7-157 ふぞろいの林檎たち

441 名前:ふぞろいの林檎たち1/5 投稿日:2006/07/29(土) 00:57:06
それは、ほんの些細なことがきっかけだった。
蜀を目指して上庸のあたりを歩いている頃だったか。
三人は疲弊しきっており、ろくな食料も手に入らぬせいで空腹でもあり、気が立っていた。
馬忠は少し遅れて足を引きずりながら無言で歩き、
夏侯惇と廖化は肩を並べていたものの、言葉を交わす元気も無かった。
辺りは静まりかえり、時折聞こえるは鳥の鳴き声とお互いの荒い息づかいだけ。

「玄徳様がいればなあ」

廖化が、漏れる吐息に忍び込ませるようにそっと呟いたのだ。

「玄徳様がいれば、こんな目に会わずに済むのに」

下を向いて黙々と歩いていた彼は途端に顔を上げ、
妙にキラキラとした目で夏侯惇を見やってきた。

「聞けよ、元譲。俺ってばさ、すげー玄徳様に心酔してたんだ。
 もちろん今でもしてる。慕ってるよ。あの人すげーんだ。素晴らしい人だ。
 だから、俺は呉に捕まっても意地で逃げ延びてやった」


442 名前:ふぞろいの林檎たち2/5 投稿日:2006/07/29(土) 00:58:04
廖化は生前……この言い方もおかしいが、適切なものが見つからない……
あの憎き関羽の主簿を勤めていたらしい。
関羽が呂蒙に破れたことにより一度は呉に投降したらしいのだが、
劉備の元に戻りたいが為に自らを死者に模し、
そのまま呉を脱出して蜀まで舞い戻ってきたらしい。
やっと玄徳様に会えた時の嬉しさと言ったらと、そのまま思い出し泣きをしている。

おめでたい奴だ。
疲れているから余計に過去が美化されて思い出されるのだろうか。
半ば呆れながら苦笑していた夏侯惇の耳に、しかし次の言葉が飛び込んできた。

「元譲もさ、あんなチビじゃなくて玄徳様に仕えてたら、
 きっと片目を失うこともなかったぜ」

たかが戯言だ。
それは、たかが疲弊しきった心から無意識に漏れ出てくる感情の発露だ。
真面目に受け取るのも馬鹿馬鹿しい。
頭ではそうわかっていた。しかし、身体が承知しなかった。


443 名前:ふぞろいの林檎たち3/5 投稿日:2006/07/29(土) 00:59:22
右の拳が宙に突き出された。廖化はそのまま吹っ飛んで草むらに落ちた。
疲れているにもかかわらず凄い威力だと我ながらおかしくなる。
離れたところを歩いていた馬忠が、驚き慌てて駆けよってきた。

「元譲、そのツッコミはひどすぎるよ!」

だれがツッコミだ。
吹っ飛ばされた廖化が頬を押さえて立ち上がる。

「ぶったな! オヤジにもぶたれたこと無いのに!」
「アムロかよ!」

すかさず馬忠が身体いっぱい使って突っ込んでいる。
いつのまにかボケとツッコミが逆転しているが、そんなことはどうでもよかった。

孟徳を侮辱されたのが許せなかったのだ。

……14の夏。暑い盛りだった。
敬愛する師匠をひどい言葉で罵った男を無意識にたたきのめした。
初めて切り裂いた人の肉体。飛び散る鮮血を浴びながら呆然と立ち尽くしたあの日。

ときどき、押さえきれない怒りを覚えることがある。
そういう時は心が追いつかぬまま身体だけが動いてしまう。
己は胸中に何か恐ろしいものを抱えているのではないかと不安になったこともあった。
しかし、従兄の曹操はそんな夏侯惇の悩みを一笑に付した。

「元譲、おまえはただ感情過多なだけだ。それはまったく悪いことではないぞ」


444 名前:ふぞろいの林檎たち4/5 投稿日:2006/07/29(土) 01:00:16
「うんこ野郎、よく聞け、俺は百編生まれ変わっても大耳野郎の下にはつかんぞ!」
「なななななんだとぉ! 俺は千回生まれ変わっても玄徳様の元に行く!」
「そしてその千回ともに、お前の大事な主人は散々逃げ回って
 地の果てでちんけな国をおっ立てるんだろうな」
「このやろう!」

「私のために喧嘩は止めて!」

馬忠が泣きながら叫んでいる。
お前は関係NEEEEE!!!とツッコミたくなったが廖化を殴るのが先なので止めておいた。
その廖化はと言うと、やけくそのように暴れている。文官のくせになかなか骨のある男だ。

「クソったれ! 盲夏侯!」
「残念だが今の俺には両目がある!」
「前世は盲夏侯だろバーヤバーヤ!!」
「やかましいわ! たかが関羽の犬ふぜいが偉そうに!」
「お、お、お、お前こそ曹操の犬だろうが糞がぁぁぁぁ!」


445 名前:ふぞろいの林檎たち5/5 投稿日:2006/07/29(土) 01:01:21
俺はいったい何をやってるんだ……。

玄徳様ぁぁぁと泣き出した廖化を見た瞬間色々なものが冷めた。
しばし呆れ、そして腕の先にあるくしゃくしゃになった中年男の泣き顔に触れた。
「お前も俺も度し難いアホだな」
俺はアホじゃないと馬忠が訴えているが無視した。

「気が変わった。お前らは蜀に向かえ。俺は戻る」

この漫才二人組と一緒に蜀に行ってどうするんだ。
どう足掻いてもこの世界から抜け出せそうもないなら、
それなら、最後に一目でもあいつの顔を見たい。


「あばよ!」


「今どき柳沢慎吾かよ!」

馬忠のツッコミが辺りに響き渡った。


@夏侯惇[腕にかすり傷]【金属バット】
※ピンユニット化。曹操を捜して豫州に向かいました(カンを頼りに動いています)

《孤篤と廖淳/2人》
馬忠【グロック17】&廖化[両頬に腫れ、鼻血]【鎖鎌】
※現在荊州にいます。蜀に向かっています。

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最終更新:2007年04月20日 21:28
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