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176 名前:汝、昇竜なりや? 投稿日:2006/07/15(土) 17:36:53
さて、彼らが求める奇才・孔明は隆中にいた。
小高い岡。豊かな自然に溶け込むように、その草庵はある。
庵も、畑も、野の花さえも全てがそのままだった。
だから諸葛亮も、そのままだった。
畑を耕して作物の世話をし、野草を摘み、近くの清流から冷たい水を汲む。
まさに地に伏し、寄り添い、その恵みを素直に受けて眠る竜。
これが臥竜岡に暮らす諸葛亮の、あるがままの暮らしだった。
農作業の後の心地よい疲れに包まれながら、諸葛亮は鍬を傍らに立て掛け汗を拭った。
まずは清水を一杯。乾いた身体にとっては天上の甘露にも勝る。
よく働いた身体をゆっくりと横たえると、爽やかな風が今日の業を労ってくれる。
諸葛亮はしばしそれに甘えて目を閉じた。
瞼の裏に浮かんでいるのは、参加者名簿。
徐庶やホウ統の名前もあった。兄、諸葛瑾の名前も。
諸葛亮は幼き日々、兄と過ごした日々に思いを馳せる。
確か、兄が洛陽から帰ってきたのは両親が相次いで亡くなり途方に暮れていた頃だ。
それから始まったのだ。家族の長く苦しい旅路が。
叔父を頼って落ち延び、戦乱に巻き込まれ、ついにその叔父も失った。
あれほど辛かった日々はない。
兄は、今頃どうしているだろう。
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177 名前:汝、昇竜なりや? 2/3 投稿日:2006/07/15(土) 17:38:57
「…絶対ろくな目にあってないな」
確信して頷く諸葛亮。
げに恐ろしきは伏していようとも竜の眼力か。
いや単に身を持って味わった経験。
や、だってあれ絶対兄貴のせいだろ。
兄貴が洛陽の学校から帰ってきてからうちは踏んだり蹴ったりだったんだし。
俺の十代兄貴の不幸癖のとばっちり喰らったようなもんだよ。
あー、もう絶対ぇ兄貴には巻き込まれたくねええぇ。
諸葛亮、心の叫び。
再び頭に浮かぶ参加者リスト、そしてあの『諸葛亮伝』。
『諸葛亮伝』の中によく出てくる名前もあった。基本的には蜀の人間。
特に劉備、姜維、馬謖、魏延あたり。
魏延なんかに至っては何でそんなに嫌っているのか
(多分)自分のことだというのに不思議だ。
まあ何となく、って理由でも人を嫌うことは出来るし。
蜀以外では、司馬懿。
名前くらいは知っている。“司馬の八達”の一人だ。どうも自分の好敵手らしい。
目の敵にされて付け回されたりしたらかったるいなあ。そんな感じ。
起きあがった諸葛亮は傍らの『諸葛亮伝』に手を伸ばす。
読める場所はあらかた読み、内容も大体頭に入っている。
だが異国の言葉がどうしても解らない。もう少し調べてみる必要がある。
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178 名前:汝、昇竜なりや? 3/3 投稿日:2006/07/15(土) 17:40:26
ずらずらと続く読めない頁の一番最後。
後半部分で唯一読めるその頁には、こう書かれている。
“…此に記されし総ては等しく虚構であり、真実である。
何を虚とし、何を実とするか、それは彼のものの自由なり。
彼のものが選びし刻、実は成り虚は失せるだろう。
…汝、昇竜なりや?”
「つまり、この中のどれを“俺”の未来にするかは俺次第、ってわけか…」
パラパラと頁をめくる諸葛亮。
「…これとか、これも、“俺”としてアリなのか…」
いくつかの挿絵を見ながら、諸葛亮曰く。
「…むむむ」
ちなみに、彼がまだ読めない章には、こんな表題もある。
『三国志 バトルロワイヤル』
@諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
※隆中の自宅でスローライフ。