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409 名前:1/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:19:42
「へへへ、いい獲物を見つけたぜ・・・」
偵察に赴き、茂みに隠れていた裴元紹は、その任務に明らかに似合わない言葉を呟いた。
彼から少し離れた小川のほとりには、1人の男が水汲みをしている。
優男に見えるが、そんなことはどうでもいい。
裴元紹の気を惹いたのはその男が帯刀している物だ。
(ありゃあ、見たこともない剣だ。叩き売ってもいくらになるか・・・見当もつかねえぜ!?)
山賊上がりのせいか、金を基準に考えるのが彼のクセである。
が、それよりも裴元紹が思考のメインに置いたのは
彼ともう1人の『姐さん』の行動に関してのことだ。
今の自分達には武器がない。
素手ならともかく、強力な武器を持った奴が目の前に現れたら
姐さんを守る事どころか、逃げるのすら困難だ。
だが、あの優男がぶら下げている腰の剣を手に入れたら・・・?
『強大な敵が現れた!』→『姐さんが危険だ!』→『だが凛々しい俺様が起死回生の斬撃!』
→『敵は醜く苦しんでおります!』→『姐さん「見直したぞ!」』
→『ゴール!ゴール!ゴオオオオォォォォォォールッ!』
(うおおおおおっ・・・!)
心の中で大陸全土に聞こえんばかりの歓声を張り上げる。
相手は文官風の優男。飛び掛って倒せない相手ではない。
そうだ。彼が描く理想の未来への道標は近い。
(行くぜ!お前も大変だが、俺様の未来のために死んでくれ!)
心躍らせながら、彼は水を汲み終わった優男の前に飛び出した。



410 名前:2/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:20:43
「へへへ・・・よう兄ちゃん、いいモンぶらさげてくれちゃってるんじゃない?」
かつて山を通りがかった旅人によく使った言葉をアレンジして近寄る裴元紹。
まずこう言えば、たいていの旅人はビビッて路銀を置いていくか
強がり武器を構えるものの、腰が引けているものだ。
今回は文官。剣を置いて逃げるんじゃないか。そう裴元紹は考えていたが・・・。
「・・・山賊?驚いたな・・・こんな場にもいるとは・・・」
だが、目の前の優男はどこか違う。ビビリなど見られない。
強がりにしても、略奪した旅人がよくした震え、怯えなど微塵もない。
「山賊なんざぁ、どこにでもいるもんよ!
 その腰のモン、お前より俺様が上手く扱ってやっからよ、安心して置いてきな!」
が、そんなこと裴元紹には関係ない。彼の頭にはハッピーエンドしかない。
「私が持っているこの剣を渡せ、と?」
「おーよ!置いてきゃあ乱暴な事はしねえ!いい話だろ!?」
「なるほど。無意味な戦いは避けられるというわけか」
優男はどこか小馬鹿にしたような表情で、裴元紹との会話を続ける。
が・・・。
「・・・」
しばらく沈黙した後、優男は真剣な顔になり
「だが断る」
ときっぱり断言した。
「何ッ!?」
「この魯子敬の最も好きなことの一つは
 お前のような弱者を与しやすしと思う悪人を叩きのめす事だ」
優男が偉そうに言った一言を聞いて裴元紹はいきり立つ。
弱者だと?腰に剣をぶら下げているだけまだマシだ。
俺様なんかどうなる。妙な服だぞ!?相棒の姐さんは化粧品なんだぞ!?
バッグを開けた時の、この身まで消えてしまいそうな喪失感を思い出す。



411 名前:3/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:22:34
「なら・・・ならぁ~~~・・・・」
そしてその喪失感は徐々に怒りに変わっていった。
「ならば死ねェェェェェェッ!」
怒りに任せて優男に飛びかかる。
「違うね・・・」
一言呟き、優男は身をかわしながら宙の裴元紹の伸ばした手を掴み
「死ぬのは・・・」
引っ張り勢いを加速させ、裴元紹の体を反転させ地面に叩きつけた。
「げぇッ!」
背中を強打し意図せず呻き声を出す。
ふと剥いた眼の先に、闇でも光る尖ったものが一直線に見える。
その先端は勢いをつけ、裴元紹の眼前に近づいた。
(おい・・・おい!)
「があッ!」
とっさに身を転がす。転がる途中、地面に突き刺さる刀が見えた。
転がりながら距離をとった後すぐ身を立て直し、刀を持つ優男を直視する。
「私の正史(ほんとう)の力を見る・・・お前のほうだな」
優男が言葉の続きを発する。
それが言葉の続きであることと
死ぬのは自分のほうだと裴元紹が理解するまで、少し時間が掛かった。
(やめりゃあよかった!こんな男に喧嘩吹っかけるなんてよォ!)
そうは後悔しながらも、ふと自分を待っている(はず)の姐さんの顔が思い浮かぶ。
偵察から帰らなければ、姐さんは心配するだろう。(やはり)
あるいは自分を追ってきてしまうかもしれない。(きっと)
そうすれば、この見かけで騙すクソ野郎にあの可愛らしい服ごと切り刻まれてしまうかもしれない。
いや、あんな美しい人だ。こいつじゃなくても野獣と化した男が放っておくわけがない。



412 名前:4/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:24:08
―俺があの人を守らなければ!―
(い、いや・・・俺様は死ねねぇ・・・こんな所で死ぬわけにはいかねえッ・・・)
「うう・・・関羽の旦那・・・!周倉・・・!俺に、俺に最後の力を・・・!」
ふと、口から言った言葉だった。
関羽は自分をほとんど知らないだろうし、周倉はこの場にはいない。
だが、言葉に反応したのか、目の前の男は驚きの表情を浮かべている。
「関羽・・・もしかして、貴方は蜀漢の人間?」
「あぁ・・・?お、おーよ!俺のダチは関羽将軍の右腕だし!俺の仲間だって関羽将軍の仲間だぜ!」
とりあえず、そんなことを言ってみる。
あるいは情況が好転するかもしれない、そんな気持ちだった。
が、そんな裴元紹の予想を大幅に通り越し、急に優男は刀を納め
「蜀漢の方か・・・知らない事とは言え、失礼しました。私は魯粛、字は子敬と申します」
と詫びの言葉を出し、頭を下げた。
「・・・え?あ、ああ・・・ケッ!わ、わかりゃあ・・・」
なんとなく強がりを吐いてみようかと思ったが、先ほどの攻撃を思い出し裴元紹は言葉尻を濁らせ

た。

「それで、貴方の名前は?」
「・・・え?・・・あ、ああ、は、裴元紹っつーもんよ、うん」
「むむむ・・・聞かない名ですね・・・」
「何がむむむだ」
「はぁ?」
同行を申し出た魯粛と共に『姐さん』の元へ向かいながら、裴元紹は自己紹介する。
本当は同行を断りたかったのだが、やはり先ほどの魯粛の攻撃を思い出し拒否できなかった。
それに略奪まがいの事をした自分に対し、魯粛はまだ疑いを捨てきれないようで
「はて・・・貴方は本当に蜀の人間ですか?」
と、時折疑いの言葉を向けてくる。



413 名前:5/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:26:02
『戦闘=今度こそ死』
の図式が出来上がっている裴元紹は、その言葉を言われるたびもう気が気でない。
関羽の名を聞いて刀を納めたところ、この人間も関羽の仲間なのだろう。
早く姐さんのところへ連れて行かねば。
そして、自分の釈明をしてもらわねば。
そう考えるだけで精一杯だった。
(ああ・・・姐さんとの2人っきり幸せ生活が・・・1人の男に邪魔されていくのか・・・)
「・・・元紹殿。裴元紹殿」
「・・・はっ!お、おーよ!なんだい!?」
ふと我に帰る。
「その、裴元紹殿と同行している方・・・そういえば、まだ名前を聞いておりませんね」
「え?ああ、それは・・・あ」
魯粛の問いに答えようとして、ふと考え込む。
そういえば、まだ自分も姐さんの名前を聞いていない。
「・・・俺も名前は聞いていねえ・・・だが」
「だが?」
「・・・立派な人だ。その高貴さと威圧感、美しさは・・・。
 ありゃあ、男ならひとかどの人物になっただろうな」
「そうですか・・・女性の方か・・・」
そう呟くと、魯粛は少しだけ空を見上げ・・・。
「やはり、貴方は蜀漢の人間ではありませんでしたね」
と呟いた。
「げえっ!」
そういわれて驚くのは裴元紹だ。おなじみの驚声をあげてしまった。



414 名前:6/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:27:11
「ななななんでえ!急に!」
「初めから疑ってはいましたが・・・貴方の同行者が関羽将軍の仲間、というのなら
 蜀漢の人間は名前を知っているのではないかと思いましてね」
「そそそそうとは言えねえだろうが!」
「確かに断言はできない。が、今の貴方の驚きようを見れば確実だ」
そういい、魯粛は裴元紹の方を向き帰る。そしてこう言った。
「だが、貴方は立派だ。すでに40人ほどは死んでいるこの狂気の場において
 女性を守ろうとしているなど、なかなか出来ることではない」
「え」
「先ほどの貴方の言葉から、独断ながら私はそう感じ取った。
 おそらく私の武器を奪おうとしたのも、そういった理由からでしょう?
 もう、私は貴方と事を構える気はない。剣は渡しませんがね」
この場において、少しは信用できる人間に出会えた。
裴元紹にはなんとなく、魯粛がそう言っているように思えた。

「戻ったか、裴元紹・・・む?そちらは?」
「え?姐さんも知らないんで?」
「はじめまして、魯粛と申します。それにしても奇抜かつ珍妙な衣装ですね」
「魯粛!?裴元紹、なぜ魯粛殿と?」
「これこれこういうわけで」
「あれ、私のことご存知なんですか?申し訳ありませんが、私は貴方を知りません」
辿り着いた瞬間に飛び交う会話。
魯粛に尋ねられた趙雲が己の名前を告げるまで、少々時間が掛かった。
「私か。私は趙子竜・・・」



415 名前:7/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:29:39
「げえっ!」
「げえっ!」
だが自分の名前を途端、裴元紹と魯粛の馴染みある驚声。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
そして、しばらく沈黙が流れた。
「あ・・・同姓同名の方ですか?中華に趙子竜さんが2人いらっしゃるとは知りませんでした」
と、魯粛が沈黙を破る。
「いや、私が本物の趙子竜だ。なぜかこんな外見だがな」
「はぁ・・・」
釈然としない態度の魯粛を尻目に、趙雲が裴元紹の方を向き帰る。
「で、なんでお前は驚いたんだ?」
「い、いや・・・その名前はなぜか・・・」
そうとはしらないが、自分を殺した男の名前だ。
少し悩んでしまう。
「ところで魯粛殿はなぜこちらに?」
悩んでいる裴元紹を横目に、趙雲は魯粛に問いかける。
「それは私も聞きたい。なぜ蜀漢の将である貴方が呉方面に?」
「・・・?ここは幽州だが・・・?」
「は?」
少し慌てながら、魯粛は己のバッグから地図を取り出した。
「違う・・・ここをまがったはずだが・・・あれ、こっち?いやちょっとまて・・・ここがこうで・・・」
としばらく呟いたあと、ふと魯粛は地図を手から離した。
「・・・間違った」
そう呟いた魯粛の顔は、触れば凍ってしまうのではないかと思うほど青ざめていた。



416 名前:8/8 投稿日:2006/07/28(金) 00:31:11
「正反対ではないか・・・そんな事では、他の事はよくできても外交官としての才能は零だな」
「・・・う・・・うう・・・嘘だ・・・そんなはずはないんだ・・・それは私の正史(ほんとう)の力では・・・」
と呟きながら、すこしふらふらと歩き出す魯粛。
そのまま、地面に倒れ伏し、やる気なさそうにぼそぼそとこう呟いていた。
「うう・・・都督・・・そんな事言わないでくださいよ・・・だったらあんたが行けよ・・・」

「う~む・・・」
とにかく悩む裴元紹。
(趙子竜・・・いやな響きだ・・・たぶんそいつには痛い目に合わされたはず・・・)
まだ悩む。
(そんな奴と同じ名前だなんて、災難だな姐さん!)
閃いた。
「姐さん!この裴元紹、どこまでもついていきますぜ!」
「なんだ急にやる気を出して。まあいいけど・・・。
 それより、道を間違った魯粛殿もおそらく同行するであろうが、いいか?」
「がってんだ!」
決意新たな裴元紹。
目の前の姐さんと趙子竜は同姓同名の別人だ、と本気で思っている裴元紹。
まあまあ、救われたとも言えるのではないだろうか。

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※もうそろそろ幽州に到着。
※裴元紹は趙雲を完全に別人だと思っています。魯粛はあまり信じていません。

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最終更新:2007年11月17日 21:37
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