7-208

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266 名前:1/7 投稿日:2006/08/27(日) 03:25:16 闇の中に郭嘉は漂っていた。 大勢の人の気配を感じる。だが独りきりのようにも思える。 そして郭嘉は涼しげで物憂げな、よく知る声と対話していた。 互いに、勝手に独り言を言い合っているようでもあったが。 「私は、曹操様への恨みを晴らします。  どうですか、奉考。あなたは、この遊戯に乗ってみる気はありませんか」 …下らない。 「どうしてです?  この世界でなら、道徳や良識などに縛られずに思う存分、知略を競うことができますよ」 …あのさ。俺がもともと、道徳やらなんやらに縛られてたと思う? 「ふふ、それもそうですね」 …っていうかさ。何なんだよ本当。 …俺はさ。一度きりの人生だと思ってたから、あの時命張ったんだぜ。 …俺は、俺として本気で生きていたかったから北へ行ったのに…! …こんなにもあっさりと甦って、ずっと殺し合いを続けなければならないのなら… …走り続けなければならない、そういう風に生まれついたんなら、 …俺が、あの時賭けた命の意味は! 「曹操様と戦ってみたくはありませんか?」 …下らない。所詮遊戯だ。本気じゃないなら、つまんないよ。 「後世の名軍師たち」 …くどいって。 「もしくは、私と」 …何? …ついさっき、曹操様に恨みがあるから、それを晴らしたいって言ってただろ? ---- 267 名前:2/7 投稿日:2006/08/27(日) 03:27:30 …あんた、本当の目的は、何なんだ? …献帝の誘いに乗ったんじゃないのか…? 「ふふ…。興味がない、と言う割には熱心ですね」 …何かもう癖というか、性かもな。 …あーもう解ったよ。乗ればいいんだろ、乗れば。 …どうでもいいよ、もう。 …どうせ、これからもずっとこの命を弄ばれるなら。 「洛陽でいきなり大規模な殺戮合戦が起こっても困りますからね。  そうですね…。北へ行ってもらいましょうか。  あなたが実際に行くことはなかった、遼西でも見てきてはどうです?  遼西に着いたら、協力してもらいますよ。  遼西に着いて貴方が目覚める頃には幽州が禁止エリアになるでしょうから、  そこから南下して行けばうまく状況をかき回せるでしょう」 …はいはい。解ったよ。 …でさ。 …何、考えてるんだよ…文若? 「…目が覚めましたか?」 ゆらゆら、ゆらゆら、微かな目眩の中から郭嘉は覚醒した。 気がつけば郭嘉は陳羣に背負われていて、もと来た道を逆戻りしていた。 何か夢を見た気もする。だが思い出せない。 「…何で戻ってるんだよ?」 「先程、放送があったのですよ」 陳羣はさっきの放送内容を郭嘉に伝えた。 幽州が禁止エリアになった。 郭嘉もまだ本調子ではなく雨で足場も悪い今、 険しい山々を越えた先の遼西にたどり着き、さらに戻ってくるのは不可能だ。 ---- 268 名前:3/7 投稿日:2006/08/27(日) 03:28:22 とりあえず郭嘉は礼を言って陳羣の背から降りた。 「構いません、慣れていますから。  辛ければまだ乗っていてもいいですよ」 「いいよ、男とひっついてても楽しくないから」 「あのですね郭嘉殿、そういう問題では…」 怒る陳羣。郭嘉は億劫そうに説明する。 幽州が禁止エリアになり、自分たちのようにここから立ち去ろうとする人間に出くわす可能性は非常に高い。 だから身軽に動けるようにしておいた方が良い、と言うとようやく陳羣は納得した。 陳羣は細かいことによく気が付く。 元々几帳面な性格だし、徐州を彷徨いながら 長いこと父の看病をしていた経験があるからなのだろう。 郭嘉の世話をよく焼いてくれるし、薬草などの知識にも明るい。 擦り潰した薬草の汁の苦みに閉口しながら、郭嘉は独り言のように陳羣に言った。 「俺と陳羣殿って、別に親しくはなかったですよね。むしろ仲悪いくらいで」 「まあ、そうですね」 「何で、俺の面倒なんか見てるんです?」 陳羣は虚を突かれたように数回瞬きをした。 「責任を感じてるんですか?」 郭嘉が負傷した責任の一端は陳羣にあると言っても良かったが、 郭嘉は全く気にしていなかった。 ---- 269 名前:4/7 投稿日:2006/08/27(日) 03:29:15 「もちろん、それもあります。本当に…申し訳ないと思っています」 「なら、もういいって」 あの時点ではまさか満寵がああいう行動に出るとは郭嘉にも予想できなかったし、 郭嘉が負傷し陳羣が無傷だったのはまあ、運だ。 そもそも殺るか殺られるかの世界に、責任も何もあったものではないと郭嘉は思う。 「あなたに何度言われても行いを正さず、罰せられもしなかった俺ですよ。  むしろ怨んでるくらいなんじゃないんですか?」 「本気で怒りますよ、郭嘉殿」 そう言った陳羣の怒りは、いつもの怒りとは違う冷たく鋭いものだった。 「それでは完全に逆恨みではありませんか。  私が上奏文に記したことは全部本当ので、なおかつ罰せられるべき事でしょう。  私怨で書いた訳ではありません。  それに、罰とは罪を犯した者が悔い改めるためのものです。  個人の憂さを晴らすためのものではありません」 「…すいません。失言でした」 郭嘉は珍しく素直に陳羣に非礼を詫びた。 陳羣は本心から言っているのが郭嘉にも解った。 多分、世間では“綺麗事”と言われる言葉を。 「私が郭嘉殿の看病をする理由、でしたね。  そうですね、何と言えばいいのか…」 ---- 270 名前:5/7 投稿日:2006/08/27(日) 03:30:32 陳羣は思案していた。自分では解っていることなのだが、 どう説明すれば郭嘉に伝わるのか、言葉を探している。 自分の気持ちに一番近い言葉は、これだろうか。 「それが、当然のことだからです」 梁上の君子に絹を与えた祖父を始め、陳羣は愛情深い家族に囲まれて育った。 傷ついた人が居れば手当をし、具合が悪そうならば看病する。 自分が相手に出来ることに全力を尽くす。それは陳羣にとって当たり前のことだった。 だから逆に、郭嘉の何故自分の面倒を見るのか、なんて質問自体が不思議で、少々戸惑ったのだ。 「…あのさ。別にあなたを侮辱するわけじゃないけど」 陳羣の真っ直ぐな瞳が何故か辛くて、郭嘉は視線を逸らしながら言った。 「自分で自分の言ってる事、虚しいとか、陳腐だって思った事、ありませんか」 怒るかと思った。だが予想に反して陳羣は怒らなかった。 視線を戻すと、陳羣はどこか悲しみと苦みを含んだ微笑を浮かべていて それでも瞳は真っ直ぐなままだった。 「それでも私にとって、これが真実ですから」 柔らかな、不快ではない沈黙が続いていた。 「今後のことなんですけれども」 切り出したのは陳羣だった。 ---- 271 名前:6/7 投稿日:2006/08/27(日) 03:31:32 「陳留へ向かいたいのです」 「…まあ、満寵殿は亡くなったみたいだけども…」 「ええ…満寵殿を弔いたい、というのももちろんあるのですが」 郭嘉の発言を陳羣は違う意味に捉えたようだが、敢えて訂正はしなかった。 「私は、あの光景に見覚えがある気がするのです。  …確かめなければいけないと思っています」 それは恐怖を伴う記憶。既視感。 そう、郭嘉の発言で思い出した、弔いという行為にもそれは感じる。 「郭嘉殿には目的があるように私は感じていました。  北へ行くのはもう間に合いそうもありませんが、  他に目的地があるのなら無理強いはいたしません。  郭嘉殿の体調が元に戻るまでは、ご一緒させていただきます」 郭嘉は、陳羣の恐怖に凍り付いた横顔を思い出す。 「…あんまり楽しい記憶じゃなさそうな予感はしてるんでしょ。なんで、わざわざ」 「郭嘉殿は本当に、答えるのが難しい質問ばかりなさいますね」 陳羣は苦笑し、しばし考える。 「…解らないままにしておくのは、卑怯というか、誠実でないと思うからです。  何に、誰に対してなのかは正直解りませんが」 やはり陳羣は真っ直ぐな瞳で答えた。郭嘉は苦笑する。 ---- 272 名前:7/7 投稿日:2006/08/27(日) 03:33:12 「本当、陳羣殿って融通ききませんよね」 こんな世界でも、陳羣は陳羣のままで全く変わらない。 「でも俺陳羣殿のそういうところ、悪くないと思いますよ」 郭嘉は、不思議と北への執着が薄れていくのを感じていた。 <<不品行と品行方正/2名>> 郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×1】陳羣【なし】 ※現在地は冀州北部。陳留を目指します。 ※荀イクには何か目的がある?

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