7-077 とても文学的な出会い

182 名前:とても文学的な出会い(1) 投稿日:2006/07/15(土) 23:10:25
腹が減った。とてつもなく腹が減っている。
所構わずぐうぐうとみっともない音を発している我が腹は、
あまりの空腹に背とくっついてしまいそうだ。

わけがわからぬまま奇怪な世界に放り込まれてしまってから
どれくらいの時間が経ったのか……。
幸いにもたいした危機にも遭遇せず、
それどころか寂しいことに殆ど誰とも巡り会うこともなく、
何の展望も持たずにてくてくとひたすら歩き続けて数時間……

疲れた。
程よいところに見つけた巨岩にもたれかかるようにして座り込む。
相変わらず腹はのんきに鳴り続け、しかし周囲に食べられそうなものはない。

ふと、小さな物体が転がってきた。
草深い大地に埋もれるようにして止まったそれを慌てて拾い上げる。
逸る心を押さえつけ、震える指先で全体を覆っている紙を剥がすと、
茶色の四角形がころんと手の平に落ちた。
.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜なんとも芳醇な香り゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
貪るようにして食べる。甘くて実に美味しかった。
やっと生き返った気がするヽ(´▽`)ノ


183 名前:とても文学的な出会い(2) 投稿日:2006/07/15(土) 23:11:05
「美味いだろう」
背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、
そこには小さな穴があり、ひとりの男が顔を覗かせていた。
「ちろるちょこと言うものらしい。なかなかいけるぞ。もうひとつ食うか?」
今度は桃色のそれを差し出してくる。
「どうも」
御礼を言うと遠慮無く手を伸ばした。こちらもまたウマイ。
「俺、超腹減ってて、マジ死ぬ寸前でした。助かりました」
「なに、困っているときはお互い様だ。お主の腹があまりにもうるさくて
それで起きてしまったくらいだからな」
「うわ、やっべえ。すみません。そんなつもりはなかったんですけど」

この奇天烈なゲームが開始されて以来はじめて人と話していた。
半ば夢の中にでもいるような気持ちで歩き続けてきたのだが、
ここに来てやっと身体に現実感が戻ってくる。
「あの、俺、陸機っていいます。あなた誰ですか?」
「陸と言うと呉郡の陸氏か?」
「そうです。祖父が陸遜で、父が陸抗って言うんですが。知ってます?」
「知ってるもなにも、陸遜の高名は魏にも鳴り響いていたぞ。関羽を撃退した手腕は見事だった」
「魏? 魏の方ですか?」
陸機は未だ岩穴から出てこない男の顔をまじまじと眺めた。
小作りの顔は地味だが、その眼光にはどこか大物めいた鋭さが感じられる。
ただ者ではなさそうだが、一体誰なのだろう。
「曹操だ」
「は?」
「曹操、字は孟徳。お主の時代にはもう死んでいるだろうから知らんかな。
一応魏の基盤を作ったんだが」


184 名前:とても文学的な出会い(3) 投稿日:2006/07/15(土) 23:11:41
しししししし知ってるも何もそそそそそそそ曹操ってあの曹操!???
うわwwwテラスゴスwwwww
「すげぇ!」
陸機の叫び声に曹操は驚いて少し飛び上がった。
「曹操って! まじ? ほんもの? いろいろ読みましたよ。
あなたが注釈した孫子も読みました。詩も……
あ、俺も詩をやるんですが、かなり感銘受けました。
歩出夏門行が好きです。
~~老驥櫪に伏するも 志は千里に在り~~ いい詩だよなあ」
怒涛の告白に目を丸くしていた曹操だったが、次の瞬間彼は相好を崩して笑った。
「ははは、そこまで言われると照れくさいわ」
「握手してください」
「握手くらいいくらでもしようぞ!」
ふたりは腕をぶんぶん振り回してひたすら握手をした。
「ところで陸機よ。お主はどんな詩を詠むのだ?」
「作風は貴方の息子の曹子建殿に似てると言われてました」
「それは華やかでさぞかし優れた詩であったのだろうな。
ほれ、ちろるちょこはまだいるか?」
「ください」

新旧ふたりの詩人はちろるちょこを肴に心ゆくまで文学について語り合った。
それはこの殺伐とした状況にはまるでそぐわない、どこか優雅ささえ感じる光景だった。


≪ふたりの詩人/2名≫
曹操【チロルチョコ(残り92個)】&陸機【液体ムヒ】

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最終更新:2007年11月18日 11:20
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