7-232 命の瞬く声

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17 名前:命の瞬く声 1/7 投稿日:2006/10/10(火) 03:19:36 「……なぁ関興、こいつ本当に気絶してるんだと思うか?」 「いや、単に惰眠をむさぼってるんじゃないでしょうかね」 ミョルニルで姜維を賦活した後、血を吐いて気絶した馬謖は……丸くなって眠りながらくふくふと笑っていた。 「はははかかったなきょーい……そこは毒沼だー……」 そして見ている夢の内容が大変分かりやすい。 起こす? 起こします? と顔を見合わせた凌統と関興が動く前に、壁にもたれてぼーっとしていた姜維が億劫そうにやってくる。 そしてどことなく不機嫌な顔で馬謖の背中を思いっきり蹴飛ばした。 「痛っ! ……あ、夢か、残念」 「何が残念なんですか馬鹿謖どの、毒沼に沈めて差し上げましょうか?」 馬謖のお陰で死の淵から舞い戻れた割に扱いが酷い。 ふん、と鼻を鳴らして元の位置に戻った姜維の背を見ながら凌統が呟いた。 「……さすがに今のは酷くないか? 姜維殿って案外性格悪いのかな」 「や、あいつ寝起きはいつもあんなんだから。ちゃんと目が覚めたらわたわたしながら謝ってくると思う」 「へー……」 わたわた……。想像しかけたが、吹きそうだったので止めた。 そんな馬鹿らしく平和なやりとりを横目に、司馬懿は事ある度に増える鞄のひとつを弄っていた。 中からは基本支給物の他に、黒い表紙の書。……阿会喃の鞄である。 なんだか不気味な雰囲気の書は破棄してしまおうかと思っていたのだが、太史慈から但し書きの内容を聞いて思いとどまった。 ---- 18 名前:命の瞬く声 2/7 投稿日:2006/10/10(火) 03:23:25 異国の言葉で書かれた但し書きの内容。 それはもう1冊同じものが存在すること、誰かの名前を書くとその人間を殺さねばならないという衝動に囚われること、 片方に名前を記すともう片方の書も連動すること―――等々。 それらの特性を知り、「これはいつか必要な時が来るのでは」と危険を承知で持つ事にした。 ページを繰ると確かに4人の名前が浮かび上がっている。これの所為で危うく阿会喃に殺されそうになったのだろう。 荀イク、荀攸、司馬懿、陳羣。 一体どんな理由でこの4人が選ばれたのか? とりあえず皆曹魏の文人であることは分かるが……。 苦々しく紙の束を見つめていた司馬懿だったが、浮かんだ名前の位置を見てある事に気付く。  ……ひょっとすると、これは名前だけが書かれた訳ではないのでは? おそらくもう一方の持ち主が書いたものが浮き出てきたのだろうが、変に中途半端な場所だ。 よもや、長い文章の一部として名前が書かれている……? 目を眇めて、凝らして、書を傾けて……その推測が正しかったという証拠に辿り着く。うっすらとではあるが、 名前の前後で文を構成していた文字も浮かび上がっていた。しかしその字は非常に薄く、その全容を窺い知る事はできない。 何とか解読を試みるが、すぐに断念する。 ---- 19 名前:命の瞬く声 3/7 投稿日:2006/10/10(火) 03:25:24 「おい、関興」 「……はい? なんですかこれ」 何となく一番目の良さそうな関興を手招きして、書を押し付ける。 「この字の周りにうっすく書いてある文章を解読しろ」 「え、えー!? 無理ですよこんな薄いの!」 「頑張れ」 「ちょ、頑張れって、んな無茶な……!」 数分後。 「……っだー!! やってられっかあああ!」 関興の悲鳴と共に黒い書面が宙を舞った。 「あ、関興殿がキレた」 「だらしないな、これだから『脳味噌まで筋肉、略して脳筋』は」 「そ、そんな事言うなら自分でやれ司馬懿殿ー!」 司馬懿に掴みかかろうとする関興の首根っこを掴んで引き剥がしながら凌統が聞く。 「それでだ、何か読めたのか?」 「あー、あんまり。でもここ、この最後のページの。何か良く分からない単語見っけました」 なになに、と司馬懿が覗き込み、音読する。……ち、ろる、ちょこ……? 性質上名前以外はあまり伝えようとしないらしいこの書だが、この単語に限っては書いた者が必死だったのか、 最初のページの長い文章よりは明確に読み取ることが出来た ---- 20 名前:命の瞬く声 4/7 投稿日:2006/10/10(火) 03:27:14 「陸遜! 『ちろるちょこ』とは何だ!?」 かすかに浮かんだ文字は、黒い書の片割れに張コウが書いたとあるものの名前。しかし司馬懿にとっては未知の言葉だ。 だがようやく何かの手掛かりらしきものを掴んだと確信した司馬懿は、凄まじい剣幕で陸遜に問いただした。 「何ですか、出し抜けに……僕は知りません。  姜維さんと凌統さんにも聞いてみたらどうですか、彼らも知らなければ、おそらく他の誰も存じないかと」 「な、なんだとー!」 後ろでなにやらごそごそしていた馬謖が異議あり!と声を張り上げるが、陸遜が無造作に投げた木製ブーメランを額に食らって沈黙した。 「私も知りません。凌統殿は?」 「俺も知らんけど」 「むう、誰も知らぬか」 若干不服そうに司馬懿が溜息をついた。 「……で、何故急にその『ちろるちょこ』なるものが出てきたんですか?」 「うむ。それはな―――」 怪訝そうな陸遜に、司馬懿は先程の書物について詳しく語った。 「つまり、もう1冊のこれを持っている人が記したってことですね。  最初の所有者なら、阿会喃さんと同様の状態になっていた可能性が考えられるので、その後で手にした人かもしれません」 陸遜は額に軽く指を沿えて考える。同意を示して司馬懿が頷く。 「だとするなら、中身は落ち着いて見ているでしょうから、この書の危険性には気付いている可能性もありますね。  他にも紙なら参加者名簿の裏とかあるのに、敢えてここに書いた、ということは」 「もう1冊を持っている奴に、伝えたかった事だから……か?」 凌統と姜維が顔を見合わせる。推測に過ぎないが、可能性のひとつではあり得る。 ---- 21 名前:命の瞬く声 5/7 投稿日:2006/10/10(火) 03:28:58 司馬懿は考える。 そこまでして伝えたかったこと、とは一体何なのか。もう一冊の書の持ち主は、この書を誰が持っているかはおそらく知らないだろう。 大体、その持ち主が書の効能を正確に知らない可能性だって十分有る。 「誰でもいいからとにかく知って欲しい」という事なのか? だとすれば―――その意味は。 第1。とても重要なことであるという事。 第2。他者の協力を必要とする物事に関わっている事。 第3。もう一冊の書の持ち主が現在窮地に在る事。 このうちの幾つが正しい予測なのか判り得ないのは勿論、下手したら全部見当外れな気さえするが、 今は手元にある材料で徐々に切り崩して行くしかない。 他の者の意見も聞いてみようかと顔を上げると、陸遜と姜維、そして凌統は既にそれぞれ頭の中で検討しているようだった。 山頂布陣と脳筋の関興はそもそも聞くだけ無駄だ。 そこまで考えて何かひっかかり、もう一度周りを見回す。 馬謖が居ない。 「……おい、アホはどこ行った?」 「え? ……あぁ、なんだか外をうろうろしてますね……」 陸遜が近くに置いてあった探知機を引っ張り覗き込む。 アホという単語で話が通じてしまった馬謖は洞窟から半径数十メートル程度を行ったり来たりしているようだった。 ---- 22 名前:命の瞬く声 6/7 投稿日:2006/10/10(火) 03:30:05 「……まぁ放っておこう。馬鹿は天才の行動を理解できんが、天才も馬鹿の行動は理解できん」 どうでも良さそうに視線を黒の書に戻した司馬懿の耳に、小さな声が届いた。 『仲達』 その声に再び顔を上げるが、誰も名を呼んだ様子はない。そしてそれっきり声は聞こえない。 気のせいか、と考え事を続けようとするが、奇妙に胸を締め付けられるような感覚を覚えて集中できなくなる。 ……胸騒ぎ。 そういった迷信めいたものを余り信じる気はなかったのだが、何故か誰かに呼ばれ続けているような気がしてならない。 探知機を見る限り、この洞窟付近にはちょこまか動き回っている馬謖以外に人間は居ない。 しかし、無性に気になるのだ。 ただ確かめてくるだけなら大した手間でもあるまい。軽く全員に断りを入れると、司馬懿は洞窟を出た。 案の定、冷えた空気を抱えた大地には誰ひとり見当たらなかったが、気配だけはそこに在り続けている。 声はすれど姿は見えず、という奴か? いや、もう声さえ聞こえぬのだから適切ではないな…… そんなことを考えながら司馬懿がふと天を仰ぐ。 黒い絹を敷き詰め砂金を散りばめたような夜空、一際燦然と輝く煌びやかな星が目に留まった。 真後ろまで回ると言われるその首を微かに傾げる。 はて、こんなところに今までこのような大きな星があっただろうか。これほど見事な星が突如現れたのも不可思議だ。 しかし、余りに堂々たるその巨星を見上げるうち、何故か奇妙な物悲しさに包まれた。 ---- 23 名前:命の瞬く声 7/7 投稿日:2006/10/10(火) 03:31:41  何故だろう、可笑しな言い回しになるが、私はあの星を「知っている」。  そして今、限りなく厭な予感しかしない――― 不意に沸き起こった切なさを振り払うが如くに星から目を背け、司馬懿は皆の待つ洞窟に帰った。 そこには今までと変わりなく緩やかに談笑する友が―――この場限りの友でしかないことは解っているが、 それでもこの場でこそ貴重な友がいて。 だが、それを見れば見る程に、今は悲しみばかりが募るのだ。 彼が抱えた苦しみの正体を、今は未だ誰も知らない。 <<めるへんトリオ featuring 既視感を追う旅/6名>> 陸遜【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×3)】 姜維[重症(なんとか短時間立って歩ける程度)]【なし】 司馬懿【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、DEATH NOTE、陳宮の鞄、阿会喃の鞄】 凌統【銃剣、犬の母子】 馬謖 [軽症(時々めまい・貧血状態に)]【魔法のステッキミョルニル(ひび入り)、探知機】 関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター、ブーメラン、サーマルゴーグル】 ※漢中より少し南の洞窟に滞在中。 ※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能。 ※現在洞窟の周りに馬謖がノリノリで大量の罠を仕掛け中。

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