7-220 老虎

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323 名前:老虎 1/4 投稿日:2006/09/08(金) 17:08:50 鎖鎌―――鎌の柄尻に分銅鎖を取り付けた武器であるが、黄忠は目にするのは初めてだった。 六丈はあろう分銅鎖は、男の右手によって楕円丈に回され、今にも黄忠に飛びかからんとしている。事実、放り投げれば黄忠の立ち位置には届くだろう。 鎌の方はというと、男の左手にしっかりと握られたまま動かない。しかし、黄忠が近づけば牙を剥くのは明白だ。 この武器からは様々な攻撃方法があるだろう。間合いを取って分銅を投げ、外れて踏み込まれても鎌で対応することはできる。 近距離なら、鎖と鎌を相互対応するように振れば、隙を見せずに攻撃し続けることができる。 鎖で武器を叩き落としたり、四肢を絡めとることもできる。その場合は、無防備になった相手を鎌で攻撃するのだろう。 鎖の不利は鎌が補い、鎌の不利は鎖が補う。バランスのよく取れた武器だ。銃には劣るだろうが、これもまた魅力的なものだ。 今度は男の顔を見る。廖化という名前の男だ。 「なんでだ」 廖化の顔は、かすかに震えていた。理由は恐れか、怒りか、どっちかといえば後者だろう。目がたぎっていた。 「なんで馬忠が」 黄忠はちらと、脇を目線を向けた。 今にも分銅が投げられてきそうなので、長くよそ見はできない。それでも、胸から血を流して横たわっている男の姿を確認することができた。 廖化とは違って、黄忠は馬忠と面識はなかったが、噂は聞いたことがある。馬忠、旧名を孤篤、漢昌の県長で、威厳と恩徳を有していたということだ。 先程三人で交わして会話から、彼は黄忠の死後ずいぶん出世していたことがわかった。廖化の方は、なんと九十超まで前線で戦い続けていたという。 そのわりには、見た目は前世で黄忠が最後に見た時とさして変わっていない。自分は爺さんのままなのに、不公平だ、と黄忠は思った。 ともあれ、馬忠は黄忠に殺され、黄忠と廖化は対峙している。 ---- 324 名前:老虎 2/4 投稿日:2006/09/08(金) 17:09:56 「なんで馬忠が」 廖化の顔は、怒りから悲しみの表情へと変化していた。たぎっていた目には涙が浮かんでおり、語尾に湿気が感じられた。 「そんなこと、わかりきっておるだろう」 最後の一人になるまで殺し合う。それがこのゲーム最大のルールだった。 「ワシとしちゃあ、銃だけ貰えればよかったんだけどねぇ。そういうわけにも、いかんじゃろ?」 黄忠の目的は、銃だけだった。できれば黄忠も同じ蜀将を殺したくない。 二時間前、定軍山の麓で、銃を持つ馬忠を見つけた時、黄忠が考えたのは殺さずしてどう銃を奪うかということだった。 二人はお互い仲良く、面白いとは言えないボケとツッコミを繰り返しながら歩いていた。大声で笑い、時折奇声を発したりする。羨ましいとさえ黄忠は思った。 黄忠は二人に近づき、挨拶をし、仲間になろうともちかけた。廖化は新しい相方が出来たと大喜びをし、馬忠に対して何かを求めるかのような目線を送った。 ここは一つ、新しい仲間に俺達の笑いを見せてやろうぜ、ということだったのかもしれない。 しかし、馬忠の口から出たものは、廖化が期待していたような笑いを取る言葉ではなく、何の変哲もない歓迎の挨拶だった。 その言葉には、若干、敵意が籠もっていた。 黄忠が視線を落とせば、馬忠の右手に、強く銃が握られているのが見えた。 こいつは一筋縄にはいかないな―――危害を加えずに銃だけを取るというのは、諦めた方がいいかもしれん。そう黄忠は思った。 二時間後の正午。黄忠は隠し持っていたナイフを、馬忠の胸へ突き刺した。心臓を狙ったのだが、馬忠が直前に気付き、微妙にずれてしまった。 直後の馬忠の行動は、刺された人間とは思えないほどに迅速だった。だから黄忠も、その行為を止めることはできなかった。 馬忠は持っていた拳銃を、残った力全てを使って遠方へ投げ飛ばしたのだ。 その時、用を足すと言ってその場を離れていた廖化が戻ってきた。 彼の目には、倒れゆく馬忠が見えていたはずだ。その口が、に・げ・ろ、と声もなく動くさまも。 ---- 325 名前:老虎 3/4 投稿日:2006/09/08(金) 17:11:04 「いや、いかなかったというべきか。馬忠殿は、少なくとも君よりかはこのゲームを理解していたよ。彼はワシに対して、銃を取らせる隙を見せなかった」 二時間の間、黄忠は馬忠と廖化とともに行動したが、その間に馬忠は絶えず黄忠に警戒を送っていた。彼の直感が、黄忠を危険な存在だと認識していたのだろう。 黄忠は彼の警戒を解こうと、他愛のない冗談を言ったり、漫才に参加してみたりしたが、すべて無駄だった。 一方廖化は、かなり気が抜けていた。黄忠のことは、頼りがいのある仲間、あるいは面白い爺さん、とくらいにしか思っていなかったようだった。 「うるせぇ! ゲームが何だ! 馬忠が何をしたってんだ!」 清々しいほどに愚かだな。そう思うと同時に、黄忠はそのことを口に出していた。 その瞬間に、分銅が黄忠の頭部を目掛けて飛んできた。恐ろしいほどの速さだった。とっさに首を左へ反らすと、分銅はさらに後方へと飛んでいった。 「殺してやる!」 廖化の目には赤いものが走り、睨み殺すように黄忠を見、それでいて涙を流していた。 かすれた怒号が、再び響く。 「殺してやるぞ! 黄忠!」 だが黄忠には廖化の叫びに耳を傾けることよりも、自分の右腕を注視することに気を使わなければならなかった。 分銅が、腕の肩の肘までを、ぐるぐると回っていた。分銅が回るたびに、鎖は音を立てて腕に巻き付いていく。 鎖に強く締め付けられ、腕に痛みが走る。分銅が回転を終えた時には、腕には何重にも鎖が覆っていた。 「殺す!」 ---- 326 名前:老虎 4/4 投稿日:2006/09/08(金) 17:12:17 廖化が目の前に踏み込んできた。黄忠のナイフは、鎖に縛られた右腕にある。普通に反撃しようと思えば、右手から左手へとナイフを持ち替えなければいけない。 だが廖化は、すぐに鎌の範囲内へと距離を詰めた。持ち替え、反撃の体勢を作る暇はない。黄忠は、右腕から鎌へと伸びる鎖を左手で掴んだ。 力の限り、思い切り引っ張る。 老いてなお二石の強弓を射ってのけた膂力。廖化と力比べをすれば、完全に勝っているだろう。しかも廖化は、引っ張られることなど念頭にも置かず前進している。 従って廖化は、前のめりに体勢を崩すことになった。しかし、鎌から手を放すことはしなかった。 鎖鎌がなければ、自分の力では決して敵わないことをわかっていたのだろう。ただし、放さなければ、死ぬことはわからなかったようだ。 鎖がゆるみ、右腕は束縛を解かれる。黄忠は右手のナイフを、引っ張られるがままに向かってくる廖化の首へと突き立てた。 「さよならじゃ」 ナイフを抜くと、廖化は黄忠の横へと仰向けに倒れていった。首からほとばしる鮮血を、黄忠の体へ浴びせかけながら。 こうして黄忠の周囲には、二つの死体が転がることとなった。黄忠は彼等の姿を目下に収めながら、寂しげに呟いた。 「これでもう、玄徳様の元へ戻ることはできんじゃろうな………」 血まみれの老人は、少しだけ空を見つめると、腕の鎖を解く作業を始めていった。 @黄忠【サバイバルナイフ、グロック17、鎖鎌】 ※現在地は益州北部。目的地はまだ決めていません。 【馬忠 廖化 死亡確認】

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