7-260 磨耗していくもの

54 名前:磨耗していくもの1/4:2007/05/05(土) 02:08:58
「…やはり、陸抗殿という方はいらっしゃいませんわね」
馬謖達と別れた後、記憶にひっかかる物を感じた蔡文姫は、参加者リストを確認していた。
「多分…正しくは…この陸遜、殿でしょうか」
「陸遜…」
劉封の顔が険しくなる。
「劉封殿?」
「…関羽殿を処刑した一派の者です」
そして、その一派は自分の死のきっかけを作り出したともいえる。
劉封は、自分の死は咎として受け入れてはいたが、義理とはいえ叔父を殺したという点には割り切れない思いを抱いていた。
「それじゃ、あっちが気を使ったんだろうね。こんな状況で気が回せるとは、結構なことだ」
ホウ統がのんびりと石榴を摘みながら言った。
「しかし季節感メチャクチャだな。この世界はどうなってんだか」
諸葛亮も石榴を眺めながら続けた。
この世界で過ごして数日が経つが、野菜、果物、獲れる魚や鳥の種類は実に多彩だった。
また、意外に容易く手に入れることが出来る。
「案外極楽なんじゃないか」
「…まあ、こんな遊戯がなければそうかもしれませんね」
劉封は苦笑い。
生きていた世界でも、戦いの日々だった。
死ぬか生きるか、殺すか殺されるかの日々に変わりは無い。
蜀は収穫に乏しい国であった。ならば今の地の方が、よほど良いのではないだろうか。
ため息をつく。…こんなことを考えるまでに感覚が麻痺してしまったんだろうか。
「劉封殿?」
蔡文姫が心配そうな顔で覗き込んでくる。
気まずくて、曖昧な笑顔で返した。
「…さて、じゃあちょっと"弟子"に会いに行くか」
ぷっ、と石榴の種を吹き出し、諸葛亮が切り出した。




55 名前:磨耗していくもの2/4:2007/05/05(土) 02:10:01
陸遜達の言っていた地点は意外に近かった。
もう少し歩けば洞窟が見えるはずだ。見えるはずなのだが。
「……」
「…うーん…」
「…これは…」
「…血の、臭いですね…」
近づけば近づくほど臭ってくるそれに、4人は顔を見合わせた。
「…人の気配はないんですけどね…」
「いや~な予感が、するねえ…」
ホウ統が顔をしかめた。
その間を、草を掻き分け諸葛亮が進む。
「お嬢さんと士元はここらで待っててくれ。俺と劉封殿で見て来る」
「え、俺ですか」
「あっちにいる奴ら、あんたしかわかんねーだろ」
とはいえ劉封も司馬懿や姜維はわからず、関興も幼い頃を一度か二度見ただけなのだが…。
しかし肩を怒らせ進む諸葛亮の、有無を言わせぬ勢いには逆らえず、しぶしぶ後に続いていった。



56 名前:磨耗していくもの3/4:2007/05/05(土) 02:10:35
引きちぎられた草、飛び散る血飛沫。かきむしられた地面。
…絶命の間までにもがき苦しんだあとなのだろう。
そこにあったのは、頭蓋が半分瞑れた死体と、
目が瞑れ――瞑れた目からは脳漿のようなものが涙のように流れ出ていた――死体。
「…一人、たりねえな」
あたりを見回した諸葛亮がつぶやく。
この事態にさすがといえばいいのかどうか…劉封は顔を顰めた。
おびただしい血の海に倒れる死体に、諸葛亮は何の感慨もなく近づいた。
「…俺の弟子ってどっちだったんだろうなあ」
劉封にも見分けが付かない。何せどちらの顔も原型を留めていない。
「こっちだといいな。多分これなら即死だったろう」
そう言って、顔がつぶれた死体の手を胸できちんと組ませてやった。
…少しでも面識がある分、これが関興だと思うと胸が痛むんですが…。
苦しみもがいた末、絶命したであろう死体を前に劉封は嘆息をついたが、それは黙っておいた。
「ま…考えることは色々あるが」
残る一人はどこへ行ったのか。それは誰なのか。仲間だったはずの3人になにがあったのか。
これを陸遜たちに知らせるべきかどうか。
「…とりあえずこいつら埋めてやろうか」



57 名前:磨耗していくもの4/4:2007/05/05(土) 02:11:26
「…気を使ってくださったんですね」
残された蔡文姫がうつむいてつぶやく。
「そりゃ、女性に死体を見せるわけにはいけないだろうしなぁ」
ホウ統ははっきりと"死体"といった。そしてそれはほぼ間違いないだろう。
「私…皆さんに迷惑をかけてばかりで」
そっと首輪に手を当て、蔡文姫は目を閉じた。
「いや、あんたはいるだけで充分役に立ってるよ」
「え?」
ホウ統の言葉に顔をあげる。
「こんな世界だ、色んなもんが磨り減ってく。気力とか、体力とか、心とか」
そう言ってホウ統は、蔡文姫に倣って首輪に指をあてた。
「そんな中で女子供にも配慮できなくなったら、男として…人として終りだ」
蔡文姫と目を合わせると、ホウ統は目尻を緩ませる。
「あんたは防波堤なんだよ。私たちが"人間"でいるための」


<<親子の面影+水鏡門下生/4名>>
蔡文姫[首輪が緩んでます・何らかの機能不全]【塩胡椒入り麻袋×5 石榴x4】
劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】
諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】

※現在地は漢中より少し南の洞窟、引き続き劉備を捜索。
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最終更新:2007年11月23日 04:55
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