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196 名前:見えない恐怖 1/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:25:50
暗闇の中で微かに動く人影を木陰から見つめる4つの瞳。そのうち2つの瞳は、陰の姿が朧にしか見えていない。
その影は、長柄の武器と、持ち手のある細長いもの(おそらく献帝の護衛が持っていた『銃』というものと同種の
ものだろう)を持っている。
「……馬岱どの(註1)、見えますか?」
闇に視界を遮られている2つの瞳の持ち主――姜維が問う。
「んー、ちょっと待ってな、今確認するから……」
残り2つの瞳――馬岱は木陰から身を乗り出し、人影の横顔を良く観察する。50m程離れているようだ。
馬岱の瞳が一瞬大きく見開かれ、そして止まる。軽く歯の根が震える音。汗が額と背中に伝うのを感じる。
「おい……」
ぎりっ。歯噛みする音が不快に響く。もし周囲が明るかったら、その苦々しい表情も見えた筈だ。
「オレは、あいつはてっきり漢中に向かったモンだと思ってたがな……」
語尾に力が無い。
「え……それはその、まさか」
「そのまさかだ。畜生、ひょっとしてオレ達を追ってきたんじゃないだろうなッ!?」
その台詞が終わるか終わらないかの辺りで、影は振り向いた。
瞳と刃と銃身が、月明かりを受けて煌いた。
こちらに、気付いた。そして、唇だけで笑った――
気付かれた! いや、ずっと気付いていたのかも知れない。だが、姜維と馬岱はそのことについて思案する時間を
与えられなかった。影は銃を構えたまま、一気に距離を詰めながら立て続けに3発、発砲してきた。
1発目は届かない。2発目は明後日の方向に散る。3発目は射線上の別の木を穿つ。
そして――僅かの間を空けて放たれた4発目は正にふたりが隠れていた木の裏側に突き刺さる。
舌打ちして木を回り込んで来る影は、最早姜維の目にもその姿が顕になる程の至近に在った。
「魏延どの……」
とうとう銃口に捉えられた姜維の声は、上ずっていた。
(註1:前回何を間違えたか呼び捨てで書いてしまったので訂正しておきます……orzナニヤッテンダオレ)
----
200 名前:見えない恐怖 2/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:30:05
5発目は――
姜維は目を閉じた。覚悟、という言葉を強く意識する。心臓が耳元にあるかの如くに、己の鼓動を強く聴いた。
かつて過ごした時間の、様々な記憶が交錯する。その中で一際不快な記憶。
何か、異形の物が、私の身体を喰らい、赤くて、黒くて、
侵蝕して、私は融けて、取り込まれて、
……いや、こんな体験はなかった、なかった、はず――
かちっ。
5発目は、放たれなかった。
銃の機構が薬莢を伴わずに火花を散らす――空撃ちの音が響く。
その無機質な音に我に返った姜維はある事実にに気付く。そしてその身を翻す。
(……弾切れ……! この機を逃したら我々に後はありません!)
明瞭な視界を以って状況を把握した馬岱は、駆けた。
一方の魏延も銃が空になったことを悟り、一緒に支給された予備の弾の存在を思い出すが、真横から馬岱の体当たりを受けた為、
再装填は断念して白兵戦に切り替えることにしたようだ。
横転しながらも、斧とも槍ともつかない得物を構える。体勢を立て直し、今度は突進した為に倒れこんでいた馬岱に躍り掛かるが、
倒れたまま地を転がりかわす。刃は勢いを減らすことなく、方向のみを変えて襲い掛かり、姜維の鼻先を掠る。
――追い込まれている。現状、正直銃撃戦よりはマシだが、獲物が無い以上不利は覆せそうも無い。
“一か八か”、という言葉が、姜維の思考の扉を叩く。
次に魏延が得物を構え直したとき、姜維は鞄の中の円柱を握り、全力で投げた。
そちらの方にいる、と言う認識だけで、当てずっぽうで投げた。怯めばいい方だと思っていた。
魏延は目の前に飛んで来たそれを、反射的に長柄で薙いだ。
鋼とかち合った硝子の瓶は砕け、その内に湛えていた液体を飛散させた。辺りに異臭が漂う。
「ぐっ……ぐおおおおぉぉ……」
----
201 名前:見えない恐怖 3/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:32:12
液体を顔と右腕に浴びた魏延が、突如その巨躯を折る。
「お、おのれ……何を……」
魏延が液体を浴びた顔と右腕を押さえて酷く苦しんでいる。見れば、皮膚に火脹れが出来、一部は削げて肉が露出している。
(……火傷? 少なくともこれは熱湯ではなかった筈……。 私はこんな大打撃を与えるつもりは――)
手にしていた得物も、液体を受けた箇所が薄く溶解している。
「何をしたッ……おのれ、おのれ……姜維ッ……!」
むしろ驚いたのは姜維の方だ。あれは、あの液体は、一体何だったのだ!?
あらゆる可能性が脳裏を巡る最中、身体が宙に浮いた。馬岱に抱えられたのだ。そのまま跳躍、疾走する。
魏延はなおも何かを呟きながら、よろよろとこの場を離れようとしている。とにかく、この顔と手を、
得体の知れない変な水を、どうにかしなくては。水場を捜さなくては。
既に姜維たちに対しては追いかける事よりも後で報復する事を考えている。
痛い。痛いのだ。顔が、腕が、焼ける様に痛むのだ――
暫く進んだ所で、裸眼でお互いの姿が目視出来ない距離を開けられただろうと判断し、馬岱は姜維を地に降ろす。
少し奥まった茂みに並んで座る。馬岱は全力疾走で、姜維は緊張で、息が弾んでいる。
何処からともなく歌声が聞こえるが(>>188)、今は直接害を為さない物を調べに行く気はなかった。
深いため息をひとつ。今回の件について、姜維は幾許か思案してみた。
どうも魏延どのは我々を追って――いや、現れた方向からすると、一度漢中まで行ってから戻って来たものと考えるのが
妥当なようです。ということは、我々が北寄りに進路を取っていた――図らずしてですが――ということを存じていた?
つまり、大勢を把握している何者かが情報を流している?
いや、だとしたら、馬岱どのの持ち物も把握しているでしょうから、夜間戦闘を挑んでくるのは不自然です。
ということは、1)不完全な情報しか持っていない物が流した 2)故意に不完全な情報の伝え方をした
と、考えられますね。でも、もしそうだったとして、何者が――
そこまで考えて、姜維はふと、もう一つ気になる事を思い出した。
記憶の走馬灯に挟まっていた、奇妙な記憶。あれは、何だったのか。
----
202 名前:見えない恐怖 4/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:35:48
何か、異形の物が、私の身体を喰らい、赤くて、黒くて、侵蝕して、私は融けて、取り込まれて――
そこで、“私”は“死んだ”のでしょうか……?
軽く身震いする。そんな可笑しな体験などありえない。
そこで傍の馬岱に情報の流布について問うてみたところ、彼も似た様な事を感じていた。但し、情報以外の何か、
例えば武器や道具――も流れているかも知れない、という追加の見解付きだ。確かに。同意の意味で頷く。
「ときに、馬岱どの」「ん?」
鋭い夜の風を浴びながら、ひとつずっと引っかかっていたことをぶつけてみる。
「あなたが何故、私を捜し追って来たのか――いえ、前に「誰かと合流しないと」というのは聞きましたが、
どうして私なのでしょうか、と思いまして」
極僅かだが、馬岱の表情に影が落ちる。
「アニキがさ、何か乗り気っぽかったんだよな」(→[[7-076]]に至る)
重い声で呟くように答えると、その表情は姜維に伝播した。が、
「そうですか…………ありがとう」
「……へ?」
脈絡の無い礼に、まるで出会って声を掛けた時の姜維のような表情になる。
「いえ、こんな状況で、私を信じてくれた事、にです」
「はは……それはオレも。何の疑いもなく付き合ってくれてありがとうな」
ふたり揃って相好が崩れる。状況の凄惨さに似つかわしくない優しい笑いが漏れる。
――こんな感じだったからこの晩姜維は、結局あの奇妙な記憶の話を馬岱にし損ねたのだ。
<<丞相を捜せ!/2名>>
@姜維【なし】(いつぞやの記憶がある?)
@馬岱【赤外線ゴーグル】
※夜が明けるまで現在地点に駐留するようです。陳宮・陸遜・司馬懿とはおそらく未だニアミス状態です。
(なお、小瓶の中身は濃硝酸だった模様)
@魏延[右腕・顔面右側に火傷]【ハルバード(少し融けています)、M37ショットガン】
※この場を離れました(今は水を探しています)。傷をどうにかしたら漢中に戻るつもりのようです。もちろん復讐する気満々です。
196 名前:見えない恐怖 1/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:25:50
暗闇の中で微かに動く人影を木陰から見つめる4つの瞳。そのうち2つの瞳は、陰の姿が朧にしか見えていない。
その影は、長柄の武器と、持ち手のある細長いもの(おそらく献帝の護衛が持っていた『銃』というものと同種の
ものだろう)を持っている。
「……馬岱どの(註1)、見えますか?」
闇に視界を遮られている2つの瞳の持ち主――姜維が問う。
「んー、ちょっと待ってな、今確認するから……」
残り2つの瞳――馬岱は木陰から身を乗り出し、人影の横顔を良く観察する。50m程離れているようだ。
馬岱の瞳が一瞬大きく見開かれ、そして止まる。軽く歯の根が震える音。汗が額と背中に伝うのを感じる。
「おい……」
ぎりっ。歯噛みする音が不快に響く。もし周囲が明るかったら、その苦々しい表情も見えた筈だ。
「オレは、あいつはてっきり漢中に向かったモンだと思ってたがな……」
語尾に力が無い。
「え……それはその、まさか」
「そのまさかだ。畜生、ひょっとしてオレ達を追ってきたんじゃないだろうなッ!?」
その台詞が終わるか終わらないかの辺りで、影は振り向いた。
瞳と刃と銃身が、月明かりを受けて煌いた。
こちらに、気付いた。そして、唇だけで笑った――
気付かれた! いや、ずっと気付いていたのかも知れない。だが、姜維と馬岱はそのことについて思案する時間を
与えられなかった。影は銃を構えたまま、一気に距離を詰めながら立て続けに3発、発砲してきた。
1発目は届かない。2発目は明後日の方向に散る。3発目は射線上の別の木を穿つ。
そして――僅かの間を空けて放たれた4発目は正にふたりが隠れていた木の裏側に突き刺さる。
舌打ちして木を回り込んで来る影は、最早姜維の目にもその姿が顕になる程の至近に在った。
「魏延どの……」
とうとう銃口に捉えられた姜維の声は、上ずっていた。
(註1:前回何を間違えたか呼び捨てで書いてしまったので訂正しておきます……orzナニヤッテンダオレ)
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200 名前:見えない恐怖 2/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:30:05
5発目は――
姜維は目を閉じた。覚悟、という言葉を強く意識する。心臓が耳元にあるかの如くに、己の鼓動を強く聴いた。
かつて過ごした時間の、様々な記憶が交錯する。その中で一際不快な記憶。
何か、異形の物が、私の身体を喰らい、赤くて、黒くて、
侵蝕して、私は融けて、取り込まれて、
……いや、こんな体験はなかった、なかった、はず――
かちっ。
5発目は、放たれなかった。
銃の機構が薬莢を伴わずに火花を散らす――空撃ちの音が響く。
その無機質な音に我に返った姜維はある事実にに気付く。そしてその身を翻す。
(……弾切れ……! この機を逃したら我々に後はありません!)
明瞭な視界を以って状況を把握した馬岱は、駆けた。
一方の魏延も銃が空になったことを悟り、一緒に支給された予備の弾の存在を思い出すが、真横から馬岱の体当たりを受けた為、
再装填は断念して白兵戦に切り替えることにしたようだ。
横転しながらも、斧とも槍ともつかない得物を構える。体勢を立て直し、今度は突進した為に倒れこんでいた馬岱に躍り掛かるが、
倒れたまま地を転がりかわす。刃は勢いを減らすことなく、方向のみを変えて襲い掛かり、姜維の鼻先を掠る。
――追い込まれている。現状、正直銃撃戦よりはマシだが、獲物が無い以上不利は覆せそうも無い。
“一か八か”、という言葉が、姜維の思考の扉を叩く。
次に魏延が得物を構え直したとき、姜維は鞄の中の円柱を握り、全力で投げた。
そちらの方にいる、と言う認識だけで、当てずっぽうで投げた。怯めばいい方だと思っていた。
魏延は目の前に飛んで来たそれを、反射的に長柄で薙いだ。
鋼とかち合った硝子の瓶は砕け、その内に湛えていた液体を飛散させた。辺りに異臭が漂う。
「ぐっ……ぐおおおおぉぉ……」
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201 名前:見えない恐怖 3/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:32:12
液体を顔と右腕に浴びた魏延が、突如その巨躯を折る。
「お、おのれ……何を……」
魏延が液体を浴びた顔と右腕を押さえて酷く苦しんでいる。見れば、皮膚に火脹れが出来、一部は削げて肉が露出している。
(……火傷? 少なくともこれは熱湯ではなかった筈……。 私はこんな大打撃を与えるつもりは――)
手にしていた得物も、液体を受けた箇所が薄く溶解している。
「何をしたッ……おのれ、おのれ……姜維ッ……!」
むしろ驚いたのは姜維の方だ。あれは、あの液体は、一体何だったのだ!?
あらゆる可能性が脳裏を巡る最中、身体が宙に浮いた。馬岱に抱えられたのだ。そのまま跳躍、疾走する。
魏延はなおも何かを呟きながら、よろよろとこの場を離れようとしている。とにかく、この顔と手を、
得体の知れない変な水を、どうにかしなくては。水場を捜さなくては。
既に姜維たちに対しては追いかける事よりも後で報復する事を考えている。
痛い。痛いのだ。顔が、腕が、焼ける様に痛むのだ――
暫く進んだ所で、裸眼でお互いの姿が目視出来ない距離を開けられただろうと判断し、馬岱は姜維を地に降ろす。
少し奥まった茂みに並んで座る。馬岱は全力疾走で、姜維は緊張で、息が弾んでいる。
何処からともなく歌声が聞こえるが(>>188)、今は直接害を為さない物を調べに行く気はなかった。
深いため息をひとつ。今回の件について、姜維は幾許か思案してみた。
どうも魏延どのは我々を追って――いや、現れた方向からすると、一度漢中まで行ってから戻って来たものと考えるのが
妥当なようです。ということは、我々が北寄りに進路を取っていた――図らずしてですが――ということを存じていた?
つまり、大勢を把握している何者かが情報を流している?
いや、だとしたら、馬岱どのの持ち物も把握しているでしょうから、夜間戦闘を挑んでくるのは不自然です。
ということは、1)不完全な情報しか持っていない物が流した 2)故意に不完全な情報の伝え方をした
と、考えられますね。でも、もしそうだったとして、何者が――
そこまで考えて、姜維はふと、もう一つ気になる事を思い出した。
記憶の走馬灯に挟まっていた、奇妙な記憶。あれは、何だったのか。
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202 名前:見えない恐怖 4/4 投稿日:2006/07/16(日) 10:35:48
何か、異形の物が、私の身体を喰らい、赤くて、黒くて、侵蝕して、私は融けて、取り込まれて――
そこで、“私”は“死んだ”のでしょうか……?
軽く身震いする。そんな可笑しな体験などありえない。
そこで傍の馬岱に情報の流布について問うてみたところ、彼も似た様な事を感じていた。但し、情報以外の何か、
例えば武器や道具――も流れているかも知れない、という追加の見解付きだ。確かに。同意の意味で頷く。
「ときに、馬岱どの」「ん?」
鋭い夜の風を浴びながら、ひとつずっと引っかかっていたことをぶつけてみる。
「あなたが何故、私を捜し追って来たのか――いえ、前に「誰かと合流しないと」というのは聞きましたが、
どうして私なのでしょうか、と思いまして」
極僅かだが、馬岱の表情に影が落ちる。
「アニキがさ、何か乗り気っぽかったんだよな」(→[[7-076]]に至る)
重い声で呟くように答えると、その表情は姜維に伝播した。が、
「そうですか…………ありがとう」
「……へ?」
脈絡の無い礼に、まるで出会って声を掛けた時の姜維のような表情になる。
「いえ、こんな状況で、私を信じてくれた事、にです」
「はは……それはオレも。何の疑いもなく付き合ってくれてありがとうな」
ふたり揃って相好が崩れる。状況の凄惨さに似つかわしくない優しい笑いが漏れる。
――こんな感じだったからこの晩姜維は、結局あの奇妙な記憶の話を馬岱にし損ねたのだ。
<<丞相を捜せ!/2名>>
姜維[いつぞやの記憶がある?]【なし】&馬岱【赤外線ゴーグル】
※夜が明けるまで現在地点に駐留するようです。陳宮・陸遜・司馬懿とはおそらく未だニアミス状態です。
(なお、小瓶の中身は濃硝酸だった模様)
@魏延[右腕・顔面右側に火傷]【ハルバード(少し融けています)、M37ショットガン】
※この場を離れました(今は水を探しています)。傷をどうにかしたら漢中に戻るつもりのようです。もちろん復讐する気満々です。