7-055 その時がきても


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129 名前:その時がきても 1/4 投稿日:2006/07/13(木) 11:35:17
民家に飛び込んだ曹丕はどうにか鍵を閉め曹幹をそっと降ろした。
自分にまだそんな繊細な動きが出来ること自体が驚きだった。
次の瞬間、糸が切れたように崩れ落ちる曹丕。涙でくしゃくしゃになった顔で曹幹が寄ってくる。
「とうさま!とうさま!」
喉がカラカラで声も出ない。うん、と曹丕は頷きだけで返事をしたが曹幹の涙は止まらない。
「…大、丈夫、だ…」
唾をかき集めるようにして唇を湿らせそう言うと、ようやく曹幹はいくらか落ち着いたようだ。
仕草で静かにするようにと曹幹に伝える。
曹幹はこくこくと何度も頷いて懸命に涙を拭いしゃくりあげる声を抑える。

ようやく狂乱の中を抜けたかと速度を緩めかけた瞬間、突如一人の男が飛び出してきた。
凶弾が曹丕に襲いかかってきたのはそれとほぼ同時だった。
「ぐ……!」
右肩が熱い。心臓の音がうるさい。
「とうさま…!」
「ひええぇ!」
悲鳴が重なる。
曹幹の声に応えるように曹丕は曹幹を抱いた左腕にぐっと力を込める。
男はまたいずこかへ走り去っていく。
あの男が躍り出てこなければ凶弾は曹丕の心臓を貫いていたかもしれない。命の恩人と言えよう。
だが生憎、顔が長かったことくらいしか覚えていない。


130 名前:その時がきても 2/4 投稿日:2006/07/13(木) 11:36:39
とにかく走った。弾丸がもう一発飛んできたが幸い逸れた。
威嚇のためにこちらも一発撃ち返す。

バンッ!

想像以上に強い反動が曹丕の足を掬った。たたらを踏むが耐えきれず地に転ぶ。
片手で、しかも曹幹を抱えながら撃つにはやはり無理があるようだ。
曹幹をくるむように庇いながらそのまま茂みの中を転がる。
ざざざざざ…草が鳴る。肩が脈打つように痛む。
肩の痛みなど今思い出した。銃など支えられるはずがないのだ。
しかし浮かぶのは笑み。痛みを感じる程度には、まだ自分には余裕があるようだ。
そして自分の腕のなかには、このぬくもりがある。

右肩の傷からはじくじくと血が滲み続けている。質の悪い傷になってしまったようだ。
服を裂いて固く縛ったが、自分の右肩を縛るのはとても困難だ。うまく手当できたかは解らない。
もともと白い曹丕の肌は失血と月明かりのせいで青白い。
酷く喉が乾いている。一気に飲み干してしまいたい衝動とは裏腹に舐めるように水を口に含む。
水は貴重だし、乾きすぎた身体にはこのほうがよいだろう。
曹幹にも何か食べるように促す。
曹幹は硬いパンを少しずつかじり、それを鳩にも分け与えてやりながら心配そうに曹丕を見る。


131 名前:その時がきても 3/4 投稿日:2006/07/13(木) 11:37:54
「とうさま…だいじょうぶ?」
「ああ」
「いたい?」
「痛くないよ」
「とうさまは、えらいですね。おつよいのですね」
曹幹が優しく曹丕の頭を撫でた。
庭で転んだ時などに女官にでも言われたのだろうか。
妙に大人びた言葉遣いが可愛らしく、また可笑しかった。
頭を撫でる手はとても小さいのに、何故か大きかった亡き兄の手を連想させる。

偉いな。頑張ったな、子桓。

自分を褒め労ってくれた数少ない人。
王太子として、皇帝として過ごすうちに忘れかけていた手。
そんな優しい感情をぶち壊すように、フィールドに死亡者放送が陽気に響く。
「とうさま。しぼうしゃ、ってなに?」
無邪気な曹幹の問いが痛い。
「…死亡者というのは、星になった人のことだ」
陳腐な比喩しか出てこなかった自分に苦笑する。詩人失格だ。
「とうさま、ぼくもほしになってみたいです!」
きらきらした、それこそ星みたいな瞳で曹幹は笑う。
こんな幼子でも、やはり人は遠く手の届かないものばかりを欲しがるのか。
「…お前はまだ幼いから解らないかもしれないが、
 遠い輝きよりも、こうして触れあえる距離の方が得難いものなのだよ」
今度は曹幹の頭を曹丕が撫でてやる。


132 名前:その時がきても 4/4 投稿日:2006/07/13(木) 11:38:59
「だから、お前は生きなさい。お前の側にいてくれる人と共に。
 …いつか私が、星になっても」



≪パパじゃないよお兄ちゃんだよ/2名≫
曹丕[右肩負傷・手当て不完全、疲労]【スコーピオン(残弾19発)】&曹幹【白い鳩】
※現在地は宛の民家。明かりは点けていません。曹幹を休ませ曹丕は寝ずの番をします。
 襲撃者が誰であるかは彼らは知りません。休んだら許昌へ。
※曹丕の傷はきちんと手当てをしないと悪化していきそうです。
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