7-212 悪木盗泉

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284 名前:悪木盗泉 1/6 投稿日:2006/09/01(金) 00:59:52 夢を見た。 つまらぬ夢だ。 自分は洛陽にいた。西晋の都洛陽に。 呉が滅んで北に来てからこの方、中書令、後将軍、大都督と順調に出世した。 上に立つ人間が次々に変わる。醜悪な内輪もめを見せつけられ、 しかし己はあの混沌に入るわけがないと頭から思い込んでいた。 ひどく達観していた。 今から考えると実に愚かだが、あの時は呆れるほど無防備だった。 宮廷内の埃だらけの書庫で偶然見つけたひとつの竹簡。  ……薫香は夫人たちに分け与えるように  ……手に職のない妾たちは、飾り紐や履の作り方を覚えて生活の足しにせよ     敬愛していた魏武帝の遺令だった。 それを見て深い失望を覚えた。 くよくよと細かい家事を気にかけるなんて。 広大な製品を飾り紐で悩ませ、爽やかな理性を余った香の処理にわずらわせたなんて。 不名誉だ。彼に取って、これは大変不名誉なことだ。 破格の才を持つ彼でさえ、つまらぬ惑いを振り切ることが出来なかったのか。 ---- 285 名前:悪木盗泉 2/6 投稿日:2006/09/01(金) 01:00:31 己の立場が脆かったことに、 成都王司馬潁に処刑を申し渡された時に初めて気付いたのだから呆れてしまう。 自分は、八王の乱と言う醜悪極まりない内乱に巻き込まれ、首を斬られた哀れな男だ。 刑場に立った瞬間、頭が真っ白になった。 湧き出んばかりの言葉の洪水も無く、怒りも、哀しみも、感情すら忘れてきたかのように無我に至った。 願ったのは、ただひとつだけ。 いっそこの世に居た事実が無くなればよいと。 ---- 286 名前:悪木盗泉 3/6 投稿日:2006/09/01(金) 01:01:06 「後悔はされますか」 「しょっちゅうだ」 「まさか、貴方ほどの方がそんな」 「後悔だらけの人生だったぞ。董卓に追われた時は逃げたことを悔やみ、  徐栄に敗れると無茶な挙兵を恥じ、宛城では自分が死ぬべきだったと思い、  赤壁なんぞ悔しくて誰かに罵倒されたくてたまらなかった。後悔だらけだ。  ……後悔して、後悔して、後悔しつくした後に道が見えてきた。  俺は呆れるほどに諦めが悪いんだ。  これで終わりなものかとつい前を見てしまう。  いくら目をこらしても何も見えぬのだが、  五里霧中を進むことを止められなかったんだな。  ……お陰で、周囲にはひどく苦労をかけたが」 ---- 287 名前:悪木盗泉 4/6 投稿日:2006/09/01(金) 01:01:39 涙を流していたらしく、曹操殿が目を丸くして覗き込んでくる。 どうした? どこか痛くなったか? 具合でも悪いのか? 矢継ぎ早の質問に笑顔を作る。 何でもありません、なんだか、泣けてきただけです。 死ぬ直前ですら、涙のひとつも出なかったのに。 さあ、元気を出せ。一番若いお主がしんみりしていると寂しいではないか。 手の上に次々と四角いものが置かれていく。 どんどんカラフルになっていく手の平を見ていると、余計に泣けてきた。 後悔することを拒否していただけだ。 そうしないと、自分が哀れで気が狂いそうだったから。 ---- 288 名前:悪木盗泉 5/6 投稿日:2006/09/01(金) 01:02:12 何の因果か今生まれ変わっている。 奇妙な世界だけど、確かに自分の首を繋がっている。  渇すれども盗泉の水を飲まず  熱けれども悪木の陰に息わず  悪木 豈に枝無からんや  志士 苦心多し  駕を整えて 時命を粛み  策を杖ついて 将に遠く尋ねんとす     後悔はしたくない。 でも、無にもなりたくはない。 自分は生きている。こうしてまた、生を得て、思考している。 二度目の生は、流されることなく、思うがままに。 そう生きたいと心から願った。 ---- 289 名前:悪木盗泉 6/6 投稿日:2006/09/01(金) 01:02:59 「ちょwwww なんで陸機だけそんなにいっぱい貰ってんだよ!」 「ははは、呂蒙よ、面白い格好だのう」 「ねえねえ子明~! これって食べられると思う?」 「今は山菜取ってる場合じゃないよ!」 「仕方ないなあ、じゃ阿蒙さんのために、きなこ味あげます」 「(*´∀`)」 「士衛は優しいのう」 「曹操殿だって優しいですよ!」 「ねえねえ私も優しいわよねえ」 「尚香殿も最高に優しいです!」 「俺は?」 「阿蒙さんは最高に阿蒙さんです!」 「(´・ω・`)」 <<ふたりの詩人とひとりのアモーと弓腰姫/4名>> 曹操[治りかけの打撲]【チロルチョコ(残り70個)】、陸機【液体ムヒ】 呂蒙[鼻にかすり傷]【捻りはちまき】、孫尚香【シャンプー(残り26回分)】 ※現在揚州南部にいます。山腹で食料を集めつつ身体を休めてます。 ※士衛は陸機の字です。

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