7-218 守りたい大切なものがあるなら


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310 名前:守りたい大切なものがあるなら 1/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:22:15
燃えるように赤い空。
有無を言わさずに参加させられたこの奇怪な遊戯も、まもなく4度目の夜を迎えようとしている。
洞窟の前での見張りを買って出た陸遜は、沈み行く太陽に手を差し伸べて辛そうに目を細めた。
重傷を負った姜維はおそらく早晩死ぬだろう。今夜かもしれない。
所詮は殺し合いのための世界なのだ。いまさら1人死人が増えた所で何ほどのことでも無い。
……しかし洞窟の中に居ると、気が沈んで仕方ない。
陸遜が溜息をつこうとした時、少し離れた茂みががさがさっと音を立てた。
即座に銃を構え、いつでも撃てる状態で「誰ですか! 出てきなさい!」と声を張り上げる。
きゅうぅん、と愛らしい鳴き声がした。……鳴き声?
がさっ、と茂みから顔を覗かせたのは、白い仔犬だった。
くぅんと喉を鳴らし、尻尾を振りながら陸遜に近づく。
……爆薬を巻き付けられていたりはしない。回りに他の気配はない。
そこまで確認して、ふぅ、と安堵の吐息をもらし、陸遜は仔犬を抱き上げた。
「驚かせないでくださいね。まったく」
腕の中の暖かい鼓動に、ささくれ立った心が癒されるような気がした。
知らず知らず笑みがこぼれる。



311 名前:守りたい大切なものがあるなら 2/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:27:38
「陸遜、後ろだ!」

せっぱ詰まった司馬懿の絶叫。一気に現実に引き戻される。
とっさに振り向き、目の前まで迫っていた何かをすれすれで回避する。
それが飛んできた方向に銃を上げ発砲する―――寸前。背に大きな圧力。押し倒されP90を取り落とす。
「っあ……!」
人間ではありえない熱い息が耳にかかる。視界の隅に鋭い牙。
本能が感じる恐怖。喰われる!
「ど……きなさい!」
渾身の力で圧し掛かる獣を振り落とす……だがそこまでだった。
身を起こす間もなく、目の前すれすれにザクッと光る刃が振り落ろされる。
すぐ傍で司馬懿が何者かに羽交い絞めにされているのが見えた。

……いけると思った自分が甘かった。
陸遜は自分達の敗北を悟る。いくら良い武器があっても、使う間を与えられなければ勝てない。
警戒しているつもりでも、暗視鏡があっても、気配を消し隠れた武官を見つけることはできない。
先手は取れる筈だなんて、机上の空論以外の何者でもなかった。
油断した、僕の負けだと……自分への憎しみすら覚えながら、陸遜は思った。
せめて自分を殺す者の顔だけでも見ようと、視線を上に動かそうとした時。

目の前に振り下ろされた刃の主が、自分の眼前にしゃがみこんで笑った。
「久しぶりです、陸遜殿」
赤い逆光に照らされようとも、見まごう術も無いほどに見慣れたその顔。
「……凌統?」



312 名前:守りたい大切なものがあるなら 3/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:31:28
「まず始めに聞かせてください、陸遜殿」
そう言うと凌統は続けざまに質問を投げかけてきた。
この遊戯に乗っているのか、仲間は何人か、それは誰か、目的は何か。
嘘をついてもなんら良い事は無いので、全て正直に答える。
最後に自分達と組む気はあるか、と聞かれる。
もしそうできるなら戦闘力の足りない自分達一行には願っても無い機会だ。迷わず頷く。
全ての質問が終わると、凌統はいつでも振り抜けるよう、さりげなく構えていた銃剣から手を離した。
安心しました、と破顔して差し伸べてきたその手を握り締める。
「関興ー、そちら放してやれ。交渉成功だ」
「え、そうなんですか?」
心持ち残念そうな声を発した、関興と呼ばれた若武者の前には。
「馬鹿めが! 馬鹿めが! 放さんか、ううっ……」
何故か亀甲縛りで転がされた司馬懿。これだけの短時間でよくもこんな見事に……ではない。
何で亀甲縛りなんだ。突っ込むべきかやめとくべきか、陸遜は頭を抱えて見なかった事にした。


まず、お願いがあります。戦わない、殺さないという言葉を口にしないようにしてください。
必要があるなら次の戦いのための休息、他の誰かを殺すために捕虜にする、というように言い換えてほしい。
―――組むに当たっての頼みとして、凌統はそんな奇妙な事を言ってきた。
何でも仲間の1人がおかしな暗示をかけられているらしく、それらを耳にすると一時的に狂うのだそうだ。
やや厄介ではあるが、拒むほどのことではない。司馬懿ともども頷く。
その後連れて来られた文官らしいその青年と凌統、関興を洞窟の中に招き入れた。
ちなみにはじめに見た仔犬と、圧し掛かってきた獣―――大きな白い犬は凌統に懐いているらしく、
彼の命で洞窟の前におとなしく丸まって文字通りの番犬となっている。
そういえば凌統はやたらと動物に懐かれやすかったなと、微笑と共に陸遜は思い出した。



313 名前:守りたい大切なものがあるなら 4/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:37:43
「姜維!」
凌統一行の文官らしい青年が、洞窟に入るなり驚きの声をあげ横たわる姜維に駆け寄った。
「姜維……?」
青ざめた顔のままぴくりともしない姜維に、彼は不安げに顔を上げた。
姜維殿の知り合いなのだろうか。どちらにせよ、もう話すことも出来ないだろう。
悲痛な顔で首を左右に振る陸遜に、彼は泣きそうに顔を歪めた。
「感動の再会か何か……では無いか。とにかく、自己紹介くらいしてもらいたいものだな!」
そこに後から入ってきた司馬懿が、亀甲縛りのせいか若干不機嫌そうかつ高圧的に言う。
口調と態度にむっとしたらしい文官が言い返した。
「そういうときは自分からするのが筋だろう! えっらそうに、悪役顔が」
「あ、悪や……やかましいわ、この間抜け面!」
「間抜け? 神童、秀才と称えられたこの私が間抜けだとっ!?」
「ふん、間抜け面に間抜け面といって何が悪い、花でも咲いていそうな頭だな!」
「あぁ英知の花が咲き誇っているとも! 貴様の脳味噌は干からびていそうだな、二番煎じ悪役面!」
やーいやーいお前の母ちゃんでべそ、の世界に行ってしまった2人の頭に、それぞれ陸遜と凌統の拳が振り下ろされた。




314 名前:守りたい大切なものがあるなら 5/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:41:44
「じゃあ僕から自己紹介しますね。僕はりく……」
陸遜がそこまで言った所で、はっとしたように凌統が関興の顎にアッパーカットを入れた。
吹き飛ぶ関興。あっけにとられて見守る一同。
「った、いったいなぁ……なにするんですか凌統どの~」
涙目で文句を言う関興を他所に、凌統が陸遜に素早く何かを囁く。げ、と陸遜が顔を顰めた。
そして凌統はごめんごめん、と愛想笑いを浮かべながら、関興の両腕を後ろから拘束した。
「なんなんですか凌統殿! 放してくださいよー」
「いやいや。まあね。自己紹介続けてください」
「……えーと。僕は陸遜、字は伯言です」
そこまで言ったところで、関興がここまで浮かべ続けていたすっとぼけた笑みが消し飛び、
代わりに強烈な殺気が膨れ上がった。笑みはもう欠片もなく、冷たい瞳に殺すという意思が一瞬で満ち溢れる。
「凌統殿……放してください! 主君の仇を、今ここで……ッ!」
「落ち着け! 落ち着け馬鹿っ、関興!」
暴れる関興を凌統がなんとか封じ込めて居るうちに、陸遜は凌統の銃剣を拾い、刃を自分に向けて関興に差し出した。
「貴方が劉備殿に忠誠を誓ったように、僕は自らの主君、孫権様を守る為に残虐な鬼ともなりました。
 しかしそれは貴方の主を傷つけたことに対して、何の免罪符にもならない。
 僕は逃げも隠れもいたしません。所詮ひ弱い文人です。貴方の武の前には抵抗すら出来ません」
銃剣を握った関興の目を見つめ、どこからでも斬るがいいと両手を広げる。
くっ、と関興が腕をぶるぶる震わせて歯噛みした。
外野と化している司馬懿と文官の青年が、生温い笑みを浮かべる。
ここで関興が陸遜を斬れば、見事に弱いもの虐めの構図になる。
関興は陸遜を斬れないだろう。単純だが悪くない策だ。
彼らの予想通り、関興は銃剣を地面に叩きつけてむすくれた顔で地面に座り込んだ。
ほっとした空気が流れる。



315 名前:守りたい大切なものがあるなら 6/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:45:40
「じゃあ次は俺。凌統、字は公績です。陸遜殿にはいろいろ良くして頂きました」
拱手して人好きのする笑みを浮かべる。
「……僕は関興。字は安国です」
まだ不穏なジト目で陸遜を見やりながらも、関興も拱手する。
「む、次は私か? 私は司馬懿、字は仲達―――」
「うわああああああ!!」
凌統一行の最後の青年が、急に絶叫してカサカサと後ずさった。
「な、なんだ、どうした?」
「か、かさぶたがー! 心のかさぶたが抉られるー!!」
「かさぶた?」
「うわーん! 丞相ー! 兄様ー!!」
凌統に首根っこを引っつかまれて吊り上げられながらもじたばた暴れる彼を見て、関興が呟いた。
「あ。そういや馬謖殿……」
「……馬謖? ふ、ふはははははは! そうか! あの馬鹿丸出しの山頂布陣かー!」
「う、うわああぁぁん!!」
「いやぁ実に面白い布陣だったな! 諸葛亮も洒落が分かる人材起用をするものだ!」
「い、言うなー、言わないでー!!」
「水不足。山頂。張コウ将軍。泣いて馬謖を斬る」
「わーーーーーーーーーっ!!!」
哀れになって陸遜が止める頃には、ご機嫌顔で司馬懿が鼻歌を歌う横で、馬謖が頭を抱えて白く燃え尽きていた。




316 名前:守りたい大切なものがあるなら 7/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:50:43
「えーと、あいつは馬謖で……字は幼常だっけ?」
洞窟のすみっこでじめじめしている馬謖の代わりに一応凌統が紹介しておく。
「寝てる彼は姜維さんという方です……が、その……」
口篭もる陸遜に言わなくていい、と凌統が頷く。
紹介してもらった所でもうどうしようもないだろう。明らかに死相が浮かんでいる。
「はじめはここまで酷くはなかったんですが……司馬懿さんと僕を守る為に、危険な武器を使って」
憂鬱そうに俯き、馬謖から借りた探知機をつつく。
「危険な武器?」
「はい、強力ですが、どうやら使った者の命を削るらしく……」
あれです、と指差した先に、……さっきまですみっこに居たはずの馬謖が居た。
「……馬謖?」
「いや、彼の持ってるあの……えっ?」
「凌統ー、この棒ちょっと面白いぞ~♪ なんか光ってる」
挫けやすいが立ち直りも早いらしい馬謖が、ぶんぶんとミョルニルを振って目をきらきらさせている。
面白いおもちゃを見つけた子供のように馬謖が弄くりまわしたミョルニルが、一同の前で光を発しながら縮んでいった。
そう。

魔法のステッキ、再臨!





317 名前:守りたい大切なものがあるなら 8/9 投稿日:2006/09/06(水) 21:56:34
「な、なんだと……? 私より山頂布陣のほうが魔女っ子向きだというのか……ッ!?」
大ショックの表情でふらりと壁にもたれかかる司馬懿。
「なんだこれ。縮んだぞ?」
怪訝な顔でミョルニルを空中にかざして馬謖が首を傾げた。
それを見ながら、陸遜は以前との差異に気付く。
今はせっぱ詰まった危機があるわけではないのに、ミョルニルが反応した。
そして陳宮殿が持っていたときは、あんなふうにぼんやりした光は出ていなかった。
あの時は雷を撃つ一瞬だけ、激しい光を放出したはずだ。
この違いはなんだ……?

周りの奇妙な雰囲気を気に留めもせず、馬謖はミョルニルを持ったまま横たわる姜維の横にぺたりと座り込んだ。
「起きろよ、姜維……私ひとりではしゃいでてバカみたいじゃないか」
頬をつついてみても、冷たい感触が返るだけ。生と死の狭間を落ちていこうとしている弟弟子を見つめ、
馬謖はぐすりと洟をすすった。
日も沈み、薄暗さを増していく洞窟。
彼にとってはただの光る棒であるミョルニルを明かり代わりにするために、馬謖は姜維の顔上にそれをかざした。

まさにその時。ミョルニルの光が広がり、姜維の全身を包み込む。

伝説に曰く。ミョルニルの正当なる持ち主、雷の神トールは、食料とした黒山羊を何度も再生させるために
ミョルニルを用いたという―――

蒼を通り越し白かった姜維の膚に、僅かに赤みが差す。

馬謖がミョルニルを取り落とし、胸を押さえた。
口を覆い、激しく咳き込む。指の隙間から紅いものが零れた。
「血……?」
呆然と呟き、走って来る凌統と関興を待たず、そのまま倒れ伏す。
その横で、このまま死ぬだろうと思われていた姜維が静かに瞼を開く。
彼の脳裏に響く声。朦朧とした意識のまま、天へと手を伸ばす。



318 名前:守りたい大切なものがあるなら 9/9 投稿日:2006/09/06(水) 22:00:45


遠くから私を呼ぶ声が―――聞こえる。


<<めるへんトリオ featuring 既視感を追う旅/6名>>
陸遜[左腕裂傷(もうすぐ癒えます)]【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×3)、探知機】
姜維[重症(なんとか短時間立って歩ける程度)]【なし】
司馬懿【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、DEATH NOTE、陳宮の鞄、阿会喃の鞄】
凌統【銃剣、犬の母子】
馬謖 [気絶、軽症]【魔法のステッキミョルニル(ひび入り)】
関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター、ブーメラン、サーマルゴーグル】

※漢中より少し南の洞窟に滞在中。
※馬謖はヒーラー属性? ミョルニルは彼の祈りに応えて少しだけ誰かを賦活しますが、
  割に合わない勢いで命を削られます
※香水には嗅ぐとハッピーになる効果。但し体質に合わない人がたまにいます。
※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能。
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