7-225 蒼色

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353 名前:蒼色 1/5 投稿日:2006/09/23(土) 14:18:16 「瑜兄…」 2人目の兄も死んだ。 4日目の放送を聴きながら、陰鬱な気持ちで孫権は歩いていた。 行き先など決めていない。ただ、足が前へと踏み出すのを止めないだけ。 思い返せば思い返すほど、自分は愚かな君主であった気がしてくる。 父と兄が遺した地。 父と兄が遺した優秀な部下。 自分は、江東の虎の威を借りた狐であっただけ。 …そもそも、継ぐべくして継いだ地位ではなかったのだ。 生きなければと思っていた。 だが、今の自分に生きる価値が、意味があるのだろうか? 守るべき呉も既に無く、部下に会わせる顔もない。 もう、疲れた。 こんな自分を守って死んだ周泰が、哀れでならない。 …死んでしまおうか。 ふと、思う。そういえば、自分はいつも遺される側だった。 たまには遺していってもいいじゃないか。そうだろう? そう思ったとき。 「とーーーのーーーーー!!」 物凄い大声で呼ばれた。…いや、殿って自分のことでいいんだよな? だってなんだか、物凄く聞き覚えがある声だ。…そして、懐かしい。 「こっち、こっち!!」 呼ばれるほうを見ると小さな城の城壁に、人影が見えた。 あれは…皖城だろうか? 片目ではよく見えない。だが、あんな無防備に自分を呼ぶ人間に危険はないだろう。 呼ばれるまま進んでいくと、やっと誰だかわかってきた。 「甘寧!」 「お久しぶりです!!」 凄惨な遊戯の中とは思えないほど、爽やかな笑顔で迎えられた。 ---- 354 名前:蒼色 2/5 投稿日:2006/09/23(土) 14:18:57 甘寧は果物や干し肉やら残っていた食料を並べ、孫権を出迎えた。 ただし、酒は出さない。 「殿、なんかやつれてますね。ちゃんと食ってます?」 干し肉をかじりながら甘寧が言う。 「お前はこんな時でも変わらないんだなあ」 「こんな時だからこそ、ですぜ」 苦笑する孫権に甘寧はにやりと返す。 「損得抜きで思う存分ケンカ出来るんすから」 「そうか…そういう考え方もあるか」 「俺にはそれしかないっていうのもあるんですけどね」 それにしても。 「良いツラになっちまいましたねえ…」 隻眼となった孫権を見て、甘寧は眉を歪める。 甘寧は孫権の蒼い瞳が好きだった。いや、呉の忠臣達は皆そうであっただろう。 この世にふたつだけの宝玉を持つ主を、皆誇りに思っていたのだ。 「て、殿。だからちゃんと食べてくださいってば」 物思いから返ってみれば孫権の皿は勧めた時から何も変わっていない。 「いや…私はいいんだ。これは残しておいて、お前が食べれば良い。 戦うのならば、食料は多い方が良いだろう?」 そういって力なく笑う。 ---- 355 名前:蒼色 3/5 投稿日:2006/09/23(土) 14:20:32 「そりゃ、ありがたいですけど…そこまでして貰っちゃ申し訳ないです」 「いいんだ。…ただ、頼みがある」 「なんです?」 「私を殺してくれないか」 ぴくり、と甘寧の口の端が引きつる。 「…悪い冗談は止しましょうぜ」 「なんだ、冗談ではないぞ。死にたいんだ」 「そんな気軽に、物凄いこと言わないでくださいよ」 甘寧は酷く不機嫌そうに顔を歪めた。孫権は、静かに続ける。 「私は一人で生き延びるには非力すぎる。でも、自分で死ぬ勇気もない。 それに生きていてもなんの役にも立たない」 「何言ってんですか、生き残ってるやつらもきっと殿を心配して」 「いや…多分、それはない」 「なんで」 「お前は私より先に死んだから、知らないんだ」 ドクン。 その言葉に、心臓が大きく音を立てた。 「…何が、あったんですか」 「秘密だ」 そう言って、孫権は寂しげに笑った。 見たことも無いほど、悲しい目だった。 ---- 356 名前:蒼色 4/5 投稿日:2006/09/23(土) 14:22:52 「…殺せませんよ」 憮然とした顔で、甘寧がいった。 「どうしてだ」 「どうしてもです」 孫権はため息をつく。 「…お前ほどの武将ならば、私を見限って斬ってくれると思ったんだが」 「俺ってそんな風に見られてたんすか」 「うん」 「ひでーなあ」 確かにこの遊戯が始まってから、知り合いが死んでもなんとも思わなかった。 寂しい、悲しいと思わなかったわけではない。 あーあ、ヘマやっちまって、バーカ。 そんな程度だった。そして孫権の名が呼ばれないことに安堵していた。 やっぱりだ、さすが殿だ。そんな思いが心のどこかにあった。 初めて自分を認めてくれた主君。 自分の出自の卑しさを罵ったことなど一度もない。 進言も、いつだって真剣に聞いてくれた。 酒癖の悪さも、自分みたいな人間には逆に親しみを感じる短所だった。 『魏に張遼あれば呉に甘寧あり』 自分をそう讃えて、呵呵と笑った。 やっと、仕えるべき人間に会えたと…この人の為に武を振るおうと、決めていた。 そうだ…その思いは、まだこの胸にある。 ---- 357 名前:蒼色 5/5 投稿日:2006/09/23(土) 14:25:25 「大体、殿を殺したとあっちゃ、九泉で幼平に合わす顔がありません」 「ん…それもそうか」 孫権が、またため息をついた。 「死にたいと思ってもなかなか死ねないものなのだな」 父が死んだ時、兄が死んだ時、母が死んだ時。 何度も死にたいと思った。自分には荷が重い生だった。 そんな自分を支えてくれたのは、臣下達だった。 そして、今もまた。 「殿は、俺の武勲をふんぞり返って誉めてくれればそれで良いんです」 「それで良いのか」 「良いんです。それが、殿です」 甘寧が豪快に笑った。 その笑顔がやっぱり妙に懐かしくて、孫権の一つだけの瞳から、一粒だけ涙が零れた。 <<呉にある2人/2名>> 甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】 孫権[右目負傷・失明]【防弾チョッキ、日本刀、偽造トカレフ、空き箱】 ※ユニット化。 ※甘寧は戦いの相手を求めるついで程度に諸葛亮伝を読み解ける人物や手段を探しつつ孫権を守ります。 ※孫権は甘寧の戦いには基本的に手を出しません(奇襲などがあれば戦います) ※皖城に滞在中。後でまた合肥に向かう予定。 「まあ、見ててくださいよ。これから呂布やら張遼やらと一戦やらかすんで。すげえ戦をお見せできますぜ」 「うん、それは楽しみだな。で、呂布や張遼はどこにいるんだ?」 「…探してるんすけどね」 「…いないのか」 「…いないんですよ…」

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