7-199 共鳴

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211 名前:共鳴 1/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:20:35 司馬孚達は黙々と、夜の北の地を歩いていた。出発したばかりの時は劉禅が気楽なことを話しかけていたが、 司馬孚がそっけない返答しかしなかったため、劉禅はそのうち飽きたようだ。 途中、休憩をした。劉禅にははっきりした目的地でもあるのか、時計のいう二時間ほど休んだら再び歩くつもりらしい。 劉禅はその間、食料探しに出かけた。司馬孚が黎明の時に集めた食料がすでにあったが、劉禅はそれでは不満らしい。 司馬孚はすでに十分疲れていたので参加しなかったが、外見いかにも鈍そうな劉禅がまだ疲れを見せないとは、どういうことだろう。 司馬孚はひとり残された。逃げることが頭によぎったが、すぐに振り払った。仇は、この手で取らなければ意味がない。 休憩場所は、涼しげな林の中だった。司馬孚は木に寄りかかって、身を休めることに集中した。今は、考えても仕方がない。 木々の間を通り抜けるそよ風が心地よく、危うくそのまま寝てしまいそうになる。慌てて頭を振る。 寝ている場合じゃない。マヌケにも寝てしまっているうちに、ゲームに乗ってる人間でも来たら、一貫の終わりだ。仇も何もなくなる。 仇を、あの美しき女性の仇を取るまで、自分は死んではいけないのだ。 決意を胸に秘め、顔を上げた。すぐ目の前に人が立っているのに気がついた。 「うわっ!?」 自分でもみっともなく思える、驚きの声を上げる。立っていた人はすぐに司馬孚の口を手で覆い、「静かに」と囁いた。 ---- 212 名前:共鳴 2/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:22:51 賈詡だった。 「賈詡殿、どうしてここに?」 驚きと、わずかばかりの恐怖が入り交じった質問を投げかける。 今の自分は武器を持っていない。可能性は少ないと思うが、賈詡が乗る気だったら、まさに格好の標的だ。 「私は、私と仲間のための食料集めをしていたんですよ。偶然、通りかかっただけです。しかしここまで近づいて気付かないなんて、不用心すぎますな」 賈詡がにこりと笑ったので、司馬孚は意外に思った。賈詡は、あまり感情を表へ発露しない性格だったはずだ。 いや、緊張をほぐすためにあえて笑みを見せたのかもしれない。賈詡の心遣いに、司馬孚は少し安堵した。 「お一人、ですか?」 賈詡はあたりを見回しながら言った。 「いえ………もう一人いますが、今はあなたと同じ目的でいません」 賈詡はじっと、司馬孚の顔を見つめていた。その細い眼で、心の内が見透かされている気がした。 「お名前は?」 「………劉禅殿と」 賈詡の反応は、司馬孚の予想と違っていた。驚き、困惑するだろうと思っていたが、ゆっくりとうなずき、感嘆するように顔を広げた。 「なるほど、そういうこともあるでしょうな。今は、勢力だとか、身分だとかは、あまり関係ないのかもしれません。ただ……」 今度は腕を組み、眉をひそめ、細い目をますます細くし、 「あなたは、劉禅殿に、恨みがあるように思えますな」 心臓が飛び跳ねた。物事の核心を、いきなり言い当てられたのだ。なんで? 馬鹿な。 「そ、そのようなことは、ありません!」 「嘘ですな」 賈詡は断言した。 「一人かを聞いたとき、名前を聞いたときのあなたの声で、わかりましたよ。あなたはいかにも、忌まわしいものを吐き捨てるように言いました。 それに、図星でなければ慌てて否定もすることはないはず」 正にこの人は、壺の中の水を見るかのように自分の心を見れたのだ。司馬孚はがっくりと項垂れた。 「できれば、なぜ恨んでいるのかも知りたいものですが………」 この人には、隠し事はすべて無駄だ。そう悟り、司馬孚は堰を切ったかのように今までのことを話し始めた。 ---- 213 名前:共鳴 3/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:24:22 賈詡は、司馬孚に自分の仲間の情報と仲間が待っているという民家の場所を教え、帰っていった。 賈詡の仲間の一人は郭嘉。面識はなかったが、天才軍師と謳われ、不品行であったが忠節は厚かったという人物だ。 彼は今、熱を発して臥しているらしい。賈詡はその状態の郭嘉と、郭嘉と一緒にいた陳羣に出会って仲間になったという。 陳羣は司馬孚もよく知る人物だ。彼の九品官人定法が示すように、政治力に長けていたが、この状況下でその知恵を生かせるかはわからない。 賈詡は自分も郭嘉も陳羣も、ゲームに乗る気はないと言った。ぜひ、来てほしいとも。 しかし、司馬孚は、彼等と合流することはしたくなかった。善良な彼等と、劉禅は会わせてはいけない。 劉禅を置いて自分だけ合流するというのも、もちろんやってはならない。 劉禅が帰ってきた。野生の果物を中心に採ってきたようだ。帰ってから、山葡萄を一房平らげた。 「案外食料は不足しなさそうです。やはり、食べられるだけ食べませんとね」 残りの時間を休んで過ごし、二人は再び歩き始めた。劉禅は完全に先導する形で、しっかりとした足取りで歩いていた。 司馬孚はある悪い予感に襲われ、何とか劉禅に方向転換をさせようと試みたが、すべて失敗に終わった。 集落が、見えてきた。 ---- 214 名前:共鳴 4/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:26:35 陳羣は悪夢に襲われていた。それは同じ場所で、多くの人間が殺し合う夢だ。知っている人間も多くいる。 夏侯惇の持つ銃が、誰か二人に当たり、動けなくした。動けなくなった二人を楽進と満寵が襲いかかる。 王朗が、協力していたはずの味方に蹴られ、倒れた。夏侯淵が、郭淮が、王朗に狙いをつける。 王朗が血染めになる中、突如爆発が起こった。それは多くの人間を巻き込む爆発。郭淮の頭部が、吹き飛んだ。 そこへ現れた男が、持っていた銃を乱射した。夏侯淵や華歆、それに賈詡も、他の男達も、呻いて、あるいは断末魔を上げて倒れる。 銃声、硬い物で殴る音、刃が骨に当たる音、怒り狂う声、恐怖に叫ぶ声――― 目が覚めると、賈詡が目を丸くしてこちらを見ていた。どうやら、自分は叫びながら起きたようだ。 「悪夢でも?」 「ええ………だけど、もうあやふやで………世界の終わりのような夢だったと思いますが………」 賈詡は目線を下げて、独り言のように呟いた。 「なるほど、世界の終わり、か」 賈詡の目線の先に、寝ている郭嘉がいることに気が付いた。女性達といちゃついている夢でも見ているのだろうか、幸福そうな表情だった。 「まだ起きていませんが、熱は微弱になってます。順調に、回復してますよ」 安心したのか、陳羣の腹が、音を立てた。あまりに大きく、恥ずかしさで顔が火照っていった。 「食料は?」 「桃を二つ、張飛殿からもらったんですが、もう一つは食べたので………」 「ふうむ、そろそろ、取りにいかないといけませんね」 賈詡は陳羣から閃光弾を二つもらい、ザックを背負って出かけていった。残された陳羣は、もう雨が止んでいることに気が付いた。 彼はしばらくの間(支給された時計によれば、二時間というらしい)、外を歩き周り 帰ってきた時には彼のザックは多くの山菜・薬草で溢れていた。 そこで残った桃を、二人で分けて食べた。 桃を食べ終わった後、彼は民家から糸を探し出し、糸を小屋の中から小屋の外一帯までに張り巡らした。 誰かが来て糸に引っかかれば、小屋の中で繋いでいた石が落ちて音を立てる、という仕掛けをであるらしい。 仕掛け終えた後、賈詡はぽつぽつと話し始めた。 ---- 215 名前:共鳴 5/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:28:42 「圧倒的な力の前に、今の我々にできることは何もないでしょうが……… ですが献帝も、所詮は天子を名乗った人に過ぎないのです。必ず、穴はあります」 と話し、 「今はとにかく、信頼すべき仲間を捜すべきです。あなたが出会った張飛とも、ぜひ会って話し合いましょう」 と微笑んだ。 それらの言葉は、気休めではなく、陳羣を安堵させた。 それから賈詡は、食料集めのさいに出会った人物のことを話した。それは司馬孚のことだった。 彼は最初、ある女性と同行していた。美しく、優しい女性で、司馬孚は好意を抱いたようだ。 しかし女性は、なんと、蜀の皇帝であった劉禅に殺されてしまう。 司馬孚は仕方なく劉禅に従うことにし、つねに仇を取る機会を窺っている、という。 「私は、司馬孚殿にこの場所を教えたので、二人がここに来る確率は高いと思われます。 劉禅も、司馬孚殿の言う通りなら、いきなり襲うことはしないはず。利用価値がない、もしくは利用できないと判断したときに牙を剥くのです」 やや、間が空いた。賈詡はこれから言い出すことを、本当に言っていいか躊躇っているようだった。陳羣はある予想を立てた。 「ところで陳羣殿、あなたは、人を殺す覚悟はありますか?」 予想は当たった。陳羣は、ある映像が頭をよぎった。それは光だった。真っ白な、視界一面の光。一瞬で過ぎ去ったが。 「劉禅殿を?」 「あくまで、ここに来た場合です。司馬孚殿の協力はぜひ仰ぎたい。しかし劉禅には、無理でしょう」 それはそうだった。しかし、殺す、だと? 「劉禅はモーニングスターという、トゲのついた棍を持っているようです。ですが、私達二人で、不意をついて抑えかかれば、無力化できます。 司馬孚殿は劉禅を仇敵と見なしているわけですから、絶好の機会と見て、モーニングスターを奪って振るうでしょう………それだけのことです」 それだけのこと。そう、それだけのことなのだ。だけど、それは、何か、違わないか? 「合図は、私が床を二回、指で叩いたら、ということにしましょう。あくまで、来たらですが」 カツン 誰かが来たことを示す、ごく軽いその音が、家の中に緊張を走らせた。 「あの二人かもしれません。とりあえず、様子を見てきましょう」 賈詡は戸を開けて、外へ出て行った。 ---- 216 名前:共鳴 6/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:30:03 劉禅は荷物の中から、モーニングスターを取り出していた。貂蝉の血の跡は、もう洗い流されている。 「へ、陛下」 なぜこんな男を、陛下と呼ばなければいけないのだ、と内心で毒づく。 「武器はしまわれた方が………誰かと出会ったら、警戒されます」 「そうですね」 賛同しつつも、劉禅はモーニングスターをしまわない。 やがて、集落に入った 「今夜は、ここらの家で夜を過ごしましょう。どこが、いいですか?」 司馬孚は周りにある家のうち適当に選んで答えたが、劉禅は首を振った。まるで、最初から否定するために問いかけてきたようだった。 「どうせ家なら、誰にも入られない、誰にも気にも留められない家がいい。こんな、入り口付近ではなく」 劉禅はさらに奥へ歩いていった。奥へ進むたび、空気が粘着質になっていく気がした。 「そうですね、あの家がいい。入り口からの道も複雑だし、よく暗闇にまぎれている」 司馬孚は賈詡が教えてくれた情報を思い出す。彼は丁寧に、自分達のいる民家への道筋を、教えてくれたのだ。 「どうしたんですか、司馬孚さん。行かないのですか?」 「もっと、よい家はないのでしょうか? ほら、あの家は」 「あれは大きすぎます」 「では、そこは」 「小さすぎて逆に目立つでしょう………速く行きましょうよ」 劉禅はスタスタと、自分の決めた家へ歩いていった。司馬孚も仕方なく、その後を付いていく。 突然、戸が開いた。 賈詡だった。 ---- 217 名前:共鳴 7/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:31:50 「私は、劉禅、字を公嗣。荊州に生まれ、益州で過ごした者です」 賈詡が家にあがらした劉禅が、うやうやしく自己紹介をする。右手には、モーニングスターを握ったままだったが。 入り口の間には、陳羣、賈詡、司馬孚、そして劉禅が、四人向かい合う形で座っていた。郭嘉は、ひとつ奥の間でまだ寝ている。 「仲間が増えるのは、何よりも頼もしいことです。とりあえず、この果物を………」 と劉禅は残り一本のバナナを半分に割り、賈詡と陳羣に渡した。 陳羣は毒の存在を疑い、先程桃を食べたばかりなので、と押し返した。ただ、隣で賈詡が平然と食べていたが。 「うむ、とても甘くておいしいですな。しかし見たことも聞いたこともない。これは、支給品ですかな?」 「はい、私にはこれ三本しかなかったので、当初はとても困りましたね………そうそう」 劉禅は荷物の中から、何やら小箱を取り出した。慎重な手つきで、床に置いた。 「これ私、どこかで聞いたはずの音なんですよ………確か北の地域で聞いたはずの……… だけど、過去に私は中原すら滅多に来たことはないはずなんですよ。だから、不思議に思っているのです。 みなさんは、聞いたことはありませんか?」 劉禅の手が、蓋を、ゆっくりと開けていく。 旋律が流れた。それはなぜだか懐かしさを感じる、優しい曲だった。 ほんの一時、陳羣は聞き惚れてしまう。しかし、やるべきことを思い出し、劉禅の顔を見た。 陳羣は、衝撃を受けた。 それはとても、とても穏やかな顔だった。寝ている赤子を腕の中に揺らす母親の表情のような――慈しみが満ちあふれた表情。 こん、こん 旋律に混じって、微弱で硬質な音が聞き取れた。賈詡が出した、合図の音――― 陳羣はもはや考えることをやめて、劉禅に右腕に飛びついた。 箱の音楽に夢中だったのか、陳羣がしっかりと掴み取るまで、反応はなかった。 片手で劉禅の右腕を掴み、片手でモーニングスターを劉禅の手から弾き飛ばす。モーニングスターは司馬孚の方へ転がっていった。 劉禅の左腕が、転がる自分の武器を取り戻そうと動いたが、腕を誰かが掴んだ。司馬孚だった。 ---- 218 名前:共鳴 8/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:34:11 ここで陳羣は、ようやくおかしなことに気が付いた。賈詡は? 賈詡はどうしたのだ。 転がるモーニングスターを、誰かの手が拾い上げた。 司馬孚かと思ったのだが、司馬孚の片手は劉禅の左腕を押さえる一方、片方はモーニングスターの拾い上げられた場所まで伸び、そこで硬直していた。 流星のように、トゲを持つ金属の球が振り動いた。金属の球からは木製の棒が伸びており、木製の棒は、賈詡が手に握っていた。 司馬孚の顔と、トゲを持つ金属の球が、隣り合わせになった。 司馬孚は最後に、何を認識しただろうか? 彼はなぜ死ぬか、わかったのだろうか? そもそも、死ぬことを理解できていただろうか? 司馬孚は、側頭部を砕かれ、床に倒れた。砕かれた側面が、天上へ向いた。 賈詡は無言で、次の一撃を振った。相手は陳羣だった。 陳羣は突然のことに混乱状態になっていながら、モーニングスターの軌道は冷静に見ることができた。 体を横に傾け避けたあとは、急いで立ち上がった。劉禅は、災難を被らないように隅へ避難していく。 陳羣は入り口にではなく、奥の郭嘉のいる部屋まで走った。戸は走った勢いを利用した体当たりでぶち破った。 「起きてっ! 郭嘉殿!」 郭嘉は目をこすりながら、布団から半身を起こしていた。 「うるせえよさっきから………」 寝言のように呟きながら、しかし事態をすでに承知しているらしい。郭嘉は即座に立ち上がると、懐に手を突っ込んでいた。 「伏せろ!」 陳羣は言われるまでも、その場に伏せていた。さっきまで自分の上半身があった空間に、金属球が曲線を描いていた。 鼓膜を叩く、大きな破裂音とともに家の中が白い閃光に包まれる。陳羣はしゃがんだ体勢から飛び上がり、閃光の中の人影に思いっきり体をぶつけた。 人が倒れる音が聞こえる前に、陳羣は駆けだしていた。入り口の戸もやはりぶち破り、外へ駆けていく。 後ろを振り向くと、顔を青くした郭嘉が必死に後に続いていた。やはりまだ、体調は完全に戻ってはいないのだ。 陳羣は郭嘉の側まで駆け戻り、肩を担いで一緒に走り去っていった。 ---- 219 名前:共鳴 9/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:36:56 賈詡は二人を追うことはしなかった。民家の外に立ち、走り去る二人の姿を見送った。 「劉禅殿」 二人の姿が見えなくなったあと、家の中へ振り向いた。 閃光の影響で、赤くチカチカするシミのようなものが視界に散らばっていたが、そこには、少し太った小男が立っていた。 「これで、晴れてあなたと二人になりましたな」 劉禅は、口の端を吊り上げて笑っていた。嘲笑う、という表現がちょうど当てはまる笑い方だ。 賈詡は、司馬孚と会う一時間前、すでに劉禅と会っていた。 賈詡は劉禅の眼を一目見て、自分と同じだとわかった。冷ややかな視点で他人を見て、利用する。そういう人物の眼だと。 劉禅は凡庸な人物だと聞いていた。人徳もなく、明知もなく、兵法もなく、武勇もなく、度量もなく、威風もなく。 だが劉禅は、そう偽って生きていただけなのかもしれない。 有能すぎる後継者は、臣下から危険視されるものである。劉禅はそう偽って、危険を避けてきたのかもしれない。 あるいは、ただ面倒くさかっただけかもしれない。 この状況下、もはや有能であることは危険でなく、面倒くさがっても危険なだけだ。 劉禅は袁尚殺害、貂蝉殺害の経緯を事細かに話してくれた。相手を利用し、利用できなくなったら殺す。 最も賢いやり方だ。 賈詡は自分のことを一通り話し、組むことを持ちかけた。こういう人物を、自分は待っていたのだ。劉禅はあっさりと承諾し、司馬孚の居場所を教えてくれた。 「あなたと組む以上、司馬孚はもう用済みです。できれば、あなたのお連れさんも………」 賈詡は一度に三人を葬り去る策を練り、劉禅は満足げに頷いた。 今二人は逃したが、一人は殺した。これで、劉禅と組み続けることができるはずだった。 ---- 220 名前:共鳴 10/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:38:47 「いえ、これでお別れです」 劉禅は冷酷に言い放った。 「私は確かに、組むことは承諾しました。だけど、一回限りですよ。もう組むことはできません」 これでお別れ。組むことはできません。 機械的にその声が、賈詡の頭脳へ入り込んできた。 「何を………言っている?」 「賈詡さん、あなた、張飛のことを話しましたよね。張飛を追跡したこと、張飛と陳羣の接触のこと」 自分は、そんなことまでも劉禅へ語っていたのだな、と知る。林で劉禅と話していたとき、自分はほぼ興奮状態だった。 「張飛は私の義理の叔父にあたるので、私は彼に保護してもらおうと思います」 「馬鹿な!」 頭の奥が、ちりちりと熱い。怒りが賈詡の頭中を支配し始めていた。 「張飛なんて筋肉馬鹿より、私の方がこの状況では有利なはずだ! なぜ、張飛と!?」 「あなた、私とどことなく似ているんですね」 劉禅は冷ややかな視線を、賈詡に投げつけていた。 「だから、いつ裏をかかれるか、わからないのです。私自身、私がわからないですし。そんな危ない人と、仲良くやるつもりは、ないですね」 相変わらず、劉禅の眼は、永遠に続く冬のように冷え切っていた。賈詡が今まで、他人に向けてきた眼だった。 賈詡は、劉禅に突進していた。モーニングスターを上へ構え、劉禅を叩き潰そうとしていた。 劉禅は眼は一向に変わらない。彼は、どこからか銀色の棒を取り出した。それが、賈詡に真っ直ぐ向けられた。 棒ではなく、筒だった。筒の黒い穴から、何かが、つつかれた鼠のように飛び出してきた。 賈詡は額に、違和感を感じた。その時には体はもう動かなくなっており、地面へ前のめりに倒れ込んだ。 顔が地面と衝突するさい、額に刺さっていたものが地面に押されて、さらに頭中へ沈んでいった。 ---- 221 名前:共鳴 11/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:39:57 「おい陳羣、俺はお前のせいで、本当に生き残れるか心配になってきたよ」 「すみません」 「お前は、ちったぁ疑うことを知れ。賈詡だろうが、荀彧だろうが夏侯惇だろうが」 「………曹操様であろうとも?」 「………そうだ。まずは疑え。疑うことは何も悪くはない。本当に生き残りたいんなら、疑い抜け。親も子も主も神も」 「郭嘉殿」 「なんだ?」 「私は、あなただけは、疑えません」 「………お前少なくとも、俺より長く生きるなんて、無理だぞ」 「そうかもしれませんね」 「開き直ってんじゃねぇ!」 郭嘉と陳羣、二人の北への旅は、終わりに近づいていた。 <<不品行と品行方正/2名>> 郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×1】陳羣【なし】 ※現在地は楼桑村付近。遼西へ向かってますが、郭嘉の体調不良のため途中どこかで休みます。 劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、光学迷彩スーツ(故障中)、救急箱、閃光弾×2】 ※楼桑村に行きます。 【司馬孚 賈詡 死亡確認】
211 名前:共鳴 1/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:20:35 司馬孚達は黙々と、夜の北の地を歩いていた。出発したばかりの時は劉禅が気楽なことを話しかけていたが、 司馬孚がそっけない返答しかしなかったため、劉禅はそのうち飽きたようだ。 途中、休憩をした。劉禅にははっきりした目的地でもあるのか、時計のいう二時間ほど休んだら再び歩くつもりらしい。 劉禅はその間、食料探しに出かけた。司馬孚が黎明の時に集めた食料がすでにあったが、劉禅はそれでは不満らしい。 司馬孚はすでに十分疲れていたので参加しなかったが、外見いかにも鈍そうな劉禅がまだ疲れを見せないとは、どういうことだろう。 司馬孚はひとり残された。逃げることが頭によぎったが、すぐに振り払った。仇は、この手で取らなければ意味がない。 休憩場所は、涼しげな林の中だった。司馬孚は木に寄りかかって、身を休めることに集中した。今は、考えても仕方がない。 木々の間を通り抜けるそよ風が心地よく、危うくそのまま寝てしまいそうになる。慌てて頭を振る。 寝ている場合じゃない。マヌケにも寝てしまっているうちに、ゲームに乗ってる人間でも来たら、一貫の終わりだ。仇も何もなくなる。 仇を、あの美しき女性の仇を取るまで、自分は死んではいけないのだ。 決意を胸に秘め、顔を上げた。すぐ目の前に人が立っているのに気がついた。 「うわっ!?」 自分でもみっともなく思える、驚きの声を上げる。立っていた人はすぐに司馬孚の口を手で覆い、「静かに」と囁いた。 ---- 212 名前:共鳴 2/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:22:51 賈詡だった。 「賈詡殿、どうしてここに?」 驚きと、わずかばかりの恐怖が入り交じった質問を投げかける。 今の自分は武器を持っていない。可能性は少ないと思うが、賈詡が乗る気だったら、まさに格好の標的だ。 「私は、私と仲間のための食料集めをしていたんですよ。偶然、通りかかっただけです。しかしここまで近づいて気付かないなんて、不用心すぎますな」 賈詡がにこりと笑ったので、司馬孚は意外に思った。賈詡は、あまり感情を表へ発露しない性格だったはずだ。 いや、緊張をほぐすためにあえて笑みを見せたのかもしれない。賈詡の心遣いに、司馬孚は少し安堵した。 「お一人、ですか?」 賈詡はあたりを見回しながら言った。 「いえ………もう一人いますが、今はあなたと同じ目的でいません」 賈詡はじっと、司馬孚の顔を見つめていた。その細い眼で、心の内が見透かされている気がした。 「お名前は?」 「………劉禅殿と」 賈詡の反応は、司馬孚の予想と違っていた。驚き、困惑するだろうと思っていたが、ゆっくりとうなずき、感嘆するように顔を広げた。 「なるほど、そういうこともあるでしょうな。今は、勢力だとか、身分だとかは、あまり関係ないのかもしれません。ただ……」 今度は腕を組み、眉をひそめ、細い目をますます細くし、 「あなたは、劉禅殿に、恨みがあるように思えますな」 心臓が飛び跳ねた。物事の核心を、いきなり言い当てられたのだ。なんで? 馬鹿な。 「そ、そのようなことは、ありません!」 「嘘ですな」 賈詡は断言した。 「一人かを聞いたとき、名前を聞いたときのあなたの声で、わかりましたよ。あなたはいかにも、忌まわしいものを吐き捨てるように言いました。 それに、図星でなければ慌てて否定もすることはないはず」 正にこの人は、壺の中の水を見るかのように自分の心を見れたのだ。司馬孚はがっくりと項垂れた。 「できれば、なぜ恨んでいるのかも知りたいものですが………」 この人には、隠し事はすべて無駄だ。そう悟り、司馬孚は堰を切ったかのように今までのことを話し始めた。 ---- 213 名前:共鳴 3/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:24:22 賈詡は、司馬孚に自分の仲間の情報と仲間が待っているという民家の場所を教え、帰っていった。 賈詡の仲間の一人は郭嘉。面識はなかったが、天才軍師と謳われ、不品行であったが忠節は厚かったという人物だ。 彼は今、熱を発して臥しているらしい。賈詡はその状態の郭嘉と、郭嘉と一緒にいた陳羣に出会って仲間になったという。 陳羣は司馬孚もよく知る人物だ。彼の九品官人定法が示すように、政治力に長けていたが、この状況下でその知恵を生かせるかはわからない。 賈詡は自分も郭嘉も陳羣も、ゲームに乗る気はないと言った。ぜひ、来てほしいとも。 しかし、司馬孚は、彼等と合流することはしたくなかった。善良な彼等と、劉禅は会わせてはいけない。 劉禅を置いて自分だけ合流するというのも、もちろんやってはならない。 劉禅が帰ってきた。野生の果物を中心に採ってきたようだ。帰ってから、山葡萄を一房平らげた。 「案外食料は不足しなさそうです。やはり、食べられるだけ食べませんとね」 残りの時間を休んで過ごし、二人は再び歩き始めた。劉禅は完全に先導する形で、しっかりとした足取りで歩いていた。 司馬孚はある悪い予感に襲われ、何とか劉禅に方向転換をさせようと試みたが、すべて失敗に終わった。 集落が、見えてきた。 ---- 214 名前:共鳴 4/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:26:35 陳羣は悪夢に襲われていた。それは同じ場所で、多くの人間が殺し合う夢だ。知っている人間も多くいる。 夏侯惇の持つ銃が、誰か二人に当たり、動けなくした。動けなくなった二人を楽進と満寵が襲いかかる。 王朗が、協力していたはずの味方に蹴られ、倒れた。夏侯淵が、郭淮が、王朗に狙いをつける。 王朗が血染めになる中、突如爆発が起こった。それは多くの人間を巻き込む爆発。郭淮の頭部が、吹き飛んだ。 そこへ現れた男が、持っていた銃を乱射した。夏侯淵や華歆、それに賈詡も、他の男達も、呻いて、あるいは断末魔を上げて倒れる。 銃声、硬い物で殴る音、刃が骨に当たる音、怒り狂う声、恐怖に叫ぶ声――― 目が覚めると、賈詡が目を丸くしてこちらを見ていた。どうやら、自分は叫びながら起きたようだ。 「悪夢でも?」 「ええ………だけど、もうあやふやで………世界の終わりのような夢だったと思いますが………」 賈詡は目線を下げて、独り言のように呟いた。 「なるほど、世界の終わり、か」 賈詡の目線の先に、寝ている郭嘉がいることに気が付いた。女性達といちゃついている夢でも見ているのだろうか、幸福そうな表情だった。 「まだ起きていませんが、熱は微弱になってます。順調に、回復してますよ」 安心したのか、陳羣の腹が、音を立てた。あまりに大きく、恥ずかしさで顔が火照っていった。 「食料は?」 「桃を二つ、張飛殿からもらったんですが、もう一つは食べたので………」 「ふうむ、そろそろ、取りにいかないといけませんね」 賈詡は陳羣から閃光弾を二つもらい、ザックを背負って出かけていった。残された陳羣は、もう雨が止んでいることに気が付いた。 彼はしばらくの間(支給された時計によれば、二時間というらしい)、外を歩き周り 帰ってきた時には彼のザックは多くの山菜・薬草で溢れていた。 そこで残った桃を、二人で分けて食べた。 桃を食べ終わった後、彼は民家から糸を探し出し、糸を小屋の中から小屋の外一帯までに張り巡らした。 誰かが来て糸に引っかかれば、小屋の中で繋いでいた石が落ちて音を立てる、という仕掛けをであるらしい。 仕掛け終えた後、賈詡はぽつぽつと話し始めた。 ---- 215 名前:共鳴 5/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:28:42 「圧倒的な力の前に、今の我々にできることは何もないでしょうが……… ですが献帝も、所詮は天子を名乗った人に過ぎないのです。必ず、穴はあります」 と話し、 「今はとにかく、信頼すべき仲間を捜すべきです。あなたが出会った張飛とも、ぜひ会って話し合いましょう」 と微笑んだ。 それらの言葉は、気休めではなく、陳羣を安堵させた。 それから賈詡は、食料集めのさいに出会った人物のことを話した。それは司馬孚のことだった。 彼は最初、ある女性と同行していた。美しく、優しい女性で、司馬孚は好意を抱いたようだ。 しかし女性は、なんと、蜀の皇帝であった劉禅に殺されてしまう。 司馬孚は仕方なく劉禅に従うことにし、つねに仇を取る機会を窺っている、という。 「私は、司馬孚殿にこの場所を教えたので、二人がここに来る確率は高いと思われます。 劉禅も、司馬孚殿の言う通りなら、いきなり襲うことはしないはず。利用価値がない、もしくは利用できないと判断したときに牙を剥くのです」 やや、間が空いた。賈詡はこれから言い出すことを、本当に言っていいか躊躇っているようだった。陳羣はある予想を立てた。 「ところで陳羣殿、あなたは、人を殺す覚悟はありますか?」 予想は当たった。陳羣は、ある映像が頭をよぎった。それは光だった。真っ白な、視界一面の光。一瞬で過ぎ去ったが。 「劉禅殿を?」 「あくまで、ここに来た場合です。司馬孚殿の協力はぜひ仰ぎたい。しかし劉禅には、無理でしょう」 それはそうだった。しかし、殺す、だと? 「劉禅はモーニングスターという、トゲのついた棍を持っているようです。ですが、私達二人で、不意をついて抑えかかれば、無力化できます。 司馬孚殿は劉禅を仇敵と見なしているわけですから、絶好の機会と見て、モーニングスターを奪って振るうでしょう………それだけのことです」 それだけのこと。そう、それだけのことなのだ。だけど、それは、何か、違わないか? 「合図は、私が床を二回、指で叩いたら、ということにしましょう。あくまで、来たらですが」 カツン 誰かが来たことを示す、ごく軽いその音が、家の中に緊張を走らせた。 「あの二人かもしれません。とりあえず、様子を見てきましょう」 賈詡は戸を開けて、外へ出て行った。 ---- 216 名前:共鳴 6/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:30:03 劉禅は荷物の中から、モーニングスターを取り出していた。貂蝉の血の跡は、もう洗い流されている。 「へ、陛下」 なぜこんな男を、陛下と呼ばなければいけないのだ、と内心で毒づく。 「武器はしまわれた方が………誰かと出会ったら、警戒されます」 「そうですね」 賛同しつつも、劉禅はモーニングスターをしまわない。 やがて、集落に入った 「今夜は、ここらの家で夜を過ごしましょう。どこが、いいですか?」 司馬孚は周りにある家のうち適当に選んで答えたが、劉禅は首を振った。まるで、最初から否定するために問いかけてきたようだった。 「どうせ家なら、誰にも入られない、誰にも気にも留められない家がいい。こんな、入り口付近ではなく」 劉禅はさらに奥へ歩いていった。奥へ進むたび、空気が粘着質になっていく気がした。 「そうですね、あの家がいい。入り口からの道も複雑だし、よく暗闇にまぎれている」 司馬孚は賈詡が教えてくれた情報を思い出す。彼は丁寧に、自分達のいる民家への道筋を、教えてくれたのだ。 「どうしたんですか、司馬孚さん。行かないのですか?」 「もっと、よい家はないのでしょうか? ほら、あの家は」 「あれは大きすぎます」 「では、そこは」 「小さすぎて逆に目立つでしょう………速く行きましょうよ」 劉禅はスタスタと、自分の決めた家へ歩いていった。司馬孚も仕方なく、その後を付いていく。 突然、戸が開いた。 賈詡だった。 ---- 217 名前:共鳴 7/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:31:50 「私は、劉禅、字を公嗣。荊州に生まれ、益州で過ごした者です」 賈詡が家にあがらした劉禅が、うやうやしく自己紹介をする。右手には、モーニングスターを握ったままだったが。 入り口の間には、陳羣、賈詡、司馬孚、そして劉禅が、四人向かい合う形で座っていた。郭嘉は、ひとつ奥の間でまだ寝ている。 「仲間が増えるのは、何よりも頼もしいことです。とりあえず、この果物を………」 と劉禅は残り一本のバナナを半分に割り、賈詡と陳羣に渡した。 陳羣は毒の存在を疑い、先程桃を食べたばかりなので、と押し返した。ただ、隣で賈詡が平然と食べていたが。 「うむ、とても甘くておいしいですな。しかし見たことも聞いたこともない。これは、支給品ですかな?」 「はい、私にはこれ三本しかなかったので、当初はとても困りましたね………そうそう」 劉禅は荷物の中から、何やら小箱を取り出した。慎重な手つきで、床に置いた。 「これ私、どこかで聞いたはずの音なんですよ………確か北の地域で聞いたはずの……… だけど、過去に私は中原すら滅多に来たことはないはずなんですよ。だから、不思議に思っているのです。 みなさんは、聞いたことはありませんか?」 劉禅の手が、蓋を、ゆっくりと開けていく。 旋律が流れた。それはなぜだか懐かしさを感じる、優しい曲だった。 ほんの一時、陳羣は聞き惚れてしまう。しかし、やるべきことを思い出し、劉禅の顔を見た。 陳羣は、衝撃を受けた。 それはとても、とても穏やかな顔だった。寝ている赤子を腕の中に揺らす母親の表情のような――慈しみが満ちあふれた表情。 こん、こん 旋律に混じって、微弱で硬質な音が聞き取れた。賈詡が出した、合図の音――― 陳羣はもはや考えることをやめて、劉禅に右腕に飛びついた。 箱の音楽に夢中だったのか、陳羣がしっかりと掴み取るまで、反応はなかった。 片手で劉禅の右腕を掴み、片手でモーニングスターを劉禅の手から弾き飛ばす。モーニングスターは司馬孚の方へ転がっていった。 劉禅の左腕が、転がる自分の武器を取り戻そうと動いたが、腕を誰かが掴んだ。司馬孚だった。 ---- 218 名前:共鳴 8/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:34:11 ここで陳羣は、ようやくおかしなことに気が付いた。賈詡は? 賈詡はどうしたのだ。 転がるモーニングスターを、誰かの手が拾い上げた。 司馬孚かと思ったのだが、司馬孚の片手は劉禅の左腕を押さえる一方、片方はモーニングスターの拾い上げられた場所まで伸び、そこで硬直していた。 流星のように、トゲを持つ金属の球が振り動いた。金属の球からは木製の棒が伸びており、木製の棒は、賈詡が手に握っていた。 司馬孚の顔と、トゲを持つ金属の球が、隣り合わせになった。 司馬孚は最後に、何を認識しただろうか? 彼はなぜ死ぬか、わかったのだろうか? そもそも、死ぬことを理解できていただろうか? 司馬孚は、側頭部を砕かれ、床に倒れた。砕かれた側面が、天上へ向いた。 賈詡は無言で、次の一撃を振った。相手は陳羣だった。 陳羣は突然のことに混乱状態になっていながら、モーニングスターの軌道は冷静に見ることができた。 体を横に傾け避けたあとは、急いで立ち上がった。劉禅は、災難を被らないように隅へ避難していく。 陳羣は入り口にではなく、奥の郭嘉のいる部屋まで走った。戸は走った勢いを利用した体当たりでぶち破った。 「起きてっ! 郭嘉殿!」 郭嘉は目をこすりながら、布団から半身を起こしていた。 「うるせえよさっきから………」 寝言のように呟きながら、しかし事態をすでに承知しているらしい。郭嘉は即座に立ち上がると、懐に手を突っ込んでいた。 「伏せろ!」 陳羣は言われるまでも、その場に伏せていた。さっきまで自分の上半身があった空間に、金属球が曲線を描いていた。 鼓膜を叩く、大きな破裂音とともに家の中が白い閃光に包まれる。陳羣はしゃがんだ体勢から飛び上がり、閃光の中の人影に思いっきり体をぶつけた。 人が倒れる音が聞こえる前に、陳羣は駆けだしていた。入り口の戸もやはりぶち破り、外へ駆けていく。 後ろを振り向くと、顔を青くした郭嘉が必死に後に続いていた。やはりまだ、体調は完全に戻ってはいないのだ。 陳羣は郭嘉の側まで駆け戻り、肩を担いで一緒に走り去っていった。 ---- 219 名前:共鳴 9/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:36:56 賈詡は二人を追うことはしなかった。民家の外に立ち、走り去る二人の姿を見送った。 「劉禅殿」 二人の姿が見えなくなったあと、家の中へ振り向いた。 閃光の影響で、赤くチカチカするシミのようなものが視界に散らばっていたが、そこには、少し太った小男が立っていた。 「これで、晴れてあなたと二人になりましたな」 劉禅は、口の端を吊り上げて笑っていた。嘲笑う、という表現がちょうど当てはまる笑い方だ。 賈詡は、司馬孚と会う一時間前、すでに劉禅と会っていた。 賈詡は劉禅の眼を一目見て、自分と同じだとわかった。冷ややかな視点で他人を見て、利用する。そういう人物の眼だと。 劉禅は凡庸な人物だと聞いていた。人徳もなく、明知もなく、兵法もなく、武勇もなく、度量もなく、威風もなく。 だが劉禅は、そう偽って生きていただけなのかもしれない。 有能すぎる後継者は、臣下から危険視されるものである。劉禅はそう偽って、危険を避けてきたのかもしれない。 あるいは、ただ面倒くさかっただけかもしれない。 この状況下、もはや有能であることは危険でなく、面倒くさがっても危険なだけだ。 劉禅は袁尚殺害、貂蝉殺害の経緯を事細かに話してくれた。相手を利用し、利用できなくなったら殺す。 最も賢いやり方だ。 賈詡は自分のことを一通り話し、組むことを持ちかけた。こういう人物を、自分は待っていたのだ。劉禅はあっさりと承諾し、司馬孚の居場所を教えてくれた。 「あなたと組む以上、司馬孚はもう用済みです。できれば、あなたのお連れさんも………」 賈詡は一度に三人を葬り去る策を練り、劉禅は満足げに頷いた。 今二人は逃したが、一人は殺した。これで、劉禅と組み続けることができるはずだった。 ---- 220 名前:共鳴 10/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:38:47 「いえ、これでお別れです」 劉禅は冷酷に言い放った。 「私は確かに、組むことは承諾しました。だけど、一回限りですよ。もう組むことはできません」 これでお別れ。組むことはできません。 機械的にその声が、賈詡の頭脳へ入り込んできた。 「何を………言っている?」 「賈詡さん、あなた、張飛のことを話しましたよね。張飛を追跡したこと、張飛と陳羣の接触のこと」 自分は、そんなことまでも劉禅へ語っていたのだな、と知る。林で劉禅と話していたとき、自分はほぼ興奮状態だった。 「張飛は私の義理の叔父にあたるので、私は彼に保護してもらおうと思います」 「馬鹿な!」 頭の奥が、ちりちりと熱い。怒りが賈詡の頭中を支配し始めていた。 「張飛なんて筋肉馬鹿より、私の方がこの状況では有利なはずだ! なぜ、張飛と!?」 「あなた、私とどことなく似ているんですね」 劉禅は冷ややかな視線を、賈詡に投げつけていた。 「だから、いつ裏をかかれるか、わからないのです。私自身、私がわからないですし。そんな危ない人と、仲良くやるつもりは、ないですね」 相変わらず、劉禅の眼は、永遠に続く冬のように冷え切っていた。賈詡が今まで、他人に向けてきた眼だった。 賈詡は、劉禅に突進していた。モーニングスターを上へ構え、劉禅を叩き潰そうとしていた。 劉禅は眼は一向に変わらない。彼は、どこからか銀色の棒を取り出した。それが、賈詡に真っ直ぐ向けられた。 棒ではなく、筒だった。筒の黒い穴から、何かが、つつかれた鼠のように飛び出してきた。 賈詡は額に、違和感を感じた。その時には体はもう動かなくなっており、地面へ前のめりに倒れ込んだ。 顔が地面と衝突するさい、額に刺さっていたものが地面に押されて、さらに頭中へ沈んでいった。 ---- 221 名前:共鳴 11/11 投稿日:2006/08/21(月) 03:39:57 「おい陳羣、俺はお前のせいで、本当に生き残れるか心配になってきたよ」 「すみません」 「お前は、ちったぁ疑うことを知れ。賈詡だろうが、荀彧だろうが夏侯惇だろうが」 「………曹操様であろうとも?」 「………そうだ。まずは疑え。疑うことは何も悪くはない。本当に生き残りたいんなら、疑い抜け。親も子も主も神も」 「郭嘉殿」 「なんだ?」 「私は、あなただけは、疑えません」 「………お前少なくとも、俺より長く生きるなんて、無理だぞ」 「そうかもしれませんね」 「開き直ってんじゃねぇ!」 郭嘉と陳羣、二人の北への旅は、終わりに近づいていた。 <<不品行と品行方正/2名>> 郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×1】陳羣【なし】 ※現在地は楼桑村付近。遼西へ向かってますが、郭嘉の体調不良のため途中どこかで休みます。 劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、光学迷彩スーツ(故障中)、救急箱、閃光弾×2】 ※楼桑村に行きます。 【司馬孚 賈詡 死亡確認】

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