7-261 Gift


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64 名前:Gift 1/6:2007/05/24(木) 22:48:46
白い手がぷちりと音を立て、青い草を引き千切る。
効能を持つのは根元近く。
赤い筋が入った茎、ふわりと柔らかな毛を撫でる。
溜息と雨の雫が緑の葉をこぼれていった。

 * * * 

「……そこに居るのは誰だ! 出て来い!」
厳しい誰何の声に、荀イクは優しげな笑みを貼り付ける。
アサルトライフルを握り締め、一歩を踏み出し――

何が起こったのか、荀イクには判らなかった。
判ったのは強い衝撃、息の詰まる感覚、己が仰向けに倒れた事、胸の上に乗せられた足、そして顔の真上で光る刃。
光の如き速さで飛び掛った武官らしき男に一瞬で打ち倒され刀を奪われたと悟ったのは、数瞬の後だった。
「貴様、何者だ」
見下ろす武人の冷たい声音。凍る空気。絶体絶命の危機に、荀イクはしかし微笑んだ。
「私は貴方がたに危害を加える意思はありません。敵ではありません」
穏やかな、安らぎを感じさせるような微笑み。それは荀イクの武器でもある。
しかし武官はぴくりと眉を動かしたのみで、警戒を緩める様子を微塵も見せない。
それどころか刃をじわりと動かし、その切っ先を首へと――




65 名前:Gift 2/6:2007/05/24(木) 22:51:29
「なあぁにやってるんですか阿蒙さんー!!」

武官の背に全力で体当たりする男の影。
刃が勢い良くぶれ、荀イクの頚動脈すれすれを走り抜けて耳元の地面に刺さった。
沈黙の数瞬に、たらりと嫌な汗が流れ落ちる。続いて首の皮膚から、ちいさな血の玉がそれを追った。

「あっ……あ、あ、あほかあぁぁァ!」

武官――阿蒙、こと呂蒙は左足を軸にくるりと身を翻して旋回。踏み込む右足に妙な感触を覚えるが、とりあえず気にしない。
その場から力いっぱい飛翔し、振り上げた刀は逆光にきらめく。
全力で日本刀の峰を叩きつけられそうになった青年が奇怪な悲鳴を上げてカサカサと転がった。
その背後では踏み込む体重を股間にかけられた荀イクがひとり悶絶している。

「あほじゃないですよ! こんな弱そうな人にいきなり襲い掛かる阿蒙さんこそ阿蒙でしょ! この阿蒙!」
「黙れ阿機! 刃物持ってる人間にいたずらしちゃいけませんとママに習わなかったのか!」

陸機の頬をぐにゅーとひっぱって説教を始める呂蒙とばたばた暴れる陸機。
弱そうで悪かったですねと心の中で毒づく余裕も無く、泡を吹いて地面に爪痕を付ける荀イク。
うーんうーんと熱に魘されている、意識が無いのが多分幸いな曹操。

割合地獄絵図っぽい光景が、そこに現出していた。




66 名前:Gift 3/6:2007/05/24(木) 22:53:09

 * * *

……私は、一体どうしたいのだろう?
薬草を引き千切りながら荀イクは自問自答する。
決まっています。曹操様を殺したいのです。そしてその首級を、帝にお捧げしたい。
毒草をつつき、鮮やかな花を撫でる。

陸機、と名乗った若い男は、全く問題ないだろう。
私の名乗りに眼をきらめかせ、貴方があの王佐の才の、と無邪気に握手まで求めてきた。
高名な詩人だったと言うが、どうも浮世離れしている感がある。
肉体的にも脆弱そうだ。すぐにでも殺せるだろう。

武官と思った男は呂蒙。猪武者が知性を磨き学を付けた、という話は何処かで聞いたことがあった。
……こちらは厄介だ。猪武者なら話は簡単だが、武があり頭も回るというのは困る。
そしてどうも私は疑われているらしい。
私の名は知っているようだが、それに気を許すでもなく、こちらに絶えず冷たい殺気を投げかけてくる。
不審な動きがあれば殺す。言葉よりも雄弁に、彼に取り上げられた武器がそう語っていた。

そして……。
そして、曹操様。
熱に浮かされ弱々しく呻き声を漏らすだけの存在は、脳裏に描いた奸雄とは似ても似つかぬ姿に見えた。
ぽたり、と雨の雫が頬に落ちる。
いつの間にか太陽は隠れ、暗い雲が天を覆っていた。




67 名前:Gift 4/6:2007/05/24(木) 22:54:48

『文若、機嫌が悪そうだな。雨は、嫌いか?』
『いいえ。雨は穀物を育み、大地を潤す有用な天の恵みです』
宮殿でいつか交わした会話を、荀イクは思い出す。
『そうか』
『……うそです。本当は、嫌いです。雨の日は体がべたべたするし、暗くて気分が沈みます。
 文官たちの仕事の能率も落ちるし、兵もだらけます』
そう言うと何が嬉しいのか、曹操様はくつくつと笑った。
『だがな、文若。雨の止んだ後の空は、とても綺麗に星が出るぞ』
『星……ですか』
『あぁ。潤った空気は、星の光を強くする』
あらゆる能力に恵まれた奸雄は、詩にもまた天才を持っていた。
そのせいか時々、妙に感傷的な事を言う。
『お前にも見せてやりたいな。
 この雨が夜までにやんだら、星を肴に杯を交わそうではないか、文若?』
そう笑った彼の目は、まるで少年のように無邪気だった。
私はあの夜、星を見たのだろうか?

……いくら記憶の糸を手繰っても、思い出せなかった。




68 名前:Gift 5/6:2007/05/24(木) 22:56:38
ちらり、と後ろに視線をやる。
あの後、いくらか薬草の知識があると言った自分に、呂蒙は熱冷ましの薬草採集を命じた。言葉の上では依頼の形であったが。
呂蒙はいつでも私を撃てる場所で、不機嫌にこちらを見張っている。
……全く、勘がいいことだ。殺気を隠しもしないあたりが、武官上がりの限界ではあろうが。
ぷちり。薬草を根元からむしりとる。
ぷちり。毒草をこっそりむしりとる。
見張っていたところで、私が曹操様に差し上げるのが、毒か薬かも分からないだろうに。
いや。薬草であろうと、量を違えれば毒となる。
口の端に笑みを滲ませた。

どうやって殺しましょう?
どんな毒をさし上げましょう?
苦しい毒? 幻覚の毒? 醜く爛れる毒もいいですね。
あぁけどやはり、引き裂いて真っ赤にするのも悪くない。
いずれにせよ、まずは意識を回復させなければ。
何も知らないまま幸せに逝くなんて、決して許しはいたしません。

取り上げられずに残された箱が、懐で音を立てた。
綺麗な玉細工が施された箱だ。
道中何度も何度も叩き壊して捨ててしまおうとして、それでもまだここにある。
懐から取り出し、からっぽのそれを開けた。
空の中身を見るたび嫌な気分になるが、何かを入れることも出来ずにいる。
……いっそこれに毒草を入れて曹操様に贈りましょうか。
いつかの私の心を、少しは分かってくれるかもしれません。
自嘲気味に溜息をついた。

心のうちを埋め尽くすのは、既に帝への忠義とは別のものに摩り替わっていた。





69 名前:Gift 6/6:2007/05/24(木) 22:58:22
<<ふたりの詩人とひとりのアモーと王佐の才/4名>>
曹操[高熱、意識混濁]【チロルチョコ(残り65個)】
陸機【液体ムヒ】
呂蒙【捻りはちまき、日本刀、ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)】
荀イク[洗脳されている?]【防弾チョッキ、空き箱、薬草、毒草】

※現在地桂陽。小雨が降り始めたようです。
※荀イクは曹操(と残り二人)を殺す機会を伺っています。額の切り傷は自然治癒しました
※呂蒙は荀イクを警戒しています
※Gift:[英] 贈り物 [独] 毒
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