金刃 憲人(23歳・巨人) 176/80 (市立尼崎高-立命館大)

 

今回は巨人に希望枠として入団し、ルーキーながら7勝(6敗)・防御率3.55を挙げた左腕・金刃について書いてみたい。

 

金刃は希望枠ながらそこまで評価の高い選手ではなかったが、上原・パウエルといった主力の先発投手が故障しチャンスを得る。オープン戦での好投を評価され、ルーキーながら開幕ローテーション入りを果たす。4/4の中日戦でプロ初先発(5回1/3無失点も勝敗付かず)、4/11の広島戦(6回1失点)でプロ初勝利。それ以降ルーキーとしては順調に勝ち星を挙げている。

 

金刃の魅力は内角をドンドン攻めてくる強気の投球スタイルとそれを可能にする高い制球力だ。121回2/3を投げて与四球数は33と約1/4程度しか出していない(何よりあれだけ内角を攻めて死球5とは素晴らしい!)。完成度の高さという点では06年組屈指の存在だろう。

 

勿論課題も多い。最大の問題は被本塁打率の高さだ。

金刃の被本塁打は20(リーグ同率4位)と彼の投球イニング数を考えればかなり多い部類。被本塁打率(被本塁打÷投球回×9)も1.48とかなり高い――これがどれぐらいの数字かというと今年の被本塁打王である高橋尚・石井一・青木高(21本)らの被本塁打率がそれぞれ1.01、1.13、1.47。同率4位の寺原・黒田はそれぞれ0.96、1.00。つまり金刃は今年セリーグの規定投球回数に達している投手の中で、最も被本塁打率の高い投手である。加えて奪三振率も5.62とかなり低く如何に彼が三振を取る事に苦労している投手である事が分かるだろう。ただ、本塁打はかなり打球の飛びやすい東京ドーム(6本)を本拠地にしている事もあり、多少同情の余地はあるかもしれない。

 

それを説明する為には彼の投球内容を説明する必要がある。

金刃の投球は大体130後半-140前半の直球(MAX144、5)にスライダーが大半を占め、たまにシュートを混ぜるくらいという球種の多い現代の投手としては非常に単純な構成だと言える。フォークも一応あることはあるのだが三振の取れる球ではなく、投げる事は滅多にない。彼が「決め球不足」と言われ奪三振率が低いのはこういう所にあるのだろう。加えてどの球もプロの打者なら球筋にさえ慣れてしまえば空振りの取りにくい球、楽に粘られるので球数も増える。彼が大学時代大隣(近大-SB)や岸(東北学院大-西武)と比べ評価が低かったのはこういう理由もあったのだろう。

 

また、決め球不足が結果的に被本塁打の増加に繋がったとも考えられる。金刃は制球力の高さから追い込むまでは苦労しないのだが打者に当てる事に集中されると投げる球が無くなってしまう。この点で捕手の阿部もかなり苦労していたようで消去法で金刃の一番得意な内角直球を選択するケースも多かったように思う。内角は外角よりも本塁打が出やすい事は今更語るまでもないだろう。

 

私はルーキー時の木佐貫を「三振でしかアウトの取れない投手」と評したが逆に金刃は「三振でアウトの取れない投手」だと言える。彼が夏場以降成績を落としていったのは勿論疲労が溜まってきた事もあるだろうが、慣れられてしまったという面も強い。本人もそれを前々から自覚していたようでチェンジアップ(シンカー?)を使ってみたりしているが実戦レベルで使えるボールではなさそうだ。金刃の制球力で内海クラスのチェンジアップがあれば鬼に金棒なのだが……。

 

木佐貫とは違い制球力は安定している投手なので2年目以降もいきなり大崩れする事はないかもしれない。ただ、このままではジリ貧になる事は確実だろう。何とか三振の取れる球を身につけるか、それとも土肥(横浜)のようにいやらしい実戦型の投手に徹するか。彼がプロの世界で生き続けるにあたり、この問題は常に突きつけられる事になるだろう。それでも彼の制球力と平気で内角を攻められる度胸の良さには価値がある。この問題さえ解決出来れば巨人投手陣の中でも最も安定して勝てる投手になるだろう。

 

 

 

 

―――10/8追記 *各項目の数字を訂正。――――――――――――――――

 

 

優勝の翌日の10/3(横浜戦)、CSを睨み最終戦は金刃が先発。7回4安打(1四球)無失点(勝敗付かず)という素晴らしい投球を見せた。消化試合で防御率2.90と得意とする横浜相手だが、やはり体調が良くなり球威が戻ってくれば現在の金刃の制球力と完成度ならこれぐらいはこなせれる。CSでの先発も十分考えられるだろう。

 

結果よりも気になったのは4回無視二塁の状況で4番村田からカウント2-3で空振り三振を奪ったボール。解説の水野氏曰く「カーブ」らしい(落差のある遅いスライダー?)が緩やかに曲がりながら右打者の足元に落ちていく良い変化球だった。この後佐伯・吉村もこのボールで遊飛・右飛と打ち取っている。特に村田はこのボールに全くタイミングが合っていなかった。ただ完成度はあまり高くなく高めに浮いたり逆球になるケースもあった(5回2死二塁で仁志からこのボールで三振を奪ったが甘いコース)。

 

ただ、このボールを工藤(横浜)のカーブのように使いこなす事が出来れば投球の幅はグッと広がるだろう(待たれると打たれやすいだろうが)。何にせよ最終戦でこんな収穫を得られるとは望外の喜び。金刃のCS登板が実に楽しみだ。

 

 

 

と、思ったらチームはCS3連敗で投げられなかった(ちなみに4戦目先発予定)。

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最終更新:2007年10月21日 23:29