※舞台は何故かゆっくりが当然のように存在している外界です。
※オリ設定満載です。
数年前に突如現れ、急速に社会に浸透していった(ような気のする)ゆっくりと呼ばれる謎の生物。
人間の生首が膨張したような容姿のそいつらは饅頭のクセに生きていたり、どこから来たのは全く不明だったりとあまりに謎が多すぎるゆっくり達。
が、目新しいものや珍しいものを好む人々はその「ゆっくりしていってね!」とか「ゆーっ!」などと珍妙な鳴き声をあげる未知の存在をあっさりと受け入れた。
そして俺はそんな不思議に満ちた生命体の研究や飼育用の商品の開発に携わっている“ゆっくりカンパニー”のしがない一社員だ。
今日はある町の住民の知らせを受けて町の近くの山に分け入って、野生のゆっくりの駆除に向かった。
もっとも、厳密に言うと駆除というよりも間引きに近いのかもしれないが。
装備は標準的な登山グッズとゆっくりに取り付ける発信機兼集音マイクが5つ。
加えてゆっくりを眠らせるための睡眠薬入りの飴玉が50個ほど。それとちょいと大きめの饅頭がゴミ袋の中に入れられている。
「先ぱぁい、なんでこんなクソ暑い中、野生のゆっくり探しなんて・・・「仕事だからだ!」
「あと、男が「ぱぁい」とか使うな、気持ち悪い!それが許されるのは可愛らしい女の子と我らが紫社長だけだ」
不勉強な後輩の研修も兼ねて、男2人でゆっくりが住んでいると言われる山を登っていく。
もっとも、ゆっくり学はまだ始まったばかりの学問で認知度は低いし、ゆっくりカンパニーの社員の8割は美人社長目当てなので野生種の保護の必要性が理解できなくても仕方ない。
だから不勉強を咎めるつもりはないが、近隣住民から集めた目撃情報をもとにゆっくり達の出没箇所をマークした地図と睨めっこしながら俺はため息をついた。
咎めるつもりはなくてもいちいち説明するのを煩わしいと思ってしまうのはどうしようもない。
「はあ、仕方ない・・・ゆっくりはな一定数以上になると何故か突然増長するんだよ。で、人間の町に下りて来る」
「で、ゆっくりによる被害がでるんですね?」
「そうだ、ゆっくりの死体が転がって町が汚れる。だからこういう知らせを受けたときにはゆっくりを保護するんだよ」
「保護?ゆっくりンピースにでも預けるんですか?」
「馬鹿言え。餡子が新鮮な赤ゆっくりは持ち帰る。にんっしんゆっくりも研究用に持ち帰る。特殊な個体は持ち帰る。他の連中は必要なら速殺す」
「速殺す?」
「・・・お前、ちょっとは自分で勉強しろよな。・・・・・・っと、ゆっくり発見」
その言葉を合図に、俺と後輩は身を低くして草むらの中に隠れた。
俺達の前を通り過ぎるゆっくりの一団の数は4匹。内訳はまりさ、れいむ、ありす、ぱちゅりーとなっている。
全員が比較的多量の食料を咥えており、またみんな満面の笑みを浮かべていた。
「ねえ、まりさ!むれもだいぶおおきくなったね!」
「むきゅ!これもまりさのかりすまのおかげよ!」
「ゆ!あたりまえだぜ!」
「でも、そろそろあのおうちじゃせまくなってきたわよ!もっととかいはなおうちをみつけないと!」
赤ん坊はピンポン玉、子どもは野球のボール、成体はバレーボールサイズが一般的だ。この4匹は全員バレーボールサイズ、つまり成体である。
その一団が目の前を通り過ぎていったのを確認すると、木陰に隠れながら追跡を開始した。
「追うぞ」
「りょーかい。しかしあの饅頭鈍くさいっすねぇ・・・」
「まあ、時速900mだからな・・・」
大抵の生き物の歩行は一歩目のエネルギーの何割かを二歩目に利用するが、ゆっくりの場合一部の種を除いてそれを一切しない。
そのせいで恐ろしく無駄と負担が多いのだ。余談だが、這って移動する場合は時速200mというカタツムリ級の鈍足だ。いや、体の大きさを考えるとそれ以下か。
が、そんなことを愚痴っても仕方がないので、それ以上は何も言わずに淡々と4匹を追いかけていった。
その4匹を追いかけていった先にはゆっくりの集落があった。
さっきの4匹を除くと、目に付く限りでは赤ん坊が9匹、子どもが10匹、成体が11匹の計30匹。
そして、成体のうち4匹が植物型のにんっしんをしていた。
植物型出産はにんっしんから僅か3日で出産を向かえ、生まれる子どもの数は1回につき大体10匹前後。
あれら全てが生まれればこの群れの人口は50匹を軽く超える。そうなれば変な自信をつけて人里に下りてくる可能性が十分にあった。
「先輩、あいつら集まって何してるんですかね?」
「聞いてりゃ分かる。少し静かにしてろ」
出来の悪い後輩を睨みながらも、俺はゆっくり達の言葉に耳を傾ける。
群れの中心にいるのはさっきの4匹。その中でもリーダーはまりさのようだ。
「むきゅ、みんなゆっくりはなしをきいてね!」
4匹を取り囲んで、がやがやと騒がしくしていた群れのメンバーがぱちゅりーの鶴の一声で静まり返った。
そして、その静寂の中、まりさが(ゆっくりにしては)重々しく口を開く。
「みんな!いまにんっしんしているこがうまれたらここではたべものをあつめきれなくなっちゃうよ!」
いまいちことの深刻さを理解できていない赤ゆっくりは「ゆぅ?」と首をかしげているが、他のゆっくりたちは固唾を呑んでまりさを見つめる。
「だから、あかちゃんたちがうまれたらにんげんのまちをゆっくりぷれいすにするよ!」
「「「みんなふあんかもしれないけど、これだけのなかまがいればだいじょうぶだよ!」」」
「「「「「「「にんげんのまちならもっとゆっくりできるね!!!」」」」」」
恐るべき集団心理。もしくは無知の幸福とでも言うべきか?
まりさの宣言を聞いたゆっくりたちはにわかに活気付き、口々に人間の町を手に入れた後のことを話し始めた。
「あんな事言ってますよ?」
「仕方ないさ。野生のゆっくりには人間もいちいち干渉しないし、不味いから他の生き物に食われることも少ない」
「ああ、要するに怖いもの知らずなんですね」
まりさたちの言葉に苦笑する俺と後輩。しかし、この群れが人里に出ようと考える規模になっているならさっさと用事を済ませなければならない。
俺は段取りを考えてから、リュックに入れておいた睡眠薬入りの飴玉を取り出し、後輩にも目配せで自分に続くように促した。
「そういうことだ。それよりも・・・さっさと済ませるぞ」
「りょーかい」
指示と同時に、円陣を組んでいる群れの中に50個の飴玉を景気良くいっぺんに放り投げた。
「ゆ!なにこれ!?」
「いだい!いだいよ!」
「ゆっきゅりーーー!!」
「いったいなんなんだぜ!?」
「むきゅうーーー!!」
突然の飴の雨に群れは瞬く間に混乱に陥った。
ゆっくりの脆い体にとって飴は相当の硬さを誇るもの。
それらが50個もいっせいに降り注げば当たって怪我するものだっているし、考えなしに飛び跳ねて踏んで転ぶものもいるだろう。
が、群れの中に1匹だけ飴を知っているものが居たらしい。
「ゆゆっ!これはあめだわ!あまくておいしいとかいはなものよ!」
その一言で場の混乱が恐怖から食欲によるものにすり替わった。
「あまいのはぜんぶまりさのものだぜ!」
「ゆー!ゆー!」
「でいぶもあばいのほぢいよおおお!!」
「むきゅー!あまいものはかしこいぱちゅりーのものよ!」
全員の頭数より飴のほうが多いにもかかわらず群れは言い争いを始めてしまった。
さっきまでの結束力は一体なんだったんだか。
「ゆ!ゆっくりしていってね!!!!」
「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!」」」」」」」」」」」
そんな混乱のさなかに響き渡ったのはリーダーまりさの怒声。
本能に刷り込まれたその言葉は一瞬ながらも間違いなく全員の興奮と熱狂を鎮めた。
「みんな!いまはけんかしてるばあいじゃないでしょ!」
「「「そうだよ!まりさのいうとおりだよ!」」」
まりさと、それに続く参謀格のゆっくり達の叱責。
実は混乱の火付け役になったのは参謀格のありすだったりするのだが、そんな事は誰も気にしていない。
「みんな、あめはひとりひとつずつだよ!わかったね!」
有無を言わさぬリーダーまりさの剣幕によって、ゆっくりたちは完全に冷静さを取り戻した。
・・・しかし、誰も飴が降ってきたことに疑問を持たないのはさすが餡子脳と言ったところ。
「む~しゃむ~しゃ、しあわ・・・ゆぅ・・・ゆぅ・・・」
「早っ!?」
「突っ込むな。起きたらどうするんだよ?」
睡眠薬入りの飴を食べたゆっくりたちはあっという間に眠りについた。
しかも、まりさが音頭をとっていっせいに食べたためものの見事に全員が一斉に。
「で、先輩。結局何を回収するんですか?」
「ゆっくりの頭の茎とにんっしんゆっくり。それと・・・リーダーまりさもだ。それが済んだら参謀3匹と適当な大人に発信機をつける」
「りょーかい」
後輩はポケットからナイフを取り出すと、茎を生やしている1匹のれいむに近づき、少しだけ茎の根元の皮を抉った。
茎にはようやく種族の区別がつくようになってきた赤ちゃんが12匹ほど成っている。どうやらパートナーはぱちゅりーだったらしい。
まだ成体になり立てと思しき若い母は幸せそうに「あかちゃ~ん」などと寝言で呟いている。
その言葉にしかめっ面をしながらも後輩は茎をきれいに引き抜くと、ゴミ袋の中の饅頭にそれを突っ込んだ。
「あんまり気分の良い仕事じゃないっすね・・・」
「仕方ないさ。本当はもっと頭数を減らしたいところなんだが、それをしないのが俺たちが出来る最大限の譲歩だろ?」
そう言いながら、俺はゆっくり達も気付いていない初期段階にんっしんのゆっくりを3匹ほどゴミ袋の中に放り込んだ。
「ん~、先輩って案外ドライなんですね」
「仕事だからな」
後輩の無駄話に付き合いながらもリーダーまりさを回収する。って、こいつも何気ににんっしんしてるじゃないか。
「ふ~ん・・・でも、先輩ゆっくり飼ってませんでしたっけ?」
「こいつらは俺のペットじゃないし、そもそもそれとこれとは話が別だろ?」
それから、参謀格の3匹と、比較的大きな成体の頭の飾りに発信機を装着した。
「よし、作業完了。ちょっと様子を見てからずらかるぞ」
「・・・ずらかるって、なんか悪党みたいっすよ?」
律儀に突っ込んできた後輩にローキックを入れつつ、ゴミ袋に放り込んだゆっくりの口に散乱していた飴を放り込んでから再びさっきの木陰に隠れた。
「ゆ!みんな、おはよう!ゆっくりしていってね!」
一番最初に目を覚ましたのは参謀格のれいむ。
「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!!」」」」」」」
その言葉に反応して他のゆっくり達もいっせいに目を覚ました。
「「ゆゆっ!まりさがいないよ!」」
「「「ゆっきゅち~・・・!」」」
「ゆぅうううう~・・・おか~しゃん、どこ~?!」
「おねーちゃん!あかちゃんたちが!?」
「ゆ?ゆゆゆっ!?でいぶのあがぢゃんがあああああああああ!!」
目を覚ましたゆっくり達を待ち受けていたのはリーダーや仲間と可愛い赤ちゃん達の失踪だった。
そして、その場にいる全員が好き勝手に各々の大事なものを探し始める。
全くの無秩序。ぱちゅりーが必死に「むきゅ!みんな、まずはだれがいないかかくにんよ!」と真っ当なことを言っているが、誰の耳にも届いていない。
しかも、他の参謀格2匹さえも他のゆっくりに混ざって必死にまりさを探している始末だ。
「まりさああああ!どごなのおおおお!」
「おがーぢゃあああああああああん!」
「「「「ゆっきゅち~!」」」」
「まりざのあがっぢゃんがあああああああああああ!!」
群れが混乱しきっている様子を見届けると、俺たちは足早にその場を後にした。
上司に報告を済ませた俺はさっさと自分の担当する実験に取り掛かる。
今回の実験は植物型と胎生型の出産に関するもので、ゆっくりにとって有害なものを検証するために行われるそうだ。
実験方法は至って簡単。茎を挿した饅頭に無駄に強力な農薬を大量に混入したり、栄養が届きにくいように茎を傷つけたり、水分や糖分を異様に多くしたりする。
もしくは母体に定期的に肉体的または精神的苦痛を与えてストレスを加えたり、毒も同然のものを食べさせたり、栄養を過剰摂取させたりする。
今回の実験に使用するゆっくりは先ほど回収した茎4本とにんっしんゆっくり4匹だ。それぞれにA~Dのアルファベットをつける。
茎Aは非常に整った環境で、非常にバランスの良い栄養配分の饅頭に挿した。
そして、この茎からは当然のように非常に健康的な赤ちゃんが生まれた。
れいむ種6匹とぱちゅりー種5匹。不運にもぱちゅりー種が1匹だけ死産してしまったが、それ以外はみんな非常に元気な、ゆっくり風に言うならばゆっくりした赤ちゃんだ。
俺がその赤ちゃんの入っているケージの蓋を開いて様子を伺うと、その気配に気付いた1匹のれいむが満面の笑みを浮かべた。
「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」
「「「「「「「「「「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」」」」」」」」」」
「ああ、ゆっくりしていくよ」
そんな赤ん坊達のケージの中にゆっくりカンパニー製ベビー用ゆっくりフードを入れてから蓋を閉じた。
「11匹か。それだけいりゃ次の実験の経費が節約できるな」
俺の傍らで、同僚がそんなことを呟くのが聞こえたが、無視して、中の赤ん坊達の様子を伺う。
「ゆ~・・・」
「ゆゆゆ~」
「ゆぅ!」
体の弱いぱちゅりーはみんな大人しくしていた。
ひとりお昼寝をするものもいれば、仲間同士で話しをするものもいた。
「「ゆっきゅちー!」」
「ゆっ!ゆっ!」
一方のれいむ達は元気に跳ね回りあるものは仲間とじゃれあい、あるものは仲良く歌を歌っている。
仲間と一緒にいることが当然になる前に別のケージに移すのが実験用ゆっくりの扱いのセオリーだ。
しかし、孤独にどう向き合うかを研究するのなら、こいつらはもう少しだけみんなで一緒に居させても良いんじゃないだろうか?
茎Bは一部を抉ってから包帯で固定して再生しないようにした状態で饅頭に挿した。
この茎からは意外なことに面白い結果が出た。
健康な個体は3匹で、その内訳はまりさ2匹にありすが1匹。未熟児が4匹は双方が2匹ずつ。そして個体識別不可能なものが2匹。
ここまでは予想通りの結果だった。全員の栄養が不足するのか、栄養が一部の個体に偏るのか・・・予想されていた結果通りのものだったといえる。
未熟児は殆ど喋らないし動かない。個体識別不能なものはすぐに死んだ。しかし、面白いのは健康な個体の行動だ。
ケージの蓋を開けて餌をばら撒いてやると、未熟児として産まれたもののために餌を噛み千切って口移しで与えてやっていた。
「ゆ、ゆっきゅちー!」
「ゅぅ・・・ゅぅ・・・」
未熟児サイズのゆっくりは非常に小さくビー玉ほどの大きさしかないため、ベビー用のゆっくりフードでさえ食べられないのだ。
しかし、生まれたてのゆっくりに自分より弱い個体を助けるなんて概念があるとは思わなかった。
とは言え、餌を与える側も所詮は赤ん坊。しかも、未熟児よりも頭数が少ないのだ。
やがてまりさ種の1匹が未熟児のために餌を千切ってあげるのを放棄し、もう1匹のまりさもそれに追従した。
「ゆ!ゆぅぅ~・・・」
「「ゅぅ・・・」」
「「ゅ・・・ゅゅ・・・」」
それでもしばらくはありす種が1匹で世話を続けていたが、やがて弱っている個体を切り捨て、最後にはありすも未熟児の世話を放棄した。
茎Cは大量の農薬を混入した饅頭に挿した。
子供が産まれたその日、ケージの中は魔境と化していた。そこに居たのは9匹の異形。
あるれいむは足が半透明のゲル上になってしまっていた。これでは歩くこともままならない。
あるまりさは目が顔の中心に1つしかなかった。そして、その目は何も映さなかった。
あるまりさは口がなかった。成長を見守るためにチューブをつないで生きながらえさせたが、野生ならばすでに死んでいただろう。
あるまりさは「ゆっくり」と言うことができなかった。口を開けば「qs、dんぢmgy、、wddg」と聞き取ることの出来ない訳の分からない音声を発するだけだった。
あるれいむは目が顔の横についていた。正面から見ればのっぺらぼうのその子は正面を視野に納めることが出来ないのでまっすぐ歩くことが出来なかった。
あるれいむは背中にも顔がついていた。だからと言って何があるわけでもないが実に不気味だった。
あるまりさは体が柔らか過ぎて大福としての形を保てなかった。まるで子供のころに作ったスライムのようだ。
あるれいむは体が異様に硬かった。そのせいで歩くことはおろか体を上下させることもままならず、口も殆ど動かなかった。
あるれいむは口が異常に大きかった。そして口以外のものがなかった。口だけの饅頭が狂ったように「ゆっくり」を連呼していた。
目の見えるものは他の姉妹の姿に怯えていた。でも、自分も似たようなものだと言うことには気付こうとしない。
「ゆ!ゆっきゅちー!ゆー!」
「ゆっきゅり!ゆっきゅり!ゆっきゅり!ゆっきゅり!」
顔2つの赤れいむが狂ったように口だけのれいむに体当たりをしている。
きっと、その化け物を追い払おうとしているのだろう。でも、傍目にはどっちも化け物だった。
どれもまともに育つ可能性があるとは思えないが、奇形の生存可能性を検証するのも研究になるだろうか、と思った。
茎Dは塩分を過剰に投入した饅頭に挿した。
産まれた子どもの大半は形はまともだった。そして、死産したのは4匹だけ。
10匹中6匹が何とか誕生したというこの結果には俺以外の研究員も驚きを隠せなかった。
もっとも、まともだったのは形だけだが。
まずゆっくりの形をした6つの饅頭は言語中枢が完全に狂ってしまっていたいた。
口を開けば聞こえてくるのは薄気味悪いノイズ。
「「「、。jsbん。、fdghrdmじdsんmdms」」」
「xcんm、。zx、smyんfjwめ、」
「「えgkdtcjrcldtr、いcvf」」
そして、1匹たりともゆっくりらしい心を持ったものが居なかった。
あるありすは生まれたてであるにも関わらず日長一日壁に体をこすり付けて自慰行為にふけっていた。
あるぱちゅりーは眠ることをせず、食事の時さえもずっと言葉にならない何かを発し続けていた。
あるありすはいつも何かに怯えてがたがたと震えていた。そして、近づいた姉妹を片っ端から攻撃していた。
あるぱちゅりーは何かにつけて姉妹を食べようと後ろから襲い掛かっては追い払われて、「むきゅ!」と悲鳴を上げていた。
あるありすは突然泣いたり、怒ったように頬を膨らましたり、酷く情緒不安定だった。
あるありすは自分のことをぱちゅりーだと信じ込んでいた。こんな狂った家族の中では誰も間違いを指摘してくれなかった。
俺は今度は糖分や水分だとどういう結果が得られのかも検証する必要があるな、と酷く覚めた目でその様子を眺めていた。
母体Aは広い部屋の中で普通の餌を食べながら生活してもらった。
産まれた3匹の子どもはどれもちゃんと子供サイズ近くまで大きくなっていて、みんな非常に元気だった。
「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりちていってね!」」」
俺がケージを覗くと、母れいむは満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。
「ねえ!みてよ、おにーさん!れいむのあかちゃんだよ!とってもゆっくりしたこだよ!」
「ああ、そうだな。ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりちていってね!」」」
あの日、回収したゆっくり達は「野犬に襲われているのを助けた。見つけたときには君だけだった」と言ったらそれを簡単に信じて、俺になついた。
「よし、それじゃあ、赤ちゃんたちにお兄さんから美味しいお菓子をあげよう!」
「ゆ!ほんとうに!」
「ああ、本当だよ。でも、ここじゃ食べられないから、ちょっとケージから出てもらうよ」
「「「ゆ~!ゆっくちたべるよ!」」」
そういって俺が赤ちゃんを連れて行くのを、母れいむはニコニコと微笑みながら見守っていた。
そして、このれいむが赤ちゃんと会うことは二度となかった。
母体Bは口の部分だけ開いている透明な箱の中で普通の餌を食べながら生活してもらった。
この母ぱちゅりーの子どもは1匹しか生まれなかったが2匹生まれたとも言える状態だった。
いわゆるシャム双生児のようなものだろうか。その赤ちゃんは体と口の横幅が異様に大きく、目が3つあった。
そして、髪の毛は真ん中の目を境に右側がまりさ種のもので左側がぱちゅりー種のものになっていた。
「「ゆっくりしていってね!」」
2つの種の声が同時に聞こえてくる。声帯も少しおかしなことになっているのだろう。
それは、箱によって圧迫され、赤ちゃんがそれ以上大きくなる余地が残されていなかったために起きたものだった。
「やあ、ぱちゅりー。赤ちゃんはどうしたんだい?」
出産時には箱から出さねばならないので、当然俺は出産に立ち会っている。
「むきゅ、おにーさん!ぱちぇのあかちゃんはまだぽんぽんのなかよ!」
そして、中にこれ以上赤ちゃんが居ないこともしっかり確認している。
しかし、ぱちゅりーは中にまだ赤ちゃんが居ると思っている。
それは体も心も弱いぱちゅりーにとって独りっきりになってしまった上に普通の赤ちゃんを産めなかった絶望から身を守るための手段だった。
そう、この奇形の赤ん坊は母親に見捨てられてしまったのだ。
ケージを閉じたところで、後輩が「そいつ、最近箱から出せって言いませんね?」と尋ねてきた。
「箱から出たら気味の悪い赤ちゃんに触られるかもしれないからだろ?」
とりあえず、苦笑交じりにそう返しておいた。
母体Cは遠隔発火のライターを内蔵し、定期的に痛い目にあってもらった。
唐突の訪れる痛みにいつも怯え続けて眠ることもままならなかった元リーダーまりさも子どもは、全員異様に小さかった。
「「「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」」」
「ゆっくりしていってね!」
茎から生まれるタイプと大差ない大きさながら元気いっぱいに鳴く赤ちゃんたちに疲れきった表情で微笑むまりさ。
とは言え、全員これと言った異常もなく出産できたことを考えるとゆっくりはストレスに強いと見てよさそうだ。
多分、餡子脳だからだろう。
「ゆ~!」
「ゆっ!ゆっ!」
「ゆ~ゆ~ゆ~♪」
ケージの蓋を開けて、子どもたちが遊んでいる姿を眺めているまりさに話しかける。
「やあ、まりさ」
「ゆ!おにーさん!」
「とってもゆっくりした子だね!」
俺のその言葉を聞くと、まりさは少しだけ踏ん反りかえって、嬉しそうに笑う。
「まりさ、がんばったよ!」
「そうか。お疲れ様」
「おにーさん、ありがとう!」
その言葉に少し良心が痛んだが、すぐに思考を仕事優先に切り替える。
「まりさの子どもに美味しいお菓子をあげたいんだけど、ここじゃ食べられないんだ。だから少しだけ連れて行って良いかな?」
「ゆ!おにーさんならいいよ!でも、すぐにつれてかえってきてね!」
「分かってるよ。さ、おちびちゃんたち?おにーさんと一緒にゆっくりお菓子を食べに行こうか」
母親同様に俺のことを信頼しきっている赤ん坊たちは、何の疑いもなく手の上に乗ってきた。
「悪いけどまりさの分はないから、ここでゆっくり待っててくれ?」
「ゆゆっ!わかったよ!ゆっくりまってるよ!」
そうして、この元リーダーまりさは永遠にゆっくりと赤ちゃんの帰還を待ち続けた。
母体Dは廃油や産廃同然のものを餌にして生活してもらった。
しかし、茎Cと全く変わらない結果にうんざりさせられるだけだった。
予想通りの上に、頭数が少なく新鮮味もないこの結果を記録する気にもなれなかった。
---あとがき---
スレに書き込めねえよ、ちくせう。
奇形を産ませておいてつまらない結果にうんざりってのは虐待お兄さん以上にアレだと思う。
普段は基本的に優しくても仕事のときは一片の慈悲もなし。まさに、冷徹お兄さんですよ。
そんなこんなで、現代ゆっくりシリーズの3作目です。
野良ゆっくりとその末路の一部を書いたつもりですが・・・あー、文章力が欲しいorz
byゆっくりボールマン
最終更新:2011年07月29日 18:09