺し合いに乗った者の人数、名前、外見的特徴は? ―――全ての疑問に回答なし
現時点で死者は出ているのか? ―――回答なし
(くっ、やはり相当に制限されている……。この殺し合いの核心に迫る『答え』が全く浮かばない……!)
完全に手詰まりだった。
アンサートーカーが使えない今、自分は頭が良いだけの中学生。
この殺し合いを打開するには力も、情報も、もしかしたら技術さえも足りないかもしれない。
(どうする……どうする……どうすれば良い……)
頭を抱え考える。だが、何も浮かばない。
『答え』は勿論、打開へのアイディアすら湧き上がらない。
「……なら、探し回ってやる……首輪の解除法を、脱出の方法を……!」
―――だがこの窮地に陥って尚、諦めという感情は微塵も存在しなかった。
今までだって無理な状況は山のようにあったのだ。
その無理難題を打ち破ってきたのは仲間達の力。
一人一人が無力だとしても、全員で力を合わせればどんな壁であろうと乗り越えられる。
それは、この『ゲーム』とやらでも同様の筈。
アンサートーカーが制限されていようと、その『答え』を導き、達成する事は可能な筈だ。
「やるぞ……絶対に元の世界に帰る―――「そこのあなた、少し良いですか?」―――んだ!」
――と、決意の声を上げたその時だった。
暗闇の市街地から、その男が現れたのは―――
■ □ ■ □
男は、顔に浮かぶ柔らかな微笑みとは裏腹の、冷酷な瞳で眼前の少年を観察していた。
男は知っている。
人間は成長していくものだと、人間は進化していくものだと、男はこれまでの経験から知っていた。
「そう警戒しなくても大丈夫ですよ。私はこんなゲームで人殺しになるつもりはありません」
だから、男は猫を被り青年に接触した。
この『ゲーム』に仕組まれた『謎』を食べる為に、その為の協力者を得る為に、男は青年を観察する。
手駒と成りうるか否か、成長の可能性はあるか否か、男は見極めていた。
「……アンタは……」
男の微笑みを前にしても、やはり青年は警戒を解こうとしない。
変わらぬ……いや、その警戒心は増長しているようにすら見える。
当然だろう。
ここは殺し合いの場なのだ。寧ろこれ位の警戒心がなくては話にもならない。
「ああ、申し遅れました。僕の名は脳噛ネウロといいます。桂木弥子魔界探偵事務所で働かせてもらってる、しがない助手です」
男―――脳噛ネウロは、青年の警戒心を解く為に、自身が隠れ蓑として活用している少女の名を口にした。
数々の事件を解決してきた事により『桂木弥子』という名前は世界レベルで広まっている。
恐らくこのワラジ虫の名前だけでも警戒を解くには充分な筈……と考えた上での発言だったのだが―――、
「桂木弥子……魔界探偵事務所?」
男の予想に反して青年の反応が薄かった。
疑惑が宿った眼差しに変化は見受けられない。
「聞き覚えが……ありませんか?」
「……ああ……悪いんだが聞いた事もない。その探偵事務所はそんなに有名なんですか?」
「ええ、それなりに名は広まっていると思いますが……まぁ先生はワラジ虫のように影が薄いですから、覚えが無くても仕方ありませんね」
「はぁ、ワラジ虫ですか……」
その場は適当に切り抜けながらも、ネウロは確固たる疑問を感じていた。
―――アヤの事件、そしてHALの事件を経て『桂木弥子』の名前は日本中に広まった筈だ。
それこそ爆発的な勢いで、奴が街を歩けば誰もが気付く程に、弥子は有名になった。
謎が効率的に集まるよう自分がそう仕向けたのだ。
だというのにこの人間は『桂木弥子』の名前を知らないと言う。
その様子からして虚言の可能性はない。
この人間がXやシックスすらも越える演技力を持っているのなら話は別だが……。
「そういえばあなたの名前を聞いてませんでしたね。教えて貰ってもよろしいですか?」
「…………高嶺、清麿です」
「清麿君ですか、あなたは高校生で?」
「……いえ、まだ中学生ですけど」
「……ほう」
ネウロは眼前の少年―――高嶺清麿に対して感嘆の思いを覚えていた。
受け答えや警戒のレベルを見る限り、この人間はあのワラジ虫より年下とは思えない程に優秀。
その視線は唐突に現れた男への観察に集中しており、また自分と相手の持つ情報の差にも気付いている様子。
今まで出会った人間達の中でもトップクラスの優秀さを誇るかもしれない。
「……清麿君、僕と一緒に行動しませんか?
どうやらこの場には先生も連れて来られてるようですし、先生に掛かればこんな殺し合いをぶち壊すことなんて朝飯前でしょう。
……ただ殺し合いをぶち壊すには情報が余りに足りない。ですから、先生と出会う前に最低限の情報を入手しておきたいのです。
その為に、少し協力して欲しいのですが……」
「……協力、ですか……。別に良いんですけど、ただその前に一つ質問したいんですけど?」
「えぇ、勿論。何でも質問して下さい」
「じゃあ遠慮なく……」
そこで清麿は言葉を切り、捩るように半歩後退した。
その表情には今まで以上の警戒心と、僅かな逡巡が見える。
まるでその質問をして良いのかどうか、迷っているような―――清麿はネウロを睨み付ける。
そして数秒の静寂の後、ゆっくりと口を開く。
冷や汗が一滴、その頬から流れ落ちた。
「アンタ―――何者だ?」
その質問が届いた瞬間、笑顔の仮面を貼り付け続けていた魔人が、目を見開いた。
そして次の瞬間、顔に浮かぶ微笑み。
今までの優しげな物とは別種の、歪な笑顔。
その笑顔を知覚すると同時に清麿の全身が粟立ち、異様な寒気が身体を駆け巡る。
「何者……とはどういう事でしょうか?」
歪んだ笑顔をそのままにネウロが問う。
まるで子供が新しい玩具を手に入れたような、純粋な愉悦がそこにはあった。
「……俺の力でも詳細は分からない。ただアンタが人間じゃないって事だけは分かる……。おそらくアンタの正体は魔界に関係するんだろう?」
「……魔界? それは何の事でしょうか?」
「別に隠さなくても良い。魔界の王を決める戦いは、アンタも知ってるだろう? 俺はその戦いにパートナーとして参加しているんだ。
だから魔界という存在を知っている。……それにさっきの探偵事務所の名前にも魔界という言葉が入っていた。
普通の人ならただの悪趣味な名前と感じるだけかもしれないが、俺にはどうしても無関係とは思えなかった……ただそれだけだ。
……根拠なんて無い殆ど推測のようなものさ」
「……ほう」
清麿の推論を聞き、ネウロの脳内に様々な情報が行き交い始める。
自分を人外の存在だと見抜いた清麿が有する『力』についてや、魔界の王を決める戦いについて―――。
その語られてない情報と、どうしても拭いきれない食い違いが、ネウロの脳髄を刺激する。
―――この殺し合いは何かがおかしい。
清麿が持つ『力』、有り得る筈がない情報の食い違い、現在の技術レベルでは形成不可能な首輪、そして殺し合いの会場とされている『謎』の空間―――
この場には、魔人ですら驚愕に至らせる何かが所狭しと詰まっている。
「フ、ハハ……面白いぞ、この殺し合いは非常に面白い」
ゲームの内容は『悪意』に満ちている。
『首輪』や『会場』といった『謎』もある。
……最高の環境だ。
「良いだろう……貴様等が知恵を振り絞って考えた『謎』を我が輩が頂いてやる」
ただ一つ、許せない事もある。
全ての人間は自分の食糧であり自分の所有物(オモチャ)……自分だけがいじくる権利を持っているのだ。
主催者達はその所有物(オモチャ)を勝手に使い、このような『ゲーム』を開催した。
あの兵藤という人間には、少しばかりのお仕置きが必要だろう。
「……おい」
―――と、思考に入り浸っていた魔人に声を掛ける者が一人。
意を決した質問劇にも関わらずシカトという扱いを受けていた少年が、魔人を睨んでいた。
その瞳を見て魔人は思い出しかのように手を叩く。
「おお、貴様のことを忘れていたな、高嶺清麿。……確か我が輩の正体を知りたかったのだったな。
良いだろう、情報の錯綜があるとはいえ此処まで推理したのだ。褒美として教えてやる」
魔人は歪みきった笑顔のまま軽い動作で宙に跳び、聳えるビルの壁に対し『直角に』降り立った。
重力を無視して行われたそれに、人間は言葉を失い、茫然と立ち尽くす事しか出来ない。
そして魔人は擬態を止め、本当の自分を人間へと見せ付ける。
猛禽類が如く顔に、頭から伸びる二本の角、そして顔の端まで伸びる口に刃物のように尖った牙……まさに化け物と呼ぶに相応しい容貌であった。
哀れに震える人間を前に魔人は笑う。
楽しげに、愉しげに―――笑う。
「我が輩の名は脳噛ネウロ。『謎』を食糧として生きている―――魔人だ」
―――こうして『答えを出す者』は謎を食らう『魔人』と遭遇する事となった。
―――この時点では誰も知らぬ事だが、彼等はこの殺し合いにおいて重大な役割を担う事となる。
―――このバトルロワイアルに更なる混沌を齎す重大な役割を……。
【一日目/深夜/B-1・市街地】
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
1:この会場に蔓延る『謎』を食らう
2:弥子を探す
3:高嶺清麿の『力』に興味
4:人間を殺させない
[備考]
※ドSサミット以後からの参戦です
【高嶺清麿@金色のガッシュ!!】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:魔人……!?
1:首輪を解除し、殺し合いを止める
2:答えを出す者(アンサートーカー)に掛けられた制限を解きたい
[備考]
※クリアとの最終決戦以前(コミックス31巻くらい)からの参戦です
※ガッシュ達が参加させられてる事を知りません
|Back:[[未来を紡ぐための戦い]]|時系列順で読む|Next:[[ふんだりけったり]]|
|Back:[[未来を紡ぐための戦い]]|投下順で読む|Next:[[ふんだりけったり]]|
|&color(cyan){GAME START}|脳噛ネウロ|Next:|
|&color(cyan){GAME START}|高嶺清麿|Next:|
俺―――高嶺清麿が我を取り戻した時にはもう全てが終わっていた。
謎の教室にそこに集まった謎の人々、そして謎の爺さんと謎の拘束具……覚醒と共に繰り広げられた光景に、冷静という言葉が何処かに吹き飛んでしまっていた。
呆然とした状態のまま謎の爺さん・兵藤和尊の話を聞き、呆然とした状態のまま男の首輪が爆発する瞬間を見ていた。
そして気付けば、この閑散とした無人の市街地に立っている。
「夢じゃあ……ないよな」
思わず頬を抓り上げてみたが、残念な事に痛覚はあった。
痛い……つまりは夢ではないという事。
冷や汗が、全身を包む。
「……どうなってやがる……」
魔界の王を決める戦いにも、パートナーとしてだが参加している。
40を越える千年前の魔物の軍勢とも戦ったし、富士山よりも巨大な魔物とだって戦った。
それら、まるで夢のような経験を経て、俺の精神力は相当に鍛えられたと思う。
だが、それでも、今回の事件には言いようのない不気味さを感じた。
首輪型の爆弾により命が握られてる現状、あの兵藤という男の狂気に満ちた雰囲気……今までの戦いとはまた別種の不安感が募る。
「……此処はどこだ……この首輪をどうやって解除する……さっきの人は本当に死んじまったのか……兵藤とかいう爺さんは……どうすれば脱出できる……」
募る不安感と比例するように頭を様々な疑問が支配する。
殺し合いを止めさせるには、そして脱出を果たすには、必要不可欠な疑問の数々。
だが疑問を浮かべどその『答え』は一つたりとも思い描けない。
当たり前だ、余りに情報が足りなすぎる。
いや、現状で有してる情報など皆無といっても良い。
このような状況で脱出への『答え』など出せる訳がなi…………ん?
……『答え』……?
「……そうだ、俺は何をしているんだ……『答えを出す者(アンサートーカー)』の能力を使えば良いじゃないか! そうすればこんな首輪なんて……!」
余程パニックに陥っていたのだろう。自身が持つ能力すら忘れていた。
あらゆる疑問の全てに『答え』を出す事ができる強力な能力――『答えを出す者(アンサートーカー)』。
数ヶ月前はその強大すぎる力が故に、窮地でしか発動しなかった能力であったが、今は違う。
クリアとの戦いに向けた特訓で、何時でも使用できるようになっている。
異常すぎる事態に陥っていたとはいえ、何故この力の存在を忘れていたのか……我ながら呆れてしまう。
「よし……いくぞ」
デュフォーから教導された呼吸法を行使しつつ、意識を研ぎ澄ましていく。
吸って、吐いて
吸って、吐いて
吸って、吐いて
そして……発動。
栓が抜けたかのように思考回路が鮮明になっていく。
―――成功だ。
この不可思議な感覚こそがアンサートーカーへと意識が切り替わった瞬間。
あとは自身へと疑問を問い掛けるだけで良い。
たったそれだけで自ずと『答え』が浮かび上がるのだ。
(まず最初の問いだ……『この首輪はどうやれば解除できる?』)
―――俺が異変に気付いたのは、この問いからたっぷり十秒ほど経過した時だった。
思考の中に漂う疑問。
幾ら待てども『答え』は出て来ない。
疑問だけが宙ぶらりんの状態で浮遊している。
……まさか、なんで、
「……アンサートーカーが封じられてる……」
思考が沸騰しかけた。
アンサートーカー自体は確実に発動している。
なのに『答え』が浮かばない。
首輪に関する事だけではない……会場の脱出に関する事や、兵藤に関する事も『答え』が出ない。
まるでブレーカーが落ちてしまったかのように、それら質問に対してアンサートーカーの力が働かないのだ。
「そんな……アンサートーカーの力に干渉するなんて普通の技術力……いや、魔界の技術を使ったって不可能な筈だ……。それがどうして……!?」
訳が分からなかった。
どんな技術を用いればこんな事が起こせるのか、想像する事すら出来ない。
アンサートーカーの能力も『答え』を教えてはくれない。
「くそっ、どうなってやがる……。全ての能力が使えないのか? それとも首輪や脱出に関する事だけ? 有効範囲を見極めなくては……」
脳内に様々な種類の疑問を並べていく。
この会場は何処にあるのか? ―――回答なし。
この殺し合いには何人の人々が参加させられてるのか? ―――回答あり・八十五人
参加者達の名前は? ―――回答なし
殺し合いに乗った者はいるのか? ―――回答あり・いる
殺し合いに乗った者の人数、名前、外見的特徴は? ―――全ての疑問に回答なし
現時点で死者は出ているのか? ―――回答なし
(くっ、やはり相当に制限されている……。この殺し合いの核心に迫る『答え』が全く浮かばない……!)
完全に手詰まりだった。
アンサートーカーが使えない今、自分は頭が良いだけの中学生。
この殺し合いを打開するには力も、情報も、もしかしたら技術さえも足りないかもしれない。
(どうする……どうする……どうすれば良い……)
頭を抱え考える。だが、何も浮かばない。
『答え』は勿論、打開へのアイディアすら湧き上がらない。
「……なら、探し回ってやる……首輪の解除法を、脱出の方法を……!」
―――だがこの窮地に陥って尚、諦めという感情は微塵も存在しなかった。
今までだって無理な状況は山のようにあったのだ。
その無理難題を打ち破ってきたのは仲間達の力。
一人一人が無力だとしても、全員で力を合わせればどんな壁であろうと乗り越えられる。
それは、この『ゲーム』とやらでも同様の筈。
アンサートーカーが制限されていようと、その『答え』を導き、達成する事は可能な筈だ。
「やるぞ……絶対に元の世界に帰る―――「そこのあなた、少し良いですか?」―――んだ!」
――と、決意の声を上げたその時だった。
暗闇の市街地から、その男が現れたのは―――
■ □ ■ □
男は、顔に浮かぶ柔らかな微笑みとは裏腹の、冷酷な瞳で眼前の少年を観察していた。
男は知っている。
人間は成長していくものだと、人間は進化していくものだと、男はこれまでの経験から知っていた。
「そう警戒しなくても大丈夫ですよ。私はこんなゲームで人殺しになるつもりはありません」
だから、男は猫を被り青年に接触した。
この『ゲーム』に仕組まれた『謎』を食べる為に、その為の協力者を得る為に、男は青年を観察する。
手駒と成りうるか否か、成長の可能性はあるか否か、男は見極めていた。
「……アンタは……」
男の微笑みを前にしても、やはり青年は警戒を解こうとしない。
変わらぬ……いや、その警戒心は増長しているようにすら見える。
当然だろう。
ここは殺し合いの場なのだ。寧ろこれ位の警戒心がなくては話にもならない。
「ああ、申し遅れました。僕の名は脳噛ネウロといいます。桂木弥子魔界探偵事務所で働かせてもらってる、しがない助手です」
男―――脳噛ネウロは、青年の警戒心を解く為に、自身が隠れ蓑として活用している少女の名を口にした。
数々の事件を解決してきた事により『桂木弥子』という名前は世界レベルで広まっている。
恐らくこのワラジ虫の名前だけでも警戒を解くには充分な筈……と考えた上での発言だったのだが―――、
「桂木弥子……魔界探偵事務所?」
男の予想に反して青年の反応が薄かった。
疑惑が宿った眼差しに変化は見受けられない。
「聞き覚えが……ありませんか?」
「……ああ……悪いんだが聞いた事もない。その探偵事務所はそんなに有名なんですか?」
「ええ、それなりに名は広まっていると思いますが……まぁ先生はワラジ虫のように影が薄いですから、覚えが無くても仕方ありませんね」
「はぁ、ワラジ虫ですか……」
その場は適当に切り抜けながらも、ネウロは確固たる疑問を感じていた。
―――アヤの事件、そしてHALの事件を経て『桂木弥子』の名前は日本中に広まった筈だ。
それこそ爆発的な勢いで、奴が街を歩けば誰もが気付く程に、弥子は有名になった。
謎が効率的に集まるよう自分がそう仕向けたのだ。
だというのにこの人間は『桂木弥子』の名前を知らないと言う。
その様子からして虚言の可能性はない。
この人間がXやシックスすらも越える演技力を持っているのなら話は別だが……。
「そういえばあなたの名前を聞いてませんでしたね。教えて貰ってもよろしいですか?」
「…………高嶺、清麿です」
「清麿君ですか、あなたは高校生で?」
「……いえ、まだ中学生ですけど」
「……ほう」
ネウロは眼前の少年―――高嶺清麿に対して感嘆の思いを覚えていた。
受け答えや警戒のレベルを見る限り、この人間はあのワラジ虫より年下とは思えない程に優秀。
その視線は唐突に現れた男への観察に集中しており、また自分と相手の持つ情報の差にも気付いている様子。
今まで出会った人間達の中でもトップクラスの優秀さを誇るかもしれない。
「……清麿君、僕と一緒に行動しませんか?
どうやらこの場には先生も連れて来られてるようですし、先生に掛かればこんな殺し合いをぶち壊すことなんて朝飯前でしょう。
……ただ殺し合いをぶち壊すには情報が余りに足りない。ですから、先生と出会う前に最低限の情報を入手しておきたいのです。
その為に、少し協力して欲しいのですが……」
「……協力、ですか……。別に良いんですけど、ただその前に一つ質問したいんですけど?」
「えぇ、勿論。何でも質問して下さい」
「じゃあ遠慮なく……」
そこで清麿は言葉を切り、捩るように半歩後退した。
その表情には今まで以上の警戒心と、僅かな逡巡が見える。
まるでその質問をして良いのかどうか、迷っているような―――清麿はネウロを睨み付ける。
そして数秒の静寂の後、ゆっくりと口を開く。
冷や汗が一滴、その頬から流れ落ちた。
「アンタ―――何者だ?」
その質問が届いた瞬間、笑顔の仮面を貼り付け続けていた魔人が、目を見開いた。
そして次の瞬間、顔に浮かぶ微笑み。
今までの優しげな物とは別種の、歪な笑顔。
その笑顔を知覚すると同時に清麿の全身が粟立ち、異様な寒気が身体を駆け巡る。
「何者……とはどういう事でしょうか?」
歪んだ笑顔をそのままにネウロが問う。
まるで子供が新しい玩具を手に入れたような、純粋な愉悦がそこにはあった。
「……俺の力でも詳細は分からない。ただアンタが人間じゃないって事だけは分かる……。おそらくアンタの正体は魔界に関係するんだろう?」
「……魔界? それは何の事でしょうか?」
「別に隠さなくても良い。魔界の王を決める戦いは、アンタも知ってるだろう? 俺はその戦いにパートナーとして参加しているんだ。
だから魔界という存在を知っている。……それにさっきの探偵事務所の名前にも魔界という言葉が入っていた。
普通の人ならただの悪趣味な名前と感じるだけかもしれないが、俺にはどうしても無関係とは思えなかった……ただそれだけだ。
……根拠なんて無い殆ど推測のようなものさ」
「……ほう」
清麿の推論を聞き、ネウロの脳内に様々な情報が行き交い始める。
自分を人外の存在だと見抜いた清麿が有する『力』についてや、魔界の王を決める戦いについて―――。
その語られてない情報と、どうしても拭いきれない食い違いが、ネウロの脳髄を刺激する。
―――この殺し合いは何かがおかしい。
清麿が持つ『力』、有り得る筈がない情報の食い違い、現在の技術レベルでは形成不可能な首輪、そして殺し合いの会場とされている『謎』の空間―――
この場には、魔人ですら驚愕に至らせる何かが所狭しと詰まっている。
「フ、ハハ……面白いぞ、この殺し合いは非常に面白い」
ゲームの内容は『悪意』に満ちている。
『首輪』や『会場』といった『謎』もある。
……最高の環境だ。
「良いだろう……貴様等が知恵を振り絞って考えた『謎』を我が輩が頂いてやる」
ただ一つ、許せない事もある。
全ての人間は自分の食糧であり自分の所有物(オモチャ)……自分だけがいじくる権利を持っているのだ。
主催者達はその所有物(オモチャ)を勝手に使い、このような『ゲーム』を開催した。
あの兵藤という人間には、少しばかりのお仕置きが必要だろう。
「……おい」
―――と、思考に入り浸っていた魔人に声を掛ける者が一人。
意を決した質問劇にも関わらずシカトという扱いを受けていた少年が、魔人を睨んでいた。
その瞳を見て魔人は思い出しかのように手を叩く。
「おお、貴様のことを忘れていたな、高嶺清麿。……確か我が輩の正体を知りたかったのだったな。
良いだろう、情報の錯綜があるとはいえ此処まで推理したのだ。褒美として教えてやる」
魔人は歪みきった笑顔のまま軽い動作で宙に跳び、聳えるビルの壁に対し『直角に』降り立った。
重力を無視して行われたそれに、人間は言葉を失い、茫然と立ち尽くす事しか出来ない。
そして魔人は擬態を止め、本当の自分を人間へと見せ付ける。
猛禽類が如く顔に、頭から伸びる二本の角、そして顔の端まで伸びる口に刃物のように尖った牙……まさに化け物と呼ぶに相応しい容貌であった。
哀れに震える人間を前に魔人は笑う。
楽しげに、愉しげに―――笑う。
「我が輩の名は脳噛ネウロ。『謎』を食糧として生きている―――魔人だ」
―――こうして『答えを出す者』は謎を食らう『魔人』と遭遇する事となった。
―――この時点では誰も知らぬ事だが、彼等はこの殺し合いにおいて重大な役割を担う事となる。
―――このバトルロワイアルに更なる混沌を齎す重大な役割を……。
【一日目/深夜/B-1・市街地】
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
1:この会場に蔓延る『謎』を食らう
2:弥子を探す
3:高嶺清麿の『力』に興味
4:人間を殺させない
[備考]
※ドSサミット以後からの参戦です
【高嶺清麿@金色のガッシュ!!】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:魔人……!?
1:首輪を解除し、殺し合いを止める
2:答えを出す者(アンサートーカー)に掛けられた制限を解きたい
[備考]
※クリアとの最終決戦以前(コミックス31巻くらい)からの参戦です
※ガッシュ達が参加させられてる事を知りません
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