7-222 幻を求めて

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336 名前:幻を求めて 1/4 投稿日:2006/09/18(月) 22:01:38 目が覚めた。 やはり夢ではなかった。この狂った世界も、周瑜の死も、全て。 彼の遺品となったテルミンだけが変わらず、静かに佇んでいる。 張遼と交代で身体を休め、果実で空腹を誤魔化しながら 曹植は半ば無意識にテルミンに手を伸ばした。が、張遼に静かに止められた。 「曹植様、今は…」 「あ、うん…そう、だったね」 手を引っ込める曹植。その寂しげな仕草に張遼は罪悪感を抱かずにはいられない。 曹植を危険に晒すわけにはいかない。 放送で息子の死を知った張遼は深い悲しみの中、曹植を守るという誓いを新たにしていた。 だが風流を愛し生まれついての詩人である曹植にとって、 楽を奏でるなと彼に言うのは息をするなと言うのに等しいに違いない。 「…そうだ。ねえ、父上や丕兄たちと会えたら、一緒に弾いてもいいよね?」 張遼の葛藤に気付いたのだろう。曹植は少しわざとらしいくらいに明るい声で言った。 「…そうですな…」 確かに、味方と合流できた後でなら少しくらいは構わないだろう。 曹植はそれは嬉しそうに笑ってはしゃぐ。 「やった!ふふっ、きっと喜ぶだろうな父上も丕兄も!二人とも珍しいものが大好きだからさ。  熊は怖がるかな。彰兄に貸したら壊しちゃいそうだなあ」 ---- 337 名前:幻を求めて 2/4 投稿日:2006/09/18(月) 22:03:19 曹丕と曹植は不仲だとよく言われている。 曹操の跡継ぎ問題で、魏の臣は曹丕派と曹植派に大きく割れ、こじれた。 中央の文官たちと違い、前線を担う武官であり、またいわゆる外様の身であることも幸いして 張遼はどろどろとした派閥争いに巻き込まれずに済んだ。 自分のことを少々面映ゆいくらいに素晴らしい詩にしてくれた曹植。 その曹植を悲惨な境遇に追いやったのは間違いなく曹丕だ。 曹植派だった者たちは曹丕を非道だ、実の弟に対して冷酷すぎると詰った。 確かに、眉を顰めるような振る舞いもあるにはあった。 だが張遼は、どうしても曹丕を彼らが言うような非情な人間だとは思えない。 張遼が病床にあったとき、曹丕は張遼に細やかな心配りをしてくれた。 直接衣を賜ったことも有り難く畏れ多いことだったが、 何よりも嬉しかったのは言葉だ。 病の床にあって何より辛かったのは、病そのものよりも無力感や孤独感だった。 多分曹丕はそれを分かっていたのだろう。 そしてそれがどれほど気持ちを蝕むものかを知っていたのだろう。 見舞いに来た曹丕は(そう、もう皇帝の身であったのにわざわざ見舞って下さった、) 自分には、魏には張遼が必要なのだと言った。 ---- 338 名前:幻を求めて 3/4 投稿日:2006/09/18(月) 22:05:47 その言葉がどれほど支えになったことか。 張遼のもとには毎日贅を尽くした食事が届けられた。 それは曹丕が毎日口にしている献立と同じものであったという。 その食卓は、曹丕が張遼のことを決して忘れていないという証のようでもあった。 曹丕は常に自分を必要としてくれている。張遼はそのことに深く感謝し、涙したものだ。 本当に非情な人間ならば、あのように繊細な心配りは出来ないだろうと張遼は思う。 ふと気がつけば、楽しげに話していた曹植の瞳から大粒の涙がこぼれていて、張遼は慌てた。 「いかがなさいました?!」 「…うん…」 涙を袖で拭いながら、曹植は言った。 「僕にとって、丕兄はやっぱり丕兄なんだね」 泣き笑いのまま、曹植は言葉を続ける。 「僕、あれからずっと丕兄を“陛下”って呼んでたはずなのにね。  今なんだかずっと普通に、“丕兄”って呼んでるよ」 張遼の胸が軋んで痛む。 本当は、二人は仲睦まじい兄弟だったのかもしれない。 勝手な思惑で騒ぎ立て、兄弟を引き裂いたのが我ら魏の臣だとしたら? 「張遼、ギョウへ行こう。あの美しい都を見に行こうよ。  そこで父上や丕兄と、また楽を奏で詩を吟じるんだ」 ---- 339 名前:幻を求めて 4/4 投稿日:2006/09/18(月) 22:07:05 曹植の瞳は希望と涙の跡できらきら輝いている。 この世界は、もといた世界とは全く違う。 でもだからこそ、彼らもまたただの兄弟に戻れるのかもしれない。 それだけで、曹植にはこの世界がとても素晴らしいものに思えた。 そう、あの美しい景色をもう一度。 あの日曹丕がせめて百年の間でも、と詠い 自分は千年たってもなお続く、と返した黄金時代。 「…わかり申した。それでは参りましょう」 曹植の澄んだ瞳の中に、張遼もまた輝く都を見ていた。 彼らはまだ、知らないけれど。 輝く都など、血と水に呑み込まれてもうどこにもない。 そして曹丕の魂もまた。 <<フライングディスクシステム搭載/2名>> 曹植【PSP テルミン】張遼【歯翼月牙刀】 ※麦城からギョウへ。

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