7-090 月夜の魔魅

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212 名前:月夜の魔魅(1/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:36:03 空を指して伸びる竹の間に真円の月が見える。 それを仰ぎ見ようと身動ぎした沓の下、枯れた葉がかさりと乾いた音を立てた。 「ふむ……」 宛の外れ。鄙びた民家が遠目に見える竹林に佇み、その音を分析するように目を細める美丈夫一人。 周瑜である。 「ここならばよいだろうか」 とひとりごちると、ザックを開け支給品を取り出した。 彼の支給品はカラクリ箱である。説明には楽器だと書いてあるが、爪弾くべき弦も叩くべき鍵盤も見当たらない。 楽に明るい周瑜はこの奇妙な"楽器"に興味を覚えたが、奈何せんこの状態である。曹一族を一網打尽にしようと 張っているらしい連中から身を守るために迂回路を取り、安心して楽に興じることができる時間帯と場所を探っていたのだ。 (とはいえ、未だ洛陽から大して離れてはいない。予断は―――許されないな) とも考えたが好奇心は猫をも殺す。添付されていた説明書きを月明かりを頼りに読みつつ、操作してみることにした。 「しかし楽器に触れずに操作せよ、とは面妖なものだ。この棒の周囲の波紋を手で繰れば良いようだが…」 音量を最小にしつつ、耳に親しんだ音階を探す。 ここは『音を間違えると周郎が振り向く』と後世に伝される彼のこと、たちまちその電子楽器を使いこなせるまでになった。 こうなってくると楽の一曲でも奏でたくなるのは人の性というものだろうか。このときの周瑜も例外ではない。 竹林の真ん中に腰をおろすと背筋を伸ばし、すうと竹林の空気を肺に満たすと弦のない竪琴を爪弾き始めた。 ---- 213 名前:月夜の魔魅(2/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:36:48  ――――こんな夜更け、闇と風の中に馬を走らせるのは誰だろう。  それは父と子だ。父はおびえる子をひしと抱きかかえている。 父 「息子よ、なぜ顔を隠すのだ」 子 「とうさまには魔王がみえないの。かんむりをかぶって、長いころもをきている…」 父 「あれはたなびく霧だ…」 魔王「かわいい坊や、一緒においで。面白い遊びをしよう。岸辺にはきれいな花が咲いているし、    金の服を私の母さんがたくさん用意して待っているよ。」 子 「とうさま!とうさま!きこえないの。魔王がぼくになにかいうよ。」 父 「落ち着きなさい、枯葉が風にざわめいているだけだよ。」 魔王「いい子だ、私と一緒に行こう。私の娘たちがもてなすよ。お前をここちよくゆすぶり、踊り、歌うのだ。」 子 「とうさま!とうさま!みえないの、あのくらいところに魔王のむすめが!」 父 「見えるよ。だが、あれは古いしだれ柳の幹だよ。」 魔王「愛しているよ、坊や。お前の美しい姿がたまらない。力づくでもつれてゆく!」 子 「とうさま、とうさま!魔王がぼくをつかまえる!魔王がぼくをひどい目にあわせる!」  父親はぎょっとして、馬を全力で走らせた。あえぐ子供を両腕に抱え、やっとの思いで館に着いた…  腕に抱えられた子はすでに―――― ---- 214 名前:月夜の魔魅(3/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:37:28 そんな夢を見て目が醒めた。 曹丕は頭をひとつ振ると夜風に冷えた手を額に当てる。 気を確かにもたねば。傍らで眠る幼い弟の妨げになってはならない。 右肩の傷は熱を持っているようで、そのじくじくした痛みから自分が眠ってしまうことはあるまいと思っていたが、 ここまでの疲労はそれをも上回るか。このざまでは寝ずの番にならぬな、と自らを笑った。 ―――しかし厭な夢を見た。曹丕はうたたねの間に見た夢を回想する。 確かにここまで何者かに追われ、結果として自分が怪我をすることになった。 しかし曹幹は自分の子ではないし、このゲームが始まって以降自分は馬になど乗っていない。 そして何より、その夢のおわり。あの結末は… ―――再び、頭を振る。 単なる夢だ。そんなものに不安を掻きたてられるなど、自分もやきが回ったか。 失血のせいか傷の持つ熱のせいか。それとも、月夜の魔魅の奏でる楽にでも踊らされたか。 窓越しに見える真円の月は、曹丕の膝を枕にして寝入ってしまった曹幹の幼い寝顔を静かに照らしていた。 そして竹林からも民家からも見えない森の中。 鳥の声とも虫の声とも違うその音色に気づいた祝融は、先を行く夫にそっと耳打ちした。 ---- 215 名前:月夜の魔魅(4/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:38:05 @周瑜【テルミン】 ※演奏後立ち去りました。演目はシューベルト『魔王』 <<パパじゃないよお兄ちゃんだよ/2名>>  曹丕[右肩負傷・手当て不完全、寝ずの番中。疲労によりウトウト]【スコーピオン(残弾19発)】 &曹幹[睡眠中]【白い鳩】 ※宛の民家にて休息中。明かりは点けていません。休んだら許昌へ向かうつもり。 ※曹丕の傷はきちんと手当てをしないと悪化していきそうです。 ※周瑜の演奏が聞こえる範囲にいます。 <<後追う南蛮夫婦/2名>>  孟獲【???】 &祝融【???】 ※曹植を追跡中(意図は未判明)に周瑜の演奏に遠耳ながら気づきました。 (@曹植【???】[右腕負傷]は夫婦の尾行に気づいていません。付近にいますが演奏に気づいたかどうかは不明)
212 名前:月夜の魔魅(1/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:36:03 空を指して伸びる竹の間に真円の月が見える。 それを仰ぎ見ようと身動ぎした沓の下、枯れた葉がかさりと乾いた音を立てた。 「ふむ……」 宛の外れ。鄙びた民家が遠目に見える竹林に佇み、その音を分析するように目を細める美丈夫一人。 周瑜である。 「ここならばよいだろうか」 とひとりごちると、ザックを開け支給品を取り出した。 彼の支給品はカラクリ箱である。説明には楽器だと書いてあるが、爪弾くべき弦も叩くべき鍵盤も見当たらない。 楽に明るい周瑜はこの奇妙な"楽器"に興味を覚えたが、奈何せんこの状態である。曹一族を一網打尽にしようと 張っているらしい連中から身を守るために迂回路を取り、安心して楽に興じることができる時間帯と場所を探っていたのだ。 (とはいえ、未だ洛陽から大して離れてはいない。予断は―――許されないな) とも考えたが好奇心は猫をも殺す。添付されていた説明書きを月明かりを頼りに読みつつ、操作してみることにした。 「しかし楽器に触れずに操作せよ、とは面妖なものだ。この棒の周囲の波紋を手で繰れば良いようだが…」 音量を最小にしつつ、耳に親しんだ音階を探す。 ここは『音を間違えると周郎が振り向く』と後世に伝される彼のこと、たちまちその電子楽器を使いこなせるまでになった。 こうなってくると楽の一曲でも奏でたくなるのは人の性というものだろうか。このときの周瑜も例外ではない。 竹林の真ん中に腰をおろすと背筋を伸ばし、すうと竹林の空気を肺に満たすと弦のない竪琴を爪弾き始めた。 ---- 213 名前:月夜の魔魅(2/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:36:48  ――――こんな夜更け、闇と風の中に馬を走らせるのは誰だろう。  それは父と子だ。父はおびえる子をひしと抱きかかえている。 父 「息子よ、なぜ顔を隠すのだ」 子 「とうさまには魔王がみえないの。かんむりをかぶって、長いころもをきている…」 父 「あれはたなびく霧だ…」 魔王「かわいい坊や、一緒においで。面白い遊びをしよう。岸辺にはきれいな花が咲いているし、    金の服を私の母さんがたくさん用意して待っているよ。」 子 「とうさま!とうさま!きこえないの。魔王がぼくになにかいうよ。」 父 「落ち着きなさい、枯葉が風にざわめいているだけだよ。」 魔王「いい子だ、私と一緒に行こう。私の娘たちがもてなすよ。お前をここちよくゆすぶり、踊り、歌うのだ。」 子 「とうさま!とうさま!みえないの、あのくらいところに魔王のむすめが!」 父 「見えるよ。だが、あれは古いしだれ柳の幹だよ。」 魔王「愛しているよ、坊や。お前の美しい姿がたまらない。力づくでもつれてゆく!」 子 「とうさま、とうさま!魔王がぼくをつかまえる!魔王がぼくをひどい目にあわせる!」  父親はぎょっとして、馬を全力で走らせた。あえぐ子供を両腕に抱え、やっとの思いで館に着いた…  腕に抱えられた子はすでに―――― ---- 214 名前:月夜の魔魅(3/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:37:28 そんな夢を見て目が醒めた。 曹丕は頭をひとつ振ると夜風に冷えた手を額に当てる。 気を確かにもたねば。傍らで眠る幼い弟の妨げになってはならない。 右肩の傷は熱を持っているようで、そのじくじくした痛みから自分が眠ってしまうことはあるまいと思っていたが、 ここまでの疲労はそれをも上回るか。このざまでは寝ずの番にならぬな、と自らを笑った。 ―――しかし厭な夢を見た。曹丕はうたたねの間に見た夢を回想する。 確かにここまで何者かに追われ、結果として自分が怪我をすることになった。 しかし曹幹は自分の子ではないし、このゲームが始まって以降自分は馬になど乗っていない。 そして何より、その夢のおわり。あの結末は… ―――再び、頭を振る。 単なる夢だ。そんなものに不安を掻きたてられるなど、自分もやきが回ったか。 失血のせいか傷の持つ熱のせいか。それとも、月夜の魔魅の奏でる楽にでも踊らされたか。 窓越しに見える真円の月は、曹丕の膝を枕にして寝入ってしまった曹幹の幼い寝顔を静かに照らしていた。 そして竹林からも民家からも見えない森の中。 鳥の声とも虫の声とも違うその音色に気づいた祝融は、先を行く夫にそっと耳打ちした。 ---- 215 名前:月夜の魔魅(4/4) 投稿日:2006/07/17(月) 02:38:05 @周瑜【テルミン】 ※演奏後立ち去りました。演目はシューベルト『魔王』 <<パパじゃないよお兄ちゃんだよ/2名>>  曹丕[右肩負傷・手当て不完全、寝ずの番中。疲労によりウトウト]【スコーピオン(残弾19発)】 &曹幹[睡眠中]【白い鳩】 ※宛の民家にて休息中。明かりは点けていません。休んだら許昌へ向かうつもり。 ※曹丕の傷はきちんと手当てをしないと悪化していきそうです。 ※周瑜の演奏が聞こえる範囲にいます。 <<後追う南蛮夫婦/2名>>  孟獲【???】 &祝融【???】 ※曹植を追跡中(意図は未判明)に周瑜の演奏に遠耳ながら気づきました。 (@曹植[右腕負傷]【???】は夫婦の尾行に気づいていません。付近にいますが演奏に気づいたかどうかは不明)

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