7-254

173 名前:1/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:06:56
張遼の寝顔は苦渋に満ちていて、安らかとは言い難かった。
血に染まり地に伏しているその姿はまるで死体のようだ。
だが張コウはその血が返り血だと知っている。
誰の身体を巡っていた血だったのかも多分、解っている。
血の臭いなど戦場で嗅ぎ慣れていたはずなのに、
今洞穴に満ちているこの臭いはあの男の死の臭いなのだと思うと胸が詰まった。
そして、まだそんな感傷めいたものを持ち合わせていた自分にも多少、驚いた。

張コウはふらふらと張遼が伏している洞穴を出た。
もちろん、張遼を置いていくつもりはない。
話を聞くと約束した。きちんと受け止めてやるつもりだ。
しかしその為にはまず自分で自分を受け止めなければ。
新鮮な空気を胸一杯に吸い込み、そして吐く。
目を閉じて、開く。
空を見上げる。星空が張コウを圧倒した。

「撃ち殺してやってもよかったが、それではつまらんからな」
ガサリと鳴った足音に張コウはびくりと身を震わせた。
「随分と腑抜けた様子だが、それなりには出来そうだな」
それなりだと?
冷たい汗が伝い落ちる。
嫌味か、それは。
思えば今まで様々な人間と出会ったが、どうにか命を繋いできた。
そんな幸運もここまでだろうか。



174 名前:2/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:10:39
張コウも生涯戦い抜いた武人だ。武芸には自信もある。が、過信はしていない。

男はどこか愉しげな様子だ。この遊戯に乗っているのだろう。
しかし荀イクのような歪んだ愉悦は感じない。
多分、根っから戦いが好きな質なのだ。
男の連れらしい文官はどこか悲しげな様子にも見えたが男を止めはしない。
戦いを回避できないものか?
いや、多分無駄だろう。
この男が戦いを挑んできているのは理屈や利害からではなく感情、もしかしたら本能なのだ。
理屈なら説き伏せられるかもしれない。だが本能ならばどうにもなるまい。

冷静な観察眼が利益ばかりをもたらすとは限らない。
状況を正確に把握できても回避できなければ意味はないのだ。
生前、自分はよくこんな目にあった。
そういう星の下に生まれついたのかもしれない。
そして、その星は一度死んでもなお自分につきまとっているらしい。
苦笑いが浮かぶ。
しかしどうにもならないこの状況が―――どこか、楽しい。
この男と戦ってみたい。そんな気持ちも、確かにあった。

足払い、その後二段突き。
それをかわす張コウにも、それを仕掛けた呂布にも笑みが浮かんでいた。



175 名前:3/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:12:12
張コウの笑みは瀬戸際の命のやりとりをどこか楽しんで。
呂布の笑みは名槍を取り回す快さから。
狂人のように映るかもしれない、笑いながらの攻防。
張コウは刀を抜き放ちながら呂布の突きを紙一重で避ける。
微妙に歪んだ刀は僅かな軋みと共に鞘を脱ぎ捨てる。
刀身が歪んでいるのだ。斬撃の威力は期待できそうもない。
だが張コウにはある考えがあった。

僅かに足を踏み外した張コウに呂布の日本号が襲いかかる。
張コウの笑みが微かに深まった。
自分と日本号の隙間に滑り込ませるように斬鉄剣を構える。
自ら振るって斬ることはできなくとも敵の斬撃の勢いを利用すれば斬れるのではないか?
あの恐るべき斬れ味で槍は真っ二つになるだろう。
それに怯んだ隙に懐のデリンジャーで止めだ。
逆手で撃ってもこの至近距離なら確実に当たるだろう。
そして斬鉄剣を捨てて両手で狙い、二発三発と撃てばいい。
左手が懐に伸びる。

「ぐぶっ……!」
血反吐を吐きながら宙に舞ったのは……張コウだった。
斬鉄剣は確かに日本号を真っ二つにした。
しかし、呂布は全く怯まなかった。
「……下らん」
その突きは穂先を失ってもなお減速せず、張コウの腹を抉ったのだ。



176 名前:4/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:13:59
ただの短い木の棒になってしまった日本号が地に転がる。
呂布の拳が張コウの身体を砕く。
張コウはやはり笑っていた。今度は自分の愚かさ故に。

自分も徐庶と同じだ。この刀に振り回されていた。
この刀さえあれば勝てると思っていた。
だがこの男はどうだ。あれほどの名槍が駄目になっても微塵も怯まなかった。
所詮武器は武器、道具に過ぎない。
武とは、武器に宿っているものではない。自分自身にあるものなのに―――。

今までに出会った者、生き別れあるいは死に別れた者たちの面影が次々に浮かんでは消えてゆく。
その一番最後に浮かんできた面影に張コウは詫びる。
受け止めてやれず、すまない、と。
一人にしてしまって、本当にすまない。
そして祈る。
どうか生きてほしい。
そしてどうか苦しまないでほしい、あの人のようには、と―――。


本来は張コウの後ろにある洞窟が目当てだった呂布と諸葛瑾だったが、
さすがに死体に番をさせて洞窟で休む気にはなれない。
黙祷を捧げる諸葛瑾を後目に呂布は張コウの懐を漁る。
斬鉄剣、そして日本号は完全に駄目になってしまっていたが
銃、そして二冊の本は無事だった。
荷物と諸葛瑾を抱えて呂布はその場を離れた。



177 名前:5/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:15:13
交戦地点から大分離れた森でそれらを降ろす。
この辺りなら誰かが近づいてきても梢が揺れる音や足音ですぐ解る。
遮蔽物も多いから、飛び道具で狙われる危険もないだろう。
「驢馬、これはお前が持て」
飛び道具で思い出したのか、呂布はドラグノフとデリンジャーを諸葛瑾に渡した。
デリンジャーはともかくドラグノフはかなりの重量がある。よろける諸葛瑾。
「鉛玉で遠くから撃ち殺すなどつまらん。
 俺にはこれがあればいい」
「……私は、どちらかというとその本の方が気になるのですが……」
「ああ、そんな物もあったな」
呂布はぱらぱらと一冊の本を眺めると、
そのあまりの難しさに眉をしかめ諸葛瑾に押しつけるように手渡した。
もう一冊の本はほぼ白紙で、手書きで何かが書いてあった。
あの男の抱負か目標だったのだろうか?
諸葛瑾に意見を求めようと思ったが、
さっき手渡した本に食い入るように見入っていたので声をかけるのは止めた。
あんなもののどこがそんなに面白いのか、呂布にはさっぱり解らなかった。

“劉備、関羽、張飛と戦いたい”
あの三人は、不思議だった。
一人一人は雑魚の癖に、三人揃うと奇妙に手強く感じたときがあった。



178 名前:6/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:17:58
張飛は、一人ぼっちのお前には解らないとあの時言った。
呂布はそれを知りたかった。三人そろったあの兄弟とまた戦いたい。
戦えば、何かが解るような気がしていた。
“貂蝉と、陳宮の敵を討ちたい”
そして、その鍵になっていたかもしれない二人。
しかし二人はもういない。せめてこの手で敵を討ちたかった。
そして。
呂布は、そんな決意を―――書いてしまった。

ザッ、と呂布が立ち上がり、諸葛瑾はそれを見上げる。
「呂布殿?」
呂布は諸葛瑾に一瞥もくれずに遠ざかってゆく。
「呂布殿、いかがなされた?呂布殿!」
諸葛瑾は慌てて本をしまい、必死で長銃を担ぐ。
走り去る呂布。本に夢中になっていた諸葛瑾は呂布の変貌の理由が解らず、戸惑う。
呂布を追う諸葛瑾。だがその差は開くばかりだった。
「呂布殿……っ!」
諸葛瑾の絶叫は、届かない。



背筋を駆け上る寒気に似た何かに不快感を覚え、司馬懿は香水を一吹きした。
ああまた悦ってるな、と関興は思っていた。姜維の叫びを聞くまでは。
「司馬懿殿、いけないっ……!」
死の淵にある者は五感が研ぎ澄まされるという。
姜維は司馬懿を蝕もうとするどす黒い何かにいち早く気づいた。



179 名前:7/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:21:43
今こそ立ち上がらなければならない時だ。
姜維は全ての力を振り絞って立ち上がった。司馬懿へと手を伸ばす。
でも。
届かない。
「あんた、何やって……!」
関興が振り返ったその瞬間、司馬懿の拳がこめかみから姜維の頭蓋にめり込んでいた。

化け物だ。
姜維は思う。
鮮やかに甦る記憶。化け物だ。化け物に食われて。ああ。

あまりに異様な光景に、関興は凍りつく。
姜維の事切れた瞬間を呆然と見届けた。
速い。
一瞬で踏み込んだ司馬懿の膝が関興の腹に沈み
血染めの指が目を、脳を抉った。

「あがあああああぁ!!!」
死にたくない、そう思ったこともあったのが嘘のようだ。
死にたい。死にたい。死なせて。死なせてくれ!!
一瞬で逝った姜維のほうがまだ幸せだったかもしれない。
気が狂うほどの痛みにのたうち回りながら、
関興は最期の瞬間までただただ死を望み続けた。


悦楽の香りの中司馬懿は歩む。
馬謖が仕掛けたものだろうか。結んだ草が司馬懿の爪先を捕らえた。
意に介さず司馬懿は歩き続ける。引きちぎられた草が宙を舞う。
「……ふ、ははははははは……!」
ひどく愉快だった。もう一吹き、香りを求める。
血の匂いと混ざったそれは、いつにも増して芳しい香りだった。



180 名前:8/8 投稿日:2006/12/12(火) 05:24:05

【張コウ 姜維 関興 死亡確認】

※<<残された二人>><<カミキリムシとオナモミ>><<めるへんトリオ・改>>は解散。張遼、呂布、諸葛瑾、司馬懿はピンユニット化。


@張遼[爆睡中]【歯翼月牙刀、山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3】
※司隷東の洞穴で爆睡中。

@呂布[洗脳、身体能力上昇]【関羽の青龍偃月刀、DEATH NOTE】
※DEATH NOTEの影響下にあります。DEATH NOTEには劉備、関羽、張飛の名前が書かれています。
※現在地は司隷南の森を抜けた所。
※DEATH NOTEの効果で上記三人の居場所が漠然と解ります。最も近い者から殺しに行きます。

@諸葛瑾[頭にたんこぶ、移動速度低下]【ドラグノフ・スナイパーライフル、デリンジャー、首輪解体新書?】
※現在地は司隷南の森の中。呂布を追います。
※首輪解体新書?にはまだきちんと目を通していません。
※斬鉄剣、日本号は壊れました。

@司馬懿[洗脳、身体能力上昇]【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)香水、DEATH NOTE、陳宮の鞄、阿会喃の鞄】
※DEATH NOTEの影響下にあります。が、香水の影響か、記名された三人以外でも無差別に、積極的に殺します。
※現在地は漢中より少し南。手近な獲物を探して移動。
※ラッキーストライク(煙草)、ブーメランは放置しました。サーマルゴーグルは壊れました。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 張コウ
  • 姜維
  • 関興
  • 張遼
  • 呂布
  • 諸葛瑾
  • 司馬懿

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年11月17日 21:00
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。