7-173

「7-173」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

7-173」(2007/11/17 (土) 17:47:31) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

85 名前:1/7 投稿日:2006/08/03(木) 23:43:50 漢水沿いを歩いていた甘寧は支流の側で一人の農夫と出会った。 農夫は服の裾を捲ろうとしていたようだったが、甘寧に気付き呼び止めた。 「ああ、お前さん丁度いいや。  川に沈めてある仕掛けを取ってくれないか」 ほぼ全裸に近い格好の甘寧にとっては大した手間ではない。 ざぶざぶ川に入り、沈めてあった籠を引き上げる。中には魚が結構入っていた。 「おー、大漁じゃねえか」 甘寧に言われて農夫も籠を覗き込む。 「ほう、随分穫れたな。お前さんも食ってくかい?」 早く強敵と出会い存分に戦いたい。 そう思っていた甘寧も飯の誘惑にはちょっとぐらつく。 「大根飯でも炊くか。今朝穫った山菜も煮浸しにして」 支給されたパンや穫った木の実やらをかじりはしたが ここのところまともな飯は食っていない。 甘寧はごくりと唾を飲み込む。 そんなタイミングを見計らったように農夫はにやりと笑った。 「ま、飯代替わりにちょっとばかし働いてはもらうが」 「…あーちきしょう!割に合わねえ!」 日差しの中、甘寧は農作業に精を出していた。 水汲み、薪割り、乾物の下拵え。 もう嫌だ先を急ごうと思う度に惣菜の具体名をちらつかされ、 体よくこき使われている甘寧である。 ---- 86 名前:2/7 投稿日:2006/08/03(木) 23:45:24 もう我慢の限界だ。俺は行く! 甘寧がそう思ったのを見透かしているようなタイミングで 草庵から顔を出した農夫が笑って甘寧を手招きした。 「お疲れさん。飯にしようや」 先に食事を終えた農夫は依然衰えぬ甘寧の食べっぷりを笑って見ていた。 水瓶から水を汲んで出してやると一息で飲み干した。 それを見て農夫はまた笑った。 「ははは、鮮やかなもんだ。喉に詰まらせるなよ」 貪るように飯を食らった甘寧もようやく落ち着き、 冷たい水を飲みながら農夫に礼を言った。 「ごちそうさん。うまかったぜ」 何日ぶりのまともな食事だっただろうか。 暖かな食事は甘寧の気力も体力もすっかり癒していた。 偶然農夫と出会い運良く食事にありつけた…農夫?! いや、こんなところに…この『フィールド』に、ただの農夫がいる筈がない。 この農夫があまりにも自然に溶け込みすぎていて気付かなかった。 彼の首にも間違いなく、鈍く光る首輪が填められている。 「俺は甘興覇。あんた…名は?」 見たところ武人とは思えない。殺気もない。 だが周囲の空気に自然に馴染んでいるその様は只者ではないように思えた。 甘寧の眼光は僅かに鋭くなる。 対する農夫は事も無げに名を告げた。 ---- 87 名前:3/7 投稿日:2006/08/03(木) 23:47:24 「諸葛亮。字は孔明」 「諸葛亮?!」 呉にも何度か使者として訪れたことがある。 だが諸葛亮はもっと慇懃な口調で、道服に身を包み羽扇を持ち… インパクトのある服装や爽やかな弁舌は思い出せても容貌は意外と思い出せない。 間近で顔を突き合わせた訳でもなし、そんなものかもしれない。 昔からの知り合いでもなければパッと見ただけではわからないだろう。この農夫姿では。 甘寧と諸葛亮は互いの現状をざっと話し合った。 甘寧は諸葛亮がまだ劉備を知らないことにも驚いたが、 この世界そのものに対してあまり関心がなさそうな態度も少々不思議に思った。 「あんた、この世界そのものが変だとは思わねぇのか?」 甘寧は『諸葛亮伝』をパラパラと繰りながら諸葛亮に尋ねた。 「別に思わんね。  日々殺し合いが繰り広げられて誰かが死んでいく。日常と全く変わらんだろ。  知人が死んだって知らせが来る分親切なくらいかもな」 目を閉じた諸葛亮は逝った友の事を少し思い出していたようだった。 「この首輪は?」 「その本の『俺』もそうだろ?」 『諸葛亮伝』を指さしながら諸葛亮は言う。 「『俺』は、どうにかして寿命を延ばそうとじたばたしてる。  けど、どんなにじたばたしようと大抵五丈原でくたばってるだろ?」 自らの首輪を指さす。 ---- 88 名前:4/7 投稿日:2006/08/03(木) 23:50:32 「天命ってのが目に見えるんなら、多分こんな形をしてるんだろうよ」 甘寧には解るような気もしたし、解らないような気もした。 自分だってこの世界自体には大して興味がない。 ただ最高の戦いが出来ればそれで満足なのだ。 「お前さんの知り合いに異国の言葉に詳しい奴はいないか?  いたら俺がここにいてこの本を解読したがっていると伝えてくれないか。  翻訳の役に立ちそうな書物や道具を持ってる奴でもいい」 「こんな世界で嘘か本当かも解らない本にこだわるなんてマトモじゃねぇな」 別に皮肉ではなく、甘寧は心底呆れたように言った。 甘寧が見たところ、この本は読み物としては面白いかもしれないが 内容は生き延びるための役に立つとはとても思えない。 諸葛亮はにやりと笑った。 「お前さんこそ、こんな世界でわざわざ自分から強敵を捜して歩くなんざ、  正気の沙汰とは思えんね」 甘寧もにやりと笑った。そしてようやく解った気がした。 武と智、求める道は違えども、多分こいつは自分と同じ種類のバカなのだと。 諸葛亮に服を譲って貰ったのは有り難いがどうにも落ち着かない。 甘寧が着せられたのは例の道服なのだ。 ご丁寧に巾まで(後の世で“諸葛巾”と呼ばれたものだ)乗せられた。 ---- 89 名前:5/7 投稿日:2006/08/03(木) 23:52:17 「くれるんだったらそっちの野良着寄越せよ」 「ばーか、野良着のほうが枚数いるに決まってるだろうが」 諸葛亮は甘寧の見事な文官ぶりを容赦なく笑い飛ばした。 甘寧はぶつくさ文句を言いながらも動きやすいように着崩す。 服を着て、夜の冷えから逃れられるのはやはり有り難いからだ。 道服を纏った甘寧がさっき読んだ本の諸葛亮の台詞をなぞったりして しばらくふざけた馬鹿騒ぎに興じた二人だったが、 甘寧は何となく疑問に思っていたことを聞いてみた。 「なあ。あんた元々世の中に興味がなかったんなら、何で劉備についてったんだ?」 「さあ。俺にも解らん」 まるで他人事のように…『この』諸葛亮にはまさに他人事なのだろうが…言う。 「その本。  その本に書かれたことが嘘か本当かは俺にも解らんよ。  でも解ることが二つある」 諸葛亮は急に話題を変えたようにも聞こえる。 「その内容を本にして誰かに伝えたいと思った奴がいる、って事だ。  それともう一つ」 この本に書かれている大半は資料と言うよりは物語に近い。 数多の物語の中、多様な姿で描かれる諸葛亮。それの意味するところは。 ---- 90 名前:6/7 投稿日:2006/08/03(木) 23:54:21 「それだけ色々な姿の『俺』が、色々な形で望まれてるってことだ。  伝えられることが誰にも望まれていない物語は風化するからな。  多分、俺は劉備に求められ、望まれたんだろう。  そして俺もそれに応えたいと思ったんだろうよ」 正直、家に三回来られた程度で担ぎ出されるほど自分はおめでたくはないと思う。 実際に顔を合わせたのも一度だけだったようだ。 だがその一度の出会いで、自分は見たのだろう。劉備という男の中に。 伏したる自分が飛びたいと思う空を。 甘寧は気持ちのいい男だと思う。だが甘寧は自分を求めてはいない。 甘寧はすでに自分の空を持ち、自由に飛んでいるのだ。だからそれでいい。 「ま、誰か馬の合う奴が来たらふらっとどっかに行くかもな。  だがそれまではここで畑でも耕しているさ」 清々しく笑っていた諸葛亮は急に険しい顔になる。 「…あ、でも、くれぐれも兄貴には俺の居場所は教えないでくれよ」 兄貴にまとわりつかれてる奴がいたら、悲惨な目にあってるだろな。 諸葛亮は、それが自分ではないという幸運に深く感謝していた。 ---- 91 名前:7/7 投稿日:2006/08/03(木) 23:56:01 @甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】 ※現在地は襄陽・隆中の臥竜岡。目的地は合肥。 ※十分な食事と休息をとり気力体力充実。 ※戦いの相手を求めるついで程度に諸葛亮伝を読み解ける人物や手段を探します。 ※遠くや背後から見ると諸葛亮と勘違いされるかもしれません。 @諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】 ※現在地は襄陽・隆中の臥竜岡。 ※基本的に自分から動く気はないようですが協力を求められれば動くこともありそうです。 ※敵意がない相手には友好的。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。