7-252 Baroque

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157 名前:Baroque 1/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:33:00 緑の匂いを絡ませた風が、さやさやと心地よく吹き抜けていく。 蔡文姫達と別れた凌統、馬謖、陸遜の3人は、木陰で小休止をとっていた。 大きな木にもたれ、銃剣を抱いて凌統は仮眠を取っている。 その傍で鼻歌を歌いながら、馬謖が花を摘んでは編んでいる。意味は多分ないだろう。 暇な陸遜は馬謖の編んだ花をつついてみたりする。 「……楽しいですか、これ」 「それなりに。美しい花輪にするには手先の器用さのみならず色彩感覚や配置の感覚も問われるからな、奥が深いぞ」 物珍しげに覗きこむ陸遜の頭に、可憐な花冠が乗っかった。 「うむ、いい出来だ」 「頭の上に乗っけられたら、僕には見えないんですが」 「根性で見ろ」 「無茶言わないで下さい」 ぴちゅぴちゅと小鳥が歌を奏で、花の合間を蝶がひらひらと舞う。 殺し合いゲームの真っ最中とは思えない平和な光景。 目の前をくるくると踊る蝶に馬謖が手を伸ばし、ぱんっと叩いて捕まえようとする。 ひらっと避ける紋白蝶。もう一度手を伸ばし捕獲を試みる。再び優雅に避ける蝶。 「馬謖さん、そんな捕まえ方じゃ捕らえても潰れちゃいますよ、蝶」 「あ、そうか……。網ないかな、網」 「カバンでも使えばいかがです?」 「良案。よっし」 虫取り網にするため、自分のカバンをひっくり返してばっさばっさと中身をぶちまける。 「……あ、綺麗な石……はともかく、なんでセミの抜け殻とか入ってるんですか」 「え、見つけたから」 夏休みの思い出箱と化しているカバンの中身にあきれ返る陸遜をよそに、 空になったカバンを構えてじりじりと蝶ににじり寄る。 ---- 158 名前:Baroque 2/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:38:25 「ねぇ馬謖さん」 「何だ?」 「楽しいですか? バカのフリ」 構えたカバンを下ろし、きょとんとした顔で馬謖が目を瞬いた。 「……何が?」 「僕は騙されませんよ? あの諸葛亮さんの弟子がただの間抜けのはずがないって、少し考えれば分かるじゃないですか」 口元に手を当てて、馬謖が首を傾げた。ひらひらと白や黄色の蝶が舞う。 「……もしかして私は今、暗にバカだって言われてるんだろうか?」 「いいえ? その逆ですよ」 「むぅ……?」 その場にぺたりと座り込んで、難しい顔で馬謖が唸り始めた。 花を一輪摘んで一枚ずつ花びらをちぎっている。 耳を澄ますと「私はばかー、ばかじゃないー、ばかー、……」と小声で呟いていた。 ……もしかして自分の穿ち過ぎで、100%ただのナチュラルバカだったのだろうか? 陸遜は一緒になって花びらをむしりたい衝動にこっそり駆られた。 とりあえず凌統の前にしゃがみこんで、頭の花冠を彼に乗せる。 そして相手が寝ているのを良い事にぶつぶつとぼやき始めた。 「なんで僕こんな所でこんな事してるんでしょう? 馬鹿の相手をすると僕にも馬鹿はうつるでしょうか?  あぁ、もう遊戯とか何でもいいから帰りたい。何もかもめんどくさい。家でゆっくりお風呂に入って眠りたい……」 絡み酒状態で、つらつらと不満を垂れ流す。 おそらく起きているのだろうが、目を開けたくないらしい凌統の口の端がぴくぴくと引きつっていた。 ばさり、と背後で何かが落ちる音がした。 振り向くとカバンを取り落とし、馬謖が頭を抑えてわなわなと震えている。 「馬謖さん? どうしたんですか?」 「……あ、あ…たま、いた……ぁ」 真っ青な顔で崩れ落ちる馬謖に、陸遜とタヌキ寝入りの凌統が慌てて駆け寄った。 ---- 159 名前:Baroque 3/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:41:06 そのころ、荊州南部。 去り際に祝融が呟いた仇の名に、荀イクは遊戯の開始前に思いを馳せていた。 幾人かに首尾良く暗示を掛け、次の標的を探すために人々が眠る台の合間を歩く。 この部屋には文官や軍師を中心に集められているのだろうか。 張遼や夏侯惇のような、手駒と出来れば心強い武人は見当たらないようだ。 まぁいいでしょう、と荀イクは呟く。たとえ非力な文官でも、良い武具を与えられれば十分に人を殺せます。 視界の隅に見知った顔を見つけ、歩み寄る。最も目を掛けた後進であり、娘婿でもある青年。陳羣だ。 彼ならばきっと分かってくれるでしょう。帝のために、よい働きをしてくれるはず。 揺すったり抓ったりして、半覚醒状態にもっていく。ぼんやりと目を開けた陳羣に向かって語りかけた。 世の秩序。帝への忠義。清流派の誇り。いつしか保身に走るようになった自身に対する嫌悪感。 あらゆる方向から揺さぶりをかけ、陳羣の思考を作り変え始める。 ―――と、廊下からぺたぺたと若干間の抜けた足音が聞こえた。 何者かは判らないが、とりあえず陳羣への暗示を一時中断して物陰に隠れる。 扉の開く音。足音。……しばらくして、聞こえなくなる。 その何者かが出て行った様子は無い。 だがしばらく息を潜め、なお何の物音も聞こえず辺りを見渡しても怪しい人影は無いため、 荀イクは問題ないと判断して再び陳羣に語りかける。 いまこの貴重な時間、僅かたりとも無駄にすることは許されません――― 「……貴方は、何をやっているんだ?」 突如聞こえた声に、荀イクは弾かれたように振り返る。真後ろ! 何の気配もなかったはずのそこに、小生意気そうな顔立ちの青年が腰掛けていた。 ---- 160 名前:Baroque 4/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:43:47 「殺すだの誅すだの、随分と物騒だな」 「……どなたですか、貴方」 「自分から名乗るのが筋ではないのか?」 「……帝に御仕えする、荀イクと」 「荊州の馬謖、字は幼常だ。……荀文若は曹操に仕えていたと記憶しているが?」 わざとらしく首を傾げる青年――馬謖に、荀イクはその整った顔を顰める。 曹操様になど仕えた覚えはない。例え彼の幕下に居ても、自分の心は常に帝にのみ仕えていた! 「それが帝のお役に立つための唯一の道でしたから」 「まぁ、仲違いで自殺を命じるような主君に仕えていたなどと認めたくはないだろうな」 思い出したくもない記憶をわざわざ突いてくる馬謖に苛立ちを覚える。 「……私に何か御用でもあるのですか、馬謖殿」 「いいや、特には。だが眠れないから、話し相手をしてもらおうと思って」 「申し訳ありませんが、私には時間がないのです」 「皆に人を殺せと刷り込むための時間がか?」 相手の目的が自分の作業を妨害することと確信し、荀イクはすぐにでも殴り倒したい衝動に駆られる。 しかし相手はどうやら自分よりは腕力がありそうだ。少しぐらい鍛えて置けばよかったと内心舌打ちをする。 「それが天の意思ですから。私は臣として、帝のお望みになられることに微力を添えさせて頂くだけです」 「帝の意思が天の意思だとでも? 失礼ながら荀イク殿、帝とてただのヒトだ」 「それは違います。帝は生まれながらにして帝、すなわち天が定めた代理人」 「話にならないな。ただ帝の子として生まれただけのことがそんなに偉いのか?」 「貴方は何もご存じないのですね。まるで下賤の輩のような言い草、聞くに堪えません」 「帝だというだけで、貴方は思考を放棄して盲目に従うのか?  殺しあえなどという命令、明らかに常軌を逸しているだろう」 ---- 161 名前:Baroque 5/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:45:04 不毛な会話。あくまで帝をひとりの人間としてしか扱おうとしない馬謖の言葉に、荀イクは絶望する。 なるほどこれでは、漢は駄目になったと帝が嘆かれる訳だ――― 「……なんたる不敬。荊州閥はここまで濁り果てていたのですか」 「ならば清流派は澄み切った毒の流れだな。魚も住めやしない」 下手に口が回るだけに、余計に腹立たしい。 帝、清流、自分の信じるものを立て続けに否定され、荀イクは怒りと使命感に震えた。 このような不敬者は全て消し去らなければ……帝のお望みになる世界のために、間違いなく! 「本当の忠臣とは何だ。正気に戻れ、荀文若。  主が過ちを犯したとき、体を張ってでも、首を失ってでも止めるのが忠臣のあるべき姿じゃないのか。  ひたすらに妄信し、崇めたて、甘やかすのは臣じゃない、ただの害悪だ」 「……黙れ黙れッ! 帝のなさる事に間違いなどない!」 衝動的に履物を馬謖に投げつける。 ぽすっ、と軽い音を立てて馬謖の肩に当たり、床に転がった。 「……王佐の才などというからどんな人物かと期待していたら。この程度の人物だったか」 蔑んだ目。向けられた経験の無いものに、荀イクは動揺する。 ---- 162 名前:Baroque 6/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:47:01 「貴方に聞く気があるかどうかは分からないが、今の貴方は明らかにおかしい、荀文若。  私の聞く貴方はこのような器の小さい人物ではありえない。  おそらく貴方もまた、何者かによる暗示や操作を受けてしまったのだろうな」 唐突に馬謖が語り始める。 「貴方は有能だ。加えて帝への忠義も篤い。帝からすれば最高の手駒だろう。  だが考えてみるといい、それは本当に帝か? 帝を傀儡とした誰かではないか?  またはただ帝に容姿が似ているだけということはないか?」 違う、帝でなければあのような光は、高貴さはありえない! ……だがそう感じる事すら誰かの作為によるものだとしたら? ぐらり、と頭の芯が揺れる。 「よく考えるんだ、荀文若。貴方は帝のために働きたいのだろう?  本当に帝かどうかわからないモノに、唯々諾々と従い―――」 がちゃん、と金属音がどこかで響いた。 とっさに馬謖は言葉を途切れさせ、次いで『しまった』という顔になる。 そして同時に荀イク頭の中の霧が晴れわたり―――帝への疑心が打ち消された。 ごく限られた名士にのみ伝わる、巧みな語法と発声を用いて相手の心を誘導する技。 自分の魏将たちへの語りかけもそれだ。 ……そして今の、馬謖の言葉も。どこで会得してきたのか分からないが、 そうそう使える者は居ないだろうという油断を突かれた……危なかった、と荀イクは息をつく。 まさかこんな若造に自分が嵌められかけるとは、情けないですよ荀文若! ---- 163 名前:Baroque 7/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:48:52 「その程度で私の帝への忠誠を断ち切れるなんて、思わないことですね」 「駄目元とはいえ、失敗すると少し悔しいな」 「駄目元ならひとに試さないで下さい。不愉快です」 「そうだな。考え直させようなんて思わないで、初めからおとなしく……腕力に訴えれば良かった」 そう言って馬謖は目の前に拳を掲げて見せた。 ふたりともあまり腕力があるとは思えない……が、それでも馬謖のほうがおそらく、自分よりやや勝っている。 拙い。これだから野蛮人は……! 窮地に陥った荀イクの元に、あぁ天はやはり正しいものに味方するのだ、一筋の、そして眩しい光明が差した。 馬謖の背後の扉が開き、献帝の部下らしき武官達が姿を現す。 暴れる馬謖が取り押さえられ、白い布で口と鼻を塞がれて気を失うまでものの数十秒しかかからなかった。 あぁ、お力添えに感謝いたします、帝――― 涙が出そうな感動に打ち震える。帝は私を見ていてくださった。 その思いに答えるため、まずは先ほど中断した陳長文への語りかけを再開しよう。 腕を掴まれる。帝の部下だ。 なんですか? 我が同志。私も帝の御為に微力を尽くしております――― 何故後ろ手に拘束されるのです? その白い布は、この匂い……まさか。 「やめてください! 私はその人とは違います、私はただ帝の御為だけに―――!」 叫びも空しく視界はぼやけ、意識は白い闇に沈み行く。 あぁ帝、臣は貴方の忠実な僕なのだと、彼らにもちゃんと伝えておいて頂きたいです…… ---- 164 名前:Baroque 8/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:51:53 ふと我に返って荀イクは空を見上げた。 あれ、私はどう歩いてきたのでしたっけ? 過去の記憶に没頭するあまり、周りを見ずに進み続けてしまったようだ。 まずい、ここはどこなのでしょう? まさか禁止区域の傍ではないでしょうね。 思わず青くなる荀イクの耳に、かすかに人の声が届く。 ……誰か居るのですか。これで帝の御為に。 ガリルARを持ち直す。さぁ、殺さなければ。 声を辿ったその先には3人の男が居た。どうやら怪我か病気か、調子を崩したひとりを看病しているようだ。 木陰から覗き込む。ひとりはおそらく武官。逞しい体つきだ。 そして文官がひとり。貧弱そうな体躯の青年。 横たわる最後のひとりは…… 危うく手の銃を取り落としそうになる。 がくがく震える身体を必死に宥めた。 ―――曹操様!! 「……そこに居るのは誰だ! 出て来い!」 こちらに気付いた武官が叫ぶ。 荀イクは木陰から、一歩を踏み出した。 ---- 165 名前:Baroque 9/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:54:23 額に乗った濡れた布の感触に、馬謖は目を覚ます。 「あ、意識戻ったみたいです。……大丈夫ですか?」 「どうしたんだお前、いきなりぶっ倒れて。何事かと思ったぞ」 心配そうに覗き込む仲間たち。 「ん、大丈夫……」 頭の中でぐるぐると情報が回っている。洛陽城、謎の機械、城を歩き回って見た風景、荀イクとの争い――― それまで曖昧な夢としか認識していなかったそれが、馬謖の中で確かな記憶として置き換わる。 「荀イクが……」 「荀イク? 曹操幕下の荀文若ですか?」 「うん、それ。そいつがめっちゃムカついた」 「……は?」 「荀イクが、殺せ殺せって洗脳しようとしてたから止めたら、クツ投げられた」 いまいち要領を得ない馬謖の言葉に、陸遜と凌統は揃って首を傾げた。 ---- 166 名前:Baroque 10/10 投稿日:2006/11/19(日) 02:58:05 @荀イク[洗脳されている?、額に切り傷]【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)、防弾チョッキ、日本刀、空き箱】 << ふたりの詩人とひとりのアモー/3名>> 曹操[高熱、意識混濁]【チロルチョコ(残り65個)】 陸機【液体ムヒ】   呂蒙【捻りはちまき】 ※桂陽で荀イクと<<ふたりの詩人とひとりのアモー>>が遭遇しました ※陳羣への暗示は、邪魔が入ったためおそらく失敗しています <<既視感を追う遊撃隊/3名>> 凌統【銃剣、犬の母子】 馬謖 [軽症(時々めまい・貧血状態に)]【魔法のステッキミョルニル(ひび入り)、探知機、諸葛亮の書き付け(未開封美品)×3】 陸遜【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×3)、ジッポライター】 ※荊州北部と益州北部の境目辺り。隠密行動で洛陽城すれすれまで近づき、観察を試みます ※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能。 ※馬謖が唐突に気を失ったのは『眠る人間に話しかける』という図に記憶を刺激されたためと思われます

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