7-244 Ark

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104 名前:Ark 1/9 投稿日:2006/10/31(火) 23:57:03 静かな森。緑の葉を透かして、朝の光が零れる。 聞こえるのは時折流れていく軽やかな鳥の声、そして3人分の足音。 「なぁなぁ、なんか変なのが洞窟の方に行ってる」 くいくい、と袖を引っ張られ、凌統は振り返った。 森の中を東に向かって進むは3人。凌統と馬謖、そして陸遜である。 「あれ、本当ですね。せっかくだから殺しておきます?」 「……結構物騒な性格してたんですね陸遜殿」 馬謖の指差す探知機には、なるほど4つの光点が浮かんでいた。 自分達より少し南を、西に向かって動いているらしい。このまま進めば姜維たちのいる洞窟の近くに出るだろう。 「ん? これ、何で点滅してるんだ?」 「うん、だから変なのって言ったんだが……何だろうなコレ?」 4つの光点のうちのひとつがぴこぴこと点滅している。馬謖が探知機の説明書を出してぺらぺらとめくりだした。 「てんめつー、てんめつー、て~んめ~つ♪」 「いちいち歌うな」 「えー。……あ、あった。……首輪の故障?」 3人が一斉に該当頁を覗き込む。 「……首輪ってこれか? 故障して大丈夫なのかよ……」 凌統が嫌そうに自分の首輪にそっと触れた。 「故障即爆発と言うわけじゃないでしょう。しかしこの『探知機』……首輪の反応を探知していたんですか」 陸遜が親指の爪を噛みながら考え込む。が、すぐに顔を上げて言った。 「見に行きませんか、どう壊れているのか」 「見に行きませんかって、戦闘になるんじゃないか?」 「そっと観察して危険そうだったら遠くから撃ち殺しましょう。無理そうなら逃げましょう」 「……まぁ、いいけど……」 こっちには実質戦闘員は俺しか居ない気がするんだけど? 4人とも武官だったりしたらどうすんの。 そう考えたが凌統は口に出すのをやめた。そんときゃ脇目も振らずに逃げるだけだ。 ---- 105 名前:Ark 2/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:06:16 そして太陽が大分高くなってきた頃。 「……あー! 丞相ー!!」 草陰からこっそりと件の4人連れを覗き込んだ馬謖が素っ頓狂な声をあげた。 「ばかっ、大声出すなっ」 「―――誰だ!」 鋭い誰何の声と共に矢が飛来し、馬謖のすぐ脇の木に刺さる。 「今のは威嚇だ! 次は当て……。馬謖さん?」 「ひどいご挨拶ですね劉封殿、普通いきなり撃ちますか?」 矢を射掛けた青年にふくれっつらでガンを飛ばす馬謖。珍しく丁寧な言葉遣いとは裏腹な態度である。 そして居心地悪そうに目を逸らす青年。 どうにも緩んだ空気に、凌統は顔を顰めた。 「……お知り合いか、馬謖?」 「あぁ、まぁ、微妙に……劉封殿はどうでもいい!」 キランと目を輝かせ、そのどうでもいい劉封の後方に居る長身の青年に向かって馬謖が突進した。 「……丞相~! お会いしとうございました~っ」 「誰だお前」 丞相、こと諸葛亮に一言で斬って捨てられた馬謖がその場にべちゃりと転んだ。 ---- 106 名前:Ark 3/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:11:02 いくらか言葉を交わした後、どうやらお互い敵ではないと判断した2組は情報交換を始めた。 男3人女1人の4人連れの身元、特に臥竜鳳雛のそれに凌統達が驚いたり、 蔡文姫が犬たちに懐かれたり、真似した劉封が仔犬に噛まれたりと和気藹々とした雰囲気である。 しかしそれぞれ油断なく武器を手放さないのはやはり戦場ということだろうか。 「そういえば、お前さんの名は何てんだい?」 「あ、えぇ、僕ですか?」 どうしようか、と一瞬だけ目を泳がせてしまったが、気取られてはいないはずと陸遜は思う。 「僕は陸抗、字は幼節と申します」 ごめん抗、ちょっとだけ名前借りますね、と心の中で息子に呟く。 劉封は確か、かつて自分達が関羽を捕らえた際、援軍を出さなかったと劉備の怒りを買って処刑されていたはずだ。 中心は呂蒙殿だったとは言え、彼に献策している自分も恨みを買っているだろう。関興殿のときの二の舞は御免です。 一瞬ちらっと視線を寄こしたが、聡い凌統は何も言わない。 ありがたいことに、空気を読めない馬謖も諸葛亮に弄り回されてこちらの話は聞いていない。……と言うか。 「あの、そろそろ止めて差し上げたほうが……」 文姫の言うとおり、ニヤニヤと諸葛亮が大量の書物を開いて『泣いて馬謖を斬る』らしきあたりを馬謖に見せ付けている。 馬謖はそろそろ半泣き超えて全泣きだ。羞恥プレイ乙。 ホウ統が面倒くさそうに諸葛亮の頭を小突いて、哀れな馬謖は解放された。 ---- 107 名前:Ark 4/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:16:12 「ところで、貴女の首輪、繋ぎ目が緩んでいるような気がするのですが?」 陸遜は警戒心を起こさせないよう柔らかな笑みを浮かべ、蔡文姫の首輪にそっと触れた。 面如美玉と評されたこの顔の使いどころだ。蔡文姫は少し頬を赤く染めて視線を落とした。 視界の隅で劉封が全身の毛を逆立てて何か言いたげにしているが、とりあえず無視する。 探知機が示している故障した首輪は、位置関係からしてほぼ間違いなく蔡文姫のものだ。 しかしこれは、故障というよりも――この首輪は、外せるのか? 「あぁ、それにしても無粋な首輪ですね。貴女の白い首筋には……もっと繊細な飾りのほうが似合う。  貴女にはきっと、澄んだ碧の珠が似合うでしょうね」 柔らかな文姫の頬にそっと触れると、あ、とかすかな声が零れた。 視界の隅の劉封は口をぱくぱくさせて震えている。 「こんな場でなければ是非貴女に似合う首飾りを贈りたいのですけれど。本当に残念だ」 「……陸…抗殿、そのへんに」 そろそろ劉封が噴火しそうだと判断した凌統が止めに入ったせいで、 劉封は怒りの行き場を失ってその辺の木をがんがん蹴り始めた。 その背中を臥竜鳳雛が生温かく見守る。 「青春だねぇ」 「ああ、青春さね」 その後、蔡文姫達からは熱い湯で首輪が緩むこと、 凌統達からは諸葛亮を捜している姜維らの居場所、 そして太史慈がどんな文章でも読めるといった情報を提供しあい彼らは別れた。 ふと見ると、馬謖が手の上に小さく折りたたんだ紙切れを乗せてじーっと見つめている。その数、3つ。 「何だ? それ」 「丞相から貰ったんだ。本気で困ったときに順番に開けて読めって」 なるほど壱、弐、参と番号がふってあるようだ。 羞恥プレイ後ずっと諸葛亮と何か話していたから、その時に貰ったのだろう。 「……いま開けたら怒られるだろうな」 馬謖はそれを大切そうに懐に仕舞いこんだ。 ---- 108 名前:Ark 5/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:21:24 ここで場面は昨夜に戻る。 鼻歌を歌いながら洞窟の地面に絵を書いている馬謖を横目に、凌統はあくびをした。 「何書いてるんだ?」 「トカゲのしっぽ」 意味が分からない。暇だ。 探知機が示していた、洞窟の北のほうをうろついていた誰かも東へ動き出してしまい、現在洞窟付近には誰も居ない。 怪我人を抱えている以上安全なのはいいことだが、なんというかこう、こんなにまったりしてていいのかとも思うのだ。 ミョルニルの柄で描いた絵に目を留め、陸遜が馬謖と何事か話し始める。暇だ。 姜維と関興は睡眠中。姜維さんよく寝るな。まぁ怪我人だからか。うなされてるのもそのせいだろう。暇だ。 司馬懿はなにやら香水の匂いを嗅いでうっとりしている。なんか危ない。それはそれとして暇だ。 洞窟の入り口でシロのしっぽが揺れている。その脇で丸くなるチビ。暇だ。 気が付くと馬謖と陸遜の声が聞こえない。なにしてるんだ? ……筆談? 「……よし! 行けますよこれ!!」 急に陸遜が叫び、思わずびくっとする。 そして何を筆談していたのかと彼らの座っているあたりを覗き込む。懐中電灯の明かりが照らし出したのは。 「これは?」 不完全だが、どこかの見取り図のように見える。城? 馬謖が描いていたものはどうやらこれらしい。 とんとん、と陸遜が筆談の跡の一部を示す。 「火、……!」 盗聴されている可能性がある、と前に馬謖が言っていたのを思い出し、慌てて自分の口を塞ぐ。 筆談の跡を凌統が辿るのを見ながら、陸遜が口を開いた。 「とりあえず、偵察が必要です。適任は―――」 「あ、俺行く。俺で十分だろ?」 暇を持て余していた凌統が片手を軽く挙げる。 「そうですね、貴方なら安心して任せられます」 それを見てはいはい!と馬謖が声を張り上げた。 「私も行く! じっとしてるの飽きた」 「……どうしましょう、何か今、急に安心できなくなりました」 「それはどういう意味だ陸遜殿」 馬謖が不満もあらわにむくれるが、陸遜は優雅にスルーする。 ---- 109 名前:Ark 6/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:24:49 「とりあえずその辺の惰眠組を叩き起こし……あっ、凌統が行ってしまうと僕の身が若干危険に」 「え? あぁ、関興か。大丈夫だと思うけどなぁ」 「なら陸遜殿も一緒に行けばいいじゃないか」 馬謖の出した至って簡単な結論に、陸遜と凌統は顔を見合わせた。 叩き起こされたり現実に引き戻されたりして不機嫌な3人こと司馬懿、姜維、関興は、 突然出たパーティ分割の話に難色を示した。 「だいたい偵察とは何だ。何を偵察する気だ?」 「献帝の居る洛陽城です。ちょっと面白い事を考え付いちゃいまして」 笑顔で言う陸遜。しかし質問した司馬懿は不機嫌な表情を崩さない。 「何だそれは。そして何の得がある?」 「何が得かと言われますと、そうですね、皆で生きる道を見つけられるかもしれない、という事かな」 そしてちょっとこれを見てください、と先ほど馬謖が描いていた絵を指差す。 「馬謖さんが何故か知っていた洛陽城の内部です。分からない所もありますが、概ね合っているんじゃないかと」 「……なんで馬謖どのがそんなこと知ってるんですか」 今度の突っ込みは姜維から。もっともと言えばもっとも過ぎる疑問だ。 答え辛そうに視線を泳がせた馬謖に代わって、陸遜が答える。 「馬謖さんの例の夢だと。あれ、姜維さんは聞いてませんでしたっけ?  馬謖さんがしつこくこの遊戯の開始前らしき洛陽城での夢を見るって話」 「しつこくって、私の意志じゃないんだが……」 不満げに馬謖が呟くが、やはり華麗なスルーを食らう。 「夢? そんなバカなものを信じて洛陽城まで行くと?  失礼ですが陸遜どの、馬謖どのの馬鹿がうつってませんか」 寝起きでもともと不機嫌な姜維がさらに不機嫌さを増した顔で言うが、 「いや、待て……。おい山頂布陣、貴様建築や設計の心得はあるのか」 「微塵もない。悪いか」 むぅ、と考え込んだ司馬懿に遮られる。 ---- 110 名前:Ark 7/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:29:03 「陸伯言、お前もそれで?」 「えぇ、この間取りは全く理に適ったものだと思います。  何の知識も……いや、少しくらいかじったところでこんな美しい構造は描けない。  描けるのなら馬謖さんは設計の匠として名を残せますね」 「あの洛陽城は実際の洛陽城より小さいようだから、元の洛陽城を知っていても意味が無いしな……」 考え込む軍師2人を横目に、関興が馬謖をつついた。 「馬謖殿、この前のあの話ですよね? 聞いた限り、この前は一部屋から出なかったような気がしたんですが?」 「うん、だがあの後、夢の続きが長くなってきてな……  人がわーわー来て去ってった後、城内を勝手に歩き回ったみたいなんだ。たかが夢のはずなんだけどな……」 本当になんなんだろうな、この夢? と馬謖は首を傾げた。 そして一同が考え込んだり、考えるのに飽きたり、眠りの国に引き戻されかけたりした後。 陸遜が顔をあげてにっこり笑った。 「所詮夢は夢ですし、だからこそ偵察に行ってこようと思うんですよ。  偵察隊は僕と凌統と、……馬謖さんもやっぱり来ます?」 「行く」 「ちょっと待ってください、なんで面子がもう決まってるんですか!」 自分も行きたい!と全身でアピールする関興の頭に、ぽん、と凌統が手を置く。 「武の心得があるお前が残らないと、居残り組が危険だろ?」 「それはそうですけど」 「俺とお前が武力担当」 自分と関興を交互に指差し凌統が言う。 「そして知力担当」 今度は陸遜と司馬懿を指す。 「そんでお荷物も分担」 最後に指差された諸葛亮の弟子2人は「なにぃ!?」と不満全開に反応した。 「ちょっと待ってください凌統どの、いくら怪我しているといっても馬謖どのと同類扱いは酷くないですか!?」 「それはどういう意味だ姜維!? むしろ私が激しく理不尽なんだが!」 口々に不満を言い立てる2人をサラリと無視し、凌統は関興に語りかけた。 「残していく奴らを守れるのはお前だけなんだ。わかってくれるな? 関興」 「……わかりました……」 「よし」 凌統にわしゃわしゃと頭を撫でられ、うまく丸め込まれた気がする、と関興は小さく呟いた。 ---- 111 名前:Ark 8/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:30:56 「それで、陸伯言。今回は偵察としても、最終的には洛陽城に何を仕掛けるつもりだ?」 と居残り組の知力担当こと司馬懿。よくぞ聞いてくれました、と陸遜は楽しそうな笑みを浮かべる。 「花を一輪」 いつの間に手にしたのか、左手に持った真紅の花飾りを顔の前にかざす。陳宮の遺品。 そして右手には、関興に支給されたジッポライター。 「紅蓮の花を一輪、帝に献じましょう」 ---- 112 名前:Ark 9/9 投稿日:2006/11/01(水) 00:37:22 ※<<めるへんトリオ featuring 既視感を追う旅>>は一時解消されました ※黄忠は東に向かった模様? <<親子の面影+水鏡門下生/4名>> 蔡文姫[首輪が緩んでます]【塩胡椒入り麻袋×5 無花果×6】 劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】 ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】 諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】 ※荊州と益州の境目辺り。第一目標は劉備の捜索ですが、<<めるへんトリオ・改>>の居る洞窟に寄るかもしれません ※どうやら蔡文姫の首輪は緩むと同時に何らかの機能不全を起こしているようです。詳細は不明 <<めるへんトリオ・改/3名>> 司馬懿【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、DEATH NOTE、陳宮の鞄、阿会喃の鞄】 姜維[重症(なんとか短時間立って歩ける程度)]【なし】 関興【ラッキーストライク(煙草)、ブーメラン、サーマルゴーグル】 ※漢中より少し南の洞窟に滞在中 ※洞窟の周りには馬謖が仕掛けていった大量の罠があるようです <<既視感を追う遊撃隊/3名>> 凌統【銃剣、犬の母子】 陸遜【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×3)、ジッポライター】 馬謖 [軽症(時々めまい・貧血状態に)]【魔法のステッキミョルニル(ひび入り)、探知機、諸葛亮の書き付け(未開封美品)×3】 ※荊州と益州の境目辺り。隠密行動で洛陽城すれすれまで近づき、観察を試みます ※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能。 ※馬謖の「夢」の真偽は不明。馬謖自身も疑っているようです ※「私が洛陽城に行きたいって言ったのには実は理由があるんだぞ」「一応聞いてやるよ」「洛陽城。らくようじょう。楽幼常……なんか私にとって楽しい場所の予感!」「凌統、馬謖さんここに置いて行っていいですか?」「俺に聞かないで下さい」

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