7-103 ヤブ蚊とアモーと短歌行


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246 名前:ヤブ蚊とアモーと短歌行1/5[sage] 投稿日:2006/07/18(火) 23:16:30
呂範を一刀に切り裂いた関羽を追いかけて闇雲に南へ駆けた筈だった。
しかし、どこかで道を間違えたらしく、だんだん方向感覚も鈍ってきた。
諸葛瑾とすれ違ったのは覚えている。話しかけようとしたが、叶わなかった。
そのまま歩き続け、足がもつれて倒れ込むように草むらに伏し、
気を失うように眠ってしまったようだ。
そして今、目を覚ました呂蒙は全身を激しく掻きむしっている。

「かゆい!!」

湿った草地に顔面から突っ込んで爆睡していたのだ。
運悪くヤブ蚊の密生地帯だったらしく、
全身肝ならぬ全身虫さされと言った具合にすさまじいことになっている。

ヴォリヴォリヴォリ
掻~いちゃだめ掻いちゃだめー♪ わかってる。もちろんわかってる!
でも掻かずにはいられないこのかゆさ。
呂蒙は捻りはちまきをむしり取ると布の表面で全身を擦り始めた。


247 名前:ヤブ蚊とアモーと短歌行2/5[sage] 投稿日:2006/07/18(火) 23:17:05
ふと、小さな物体が目に入った。
湿った大地を土にまみれながら転がるそれを慌てて拾い上げる。
白い円筒状で、先には丸みを帯びた蓋。
捻って開けると、ツンと鼻を突く匂いがした。
スポンジ部分を皮膚に押しつけるようにして塗布してみる。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
全身を襲っていたすさまじいかゆみが治まったではないかヽ(´▽`)ノ

呂蒙は夢中になってあちこちに塗りまくった。
「スッキリしました?」
背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、
ふたりの男が興味深げにこちらを見つめていた。
ひとりはすらりと背の高い若い男で、
どこか懐かしい雰囲気を感じる知的な顔には若者らしい好奇心を覗かせている。
もうひとりは小柄ながら覇気のある瞳を持った中年男で、なぜか頭にはほっかむりをしていた。
「液体ムヒって言うものらしいです。虫さされによく効きますよ」
「どうも」
「全身真っ赤だ。めっちゃ刺されてますよ。まさかここで寝たんですか?」
「どうも疲れていたようで……不覚だった」


248 名前:ヤブ蚊とアモーと短歌行3/5[sage] 投稿日:2006/07/18(火) 23:17:48
一体誰だろう?
ふたりとも実に穏やかな顔をしている。
こちらに対し、敵意は持っていないようだ。
「とりあえずこれでも食うといい」
小柄な男が小さな四角いものを差し出してきた。
遠慮無くいただいて口内に放り込むと、濃厚な甘味がふわーっと広がる。
疲れが一気に吹き飛んだヽ(´▽`)ノ

「ちろるちょこだ。気に入ったならあとでもう一粒やろう。
 それより今はお主のことを教えてもらいたい」
「俺は……呂蒙だ」
「おお! 呉下の阿蒙さんですか! うわあまた凄い人に会っちゃったよ。
士別れて三日、すなわちまさに刮目して相待つべし!」
いや、呉下の阿蒙だったのは昔で今は呂蒙……
それ以前に己の名言を他人に言われるのは恥ずかしいものがある。
「俺は陸機です。祖父が陸遜で父が陸抗って言います。知ってますか?」
知ってるもなにも! 若い男を初めて見たとき覚えた既視感は間違っていなかったらしい。
確かにこの男は陸遜の面影を残している。


249 名前:ヤブ蚊とアモーと短歌行4/5[sage] 投稿日:2006/07/18(火) 23:18:44
「そして阿蒙さん、こちらは曹操殿です」
「そ、そうそぉ!???」
呂蒙は思わずまじまじと小柄な男の顔を見つめた。
地味な顔の中で圧倒的に目立つ瞳が、確かにこの男がただ者ではないことを知らしめている。
「お主が呂蒙か。一度会ってみたかった。関羽に魅せられし仲間よ!」
「いや、俺はあんな奴に魅せられてませんて……勝手なこと言わないでください」
「まあまあ、阿蒙さん、それでね、曹操殿は良くも悪くも有名人だし、
 狙ってくる奴も多いんじゃないかと思って、
 こうやって俺の発案で変装してるんですよ。どうです? わからなかったでしょ?」
謎のほっかむりは変装だったようだ。
彼を知っている人間から見たら一目瞭然のような気もするが……。
得意げに頭を覆う布を引っ張る曹操はひどく子供っぽい。

「ところで、阿蒙さんの支給物はなんですか?」
陸機の言葉に合わせるように、
ふたり揃って瞳を輝かせ、期待に満ちた目でこちらを伺ってきた。
思わず呂蒙はその場で昏倒したくなる。
すまん、でもこれは俺のせいじゃない。
俺にこんな道具しか与えてくれなかった天のせいだ。
そうだ。こればかりは、呉下の阿蒙がどんなに勉強してもどうにも出来なかった領域なんだ。


250 名前:ヤブ蚊とアモーと短歌行5/5[sage] 投稿日:2006/07/18(火) 23:19:55
ヤブ蚊だらけの湿地を離れ……
三人は曹操が見つけたという狭い岩穴の前に戻って座り込んだ。
ちろるちょこ、液体ムヒ、そして捻りはちまき。

「♪酒を豪邸に置いて さかづき持って悲しみ歌う
 人の命は短くて それは朝の霜のごとく消ゆ
 時は重ねて到ることなく 華再びひらくことなく…♪」
「いい詩だのう」
「短歌行です。曹操殿の短歌行にインスパイヤされて作ったんですよ。
 でもやっぱり本家には敵わないな。
 酒に対して当に歌うべし 人生幾何ぞ ♪」

月夜の下で陸機が小さな声で歌を詠いだし、
曹操がそれに合わせて唱和し始めた。

ああ。
こんな恐ろしげな世界なのにもかかわらず、
なんて典雅なんだろう。

全身にムヒ臭を充満させながら、文学的な香り漂う岩穴の前で、
呂蒙はひとり今後について思いを馳せた。


<<ふたりの詩人とひとりのアモー/3名>>
@曹操【チロルチョコ(残り88個)】
@陸機【液体ムヒ】
@呂蒙【捻りはちまき】
☆現在青州にいます。これから南へ行く予定です。
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