ゆっくりいじめ系673 街


fuku2141.txt 飛蝗の続きです。

(街 すでに日は落ちネオンが世界を支配する時間)
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」

一匹のまりさが目を覚ました。悪夢から。死んだ仲間たちの無念が今日もまりさに安眠を与えなかった。

「ゆうぅぅぅ・・・ゆうぅぅぅ・・・」

夢から覚め、落着きを取り戻し周りを見渡すまりさ。
いつもと変わらぬ辺りの景色に、まりさは安心した様ながっかりした様な複雑な表情を浮かべた。
あの惨劇からそろそろ一年が経つ。男との旅の途中に他のゆっくりに受け入れてもらえなかったまりさは
結局街に住みつくことになった。


街。それは溢れた者達の住処。行き場を失った者達の行き着くところ。

最初に都があった。たくさんの人間が生活するところ。すべての物がそこに集まった。
人々は他の場所では考えられぬ豊かな生活をし、常に笑い、争うこともせず、
人間の叡智が生み出した文明の恩恵にどっぷりと浸かっていた。

そんな都の噂を聞きつけ遠くから新たに人間がやって来た。失った者達が。
彼らは自分達の住処を奪われ新しい生活を求め彷徨っていた。
暗中の光に吸い寄せられる虫の様に、彼らは都の豊かさにつられ集まって来たのだ。

都は初め彼らを歓迎した。新しい住人を吸収し拡大を続ける都は自分達の明るい未来の象徴に見えたからだ。
しかし、時が経つにつれ事情が変わってきた。都は大きくなりすぎたのだ。
すでにその身の限界を超え肥大を続ける都は徐々に内側から腐り始めた。
人々の反応は早かった。毒が体中に回る前にその毒を自らの体から切り出すことを考えた。
そうして出来たのが街。都から切り離された毒。行き場を失った者達の行き着くところ。
そんな街をいくつも造ったおかげで今日も都は変わらぬ幸福を享受していた。

まりさはそんな街に寄生していた。彼女もまた行き場の無い事では街の住人達と同じだった。
ネオン輝く享楽的な街の裏路地で、ゴミを漁り物乞いをして生きていた。

この街には様々な理由で元の住処を追われた者達がいた。
戦争。災害。圧政。罪を犯した者や、人に騙されすべてを失った者。
しかし、中でも一番の理由がゆっくりだった。増えすぎたゆっくりに田畑を荒らされ生活できなくなった農民。
この街の住人のほとんどがそうだった。故郷に家族を残し街で得た僅かな稼ぎを送金する毎日。
出口の見えぬトンネルの様な日々に、焦り際限なく溜まっていくストレス。
半年もすれば、日々無為に働き、故郷へ僅かな仕送りをし、残った金で酒、女、薬。
立派な街の住人の完成だ。

そんな彼らに一つの暗黙の了解があった。それは『ゆっくりを殺さない事』。
ゆっくりに恨みを持つ者がほとんどだったが、故郷と何もかもが違う街で唯一昔を思い出させてくれる存在。
遠く離れた家族と共にある種心の拠り所の様なゆっくり。故に彼らはゆっくりを殺さない。
しかし、殺されないだけでやはりゆっくりはここでも虐げられる者だった。

(居酒屋 大酒を飲み自暴自棄になった客たちの喧噪が店内に響く)
「ゆ!ゆっくりおじゃまします!」

「まりさがおうたをうたうよ!よかったらたべものをわけてね!」

「♪ゆ~ゆ~ゆ~♪ゆ~っくり~♪ゆ~っくりし~てね~♪」

歌を歌い客から食べ物を分けてもらおうとするまりさ。そんなまりさを無視して騒げ続ける酔客達。

「♪ゆ~ゆ~ゆ~♪ゆ~っくり~するよ~♪」

「♪まりさは~♪とても~ゆっくりした~♪ゆっくr「うるせええええええ!!!!!!!」」

「ゆっ!!!」

「てめぇこの腐れ饅頭が!俺の畑を荒らしただけじゃ飽き足らず、俺の酒まで奪おうってのか!!!」

「ゆっ!ちがうよ!まりさはそんなことしないよ!」

「なぁーにが違うだこの野郎!てめぇらのせいで俺はなあ!!こんな処で!!!」

「ゆ!まりさははたけをあらしたりしないよ!おうたをうたってごはんをもrぶぎゃああああ!!!」

「お前らさえいなけりゃ!!お前らさえいなけりゃなあ!!!」

「や、やめて!く、ぐるじぃ・・・」

「やめてだと!!!おまえら俺がやめてくれと何度頼んでも聴かなかったじゃねーか!!!」

「だ、だから、それはまりさじゃなくてべつのゆっくrゆぎゃあ゛あ゛あ゛!!!」

「ふん!しるかっ!!ゆっくりはゆっくりだろうが!!!」

「おい。その辺にしとけよ。死んじまうぞ。」

「ゆうううぅぅぅぅ。」

「はっ!!いいザマだぜ!!そこで一生のたうちまわってろ!!!」

「もうよせって。」

「あー気分わりーぜ!店変えて飲み直しだ!」

「はいはい。」

「ゆふぅ・・・」

酔客から餌を貰う事に失敗したまりさは次の店に向かう。

「こんばんわ!こんばんわ!ゆっくりあけてね!」

「へい!いらっしゃ・・・なんだゆっくりかよ・・・」

「まりさがおうたをうたうよ。よかったらごはんをわけてね!」

「はぁ?俺の店でなにするつもりだ!とっとと出て行・・・」

「おー!ゆっくりじゃねぇか!ちょうどいい。お前ちょっとこっち来い!」

「(ちっ!)ほら、ご指名だぞとっとと行け!お客さんがああ言ってるから入れてやるが
 俺はお前のへったくそな歌が大嫌いなんだ。あんまり調子乗って騒ぐと叩き出すからな!」

「おじさんありがとう!」

「へぇーこいつがゆっくりってやつですか先輩。俺初めて見ましたよ。
 俺の住んでたところには居なかったもんで。しかし、ホントぶっさいくですねぇw」

「(ゆぅ・・・まりさはぶさいくじゃないよ!かわいいゆっくりだよ!)」

「まあなwそれより見てろ。こいつ歌を歌うんだがこれがまた傑作でな。
 ほれ、海老のしっぽやるからなんか歌ってみろ。」

「ありがとう!むーしゃむーしゃ・・・しあわせー!」

「うわぁ・・・ぶんなぐりてぇw」

「それじゃあうたうよ!♪ゆ~ゆ~ゆ~♪ゆ~っくり~♪ゆ~っくりし~てね~♪」

「♪まりさは~♪とても~ゆっくりs・・・」

「「ぎゃあーはっはっはっはっはっは!!!」」

「こりゃひでぇwこれだったらうちの親方の浪曲の方がよっぽどましですねw」

「だろwおい、ゆっくり!もっと歌きかせろやw笑わせてくれたら餌やるぞ。」

「ゆーーーー!!!しつれいなおじさんだね!まりさはおうたじょうずだよ!!!」

「なんだとぉ!饅頭風情が人間様に逆らおうってのか!」

「よぉし。それじゃあ俺が『じょうずなおうた』ってやつを聞かせてやる!」

男はまりさを持ち上げるとその耳元で大声を上げ歌いだした。

「おーーーれーーーはジャ(ry」

「ゆ゛う゛う゛う゛う゛!や゛め゛て゛え゛え゛ぇぇぇ!!!」

「ぎゃはははは!どっちも同レベルwwww」

「・・・・・お客さん・・・それくらいにしといてくんねぇか。」

「あん?なんだこの野郎。人がせっかく気持ちよく歌ってんのに。」

「家の店はなぁ、あんたみてぇにゆっくりの歌を聞いて喜ぶような下品な客ばっかじゃねえんだよ。
 ゆっくりと一緒に歌って騒ぎてえなら余所行ってくんな。」

「なんだと!こんな不味い酒と飯しか出さねえくせに偉そうに!お客様は神様だろうが!」

「てめぇみてえな奴は客じゃねえ!おいお前ら!こいつら店の外に叩き出せっ!!!」

「おもしれぇ!!お前ちょっと手ぇ貸せ!!この店ぶっ潰すぞ!!!!」

「やれるもんならやってみろやあああ!!!!」

突如始まった店員と客の乱闘にまりさは店から逃げ出した。
居酒屋での物乞いを諦めたまりさは次の餌場へ向かう。


(飲食店が並ぶ通り 日付は変わったが街の灯りはまだ消えない)
まりさは一軒の食堂の裏口にたどり着いた。

「こんばんわ!まりさがごみのおかたづけのおてつだいをするよ!どあをあけてね!」

「ん?おお、ゆっくりか。」

「こんばんわ!なまごみをちょうだいね!まりさがたべるよ!」

「ああタイミングが悪かったな。今さっき他のゆっくりが来たんだ。生ゴミはみんなそいつにやったよ。」

「ゆうぅぅぅ・・・」

「ん?そういえば・・・確か冷蔵庫に賞味期限の切れたヨーグルトがあったな。それでいいか?」

「!ありがとう!まりさはなんでもたべるよ!はやくちょうだいね!」

「そうか。じゃあちょっと待ってろ。」

「賞味期限が一週間切れてるが・・・まぁ問題ないだろ。ほら口開けろ。」

「むーしゃむーしゃ・・・ゆっ!すっぱい!!!」

「ははは。流石にすっぱくなってたか。生ゴミを食いたかったら次からはもっと早く来るんだな。」

「わかったよ!おじさんありがとう!」

「(あれ?よく見たら賞味期限切れたの一年と一週間前だな・・・ま、いっか。)」

次の店。

「(ゆううううう・・・おなかがいたいよぉ・・・)」

「こんばんは!まりさがおてつだいをするよ!なまごみをちょうだいね!」

「貴様かぁ!!!今日という今日はもう勘弁ならん!!!ぶっ殺す!!!」

「ゆっ!!!!!」

「おやっさん!落ち着いて下さい!殺すのはまずいですって!」

「うるせぇ!離せ!いつもいつも冷蔵庫から食糧を盗みやがってこの糞饅頭が!
 しかも今日は店一番の上物の肉を!あれがグラムいくらしたか解ってんのか!!!」

「ゆ!まりさはひとのものをぬすんだりしないよ!ひとちgぶぎゃあああああ!!!!」

蹴り飛ばされ餡子を吐きだすまりさ。

「げほっげほっ!ゆぅ・・・」

「こんなもんじゃ俺の怒りは収まらねえ!今日は死ぬまでいたぶってやる!!!」

「だから殺すのはまずいですって!おいゆっくり!俺が押さえてる間にとっとと逃げろ!」

「ゆうううううう!!!!!」

「あっ!てめっ!!待ちやがれ!!!」

「くっそお!逃げられた!おい、いい加減に離せっ!!」

「わあっ!離します離します!だから包丁こっちに向けないで!」

「糞が・・・まぁいい。次にこの店に来た時が奴の最期だ。」

「最期?」

「ああ。明日入口に監視カメラと警報装置を付ける。ついでに捕獲用の罠も付けて次こそ捕まえる。」

「(なるほど。この店ではもう無理だな。店の金盗んで今日中に別の街にとぶか・・・)」

生ゴミにもありつけなかったまりさはとぼとぼとねぐらに帰る。
結局今日まりさが口にしたのは海老のしっぽと腐ったヨーグルトだけだった。


(路地裏 東の空が白み、人は眠り、ネオンは消え、これからはカラス達の時間)
「ゆうぅぅぅ・・・おなかがすいたよ。もうねよう・・・」

「ん?お前ひょっとして俺と一緒に街に来たゆっくりか?」

男が一人まりさに近づき話しかける。

「ゆ!おじさん!ひさしぶりだね!」

「やっぱりそうか。お互い随分変わったなぁ。一年ぶりだもんな。」

「おじさんははるになったらさとにかえるんじゃなかったの?」

「ん?ああ。家族にはそう言って家を出てきたが・・・もう・・・里には帰れないな・・・
 お前もこの街に住むゆっくりなら解るだろ?」

「ゆぅ・・・なんとなく・・・わかるよ・・・」

しばし黙り込む一人と一匹。

「俺は変わっちまった・・・息子も・・・里で暮していた頃がなつかしいなぁ・・・」

「ゆ!そういえばあのこはどうしてるの?たびのとちゅうたくさんあそんでもらったよ!」

「まりさあのこにおれいがいいたいよ!」

「あいつは今愚連隊とかいう奴らの後ろにくっついて遊んでる。部屋にもほとんど帰ってこない。
 今頃またなにか悪さをしてるんじゃないか・・・」

「ゆぅ・・・」

「あいつをここに連れて来たのは俺だ。しかたなかったとはいえ。あいつがこうなったのも俺のせいだ。」

「それに俺もこんなざまだ。あまり強くは言えなくてな・・・」

「そう・・・」

「はは・・・お前にこんな事言ってもしかたないな。もう行くよ。せいぜい元気で暮せよ。」

「ゆ・・・おじさんもね・・・」

男が去ってゆく。頬はこけ、ガリガリに痩せ、充血した眼は焦点が定まっていない。
筋骨隆々の農夫の姿はそこには無かった。

まりさも寝床に入り夢の中へ。いつも見る悪夢。仲間たちの悲鳴だけが聞こえる。
そして夜目が覚めると、生を実感した安堵と
仲間達の元へ逝けなかった後悔の混ざった複雑な表情を浮かべるのだろう。


もうじき日が昇り街を照らす。しかしその光はまりさの未来を示してはいない。

end




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最終更新:2008年09月14日 08:21
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