7-181 野望と希望の喪失

115 名前:野望と希望の喪失 1/5 投稿日:2006/08/07(月) 05:30:19
虞翻は戦闘に通じていた。
彼は将軍ではないから、兵を統率する才能も知識もない。
しかし個人での戦いにおいては自慢の矛術と素早い身のこなしで、雑兵十人前後なら互角以上に渡り合えることができる。
幾度となく戦に従軍したこともあり、数々の死線を乗り越えてきたのだ。
だからなのか、それとも元からの神経質な性格のためか、とにかく彼は自分を尾行している人物の存在に気付いていた。
相手は相当用心深く、物陰に潜み、気配を消しながら慎重に虞翻を襲う機会を窺っているようだ。
飛び道具はおそらく持っていない。しかしなにか、光沢のあるものを持っている。
時折わずかな光が、虞翻の背後をちらつくことからそれはわかる。金属製の武器だろうか。
虞翻は懐に入れていたカードを一枚取り出す。取り出したカードには一本の荒々しい、この世のどんな物でも打ち砕けそうな雷が描かれている。
これを使えば全てのモンスター(敵のことか?)を破壊できる、と説明書きにはある。
もちろんそれが嘘八百なのはすでに経験してわかっているが、脅しに使えるなら―――
虞翻は体を反転させ、追尾者がいるであろう、岩が立ち並んでいる方向を見つめると、カードを持つ片手を天へ掲げ、高らかに叫んだ。
「私をつける獰猛な戦士よ、身を潜めて隙を狙う狼よ、まずは空を見上げよ!」



116 名前:野望と希望の喪失 2/5 投稿日:2006/08/07(月) 05:31:18
高順は岩の裏に身を潜めながら、男に言われた通りに天を見上げた。
雲が空の大半を占めていた。所々が黒ずんでおり、暗雲のため太陽はほとんど隠れていた。
いつの間にか、雨がしとしとと降り始めていた。高順の髪はもういくらか濡れている。
四方を見通せば、北の彼方からは重圧感ある緑色の雲が、大量にこちらへ押し寄せている。黄色い光が定期的に、雲の中を駆け回っているのが遠くからもわかる。
「どうだ! 見えるだろう! すでに陽は暗き雲に支配されつつあり、北の豫州では雷雲が成長し続けている。
あれはやがて、北風に吹かれながらこの廬江の地へたどり着くだろう。その爆音を鳴り響かせながら、雨を殴るように降らせ、稲妻は大地を打ち砕く!
大地と砕いた稲妻は、なお四散し周囲の生命へまとわりつくだろう。足から背を伝い首から上まで、全身を針で刺されたかのような刺激が駆けめぐるだろう。
足で二度と地面に立てず、手で物を掴むこともかなわなくなる。
目は二度と景色を移さず、耳は二度と音を拾わない。
心蔵は二度と動かなくなり、脳は何も考えることができなくなる。
さらに衝撃は、その霊魂まで襲うだろう。霊魂は破裂し、復活の望みすらもなくなる。
ただ残るのは、雨に打たれる肉体と、断末魔の残響のみ」
そこで男は一息吐くと、今度はうってかわって低くくぐもった声で話し始めた。
「私の片手にあるこのお札は、妖術を引き起こすことができる。
私がこのお札を持ちつつ、天に向かって『サンダーボルト』と唱え上げれば、あの雲の移動速度を何十倍にも速めることができる。
天は雷雲に満たされ、地上は雨と稲妻と雷鳴に満たされる。天と地上を照らす光は、稲妻から発されるのみであろう。その時こそ、貴様と貴様の霊魂の最後だ。
雨はいよいよ激しくなり、雷鳴はいよいよ大きくなる。稲妻が周囲の岩と木と家を破壊しつくし、ここは荒れ果てた地となる。
そして私が片手を天に掲げれば、貴様は真っ白な光景を最後に、打ち砕かれることになろう。肉体も霊魂も、なにもかもだ。
たとえ直撃は避けれても、貴様の死は避けられまい。理由はすでに聞いてるな?」
実の所、高順は途中から聞くのをやめていた。



117 名前:野望と希望の喪失 3/5 投稿日:2006/08/07(月) 05:34:02
虞翻はしゃべり続けた。なるべく一気にまくしたてて、相手に隙を与えないことが大事なはずだった。
「命が惜しくば、貴様がこの世界で少しでも生き延びようと思うなら、今すぐここを立ち退くがいい。
私は戦いは嫌いだ。出来うるば最後まで、誰も殺さずに生き延びたい。しかし貴様がここを去らなければ、私の淡い希望は破られることとなろう。
貴様は死人となり、私は殺人者となる。いいことなど、何もない。
だから、そうだな、今から百を数えよう。私が百を数えている間に、貴様はここから駆け足で走り去るのだ。
それで問題は、なにも起こらない」
そうして虞翻は数を数えていった。しかし十を数えたところで、追尾者が居たはずの場所に、なんら気配がないことに気が付いた。
もはや、私が喋るのを終わらない内に、去っていったのか?
いや―――虞翻は急速に、背筋が寒くなっていくのを感じた。
そうだ、あんなチャチな脅しで、このゲームに参加するような名のある武将がおとなしく去ってくれるのか?
そんなわけがあるまい。狼のように機会を窺っていた追尾者が、脅しにへこたれて去るわけがない。
ああなんてことだ。こんなカードなど、あの時に捨てておけば―――
背後に殺気を感じた時には、何もかもが手遅れだった。
虞翻の頭と、優勝への野望と、とある二人の希望は、追尾者の振った武器に打ち砕かれることになった。



118 名前:野望と希望の喪失 4/5 投稿日:2006/08/07(月) 05:35:26
高順は岩陰を伝い、男を狼牙棍、またの名を狼牙槊、またの名を狼牙棒という武器で、背後から思いっきり殴りつけた。
劉禅の持つモーニングスターによく似た、金属製の棘を持つ打撃武器は、まず男の背中にめり込んだ。
本当は頭を狙ったのだが、気付かれてしまい、前に飛び逃げられたのだ。いい反応だったが、それでも男は避けきれず、背中に多くの穴を開けた。
続いての一撃は、正確に男の側頭部にぶつかった。頭蓋骨が破壊される音が響き、それで男は絶命した。
「しかしもっと、強力な武器を手に入れなければ、呂布様には到底勝てんだろうな」
高順は男の持っていた二枚のカードを数秒眺めると、ばらばらにちぎり、地面にまいた。
「銃だな。銃を持っている奴を襲って、奪い、それで殺してやる。そしていつか呂布様をも―――」
彼はぶつぶつ呟きながら、血と脳漿に汚れた武器を拭くこともせずに、その場を立ち去った。



119 名前:野望と希望の喪失 5/5 投稿日:2006/08/07(月) 05:39:50
俺の名は董衡。太陽の下でしか生きる事ができない男
(そして俺の名は董超。月の下でしか生きる事ができない男)
えっ~っと、なんか北から雨雲来そうじゃね?
(それってやばくないか?)
箱の中にあった説明書には、月の出ない夜になると死ぬってあったような……
(ちくしょう! そもそもなんで説明書が中にあんだ! 外にあれば開けなかったのに!
開けた後にこの箱は危険なので開けないでねってなんだそりゃ!)
落ち着け董超! 今はとりあえず避難しよう! 西の方はなんか雲少なげだぞ!
(そ……そうだな。そうだ、今にも命が消えそうなのに悠長に医者を待ってられないな。
よし、走るぞ! 夜になる前に、雲のない所まで!)
走るの俺だけだけどね!


@高順【狼牙棍】
※現在地は揚州廬江。日没直前。付近を探し、銃を手に入れ、呂布を殺すことが希望です。
※嵐が来る模様?

@董衡&董超[二心同体(朝昼夕方は董衡、夜は董超が活動)]【なし】
※現在地は揚州南部。西へ、夜になる前に晴れている所を探します。

【虞翻 死亡確認】
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最終更新:2007年11月17日 18:03
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