7-234

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28 名前:1/7 投稿日:2006/10/11(水) 01:15:55 錦馬超とはよく言ったものだと思う。 その見事な武勇や鮮やかな馬術はもちろん、 西涼という土地柄が為し得たのだろう彫りの深い顔立ち、 馬家の跡取りとして育った故に身に付いている所作の美しさ。 それらの美徳はごく自然に、馬超の一部だった。 錦が、それを成す糸の輝きも、綾の妙も、織られた柄の見事さも その全ての美しさを自然にはらんでいるように。 幼い頃からこの美しい従兄弟は馬岱の誇りだった。 そしてただ一人の主君であった。 誰に打ち明けたこともなかったが、蜀に下った後もずっと。 馬超が星になってからも、ずっと。 共に歩く従兄弟の美貌は全く変わらない。 馬岱が憧れ、尊敬し、忠誠を誓った錦馬超そのままである。 だが、何かが足りない。 例えば、その瞳に宿っていた苛烈な炎が。 例えば、側に控えるだけで肌に感じた風格が。 錦を織りなす綺羅糸が、どこか欠けている感じがした。 「……岱?」 気がつけば、その横顔を凝視していたようだ。 馬岱は慌てて視線を逸らし、その不自然さに気づいてまた視線を戻した。 やはり、変わらない。 こちらを見るときの首の傾げかたも。色素の薄い瞳の色も。 そう、馬超の“器”は何も変わっていない。 ---- 29 名前:2/7 投稿日:2006/10/11(水) 01:16:47 「……どうした?」 「あ、いや……アニキ、疲れてない?」 取り繕うような馬岱の問いかけに、馬超はゆるゆると首を横に振った。 だがその返答とは裏腹に馬超は静かに歩みを止めた。 ぼんやりと立ち尽くす馬超を、馬岱もただ見ているしかできなかった。 洛陽を出た時、馬超がこの殺戮ゲームに乗ったように見えたのは気のせいだったのだろうか? 今の馬超からは、覇気が全く感じられない。 時折馬岱にだけ見せる穏やかな表情だけが全てである。 殺戮を望む者たちから、この無気力な従兄弟を守らなければ。 今の馬岱はむしろ、そんな使命感に駆られていた。 馬超はゆっくりと腰を下ろしザックに手を入れた。 やはり疲れてきたのかもしれない。 水が飲みたいのかもしれない。道中採った果物もあったはずだ。 馬岱も追従するように腰を落ち着けて、ザックを漁り食べ物を探す。 馬超はザックから取り出した物体をふ、と背後に投げた。 「なッ……!」 突然の馬超の行動に、高順は驚愕する暇も与えられなかった。 とっさに目を庇い、地に伏せ転がるのが精一杯だった。 訳が分からないまま、第二撃が高順を襲う。 熱かった。 ---- 30 名前:3/7 投稿日:2006/10/11(水) 01:17:36 「ア、アニキ!」 馬超の行動に驚いたのは馬岱も一緒である。 ここまで襲ってくる爆風に僅かに眉根を寄せながら、 馬超はもう一つ手榴弾を放った。 全く躊躇いのないその動作は、鳥に餌を放るような仕草だった。 誰かいる。影が動いた。人がいるのだ。馬超は人を殺そうとしている! 止めなければ。 殺さなければ殺される。そんな世界律など忘れて、馬岱はただ止めなければ、と思う。 だが馬岱の手は馬超に届かない。 ふわ、と躍り出た馬超の背中が、何故かとても脆いものに見えた。 かつては何よりも頼もしいと思っていた従兄弟の背中が。 とうの昔に克服したはずの感情が高順を支配していた。 恐怖。 高順が殺戮の予感に酔っていたことは事実である。 あの二人。どちらがより強い武人だろうか。二人がかりでこられた場合どうか。 馬超と馬岱を値踏みしながら、戦いの前の高揚感を噛み殺していた。 だが馬超のあまりに自然な動作。 ザックに手を入れたのも、食べ物でも取り出すようにしか見えなかった。 高揚感であれ嫌悪感であれ、戦う時―――言ってしまえば、人を殺す時―――人の精神とは揺らぐものだ。 気配を気取られぬよう、普通はそれを押し殺す。 ---- 31 名前:4/7 投稿日:2006/10/11(水) 01:18:42 だが馬超からは押し殺した殺意さえ感じられなかった。 歴戦の武人であるが故に、高順はその事実に戸惑う。 例えば呂布。彼が放つ殺気は並の兵卒ならそれだけで怯むほどの威圧感がある。 そして迸る殺意のままに武器を振るう。殺気が肌に届く前に、戟が首に届くのだ。 圧倒的な存在感。凄まじい速さ。それらが呂布の強さの一端を担っていると言えよう。 今の馬超はそれと真逆だった。 威圧感もない。殺意もない。ただ不気味な虚ろだけがある。 全身に火傷を負いながらも、どうにか迎え撃とうとする高順。 滑るように近づき、馬超はMP5の弾をばらまくように連射する。 牽制のためなのか、殺すつもりで撃っているのか、それすらもわからない。 無表情のまま、機関銃の反動に髪を揺らす馬超はまるで壊れた人形のようだ。 脚が熱かった。だが高順は倒れない。 混乱し、恐怖する中でなんという精神力だろう。 武人の誇り、あるいは戦士としての習性が今の高順を支えている。 陥とせぬ陣はない、と讃えられた高順。 陣とは、ただ圧倒的な力で叩き潰せばよいというものではない。 陣を読み、弱みを突き、崩す。 陥陣営と呼ばれる所以は、ただ武力のみにあらず。その眼力にある。 ---- 32 名前:5/7 投稿日:2006/10/11(水) 01:19:35 しかし。 この男の気が、殺意が、陣が―――読めない。 天下無双と謳われた呂布。最強の武人とはああいう男だと思っていた。 しかし、この男は。 呂布とは対極にありながら、等しく強い。 ……だが。“これ”は……“人”なのか? その感覚が、高順に恐怖を覚えさせる。 人を殺す時にも、虫を潰すほどにも動揺しない。 息をするように、歩くように、人を殺せる。 それが、『最強である』ということなのか……? 馬超は玩具に飽きた子供のようにMP5を放り捨てた。 腰に括りつけていたダガーを抜き、す、と動く。 高順は狼牙棍を強く握りしめる。あまり感覚は無かった。 しかしあれほどの爆撃でも武器を手放さないとは。 自分でも少し呆れた。きっと自分は骨の髄まで戦人なのだろう。 ならば最期まで、そうありたい。 残された全ての力で、武器を振るう。 ふわりと飛び込んできた馬超。わずかに身体を捻り、狼牙棍をかわす。 逆手に持ったダガーで高順の喉笛を抉る。 絶叫は声にならない。 強さとは何なのか? “これ”が最強の武人の行き着くところなのか? ならば、今まで自分がしてきた戦いは全て児戯に過ぎないのか? 問いかけの中、高順の意識は沈んだ。 ---- 33 名前:6/7 投稿日:2006/10/11(水) 01:24:17 男は倒れた。 馬岱は凍り付き、棒立ちになっていた。 ……あれは、“何”だ? 馬超の姿をした“何か”は、ダガーの血を振り払い鞘に納めた。 男の持っていた武器とさっき放った自分の銃を拾い上げ、こちらへやってくる。 ひ、と喉に悲鳴が貼り付く。 わずかに後ずさる馬岱。だが背を向けて逃げることは出来なかった。 端正な顔立ちも、薄い色の瞳も、優雅な所作も、全部そのままだったから。 例え返り血に染まっていても。 自分も殺されるのだろうか、と妙に静かな気持ちで馬岱は待っていた。 馬超が来た。 「よかった」 馬超の言葉に、馬岱は顔を上げる。 「よかった。岱が無事で」 馬超は笑っていた。初めて、空虚ではない瞳で。 ああ。 馬岱はその時自らの罪を悟った。 俺の、せいなのか。 馬岱はあの時馬超から逃げた。 乗り気かもしれない。自分を殺すかもしれない、と。 そんなことなど、あるはずはなかったのに。 いや。 アニキにだったら、アニキのためだったら、殺されても、よかったのかもしれないのに―――。 「アニキ……」 涙が止まらなかった。 「岱……。どうして泣くんだ?」 僅かに困惑した様子で馬超は言う。 ---- 34 名前:7/7 投稿日:2006/10/11(水) 01:26:00 幼い頃よくそうしてやったように、馬超が馬岱の髪を撫でる。 血塗られた手が馬岱を汚す。 懐かしいその仕草と、噎せ返るような血の匂いに馬岱はまた涙する。 「アニキ……。  帰ろう、西涼へ……。」 振り絞るような声で馬岱は言った。 もう戻れない。 姜維たちのところへも、諸葛亮のところへも。 今はいいかもしれない。しかし、いつまた馬超が『馬岱のために』不意に人を殺すか、わからなかった。 これ以上、『馬岱のために』と馬超が血で汚れていくことが、耐えられなかった。 西涼が禁止エリアであることは、もちろん馬岱は知っている。 馬超は知っているのか、知らないのか、興味がないのかわからない。 ただ、懐かしい故郷の名を聞いて、嬉しそうに目を細めた。 「そうだな……。  帰ろう、岱」 あの時、自分が見捨てなければ、こうはならなかったのかもしれない。 自分が壊してしまった、綺麗な従兄弟。 「帰ろう、故郷へ……」 二人の、死ぬための旅が始まった。 【高順 死亡確認】 <<馬家の従兄弟/2名>> 馬超【高威力手榴弾×5個、MP5、ダガー、ジャベリン、狼牙棍】馬岱【シャムシール、投げナイフ×20】 ※禁止エリアである西涼へ。現在地は荊州。 ※諸葛亮の捜索と<<めるへんトリオ>>らとの合流は断念しました。 ※馬岱のアレルギー症状は落ち着きました。

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